- Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004305002
感想・レビュー・書評
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久しぶりに日本史の通史を読んでいます。それも,網野史学です。
網野さんの本は,さすがに視点が違います。それは初っぱなからわかります。網野さんは「はじめに」で次のように述べています。
「日本社会の歴史」と題してこれからのべようとするのは、日本列島における人間社会の歴史であり、「日本国」の歴史でもないし、「日本人」の歴史でもない。これまでの「日本史」は、日本列島に生活をしてきた人類を最初から日本人の祖先ととらえ、ある場合にはこれを「原日本人」と表現していたこともあり、そこから「日本」の歴史を説きおこすのが普通だったと思う。いわば「はじめに日本人ありき」とでもいうべき思い込みがあり、それがわれわれ現代日本人の歴史像を大変にあいまいなものにし、われわれ自身の自己認識を、非常に不鮮明なものにしてきたと考えられる。
そして,そのことば通り,まだ日本ではなかったころの日本社会の歴史を,東アジア全体の歴史的地理的観点から書き進めてくれています。だから,もう40年以上前に習った教科書で学んだだけの断片的なできごとでできあがっているわたしの中の日本の歴史が,世界とつながりながらつながっていく楽しさがありました。
本著作は上中下の3部作ですが,第3部の最後までいっても17世紀前半までらしいです。どんな話題が展開されるか,続編がたのしみです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
有史以前から平安中期ごろまで。
網野善彦らしく中央だけでなく地方や平民の動きにも常にフォーカスされていて、統治が一筋縄ではいかないいっていないことがよくわかり面白い。
また地方の実情がちょくちょく書かれているため、天皇家を中心とする中央政府はここまで1回も日本統一できていないこと、地方豪族も紆余曲折ありつつずっと強いことなど、この先の歴史につながる流れが中央だけ書かれているよりもわかりやすい。 -
さすがに網野氏の書く歴史は、表層だけではなく、社会の深層からの分析が多く、新鮮な感覚で読むことが出来る。この巻は、有史以前の日本列島の成り立ちから当時の人類の動きにまで話が及ぶ。しかし、逆に人物像としては、大化の改新後の中大兄皇子が自ら天皇位に就かず、対立する古人大兄王子、蘇我倉山田石川麻呂、孝徳天皇などを排斥していく過程の描写は詳しく、天智天皇は陰湿な人物との印象を受けた。日本の古代は8世紀に多く登場した女性天皇の存在に見られるように女性の社会的地位が外国と比べて相対的に高かったとの説明は現在と比べて、皮肉なことである。
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有史以前から平安初期まで。
日本の歴史ではなく、日本社会の歴史というタイトルにするだけあり、社会の運用と展開に焦点が当てられ、記述が進められている。日本社会と稲作の深い結びつき、それを基盤とした朝廷の統治形態について言及しつつも、決してそれだけでは片づけられない多様な要素の集合体が古代日本であったことも意識的にしっかりと書き出している。 -
日本人でも日本国でもなく、“日本社会“に関する通史。上巻は9世紀末、宇多天皇の治世まで。文化や技術、制度がどのよう変遷してきたかがよくわかる。
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☆☆☆☆
この程度の深さで、日本の成り立ちから平安時代初期までを振り返れたこの一週間は貴重な時間だった。
「日本」という国の成り立ち、大陸(中国)や半島(朝鮮)との関係やその力関係による緊張感に影響される日本のありようは、昔に学んだ学校での歴史とは違った種類の知識を与えてくれた。
また、国の型ができ、その組織が作られ、複雑になっていく過程では、権力闘争が繰り返されていく。穏やかな時代の印象持っていた平城、平安時代においても、どの時代、どの国の歴史同様の血生臭い権力欲をみせられた。
この本が優れているのは「日本社会」の歴史を描いているところで、歴史のメインストリームに主眼が置かれているわけではなく、読んでいると「社会」の動き、そのそれぞれの時代を暮らす人々の姿が想像できるところが良い。(これはゆっくりと時間をかけて読んだために得られたのかもしれない)
でも、次に『日本社会の歴史』(中)・(下)を読むのはいつになるかはわからないなぁ。
網野善彦氏は、この膨大な歴史のなかから、よく社会を見つめるための筋を提供してくれている。
2017/04/22 -
20170215読了。そちら地方の出身だが「浜北人」については知らなかった。「三カ日人」は知っていたが。その時代から平安京までが上巻。だーっと時が進む印象の本だが、歴史を前にすると自身の人生は無いに等しいと感じ、そこがトリガーとなって中・下巻へと読み進めたくなる。が、手元にはまだない。
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平易な文章だが内容が難しくて1回読んだだけでは頭に入ってこない。大好きな持統天皇のことについても少し書いてあった。天武は持統天皇(鸕野讚良)以外の女性との間に十数人の王子がいたこと。後継者は持統天皇との子草壁王子に決まっていたものの、天武は(持統天皇の姉との間にもうけた)大津王子を高くかっていたこと。持統天皇と草壁王子は天武の葬儀の最中に大津王子を自殺に追いやったこと。その翌年には草壁も亡くなっていること、など。 いや、もっと高尚な話がたくさんたくさん書いてあったのだが、知識を自分のものにできなかった。
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これまでの一般向けの歴史の記述は政治や権力機構が中心になっていたが、この著書の視点はこれまであまり目配りされなかった周辺地域や庶民、非差別民にも及んでいる。従来歴史という物は政治の道具であった。政治というのは日の当たる部分である。しかしその背後には必ず陰の部分がある。そして中心機構としての政権はもれなく周縁の力を利用してきた。この事はオフィシャルな歴史には登録されない。また一方でそういった周縁の種々雑多な物というのはわかりやすい歴史の構図には向かないものでもある。それにもかかわらずこれまでに記録の端々に姿をちらちら表してきた不思議なものをつなぎ合わせると何かしら新しく面白い像が浮かんでくるのではないだろうか。そしてその存在を知ったとき「今」の世の中のしくみへの理解が一段と深い物になるような気がする。
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上巻は、古代から平安中期まで駆け足で一気に進む。やや読みにくい。稲作に従事する所謂百姓のみならず、海人、山人、職能民等の平民全般の役割に触れられている点が特徴。平民によって織物、製鉄、木器生産、製塩、漁撈等の多様な生業が行われており、分業化が進み、市庭での交易、海上ルートでの輸送等も盛んに行われていたようだ。