- Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003720028
作品紹介・あらすじ
「殺人があったのは二十二年前の今日――」。ディケンズ『バーナビー・ラッジ』とポーによるその書評、英国最初の長篇推理小説と言える「ノッティング・ヒルの謎」を含む、古典的傑作八編を収録(半数が本邦初訳)。読み進むにつれて、推理小説という形式の洗練されていく過程がおのずと浮かび上がる、画期的な選集。
感想・レビュー・書評
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英国推理小説の黎明期から黄金時代までの作品を収録。
推理小説として洗練されてゆく過程も分かる。
『バーナード・ラッジ』第一章より チャールズ・ディケンズ
(付)エドガー・アラン・ポーによる書評
推理小説的なの部分を、連載序盤にポーが書評で謎解き。
次いで、完成後の作品についての手厳しい書評。
「有罪か無罪か」ウォーターズ
追跡している男は犯人か、それとも無実なのか?
「七番の謎」ヘンリー・ウッド夫人
密室の家で起こった殺人。真実へ導く糸は悲しい結末へ。
「誰がゼビディーを殺したか」ウィルキー・コリンズ
殺人事件の決め手はナイフだ。だが彼は逡巡の末に・・・。
「引き抜かれた短剣」キャサリン・ルイーザ・パーキス
女性探偵が挑むのは短剣の絵の謎とネックレスの行方。
「イズリアル・ガウの名誉」G.K.チェスタトン
グレンガイル伯爵の正体と生死の謎。ブラウン神父かく語りき。
「オターモゥル氏の手」トマス・バーク
老ウォンが語る連続殺人の仮説。白い手の男の正体とは。
「ノッティング・ヒルの謎」チャールズ・フィーリクス
(付)ボウルトン家関係系図/主要人物略年表
書簡、日記、新聞や雑誌の抜粋、書類、見取り図、そして、
証言を多く含む探偵の覚書から解明される犯罪の真実。
訳者あとがき
英国推理小説の古典作品を収録。半数が本邦未訳。
「推理」の要素がまだ希薄だったり、
謎よりも「人間的要素」に対する依存度が高かったり、
偶然の重なりや勘、都合の良い有能な助っ人登場だったりの、
黎明期の「推理」への考え方が定まっていない作品が、
少しずつ洗練され、推理小説へと至る道程が分かります。
同時に、トリックと偽装、変装、法廷審理、密室での犯罪、
入れ替わりと成りすまし等の、推理小説ではお馴染みの要素が
既に登場していたことへの驚きもあるし、
当時の新しい組織の中の警察官の姿や裁判の様子もあったり、
ホームズ以後の、探偵が主人公の作品もあり、全体的に
なかなかの興味深い作品が選ばれていて、楽しめました。 -
2024/04/21読了
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/788802 -
英国最初期の推理小説群から、
その形式が洗練されていく過程を浮かび上がらせようという
アンソロジー。
だが、あまりドキドキワクワクしなかった。
唯一、トマス・バーク「オターモゥル氏の手」は
〈奇妙な味〉風で私好みであり、楽しめる作品だった。
■チャールズ・ディケンズ『バーナビー・ラッジ』
(Barnaby Rudge,1841)第一章[跋]
長編歴史小説の序盤。
1775年3月、ロンドン郊外の酒場兼宿屋メイポール亭に
見慣れぬ客が現れ、
近くの屋敷の前で見かけた若い女性について訊ね、
メイポール亭の主人ジョン・ウィレットが、
それはジェフリー・ヘアデイル氏の姪だと答えると、
常連客の一人ソロモン・デイジーが
地元では有名な22年前の事件について語った。
屋敷で殺人が起き、
容疑者もまた遺体で発見されたのだ――と。
当夜、異変を察した人物が感じた恐怖が
ありありと伝わってくる名調子。
□(付)エドガー・アラン・ポーによる書評:
①1841年5月1日付『サタデイ・イヴニング・ポスト』
にて、ポオは『バーナビー・ラッジ』において、
読者の想像力に特に強く訴えかける部分を紹介しつつ、
事件の核心に触れている。
②1842年2月『グレアムズ・マガジン』で
ポオは『バーナビー・ラッジ』では
暴動事件の恐怖に主軸が置かれたことで
殺人事件にまつわる読者の推理の興を削いでしまった
――と、作者の“軽挙”を批判。
