- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004304296
作品紹介・あらすじ
20世紀最大の文学者の一人であるジョイスの代表作『ユリシーズ』。このとてつもなく巨大で重層的な作品に作者は無数の謎をしかけた。なかでもダブリンの安酒場で滔々と語る「俺」とは誰か、この作品中最大の謎に緻密な論証により世界で初めて決定的な解答を与え、さらなる謎を快刀乱麻に読み解いて、文学的スリルと興奮の世界へ誘う。
感想・レビュー・書評
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ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』第12挿話の語り手である「俺」が、犬であるという新説を提出している本です。
著者の検証を読んでいると、なるほどそういう解釈もありえそうだという気分になってきますが、「筆者のこのような解釈に対して消極的な態度を示したり、はっきりした態度を保留したがる人」の逃げ口上を許さず、「もちろん、どっちにも取れる―ジョイスが巧妙に、意図的にそう書いたのだから。しかし、作者ジョイスがどっちだかわからなくて書いたということではない。正解は一つだ」と勇ましく語っています。
ただ、それでもなお逃げ口上をかさねるとするならば、著者が自説を展開していく議論は、感嘆詞のGobを「どべッ」と訳しているところに象徴的に示されているように、英語の文章のうちにひそんでいるはずの「正解」を、日本語というまったく異なる言語のうちへと移し入れる試みと一体化して語られており、そのような著者の翻訳の試みのなかで、著者の解釈の妥当性や意外性が生き生きと示されているということができるのではないかと考えます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「ワトスン君、こうやってありえない仮説を取り除いていけば、最後に残ったものが、どんなに奇妙に見えても、それが真実なんだよ。」
本書は、20世紀文学の稀有な大作『ユリシーズ』の解説書である。しかし、ただの解説書ではない。著者は、『ユリシーズ』第十二挿話の語り手である「俺」が、じつは犬ではないかという説を展開する。
驚くには当たらない。わが国には夏目漱石のかの有名なる小説があるではないか。語り手が犬であって何の問題があろう。
現在までのところ、私の知る限りでは、イギリス文学界隈で著者の仮説を最有力とする動きはないようである。しかし、語り手が犬であるという仮説を立てることによって、今まで解明できなかったパズルが解けていくのだという。
ジョイスは読者に対してどんなトリックを仕掛けたのか。それはみなさんの目で確かめてほしい。 -
逝去の知らせの後、街中の書店で見つけて購入。読み終わって奥付を見て、「1995年」という出版年に驚いている。二十年。作者の説は広く受け入れられているのだろうか?
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「ユリシーズ」の「俺」は実は犬だったという大胆な仮説を展開し、12章「キュクロープス」を再訳して愉快な解釈を繰り広げています。一見するとおやじギャグ塗れのおふざけのように思えるかもしれませんが、ジョイスの言葉や文体に関する志向とそれを翻訳するという試みの意味を考えると、とても優れたジョイス入門書といえるのではないでしょうか。