ニュー・アトランティス (岩波文庫 青 617-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (125ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003361740

感想・レビュー・書評

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  • ・卿が初めてアリストテレスの哲学に嫌悪を覚えられたのは(卿御自身が私に語られたところによれば)、大学在留中、十六歳の頃であったという。アリストテレスが哲学者として無価値だというのではない。むしろあらゆる高き資質を備えていることを認められた上で、その方法が実りなきものである、ただ論争と抗弁の術として優れるのみで(と卿はよく言われた)、人間の生活を益するものの生産──それこそ卿が死の日に至るまで心に掛けておられたことであった──をもたらさぬ哲学である故に好まれなかった。

    ・卿によれば「哲学を少しかじると、とかく物事を第二原因のせいにして、神を忘れがちになるが、哲学を極めると、再び神に戻る」。

    ・古代のアリストテレス、中世の錬金術は人類に益となるような成果をもたらさなかったけれども、「空しい観念とやみくもの実験の結婚ではなく、人間の理性と物事の本性の幸せな結婚」によって産まれた火薬、羅針盤、印刷術は学問、軍事、経済の分野に大きな影響を及ぼしたと指摘し、「人間の最高の権力は知の中に隠れている、それは王侯が彼らの財宝によって買うことも、軍隊によって支配することもできない」と言う。

  • 社会的にそれなりの成功を収めたような人が進む次のステージは、世界を変えることだと思うが、そこに進んだ人たちにとっては現実に即した知識では不十分で、往々にして、フィクションからインスピレーションを受けているように見える。「ニューアトランティス」で描かれる、科学技術を究極まで推し進めたような世界観は、そういう人たちにとって刺激的なのかもしれないと思った。

    個人的には、「サロモンの家」の構成員の役割が面白いと感じた。ここで述べられている役割分担が、現在の科学研究と大して変わらないのが興味深い。科学的なアプローチというのは人間が普遍的に馴染む思考様式なのかもしれない。

  • 非常に少ない分量で、未完の作ということのためだろうが、すぐ読み終わった。内容は、未開の国に漂着してその国のあらましの説明を受けるという、フィクションである。その大略は2つに分けることができ、キリスト教の生活と文明国としての仕組みについてである。キリスト教に関しては、神を共に戴く共通性で会話が成立しており、異国の文化を持つ人からは溶け込みがたい雰囲気である。一方、文明国としての側面は、科学の実験だったり、発明のための機関だったり、現代の社会に近い仕組みであり、我々日本人も大いに取り入れた部分である。
    この作品を読むにつけても、我々が完全に西洋化はできず、実学の方に関心を寄せてしまう、傾向が再確認できよう。

  • フランシス ベーコン卿晩年の未完の書。
    ピーターティールの愛読書とのこと。
    本書を読むだけでは、何か物足りない。ノブム オルガヌムなどと合わせて読むべきかもしれない。
    サロモンの家の学院設立の目的「学院の目的は諸原因と万物の隠れたる動きに関する知識を探り、人間の君臨する領域を広げ、可能なことをすべて実現させることにある。」

  • 「知は力なり」で有名なベーコンが、
    プラトンの著作で出てくるアトランティスという超古代文明をモチーフに、
    社会の在るべき姿をフィクションの形で提示ようとしたと言える著作。

    あらゆる人間の営みに必要なものが、
    自給自足で完結した豊かで光輝く世界が創作されている、未完本。

    ユートピア。

  • ベーコン「ニュー・アトランティス」読了。嵐の末行き着いたユートピア、ベンサムの国。人知れず進化した国を支えるソロモンの家はベーコンが想起した現代の大学に通じる。当時の時代背景からするとベーコンの先見性に驚くばかりだった。

  • 確かに日本に向かうとの記述あり。ベンサレムの国のサロモンの家は、メイスンを彷彿とさせる。口絵の森の森はボアズとジャキンのよう。挿絵は、薔薇十字の知恵の鏡は意図的か?

