サラムボー (下) (岩波文庫 赤 538-12)

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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003750902

作品紹介・あらすじ

マトー率いる傭兵の反乱は大国カルタゴをじりじりと苦しめる.長引く戦闘,略奪,飢餓….女神の聖衣(ザインフ)を奪われ国を窮地に陥らせたサラムボーへの市民の糾弾は高まり,ついに凶暴なモロック神への子供たちの供犠(くぎ)が始まる.前作『ボヴァリー夫人』から一転,激情と官能と宿命が導く,古代オリエントの緋色の世界.(全二冊完結)

感想・レビュー・書評

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  • 下巻の表紙はギュスターヴ・スュランの『ハミルカル軍の戦象による蛮人たちの虐殺』戦車代わりの象が大暴れする戦闘場面ですね。ロードオブザリング映画のオリファントの場面を思い出します。そういう意味ではこの小説、歴史スペクタクル巨編としてハリウッドで映画化したら面白そう。めっちゃお金かかりそうだけど。

    さて、カルタゴ軍と傭兵軍の戦闘は長引き、圧倒的に人数が少ないカルタゴ軍はピンチに陥る。宦官の神官シャハバラムは、女神の聖布ザインフをマトーに盗まれたことが苦戦の原因だから、責任とって色仕掛けで取り返しに行くようサラムボーに命じ、サラムボーは泣く泣く清めの儀式をして、マトーを誘惑すべく花嫁のごとく美しく着飾り出発する。上巻表紙のミュシャの絵はおそらくこの場面かしら。大事な姫様を送り出すサラムボーの乳母が痛ましい。

    余談ながら随所にあるサラムボーの装い描写は豪奢でうっとり。天秤の形のエメラルドのイヤリング、その天秤の皿部分には中を空洞にして香水を入れた真珠が乗せられていて、そこから香水がぽとりぽとりとサラムボーの肩に落ちかかったりするのですよ。はあ素敵。あとお化粧シーンも素敵なのだけど、すりつぶしたハエの足をまぜたアイブロウだけはイヤ(笑)黒い大蛇をペットにしているサラムボーはハエの足くらい平気かもしれないけど。

    そんなこんなで敵であるマトーの天幕に辿り着いたサラムボーは、マトーに身を任せザインフを取り戻すことに成功。このくだりでのサラムボーは、さながら神話に出てくる運命の女たち=サロメやユディトを思わせる。彼女は常に金の鎖で両の足首を繋がれており、登場した頃は良家のお嬢様は大股で歩かないように躾られてるのかしらと勝手に思っていたのだけど、マトーがこの金の鎖を引きちぎるにおよび、なるほどそういうことかと納得。のちに父ハミルカルは娘の鎖がちぎれていることに気づき絶望する。

    とはいえ荒くれ傭兵のマトーが力ずくでサラムボーを手に入れたかというとそういうわけではなく、とにかく泣き落とし(笑)彼女の美しさを褒め称えまくってから直球で「めっちゃ好きです!」と訴えるので、まあちょっと憎めなくはなっちゃうよね。しかしザインフを持って帰還したサラムボーを、父ハミルカルはヌミディア王ナルハヴァスと婚約させる。ムキムキマッチョ巨躯のマトーと違ってナルハヴァスは細身のイケメンだが、コウモリのように傭兵軍とカルタゴ軍を行ったり来たりするので信用できない。だが彼の象隊は魅力なので美人の娘を使って繋ぎ止めようという作戦。

    しかし戦況は一進一退、一時は盛り返したカルタゴ軍だが数の多い傭兵軍に城壁外を取り囲まれ籠城戦に。なんとか持ちこたえるも状況打破のために議会は子供たちを神への生贄に捧げる決定をする。ハミルカルも息子ハンニバルを差し出すよう要求されるが奴隷の子を身代わりに。大勢の子供たちが火あぶりにされるシーンは辛すぎるが、その後カルタゴ軍が逆転、今度は傭兵軍が追いつめられて大勢が殺されたり脱走したり生き残った者は飢餓に苦しみ、ついに死んだ味方の死体を喰らう者まで。そして力尽きた傭兵軍はカルタゴに降伏。最後まで徹底抗戦したマトーもついに捕えられ、サラムボーとナルハヴァスの婚礼の日に処刑されることが決まり・・・。

    敵将と恋に落ちたお姫様の悲恋もの、みたいな漠然とした印象で読み始めたけれど、とにかく戦闘シーンが質量とも圧倒的。全体の9割が戦闘シーンじゃなかろうか。しかもそれらがことごとく血生臭くこれでもかというくらい残忍で野蛮、読んでいるだけでもかなり消耗してしまう。神様たちも淫猥で暴力的(生贄を要求し、巫女は娼婦でもあるし男娼もいる)民衆の熱狂も凄まじい。ただそれらの得体のしれないパワーには圧倒される。筋書きよりも世界観のもつ力は堪能させられた。有能な軍人としてのハミルカルはとてもかっこいい。

    恋愛部分は実は全体からみたらほんのちょっと。サラムボーとマトーが相交わるのは1回きり、マトーはサラムボーに焦がれ続けるが戦闘中はそれどころではないし、マトーを憎からず思うようになるサラムボーの内面の葛藤もさして描かれない。ただそれでもなお、婚礼と処刑が同時におこなわれるラストシーン、花嫁サラムボーと血みどろの肉塊と化した瀕死のマトーが一瞬だけ視線を交わす場面は鮮烈で胸が締め付けられる。

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