トロツキー わが生涯 (下) (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (605ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003412800

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  • まだ読んでいる途中で10月革命が終わったあたりだが、こんなに面白い自伝があるだろうかと感嘆。

    ロシアボリシェヴィキ革命という
    、歴史上一二を争う重大事を第一線で率いた人物トロツキーが、同時に才能あふれる著述家でもある。
    この組み合わせで、どんな優れた小説も決して上回ることのできないドラマが描かれている。

    革命前夜の張り詰めた街。
    これから来る内戦の緊迫した予感。
    新しい国づくり。
    重大な会議の場で、笑い上戸の議長・レーニンを崩壊させるトロツキーのユーモア。

    描写が素晴らしすぎて、読んでいる間しばらく、革命期のペテルブルクやモスクワで過ごしている気分になった。

    以下印象的だった点。

    ・トロツキーは、スターリンを「一国社会主義者」と読んでいる。その通り。
    歴史は、トロツキーの死後に、ソ連の対ナチス・ドイツ勝利という事実を以て、スターリンが時勢に合致していたことを証明した。

    ・トロツキーは明確に、先進的な「ヨーロッパへの窓」ペテルブルクと、伝統を受け継ぐ「ロシア的な」モスクワを意識している。
    トルストイの「戦争と平和」でも描かれたこの対比は、ロシアという国を理解するための絶対的な鍵である。

    ・レーニンとの信頼、尊敬、親しさが手に取るようにわかる。
    「ねえ君、迫害と地下活動のあとで、いきなり権力を握るというのは…(ドイツ語で)めまいがするね」
    というレーニンとのはにかんだ会話が微笑ましい。

    ・革命の結果、それまでの政府が使っていた豪奢なクレムリンに、代わって労働者代表のボリシェヴィキが入ったことを「逆説的」と書いている。これは、権力とは首をすげ替えたところで結局何も変わらない、ということを象徴的に示している。革命を率いた後に追放された彼の、冷静な分析である。


    ※読了。
    下巻後半は、スターリン政権に対する批判と自己を正当化する内容が多く見られた。
    レーニンの死後に、一気に共産党が分離して行った様子がわかる。

    スターリンが、国家の重工業化と、その結果としての第二次大戦でのナチス・ドイツからの祖国防衛、という歴史的事実を為した以上、彼に対する批判に全面的に賛同はできない。

    トロツキーが、友人ヨッフェからの遺書で「あなたは覚悟が足りず妥協しすぎる」と愛情を持って指摘されたのは、客観的なトロツキー評なのだろう。
    立派な理想化であり、聡明な人格者であったというのは、この自伝から十分伝わる。
    ただどこまでいっても、スターリンの冷徹な一貫性に比較して、思慮深いトロツキーでは、ヒトラーに勝つ国造りは果たせなかっただろう、と結論付けてしまう。

    ヒトラーとドイツ第三帝国という存在だけがスターリンの行いを正当化したが、第一次大戦後の世界において他国の侵略的勢力の出現と衝突を予想しそれに備える国造りをした、ということがそもそもスターリンとその体制の全てでもあり、その先見性と決断は、決して運や偶然だけではない。
    自分から見れば、レーニンと、その後を継いだスターリン、トロツキーは、皆それぞれに素晴らしい。

    ドイツの宗教革命(ブルジョワ)
    →フランス革命(ブルジョワ)
    →ロシア革命(ボリシェヴィキ)
    という歴史の捉え方がわかりやすかった。
    素晴らしい本との出会いであった。

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