- Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004150909
作品紹介・あらすじ
読者はこの本で湯川博士のくつろいだ姿に接することができる。読者とともに散歩しつつ、読書の思い出を述べ、あるときはエラスムス、アインシュタインにふれて世界観を語り、あるときは荘子、墨子、ドストエフスキーに説き及んで人生を語る。科学的思索をささえる教養の広くゆたかな据野が峰の高さをしのばせる。
感想・レビュー・書評
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1949年、日本人初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹さんの豊富な読書遍歴を語る随筆集。
素朴で実直な人柄をしのばせる筆致に、読みながら胸がしんと鎮まっていく。
漢籍や古典に親しんだ幼年時代。
祖父について素読をするうちに自然に理解がすすむようになったらしい。
「大学」「論語」「孟子」「史記」「十八史略」「老子」。。。
わけても「荘子」に心惹かれ、素粒子のことを考えている最中にも思い出すという。
「本の面白さにはいろいろあるが、一つの書物がそれ自身の世界をつくりだしていて、読者がその世界にしばらくの間でも没入してしまえるというような本を私は特に愛好する」と言われる。
没入して身に付き、生き方そのものが読書のようだった人である。
「近松浄瑠璃」「カラマーゾフの兄弟」「舞姫」 「平和の訴え(エラスムス)」「山家集」「伊勢物語」「文章軌範」「ナンセン伝」「近世畸人伝」「墨子」「エピクロス」「狂言記」「唐詩選」「海潮音」「ラッセル放談録」「あめりか物語」「わが世界観」「晩年に想う」「東西遊記」「源氏物語」
登場するのは上記の本20冊。中心は物理学と荘子の思想。
「山家集」は中学生の頃に読み出し、西行の歌をいくつも暗誦するという。
「跡もなく むなしき空にたなびけど 雲のかたちはひとつならねど」
この歌を素粒子の世界を象徴しているようだと言われる。
どの書物を読んでも物理学に通じるものを見つけていく。
様々な経験とからみあう読書体験。
読んで終わりではなく、没入しては反芻の繰り返しで思想の一部になっていく。
読書は趣味ではなく、食事をするのと似た日常的習慣と言われるのはそういうことなのだろう。ブク友の皆さんもここはおおいに納得されるかも。
北米プリンストン高等学術研究所にいた時、同じ研究所にいたアインシュタインの毎朝の姿を語る部分が非常に印象的だ。
光陰に富んだ読書の思い出の中で、アインシュタインが日本の子どもにあてた手紙がある。
忘れてはいけない言葉として引いているので載せてみよう。
「私たちの時代は歴史の中ではじめて、ちがった国の人々の間の、友好的で理解あるつき合いができるようになった時代であることを考えてみてください」
そう言えばアインシュタイン、エラスムスもナンセンも墨子もラッセルも平和主義者だ。
科学と哲学の共通点を述べる箇所もあり、なるほど納得させられた。
情けない話もある。
物理学に没頭したいのに、研究以外の仕事の多さとお金の工面に消耗していたらしい。
国外の学会に招待されても旅費のあてがなくて右往左往する。
研究者という宝がなぜ海外に流れるか、こんなところに答えを見つけてしまった。
1963年初版。細かい文字がぎっしり詰め込んであった時代の本だ。
同じ岩波新書の「本と私」と比較すると、こちらは縦42、横16の文字数で1頁672文字。
かたや縦42、横15で1頁630文字だった。
この差は結構大きい。ひとたび読み出せば何もかも忘れるけどね。
専門外ともいえる古典や文学とどう戯れ人生に活かしてきたかを語る、読む愉しさにあふれた名著。大人よりも若いひとにぜひ読んでほしい。
啓蒙書としても素晴らしい読書案内である。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/702297 -
9/8は湯川秀樹忌日。物理は難しくてとっつきにくいなあ、という人はエッセイから読んでみてはいかが?
