サッチャー時代のイギリス: その政治、経済、教育 (岩波新書 新赤版 49)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004300496

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  • サッチャリズムを「シュンペーター反革命」と規定し、その政治的・経済的意味を考察している本です。

    シュンペーターは、労働者の窮乏化理論に基づく純経済学的なマルクスの革命論をしりぞけ、社会学的な観点から資本主義体制の崩壊を考察しました。彼は、経済発展が進み文化が変質するところに、社会の変質の原因を求めようとします。

    資本主義が高度に発展すると、小規模企業が崩壊してその社長たちは保守党支持層から脱落していきます。他方で、大企業では企業家個人のイノベーションによって企業者活動がおこなわれるのではなく、単なる会社運営の要員としての重役や、いつでも所有権を放棄できる株主による官僚的な運営が進められます。こうして、資本主義の精気はしだいに失われていきます。さらに、資本主義によって生み出された大量の知識人は、農民や労働者と異なり、各地にバラバラに育った人びとの寄せ集めにすぎないため、つねに内部分裂をくり返すことになります。そのため、彼らによって生み出される「世論」はつねに流動的であるほかありません。こうして資本主義は中枢部の麻痺状態に陥り、没落してゆくとシュンペーターは考えます。

    このような議論を前提にして、サッチャーは「歴史の車輪を逆転させる女」だと著者は指摘しています。サッチャーは、ビクトリア時代の上層および中上層階級の禁欲的な家庭を基礎として構築される自由私企業経済の再生をめざしたのだと著者はいいます。しかし、彼女が構築しようとする「完全競争の社会」も、富者と貧者が生じることでシュンペーターの変換過程に入ってしまうと著者は主張します。その一方で、シュンペーターの変換過程は一直線に進むと考えられており、サッチャーのような反革命者が現われることを考慮していないと述べられており、サッチャリズムはこうした問題を浮き彫りにしたと著者はいいます。

    『イギリスと日本』正続(岩波新書)の内容を受け継ぎながらも、もうすこし客観的な観点からサッチャリズムの意味とその問題が解き明かされていて、おもしろく読みました。

  • 内容説明
    1979年にマーガレット・サッチャーが首相の座について以来、イギリスはどのように変わりつつあるか。
    経済・防衛から教育・福祉まで、「利潤」と「効率」の旗をかかげる“鉄の宰相”は、この国に何をもたらしたのか。
    激しい変化をロンドン大学教授として現地で見すえてきた著者が『イギリスと日本』(正・続)以来久々に問う、鮮やかな分析。

    目次
    1 党首、マニフェスト、選挙―英首相の強大な力の背景
    2 歴史の車輪を逆転させる女―サッチャーの「信仰復興」(リバイバル)
    3 荒れ狂う「反福祉主義(サッチャリズム)」の嵐―悔しかったら頑張りなさい
    4 歴史の大河の中で―戦後、挫折、ヨーロッパ化

  • 読み進めるにつれて、「これは今の日本の話か!」という思いを深くした。衆参のねじれ現象は、ある意味、筆者が「二大政党制こそイギリス病の根源」と下した診断を、きわめてコンパクトな形で実現してしまっているのかもしれない。ひとつ、どうしても疑問が残るのが、イギリスが経済効率主義に大きく舵を切ったのは、マーガレット・サッチャーというたったひとりの個人の力だったのだろうか、ということ。それならそれで、小泉純一郎にすら帰することのできない、日本の「名無し」の「改革」とやらが、結局、メリトクラシーを奉じる官僚たち(←ここまではイギリスも同じ)の日本型無責任体制の中で進んだらしいことが、ひとつの対照性を帯びて浮かび上がってきて、なかなか面白い。

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