- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004313366
作品紹介・あらすじ
手漉きの和紙を用いて作られた本を和本という。和本は近代以前の日本文化を理解するための最大のインフラであり、歴史上の時間にもどるための唯一のツールである。和本の歴史や作り方、出版事情などの基礎知識をていねいに述べながら、変体仮名を読み解くことにはじまる和本リテラシーの重要性を説く。
感想・レビュー・書評
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和本のすすめ
江戸を読み解くために
岩波新書 新赤版1336
著:中野 三敏
最近とんと見かけなくなりました。
昔、親父がよんでいた囲碁の本が、和本で何冊がありましたが、箱にはいっているものがあったように記憶しています。
江戸期の出版事情で、書籍の発行部数は、世界で日本が一番であったとのこと。識字率といい、寺子屋をはじめとする、いわゆる読み書き算盤といい、なるほどと感じました。
本書は、和本は、江戸理解のインフラといっています。
気になったのは、以下です。
■はじめに
・本には、①中国:唐本、②朝鮮:韓本、③西洋:洋書、に加えて、④日本:和本 があります。
・印刷方法には、木版印刷での、板本と、手書きのままの、写本の2種
・和本は、奈良から戦前まで作られていたようです。
■江戸の出版事情
・板本の種類は、整版、活字版、拓版の3種、17世紀までは、ほとんど貴族や僧侶の専有物であり、古版本とと呼ばれていたようです。
・もともと、本屋は、京都にあり、江戸時代に江戸にも、後半には、地方にも広がっていったようです。
・本の価格は現代価格で、平均5800円とあり、草子、浮世絵は、300円、1000円程度だった。
・出版条例があって、京都所司代が、版元である本屋について規制をおこなっていました。
・本の製作費は、原稿料23万6千、彫刻費26万1千と、全体の7割をしめていて、全体は70万ぐらいです。
■和本には身分がある
・大名の蔵書 題簽(だいせん)
・物の本、草紙、地本
■和本の作り方
・原稿⇒清書(板下)⇒彫り⇒試し刷り⇒構成⇒本刷り⇒丁合い⇒中綴じ⇒表紙付け⇒本綴じ⇒袋入れ
■和本にはどんな本があるのか
・読本、咄本、洒落本、滑稽本、人情本、草双紙、地口・謎、年代記、往来物、道中記、劇書、浄瑠璃本、音曲、あふむ石、評判記、吉原本、細見、狂歌本、絵本、艶本、双六、刷りもの、等
・色刷りは、1631年の塵劫記から
・遊女評判記、吉原細見、東海道中膝栗毛、春画、
目次
はじめに―いま、なぜ和本か。そして変体仮名のすすめ
第1章 江戸の出版事情
第2章 和本には身分がある
第3章 和本のできまるで
第4章 和本にはどんな本があるか
第5章 海外の和本事情
おわりに
あとがき
索引
ISBN:9784004313366
出版社:岩波書店
判型:新書
ページ数:224ページ
定価:860円(本体)
発売日:2011年10月20日第1刷詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
これは良書。新書というパッケージにふさわしく、入門書でありながら奥行きがある。長きにわたってくずし字勉強中なので、少しはヒントになるかなと手に取ったけれど、そこは全然効果なし。でも、書誌学的な話、とてもおもしろいし、知らないことばかり。図書館で借りて読んだのだが、座右においときたいから買うかな。
内容と関係ないが、研究者の文章の美しさも堪能。おおらかなユーモアも良くて、必死で情報を摂取しているさなかにくすりと笑いがもれる。 -
和本の歴史。
和本とはどういったものを指すのかから始まり、江戸時代を中心として出版の歴史をたどる。
日本の本の在り方の変化を受け止めて理想を語る。 -
享保の出版条例は規制に非ず、など、流暢かつ柔軟な語り口で研究はもとより読み物としても上出来。「気合いで読める変体仮名」というのは名言である。古典に親しんできた者の文体であることは、すぐに分かる。
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積読していたが必要に迫られて読むことにした。江戸時代の出版(京都、江戸、大阪、おくれて名古屋など)のことが分かる、ありがたや。
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ワクワクする和本の世界へようこそ!と語りかけてくれるような本です。
和本の情報が凝縮されていました。物の本、洒落本など和本の種類、出版事情、過程と経費、板元、出版条例、講、写本と板本、韻文と散文。この本を読んで和本…江戸の手触りを感じたくなりました。 -
実際の書名が出るあたりがややこしいけれど、基本的な部分は参考になりました。
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目次:
はじめに―いま、なぜ和本か。そして変体仮名のすすめ
第一章 江戸の出版事情
1 日本の出版略史
2 本屋の誕生
3 本屋の実体―京都を中心に
4 学芸文化への貢献―丹波屋理兵衛のこと
5 出版条例について
6 出版に関わる経費
7 版権・著作権
8 原稿料について
9 田舎版(地方版)のこと
第二章 和本には身分がある
1 写本と版本
2 写本の世界
3 江戸の写本
4 写本と出版規制
5 製版と活字版―営業と非営利の間で
6 拓版のこと―『乗興舟』讃
7 刷りものの世界
第三章 和本のできるまで
1 和本のつくり方
2 和本の外型と名称
3 彫り・刷り・修正について
4 細部の名称について
第四章 和本にはどんな本があるか
1 和本の分類
2 絵本・絵入り本・画譜
3 江戸のサブ・カルチャー
4 遊女評判記―『難波鉦』という本
5 吉原細見
6 洒落本の世界
7 艶本(春本・わ印・埒外本)
第五章 海外の和本事情
1 韓国・台湾篇
2 ロシア・ドイツ篇
3 アメリカ篇
おわりに―和本リテラシーの回復を願って
あとがき
索 引 -
(チラ見!/新書)
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古書であっても、板本しか知りませんでしたが、写本こそ真の書物という認識のあった文明はすでになくなっているのでしょう。「和本リテラシー」を持つにはやりたいことが多すぎて難しいと感じています。江戸の書誌学としてこの本を読むだけにします。
なお、著者の他の本にもありますが、「写本や古文書の文字は、書き手によってすべて違ってくるので初心者にとっては最も読み難い」ので、「初心者は写本ではなく、江戸期の極く通俗的な木版本(板本)を読むことから始めるのが良いかと」いっているわりには例があまりよろしくありません。P12の『おくのほそ道』は「芭蕉門人の素龍という能書家が書いた自筆本をそのまま木版にしたものなので、板本とはいえ、写本と同レベルのもの」ですので読めなくても心配はいりません。ここから入るのは「いわばまったくの登山の初心者が、のっけからヒマラヤ登山を志しているようなものだ」ということになります。