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荘子と素粒子論、近松と『海調音』など意外な取り合わせに、湯川の教養が醸し出されているなぁ、と思う。アインシュタインへの追悼文(時代を超えた人)が最も印象に残った。
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《教員オススメ本》
通常の配架場所:教員おすすめ図書コーナー(1階)
請求記号:019//Y97
【選書理由・おすすめコメント】
昔、東条英機、今、湯川秀樹と言われた時代の本。著者はご存知素粒子研究の先駆け日本初のノーベル賞受賞者で、理系の若者の憧れの的だった。帯に書いてある「読書の思い出を語り、若き日の回想を聞かせてくれる。」という宣伝文句を見るとつい読みたくなった。因みに、当時読書の道標として、「岩波文庫100冊の本」というのもあった。読むべき本がどんどん増えて若者は幸せだ。(化学・竹村哲雄先生) -
読んでみよーっ。基本な気がするのにできてないもんねあたし。湯川って人の観点からの読み方らしいけど
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(2013.11.28読了)(2005.09.23購入)
50年前に出版された本です。著者は、1907年生まれなので、50代に書かれたものです。
雑誌『図書』に20回にわたり掲載したものに、「私の自叙伝」を追加した、とのことです。
著者が若いころに読んだ本とそれにまつわる思い出を綴っています。
目次の標題を見てみると、中国の古典、日本の古典、西欧の古典などが取り上げられていることがわかります。読んだことのある本もいくつかありますが、聞いた事も見たこともない本もいくつかあります。時代がずいぶん変わってしまったということでしょう。
まだ読んでいない古典のいくつかは、いずれ読んでゆきたいと思います。
【目次】
「荘子」
「近松浄瑠璃」(近松門左衛門)
「カラマーゾフの兄弟」(ドストエフスキー)
「舞姫」(森鷗外)
エラスムス「平和の訴え」
「山家集」(西行)「伊勢物語」
「文章軌範」
「ナンセン伝」(アンナ・ガートルード・ホール)
「近世畸人伝」(伴蒿蹊)
「墨子」
エピクロス
「狂言記」
「唐詩選」
「海潮音」(上田敏)
「ラッセル放談録」(バートランド・ラッセル)
「あめりか物語」(永井荷風)
「わが世界観」「晩年に想う」(アインシュタイン)
「東西遊記」(橘南谿)
「源氏物語」(紫式部)
自分が書いた本
短い自叙伝―或る物理学者の宿命
●『山家集』(43頁)
中学時代の私には、もちろん和歌のよしあしはよくわからなかったが、西行の歌を格別上手とは思わなかった。ただ好きな歌、面白い歌が、他の歌よみの場合より、ずっと沢山あった。細かい技巧をこらしてないので、わかりやすく、中学生の心に素直に訴えてくるものが多かったからであろう。
●哲学(127頁)
ワイヤット「哲学とは何でしょうか」
ラッセル「私自身の見解は『哲学とは、正確な知識がまだ得られない事柄についての、思弁からなるものである』というのです。」
ワイヤット「哲学と科学との違いはなんですか。」
ラッセル「大ざっぱにいって、科学とは私たちが知っているところのものであり、哲学とは私たちが知らないところのものである、といってよいでしょう。」
●自然と人間(177頁)
自然は曲線を創り人間は直線を創る。
☆関連図書(既読)
「旅人」湯川秀樹著、角川文庫、1960.01.15
「人間にとって科学とはなにか」湯川秀樹・梅棹忠夫著、中公新書、1967.05.
