- Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004306894
感想・レビュー・書評
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思想検事。なんか強そう、宇宙刑事みたいな。ではなく、NHKのドキュメンタリー「治安維持法 10万人の記録」に出ていた荻野富士夫さん(小樽商科大特任教授)の本を読めば治安維持法のこともっとわかるかなと著作一覧を見たところ、このタイトルが目に飛び込んできた。特高警察はよく耳にするけど、思想検事は初耳で、この名称のインパクトに、特高より先につい手を出してしまいました。
思想検事は正しくは思想係検事という。思想犯罪(当初は主に共産党思想)を捕まえるのは特高警察だが、その次の手順として、彼らを起訴して裁判にかけるのは思想検事の役割だった。特高は拷問でもなんでもやるから忌み嫌われてるし、捕まった人に同情もあったかもしれないけど、そうやって挙げられた疑わしい人を「正式な」手続きで裁判にかけて、「正式に」罪を科す。警察組織の暴走や腐敗ではなく、国として下流から上流まで思想犯罪を取り締まる正当な仕組みを持っていたところに治安維持法の恐ろしさがある。国が認めた犯罪者だから国がおかしくなってない限り(いや、おかしくなっていても)罪は罪なのだ。特高の暴力を、国を動かす最高の知力を持った人々がバックアップしてどんどん思想犯罪を取り締まった。こんなことを国は認めていたし、推し進めていた。恐ろしい。
思想検事のもう一つ怖いところは、悪名轟き解体された特高警察と違って、表に出なかったために、組織は温存され、検事たちも裁かれず戦後も脈々と生き続けたこと。冷戦構造による共産党への脅威もあって、思想検事は自分たちの行為を反省することもなく、公安検察へと形を変えて戦後も生き残った。そして、不都合な発言を封じるためか長期間拘留されたり、喚問されても「忘れた」と言い続けたり、訴えても無視されたりと、黙ってた方が得なことが頻発するようになった今のこの時代、思想検事が完全復活するような気がしてならない。詳細をみるコメント0件をすべて表示