■ウォーターズ「有罪か無罪か」(Guilty or Not Guilty,1849)
作者不詳、但しウォーターズはウィリアム・ラッセルという
ジャーナリストの筆名であるとの有力な説あり。
本作は作品集『ある警察官の回想』(1856年)収録。
スコットランド・ヤードの警察官である語り手〈私〉が
捜査した事件について。
■ヘンリー・ウッド夫人「七番の謎」
(The Mystery at Number Seven,Johnny Ludlow Sixth Series,1899)
連作短編集《ジョニー・ラドロー》シリーズの一つ。
ジョニーの回想記の体(てい)で、
両親亡き後ジョニーと同居する継母と、
その再婚相手の郷士(スクワイヤ:squire)及び
彼の連れ子トッドらが出くわした事件が紹介される。
■ウィルキー・コリンズ「誰がゼビディーを殺したか」
(Who Killed Zebedee?,1880)
死期を悟った男性が過去の過ちを告白し、
それを神父が書き取ったという体裁の小説。
語り手〈私〉は25歳のとき、ロンドン警察の一員として、
ある殺人事件の捜査に当たった。
クロスチャペル夫人の下宿屋に投宿していた
ジョン・ゼビディー氏が妻に殺害されたらしいというのだが……。
■キャサリン・ルイーザ・パーキス「引き抜かれた短剣」
(Drawn Daggers,1893)
ダイヤー氏の事務所に勤務する女性探偵
ラヴデイ・ブルックが活躍するシリーズの一つ。
不可解な手紙とネックレス紛失という、
アントニー・ホーク邸に降りかかった変事の謎を解くラヴデイ。
■G.K.チェスタトン「イズリアル・ガウの名誉」
(The Honour of Israel Gow,1911)
ブラウン神父はスコットランドのグレンガイル城へ赴き、
素人探偵の友人フランボー及びクレイヴン警部と合流した。
二人はグレンガイル伯爵の生死を調査中だった。
狂気に満ちた家系の末裔である伯爵は失踪していたが、
国外へ出た形跡はなく、まだ城の中にいると思われ……。
■トマス・バーク「オターモゥル氏の手」
(The Hands of Mr. Ottermole,1929)
中国系の老人クォン・リーを語り手とするシリーズの一つで、
切り裂きジャック事件に想を得たと思しい、
イースト・エンドでの連続殺人を扱った短編。
七名が絞殺された事件を追う若い新聞記者が
真相に辿り着いたのだが……。
■チャールズ・フィーリクス「ノッティング・ヒルの謎」
(The Notting Hill Mystery,1862)
クレメンツ法学院・秘密調査事務所のラルフ・ヘンダソンが
某生命保険会社取締役に送った1858年1月17日付の書簡。
ラ××男爵なる人物が妻を被保険者として契約した
巨額の生命保険に関する調査。
ラ××男爵が『ゾウイスト』誌掲載の記事を読んで、
ある計画を着想し、実行したと思われることについて。
※後でもう少し細かいことをブログに書きます。
https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/ -
とても良い。「推理小説」とは何かを考えさせるもの。訳者は推理小説が「犯罪を探偵が推理を働かせて解決する物語」としているが、ポーの評論では読者は謎解きされるとかえって「失望する」と見抜いている。これは推理小説の定義を探偵対犯人、探偵対謎とする前に、小説が作者対読者であると考えるかどうかにかかっている。
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京都府立大学附属図書館OPAC↓
https://opacs.pref.kyoto.lg.jp/opac/volume/1262877?locate=ja&target=l -
ポーの「モルグ街の殺人事件」から黄金期に至るまでの時期を古典期として、ミステリの形式や約束事が成立していく過程を実作で検証しようという選集。巻末の「ノッティング・ヒルの謎」をのぞけば時系列で並べられていて、五番目の「引き抜かれた短剣」からがホームズ譚以降の作品となるらしい。言われてみればだが、確かにその辺りでミステリとしての洗練度が急に上がる。とはいえ、それ以前の作がつまらないかというと案外そうでもない。英国本格には風俗小説的な読み方をしている人がいるはずで、少なくともそうした人には楽しめるだろう。