「物理の世界・数理の世界」湯川秀樹・北川敏男著、中公新書、1971.05.25
「創造への飛躍」湯川秀樹著、講談社文庫、1971.07.30
「宇宙と人間 七つのなぞ」湯川秀樹著、筑摩書房、1974.07.18
「目に見えないもの」湯川秀樹著、講談社学術文庫、1976.12.10
「湯川秀樹が考えたこと」佐藤文隆著、岩波ジュニア新書、1985.06.20
「罪と罰(上)」ドストエフスキー著・工藤精一郎訳、新潮文庫、1987.06.05
「罪と罰(下)」ドストエフスキー著・工藤精一郎訳、新潮文庫、1987.06.05
「鴎外の「舞姫」」角川書店編、角川ソフィア文庫、2006.04.25
「西行-魂の旅路-」西澤美仁編、角川ソフィア文庫、2010.02.25
「竹取物語・伊勢物語」田辺聖子著、集英社文庫、1987.07.25
「新訳哲学入門」B.ラッセル著・中村秀吉訳、現代教養文庫、1964.02.28
「ふらんす物語」永井荷風著、新潮文庫、1951.07.05
「相対性理論」アインシュタイン著・内山龍雄訳、岩波文庫、1988.11.16
「新源氏物語(上)」田辺聖子著、新潮文庫、1984.05.25
「新源氏物語(中)」田辺聖子著、新潮文庫、1984.05.25
「新源氏物語(下)」田辺聖子著、新潮文庫、1984.05.25
「新源氏物語 霧ふかき宇治の恋(上)」田辺聖子著、新潮文庫、1993.11.25
「新源氏物語 霧ふかき宇治の恋(下)」田辺聖子著、新潮文庫、1993.11.25
(2013年12月12日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
読者はこの本で湯川博士のくつろいだ姿に接することができる。読者とともに散歩しつつ、読書の思い出を述べ、あるときはエラスムス、アインシュタインにふれて世界観を語り、あるときは荘子、墨子、ドストエフスキーに説き及んで人生を語る。科学的思索をささえる教養の広くゆたかな据野が峰の高さをしのばせる。 -
湯川秀樹が過去に読んだ本や自らの体験を引用を含めて次々と紹介していくといった内容。そのバリエーションの豊かさにはただ驚かされた。
引用されている古文漢文は本文中では現代語訳されないので、慣れていないと疲れる。
森鴎外の「舞姫」について「今から60年前の作品」として紹介しているが、その文章自体が今では60年前のものとなって、自分にとっての湯川秀樹と、彼にとっての森鴎外が同程度の時間的距離にあると初めて認識した。また自分にとっては単に遠い昔の物語であった「舞姫」が、湯川秀樹という中間点を挟んだ位置にあるものとしてより具体的に感じられて感慨深かった。二人が歩いたベルリンを自分も訪れたことがあるという事が、それを一層リアルに感じさせてくれた。
個人的には、スウェーデンの章も好き。何十年も前の時点でのフラム号の博物館についての記述が、昔自分が訪れたときの記憶とほぼ全く同じだった事に不思議な感覚を覚えた。
残念ながら岩波新書版は絶版らしく、今は手に入りにくいかもしれない。 -
湯川博士自身が幼少から親しんだ古典をタネにした雑感を小品で編んだものだが、端正で静謐かつウォームなエッセイ。博士が、超一流科学者として研鑽を積みながら、中国から西洋までの幅広い教養を身につけていたことにに改めて驚く。本のピックアップは大体は常識的だと思うが、「荘子」がいの一番に登場するのは、意外というか意表を突いている。
「本読みの獣道」「きまぐれな読書」「美しい書物」「作家の本音を読む」……。
シンプ...
「本読みの獣道」「きまぐれな読書」「美しい書物」「作家の本音を読む」……。
シンプルで味のあるタイトルですね。
いかがでしょうか。
すごい偶然!
私がチェックしたのとどれも同じです。
栃折久美子さんの本なんて、どれほど探したことか。
ゆっくり順に読んで...
すごい偶然!
私がチェックしたのとどれも同じです。
栃折久美子さんの本なんて、どれほど探したことか。
ゆっくり順に読んでいきたいですね。
レビューを楽しみにしていますね!
レビューを楽しみにしていますね!