栽培植物と農耕の起源 (岩波新書 青版 G-103)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004161035

感想・レビュー・書評

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  • 農耕からホモサピエンスの文明が大きく発展したことはよく知られている。しかしながら、どのようにして主食となる作物を作ってきたかは知らなかった。
    さまざまな試行錯誤と努力と観察があって初めてこれらのことは成し遂げられたのだろうと思う。そう思うと、いくつかの農耕の起源が実に尊いことに気がつく。
    小麦などを主食とする人以外が多いということにも驚いた。

  •  農学部生たるもの、中尾佐助大先生の著作ぐらいは読んどかなきゃ、ということで大学3回生のときに読みました。
     イネ、ムギ、マメ、イモ、その他雑穀、茶などの私たちの食生活に欠かせない栽培植物について、現地調査や遺伝学的な解析から民俗学、文化的な考察を交えながらその起源を追求した傑作。
     中学や高校の地図帳に載っている、根菜農耕文化(南アジア熱帯;イモ、バナナ)、サバンナ農耕文化(アフリカ・北部インド;雑穀、ゴマ、マメ)、地中海農耕文化(トルコ東部;ムギ、えんどう豆等)、新大陸農耕文化(メキシコ;トウモロコシ、カボチャ、ジャガイモ)という4つの独立した起源から農耕が伝わっていく中で形成されたそれぞれの文化(農耕文化複合)があるという説を初めて説いた本です。
     そして、根菜、サバンナ、地中海の3つの農耕文化複合とイネ(稲作)や茶といったアジア特有の作物と風土がフレンドされて「照葉樹林文化」(東アジア;イネ、茶、桑(絹))が形成されていると説明しています。
     単に農耕の起源を追うのではなく、栽培作物を栽培したり利用する中で衣食住の文化的な面にも多く触れられてるのでいろんな視点から楽しめます。生物学的な部分は、出版されてから技術が進歩しているので専門的な方には不満かもしれません。また、生物学に疎い人でも、その部分を読み飛ばせば十分読めます。
     意外にも栄養バランスがいいのはサバンナ農耕文化だったり、日本などの照葉樹林文化に人々はイネが伝わるまでは山岳民族だったなどが面白い発見でした。

  • 宮崎駿さんと鈴木敏夫さんが、この本を読んだと見て読んでみた。
    50年以上前の本で、今は新しい知見が出てきているのかもしれないが、
    古代文明発生以前からの植物と人の文化を描いていて、とてもワクワクしながら読み進めることが出来た。
    身の回りにある植物の背景や歴史を感じることが出来、日常の楽しみが増えた

  • バナナやサトウキビは食べやすいように品種改良をされてきた。
    農耕の方法についても工夫がされてきて今に至っている。
    米は小麦よりも人類には受け入れられやすい。
    マコモはワイルドライス。

  • 「イネ作」など、出版年相当に言葉遣いが古いのは致し方ない。イネの移植栽培についてなど、自分がごく当たり前と思っていること、勝手に思い込んでいることが、他の文化と照らし合わせることで実は違っていたことに気付かされた。一度読み終わっても、また読みたくなる。

  • http://naokis.doorblog.jp/archives/origin_of_agriculture.html【書評】『栽培植物と農耕の起源』〜農業と文明・文化の関係


    一言で言えば、農業の起こりが文明の起こりに繋がったということ。

    <目次>
    ? 栽培植物とは何か
    ? 根栽農耕文化・・・バナナ・イモ
    ? 照葉樹林文化・・・クズ・チャ
    ? サバンナ農耕文化・・・雑穀・マメ
    ? イネのはじまり・・・10億の食糧
    ? 地中海農耕文化・・・ムギ・エンドウ
    ? 新大陸の農耕文化・・・ジャガイモ・トーモロコシ
    あとがき

    はじめに
    文化という外国語のもとは、英語で「カルチャー」、ドイツ語で「クルツール」の訳語である。この語のもとの意味は、いうまでもなく「耕す」ことである。地を耕し作物を育てること、これが文化の原義である。これが日本語になると、もっぱら“心を耕す”方面ばかり考えられて、はじめの意味がいれいに忘れられて、枝先の花である芸術や学問の意味の方が重視されてしまった。(ii)

    ? 栽培植物とは何か
    栽培植物
    われわれがふつうに見るムギやイネは、人間の手により作り出されたもので、野生時代のものとまったく異なった存在であることを知る必要がある。(2)
    脱落性
    野生種と栽培種の区別がむずかしいときには、この脱落性のあるなしが野生型と栽培型の区別点にされている。この性質は野生のものが、趣旨を自然散布するのに適応した性質である。栽培種の方はこれに反して、鎌で刈り取る人間の収穫法に便利な性質である。(5)

    農業の起源、その発展を見るには、その側面、すなわち作物の方からそれを眺めてみるのが、いちばん大切な方法となるだろう。(12)

    ? 根栽農耕文化・・・バナナ・イモ
    東南アジアの熱帯降雨林の中でバナナ、ヤムイモ、タローイモ、サトウキビの4つの栽培植物を開発したことは、人類の生活史上の革命のひとつだった。(50)
    ウピ農耕文化
    この4つの基本的な作物のほか、前章に述べたようなイモ類、果実類を開発して純然たる農業段階へと進化してくる。(51)
    文化は消費する力ではなく、生きて生産する力であることをいかんなく示している。(58)

