アメリカ外交とは何か: 歴史の中の自画像 (岩波新書 新赤版 898)

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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004308980

作品紹介・あらすじ

世界を善と悪に二分し、自由や民主主義を盾に武力行使に走る現在のアメリカ。だが、その姿は、アメリカの歴史にとって必ずしも例外的ではない。建国期から冷戦後にいたるまで繰り広げられてきた自画像をめぐる論争の歴史をたどりながら、超大国の外交がなぜ隘路に陥ったのかを解きほぐしていく刺激的なアメリカ外交論。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカ外交とは何か
    歴史の中の自画像
    著:西崎 文子
    岩波新書 新赤版898

    アメリカ本土が攻撃されたのは2度
    1度目は1941年の真珠湾、そしてもう1度は2001年同時テロだ
    同時テロがアメリカにもたらしたものは、2つの断絶、日常的・具体的な断絶と、政治的文脈で捉えられた断絶だ。
    アメリカが選択したのは、アメリカにはむかうものは容赦しないというものである
    アメリカの歴史は、絶え間ない論争の歴史であった。アメリカの強靭さの根源には、社会の分断を賭してでも論争を繰り広げ続けるエネルギーがあった。

    ブッシュ大統領の時代は、アメリカに抗う少数と、沈黙する大多数という構図になっている。アメリカはなぜこのような隘路に追い込まれたのは、本書はその歴史的経緯を考察するのが目的である。

    気になったのは、以下です。

    ■アメリカ建国、西漸運動

    アメリカは20世紀後半を迎える頃までには、圧倒的な軍事力を保持する超大国へとのし上がっていた。
    自分たちこそが神に選ばれた国民であるとの自負をもっていたからこそ、国づくりに邁進すると同時に、やがて世界をも自分のイメージに沿って作り替えようとしたのである。
    その原点にあったのは、イギリス国教会への不服従から新天地を求めて渡ってきたピューリタンたちの理想であった。
    アメリカでは、自分たちが神に選ばれた特別な存在であり、世界が追うべき模範であるという認識が広く行き渡るようになった

    プロタンティズムの倫理と資本主義の精神の中で、マックス・ウェーバは、「利潤の追求」が物質的のみならず、道徳的にも賞賛すべきものであるとしたことである。
    「利潤の追求」は金銭への貪欲さによってではなく、むしろ、徹底的な禁欲の精神に裏打ちされたものであった。

    アメリカが植民地時代から培われた3つの特性、①ヨーロッパとの隔絶、②進歩と発展の称揚、③多様性の包摂、こそが、20世紀の初頭、国際舞台に躍り出たアメリカにとって自身の源となったものであった。

    「自由かつ独立の立場を維持してきた南北アメリカ大陸は、今後、ヨーロッパのいかなる国によっても植民地化の対象と見なされてはならない」
    ジェファーソン大統領は、その就任演説で、「すべての国と平和、通商、そして、正直な友情を求めるが、どの国とも錯綜した同盟を結ぶべきではない」。これはモンロー教書、孤立主義と呼ばれる

    19世紀は、アメリカは、領土を購入によって拡大していくという状況は、戦争を通して領土を獲得するのが一般的であったヨーロッパ大陸の状況と際立った対象を見せていた

    西への膨張、いわゆる西漸運動は、明白な運命がさだめる権利であり、だれもが否定することができない道理として描かれていた。
    アメリカの膨張は、明らかに、自由の領域の拡大を意味していた

    ■モンロー・ドクトリンと孤立主義

    20世紀には、西海岸に達し、大陸の征服を終え、急速な産業化を経験したアメリカはついに、海外へとその拡大の目を向けることとなる。
    アメリカの帝国主義は、植民地政策においても、自由平等、人民主義といった価値を掲げ続けたことにある。
    アメリカの意志に従う政権を、「民主的」なものとして樹立、保護していくという「家父長的」な帝国主義支配であった。

    南北戦争で一時鎮静化していた膨張熱は、再び高まりを見せた。新しい土地ではなく、海外市場の開拓を目指すものとなった。
    そのきっかけとなったのは、米西戦争であった。それは、キューバと、フィリピンで行われた

    アメリカにとって、フィリピンの確保は、アジア市場への拠点を築くまたとない機会となったのである
    「文明の恩寵」という言葉が、西欧列強がアフリカやアジアの植民地で繰り広げられている戦争や虐殺、略奪行為を隠すための隠れ蓑として使用されていた。

    セオドア・ルーズベルト帝国、パナマ運河の建設開始に伴って重要視されたのが、カリブ海の安全保障である。ルーズベルトは、パナマを押さえることで、太平洋と大西洋を結ぶ運河をアメリカ単独で建設する夢を実現した。

    モンロードクトリンのパン・アメリカ化とは、西半球を1つに融合するという政策をとることだった。

    ■2つの大戦とアメリカによる世界支配

    第1次世界大戦で、アメリカを決定的に、新英・反独の立場へ突き動かしたのは、ドイツの潜水艦作戦であった。

    注目すべきなのは、ニューディールを優先課題とするルーズベルト政権が、対外政策では単独主義的傾向を色濃く出していたことである

    1930年代の孤立主義への回帰はアメリカが再び世界の舞台に登場するための布石にすぎなかった。ルーズベルト政権は第2次世界大戦参戦前から、戦後の世界秩序の形成に指導的役割を果たすことを意思として表明していた。

    1944年プレトンウッズで債務国の財政立て直しを前提として国際秩序の再構築が行われた、パスク・アメリカーナ。ドルを基軸通貨として、債務国の経済支配を援助で実現するものであった。7

