森鴎外 椋鳥通信(中) (岩波文庫)

著者 :
制作 : 池内 紀 
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003600214

作品紹介・あらすじ

ポルトガル革命、ロシア首相暗殺、ドイツ皇帝の演説-実況中継のように報じられる世界情勢。はたまたトルストイの家出に「モナ・リザ」盗難事件など、文化面も賑やか。鴎外独自の世界ニュースは、いまも不思議に新しい。人物コラムつき。

感想・レビュー・書評

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  • 慣れてきたせいか、上巻よりも短時間で読めた。トルストイの家出から死去までが刻々と伝えられている箇所が圧巻。鴎外の編集術の高さが感じられた。キュリー夫人やラジウムの話題も所々に登場する。

  • 一年半ぶりに二巻目を読み通した。興がのってこないと、なかなかこの本は読み始めれない。何しろ、殆どは詳しくない1910年代のヨーロッパの人々のゴシップなのだから。ところが、調子が付いてくると、俄然面白くなる。約100年前の世界の最新動向と、それを鳥の目で見渡そうとする新進作家で軍医総監の森鴎外の頭の中の一瞬一瞬が、垣間見えるからである。

    それにしても、100年前は、如何に現代と似ていて、現代と響き合っていることか。

    以下、心に引っかかったものをメモする。

    1910年(明治43年)。
    ◯オーストリア=ハンガリーの皇后を殺したルケーニは、監獄でモンステキュー、ディドロ、ディケンズ、ルソーを読んでいる。
    ◯ピサの斜塔が段々傾いて危険なので、いよいよ工事を要することになった。
    ◯ハイド・パークでまた、婦人参政権運動の大示威運動があった。来会者は25万人である。(7月23日ロンドン通信)
    ◯ポルトガルに革命が起こった。陸海軍が革命に加担した。軍艦が王城を砲撃している。(パリ10月5日通信)
    ◯年末から新年にかけて、トルストイの家出とパリでの客死の事が、とても大きな情熱で逐次伝えられる。現代のワイドショーよりも詳しいくらい。何が森鴎外の琴線に触れたのか。トルストイは家族がトルストイの財産を巡って争っていたのに嫌気がさしたようだ。半年前にはノーベル賞の賞金も辞退している。それに対して、あたかも愛情を持ってその失踪に対応する家族たち。しかし、トルストイの死後、様々に財産分与される様が逐次書き留められた。これらの一連の出来事に、森鴎外の作家魂が刺激されたのに違いない。

    1911年(明治44年)。
    ◯ベルリンでテディベアというおもちゃが大流行している。熊の前足をぐるぐる回して据わらせて置くとぴょこぴょこはねる。テディはルーズベルトのあだ名である。
    ←これは、間違いなく、日本でテディベアが紹介された最初の記事だろう。
    ◯死刑不可廃論者と書いて、15人の名前を載せる。
    ←死刑論については、時々記事が載っている。いつか小説にしたい心持ちもあったのだろうか。
    ◯パリの劇場でジョルジェット・ルブラン・メーテルリンク(Mの妻)が舞台監督をして、「青い鳥」を出すらしい。
    ←詩人メーテルリンクの「青い鳥」が突然大ヒットした。しかし、結局作家本人の記事は出てこなかった。世の中は、いっときの流行に振り回されるが、本当の幸福は何処にあるのだろう。
    ◯ドイツ皇帝から勲章を貰う候補になっていて落選したのは、ロダンとドビュッシーである。新聞記者がこのことに付いて訪ねるとロダン曰く。「皇帝が私を好まないからといって、それは当然のことであって、私は失望しない」(私の意訳)ということを言った。
    ←このころ、なかなか完成しない「地獄の門」の事を、森鴎外は時々記事にしている。鴎外の短編「花子」は、ロダンが日本の芸人太田ひさをモデルにしてスケッチした事実を下に書いている。
    ◯地球の古さは7億年以内である。これはラヂウムの研究に基づいた説である。
    ←科学は年々旧説を塗り替えるのだなあ。
    ◯ニューヨークのバッファローでは、博物館の裸体像に悉く腰巻をさせた。オハイオ州のコロンバスやペンシルバニアのハリスバーグの陋習を踏襲したものである。
    ←森鴎外はこの時点でキチンと「陋習」と断定している。
    ◯自然主義ということが、日本で一種の風潮を生じた時、あれは無遠慮主義だと云ったものがあったが、所謂現代文芸について独逸人が同じ事を言っている。「(池内訳)告白は現代の不文律によると、その羞恥心のなさによって、再び文学となる」(パウル・ブロック)
    ←森鴎外がこれ程にはっきりと鋭く本質的に日本でその後大流行する自然主義文学を批判していたとはしらなった。
    ◯5月18日午後11時5分、グスタフ・マーラーが51歳でウィインの病院内で死んだ。ミュンヘンで「第八交響曲」を発表したのは、去年の秋であった。マーラーは心弁膜症を持っていたところへ、急性腎炎を起こしたのだ。そして心臓衰弱に肺水腫が来て死んだ。葬る土地はグリンツィング墓地である。遺言に、葬式の時一切演説をしないでくれという一カ条がある。面白い。
    ←関心の持ち方が正しく医者のそれ。ところが、最後の一言が作家のそれ。
    ◯394pの小話は、短編材料として使えそうだ。
    ◯イェーガー・シュミットという男が40日間に世界を一周する企てをして、7月18日午後1時に巴里を立つ。
    ◯日本政府は、1917年博覧会の建物を国際的競技に附した。
    ◯ルーヴル美術館の方形の間に懸けてあったレオナルド・ダ・ヴィンチ作「ジョコンダ」(「モナ・リザ」大きさ77×35cm)が、8月21日午後(掃除日)から見えなくなった。一説には22日午前7時20分に小使いプバルダンと左官ピケとが空壁に心付いたともいう。また一説には19日から無かったともいう。22日午後1時に枠が場内で発見された。23日正午に、パレ・ロワイヤルの美術部に届出られた。3時ごろ警視総監レピーヌが出張って取り調べした。旅行中のデュジャルダン・ボーメスは同日中に帰るはずである。ドラロッシュ・ヴェルネは議会へ質問書を出すはずである。ルーヴルはさしあたり3日間閉鎖される。(フィガロ・プレス)

    2017年1月24日読了

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001045903

  • 著者:森鷗外(1862-1922、島根県津和野町、小説家)

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著者プロフィール

森鷗外(1862~1922)
小説家、評論家、翻訳家、陸軍軍医。本名は森林太郎。明治中期から大正期にかけて活躍し、近代日本文学において、夏目漱石とともに双璧を成す。代表作は『舞姫』『雁』『阿部一族』など。『高瀬舟』は今も教科書で親しまれている後期の傑作で、そのテーマ性は現在に通じている。『最後の一句』『山椒大夫』も歴史に取材しながら、近代小説の相貌を持つ。

「2022年 『大活字本 高瀬舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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