    ? 照葉樹林文化・・・クズ・チャ
    照葉樹林文化の遺産
    茶と絹、ウルシ、柑橘とシソ、それに酒などがその代表的文化遺産である。(68)

    ? サバンナ農耕文化・・・雑穀・マメ
    マメを食べるには、ただ焼いたくらいではかたくて食べにくいものがふつうだから、どうしても水を加えてやわらかに煮てやらねばならない。それでマメの食用には鍋がどうしても必要になる。(90)
    たくさんの野生している食用になる禾本科植物の中から、一年生のものだけが作物になったのだ。(107)
    多年生の食物の群落では、その生育を人為で簡単に改良することはできない。つまり一年生の禾本の群落は、不安的であるが、かえってそれだけに人為的に助けて、よい群落を作りやすいわけである。(107)
    雑穀栽培は増産法を、人間の入念な労働力、すなわち精緻な除草の上に大きなウェイトをおいてきた。(113)


    ? イネのはじまり・・・10億の食糧
    水田がひらかれるまでいったい何が生えていたのだろうか。
    スワンプ・フォレスト:水に耐えうる種類の樹木だけが育っている熱帯雨林(134-135)
    日本では熱帯でスワンプ・フォレストに相当する大河下流の低地は、アシ原となっていたと推定できる。日本の古名“葦原の中つ国”という言葉は、“樹木の中つ国”でなかったこと、すなわち山棲みでなく、平野棲み、しかも低湿地を支持することは、東南アジアにおける国家形成力が平野水田農業の段階ではじめておこったこととよく一致する。(136)
    イネ作農業は平地水田農業の形態をとって、ついに巨大な余剰を生み出し、大国家をささえる力を示すにいたった。(139)

    ? 地中海農耕文化・・・ムギ・エンドウ
    サバンナ農耕文化のはじまりには、野生の穂を集めているうち、一年生の野生禾本をとくに重要視するようになったときが農業のはじまりだ。(142)
    栽培される穀類の全部、マメ類のほとんど全部、あるいは根菜類の半分以上が一年生植物であることからみて、地中海気候のところは農業を開始するのにもっとも適当な植物がまわりにいっぱい生えている場所であることがわかる。(144)
    ムギ類のように、野生から雑草へ、そして栽培植物へと変わってきたのだ。(148)
    果して地中海農耕文化が人類最初の農業であり、サバンナ農耕文化や根菜農耕文化が、地中海農耕文化の刺激によってはじめてできたかどうか、それがこの章の命題である。ヨーロッパの学者は一般にこの説を前提条件のように受け取って、疑うことをほとんど知らないようだ。しかし私の結論は異なっている。(166)

    旧世界に発生した三つの農耕文化複合は、それぞれ農耕文化複合という足る程度までの発達は、それぞれ無関係に独立的に成立した。
    第二の問題は三つが独立的に発生したとするならば、その年代の古さである。それは根菜農耕文化がいちばん古いのだ。
    根菜文化では種子繁殖をする作物は本質的に唯の一種もない。マメ類もない。土器ひとつなくても食料体系ができあがる。クワもなく掘り棒だけだ。これらは趣旨生産を主力とするサバンナ農耕文化複合や、地中海農耕文化複合から退化した結果ということはできず、ぜんぜん新しい創造である。(166)
    焼畑は点と選であり、第一次農業革命に相当し、新石器時代起源であることとも一致するが、焼畑の方はついに定刻を生み出すことはできなかった。イネが低平地に展開した複合は、まさに面を征服する力を持ち、第二次農業革命に対応しており、国家を作り上げる力を示してきた。(177)





    2011.04.13 http://naokis.doorblog.jp/archives/51689308.html本のキュレーター勉強会二軍キャンプで紹介してもらいました。栽培農業のルーツを知ることができます。
    2014.09.03 読書開始
    2014.09.09 読了

  • おもしろかった。200ページ足らずの本だが、頭の中でイメージがどんどん膨らむ。

  • 本書は我々が日頃食べている穀物などのルーツがどこか?ということを探るという内容である。日頃我々は、意識せず、米を食べ、バナナを食べたりするわけだ が、今、口にしている植物で野生種はないということ。ほとんどが数千年の歳月をかけて人類が選抜し、育ててきた栽培種であることにまず驚く。生活の知恵が 栽培植物には詰まっているのである。こうした育種の伝統は当然、その遺伝子に蓄積されており、この種を保存するということにももちろん意味がある。出版が古いため、昨今の話題の遺伝子改良食品には触れられていない。

著者プロフィール

1916年(大正5年)愛知県生まれ.京都大学農学部農林生物学科卒.専攻は育種学,栽培植物学.1961 -1980年大阪府立大学教授.著書に『栽培植物と農耕の起源』『ヒマラヤの花』『秘境ブータン』『ニジェールからナイルへ』『照葉樹林文化』『料理の起源』『現代文明ふたつの源流』ほか


「2011年 『ブータンの花 新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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