  • (後で書きます。未完の先を考えてみること)

  • 論文を読んでいてちょくちょく出てくる「サロモンの家」の概念の理解のために購入。

    文庫本サイズで、訳者解説込みで120ページしかないからさらさらっと一日で読めた。

    「サロモンの家」の概念が、イギリス王立学士院やフランス科学協会の設立を促した。科学者の夢。

    科学を組み込んだ社会の理想像を、それが実現されている架空の島「ベンサレム島」に著者が流れ着いた、という設定で展開される。

    ベーコンの著作を読むのはこれが初めてで、次は「学問の進歩」に進む予定。

  • プラトン、トマスマンに続くユートピア(楽園)物語。
    荒海にのまれ、為すすべのなくなった航海者たちが、
    なんとか陸地を発見し、そこで、厚遇される。

    その土地は、「ベンサレムの国」と呼ばれて、
    地図にものっていないような島国であるが、
    キリスト教の教えを守っているユートピア(ニューアトランティス)である。

    この土地の人々はキリスト教を厚く信仰しており、
    (唐突に海に光の柱がたって、聖書のはいった棺がその後に残った)
    さらに、一夫一妻制で、売春などをきっちりと禁じている。
    家父長精度がしっかりとしており、国がそれをバックアップする。
    漂流者を厚遇し、そのかわり出て行くときはこの地については、
    秘密にするよう支持される。
    さらに、研究施設「サロモンの家」があり、
    そこには哲学などのほかに科学的研究施設も据え置かれており、
    むしろ科学がメインとなっている。

    といった感じで、ベーコンの思い描くユートピアが描かれている。
    ちなみにこれは立派な文学となっている。
    おまけに内容としては宗教学がつづられるが、
    そもそもベーコンは哲学者として一般に知られている。
    しかし、ベーコンの哲学は帰納法であり、それは科学に相通じており、
    「博物誌(森の森)」に収められている。
    (まぁ、地中での長生きや、錬金術まがいの怪しげな科学も、
    本編では紹介されているけれど)
    そのため、科学に関しては当時の最先端のものが描かれている模様。
    さらにベーコンは詩人であり、
    実はメインでは政治家、法律家として活躍していた模様。
    要するになんでもできちゃうタイプだったようだ。
    政治法律から詩文学から、宗教哲学、さらには科学。
    今の時代はこれだけを網羅できるひとはいない。
    せいぜい、医者と文学だとか政治法律と文学だとか科学と文学、
    だとかそのくらいが限界だろう。
    そういう意味において、このひとは超人だったと思われる。
    しかし、ゲーテも何でもマンだったわけで、
    そういう意味において、この頃は一つの分野における専門領域が、
    広がりすぎて、どうにも専門家ばっかりが増えてるみたいだね。
    医者も、内科しかわからんとか、そういう感じになりつつあるみたいで。
    さらに細分化。
    細分化も必要だけど、総合的に俯瞰できるひとこそが、
    その技術を使いこなせるわけで、使いどころもわかるわけで、
    さらに技術を結び付けての新技術にも思い至るわけで、
    こういうひとが現代は求められているのかもね。


    ちなみにニューアトランティス。
    というのは、プラトンが言ったアトランティス。
    現在ではその場所はカリブ海あたりにある島だと推測されているのだけど、
    本著では「アメリカそのもの」として考えらている。
    どうやら、アメリカはかつて大航海(侵略)を行っていて、
    その天罰として大洪水が起こり低地における文明は滅び、
    食糧危機により低地以外で生活していた人々も死に絶え、
    後には山中で暮らしていた遅れた人々だけ=インディアン、
    だけが残ったと言う流れである。
    そのため、インディアンは千年ほど文明が遅れている、
    野蛮なひとびとである、なんていう酷いか描かれ方をしている。
    全体的に西欧中心主義と女性蔑視的な価値観はまぁ当時の、
    主流な考え方かなぁ。
    (西欧中心主義は現存しているけれど)
    とはいえ、アメリカっていう国は基本的に、ピルグリムファーザー、
    以降に成立したようなものでもあるので、
    なんつーか、歴史自体は、まだ千年も経っていないわけで、
    意図していない痛烈な皮肉になっている気がする。

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