    アメリカのモンロードクトリンは、NATOや、日米安保などの個別的集団的自衛権と軍事同盟網を形成する根拠となっていく

    ヒロシマ・ナガサキの惨状は、戦争の終結を早め、本土決戦を回避することによって米兵のみならず日本人の命を救うという公式の説明も、道義的説得力を持つとはいいがたかった

    トルーマン・ドクトリンは、第2次世界大戦終結から10年のうちに、冷戦イデオロギーによって、世界を軍事的、政治的、経済的、文化的に分断することなった。

    ■ベトナム戦争から現在まで

    当初ベトナム介入を支持した世論や議会は、戦場の悲惨さが報道されるにつれて、急速に反戦へと展開するようになっていく

    ベトナム戦争が破壊したものの一つに、アメリカ社会でのコンセンサスであった
    アメリカのフルブライト議員が、アメリカの過剰な介入主義を批判する一方で、介入を失敗へと導いた要因は南ベトナム政府の腐敗や無能力にあると判断した。彼が糾弾したのは、介入主義そのものではなく、其の無鉄砲さであった。

    知識人たちは、アメリカ外交が一貫して求めてきたものは、自国の経済的利益のための門戸開放帝国主義であることを暴露した。

    ベトナム戦争後も、アメリカの外交戦略は、現実的な判断にもとづく、国益重視の政策である
    アメリカの中東政策は3つの軸がある、①石油資源の確保、②イスラエルへの支援、③ソ連の影響力の排除 である
    ユダヤ人ロビイストたちは、アメリカの歴代政権が親イスラエル政策をとるように働きかけてきた
    1970年代の中東政策をリードしてきたのは、ナチス・ドイツから亡命してきたキッシンジャーであった。
    結局湾岸戦争でアメリカがえたものは、イラクにのこされた権益をアメリカの企業が確保することであった

    結局ブッシュがとった外交戦略とは、国際協調主義ではなく、国連をも道具につかったアメリカ単独主義であった

    結局、ブッシュの強調する自由、民主主義、文明などの理念は、単なる枕詞だけだと受け止められ、年々、アメリカへの反感が大きくなっていった。

    目次
    序章 アメリカ外交への接近法
    第1章 アメリカ外交の源泉
    第2章 西半球の警察官
    第3章 ウィルソンの夢とその後
    第4章 「パクス・アメリカーナ」の虚像と実像
    第5章 アメリカの挫折
    第6章 「素晴らしい新世界?」
    終章 岐路に立つアメリカ外交

    ISBN:9784004308980
    出版社:岩波書店
    判型:新書
    ページ数:256ページ
    定価:800円(本体)
    発売日:2004年07月21日第1刷
    発売日:2010年02月15日第5刷

  • アメリカにとって戦争はあくまでも外国の地で戦われるはずのものであった。
    アメリカを敵に回すことが軍事的のみならず、経済的にも思い知らせるものであった。

    アメリカの過ち、先住民の制圧と奴隷制の保持
    孤立主義、(ヨーロッパと)同盟しない。
    領土=購入⇒拡大、戦争なき征服
    アメリカの植民地政策とパターナリズム
    開戦のきっかけキューバ
    暗闇に座る人
    アメリカは自分の反発を理解できない。

    勝利なき平和
    民主主義のための戦争
    金銭的と倫理的な側面

    1993金本位からの離脱
    戦争がプロパガンダである面
    「戦争は国家の健康」

    マッカーシズム、なんだったのか?
    リベラリズムの台頭
    保守主義?の歴史の終わり?

  • アメリカ外交の歴史を平易な文章で綴った一冊。

  • これでもかと言わんばかりにアメリカ外交を100年分叩き続ける本なのではっきりと好き嫌いが分かれるだろうが、その分を差し引いても極めて良著である。新書というサイズの中でアメリカ外交のエッセンスがコンパクトに詰め込まれており、最初の一冊に最適。
    道義を前面に押し出すアメリカ外交が如何にして形成され、戦後に大きく揺れ、冷戦終結を迎えたかを解説。特に、高邁な理想の元に行われた戦争が現地ではどのように展開し、どのような負の影響を与えたのか、また理想主義外交をめぐって国内でどのような論争が起きたかに力点を置く。
    論争の中心となった名著の数々を矢継ぎ早に紹介してくれるも非常にありがたい。アメリカ外交史のブックガイドとしても活躍できる。

  • 2011.2.21

  • 一通り細かく読んだけど、各章最初に素晴らしいまとめが載ってて、そこを通読するだけでも、アメリカの歴史がある程度俯瞰できる気がした。もし読み返すなら、極端な話、そこだけでも良いかも。かの国は、外から見ていて明らかにそれと分かるくらい、建前が重要な意味を持つのだろうし、とある人間が間違った方向に動いてしまったとしても、それを柔軟に是正するのが困難なくらい、巨大な存在として君臨している。人間の場合にも当てはまる、トップに立つことの困難さを、国家としてその歴史が物語っている点で、非常に興味深く読み進めることができました。

  • アメリカ外交が進んできた歴史を追う。
    そこには伝統・系譜があるのでは?

  • 米国の外交の根底にある考え方をサラッとおさらいするのに便利。

  • 特に発見はなかったけど、教科書的に通史としてアメリカ外交を読むことができる。
    アメリカという国家、その行動を支える理念を外交政策の歴史から分かりやすく抽出してまとめている。
    賛否はともかく一貫して国家の理念を提示して行動しようとする強い国家像は日本には望むべきもないような。。

  • 国際政治論
    参考書

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著者プロフィール

東京大学名誉教授、成蹊大学名誉教授

「2022年 『アメリカ外交史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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