- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004313588
作品紹介・あらすじ
アジア・太平洋戦争時、一九三九年(昭和一四)九月から一九四五年八月にかけて行われた戦時労務動員について、その計画の策定過程、無謀な動員の実態、動員の中で日常化した暴力、そして動員体制の崩壊までを基本史料をもとに描きだす。「朝鮮人強制連行」といわれるものの実態が、どのようなものであったかを明らかにする一冊。
感想・レビュー・書評
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3.63/103
内容(「BOOK」データベースより)
『アジア・太平洋戦争時、一九三九年(昭和一四)九月から一九四五年八月にかけて行われた戦時労務動員について、その計画の策定過程、無謀な動員の実態、動員の中で日常化した暴力、そして動員体制の崩壊までを基本史料をもとに描きだす。「朝鮮人強制連行」といわれるものの実態が、どのようなものであったかを明らかにする一冊。』
『朝鮮人強制連行』
著者:外村 大
出版社 : 岩波書店
新書 : 272ページ
発売日 : 2012/3/23詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【目次】
はじめに [i-iv]
目次 [v-vii]
朝鮮行政地図(1940年) [viii]
凡例 [ix]
序章 朝鮮人強制連行を問う意味 001
用語をめぐる議論/遅れている研究/韓国での真相究明の活動/日本社会の無関心/本書で論じる対象/歴史研究としての意義/総力戦が見せる国力/植民地朝鮮の特徴/現代的課題との類似/民族関係・民族政策の検証/史料と方法
第1章 立案調査と準備不足の始動 019
1 植民地期の朝鮮社会と人口移動 020
「近代化」の度合い/低い識字率/メディアの未発達/行政機構とその人員/社会教化の限界/農民の没落と移動/「朝鮮人移住対策の件」
2 労働力不足をめぐる議論 033
軍需景気と人手不足/日中戦争の勃発
3 法令の整備と動員計画樹立 038
国家総動員法/職業紹介所の国営化/朝鮮の労働行政/労務動員計画の策定/渡日規制の強化/「募集」とその手続き/玉虫色の合意/協和会の整備/朝鮮職業紹介令
4 労働者確保と処遇の実態 054
職業紹介と統制/地域社会の連絡委員/低い充足率/旱害罹災者の応募/逃亡防止の監視/紛争議の多発/受入れ側の認識
第2章 「余剰」なき労働力の実情 069
1 動員の展開と矛盾の表出 070
「余剰労働力」の調査/本格化する動員行政/朝鮮農村労働力の実情/警官と面職員の協力/道会における批判
2 動員への懸念と異論 082
動員体制の強化/拡大する動員規模/動員強化の法改正と施策/日本内地の徴用増加/朝鮮での充足率の低下/過剰人口論の検証/異質な存在への警戒/経営合理化論からの疑問
第3章 押しつけられる矛盾 103
1 朝鮮人労務動員制度の再確立 104
英米との戦争/新たな閣議決定/決定の実現不可能性/渡日統制のさらなる強化/官斡旋による要員確保/行政の権限と責任
2 日本内地の動員施策 118
日米開戦後の動員計画/連絡委員制度の再編/商工業者等の転廃業/徴用増加と勤労援護/農業労働力の保全/学生と女性の動員
3 困難になる朝鮮での要員確保 132
行政機構の再編/朝鮮内の労務動員/軍事動員と錬成/朝鮮農村再編論/充足率の異常な上昇/発動できない徴用/動員忌避の背景
4 劣悪な待遇と生産性の低下 152
朝鮮人の基幹労働力化/契約期間の延長/減少しない逃走者/監獄部屋の活用/労働紛争議の変化/生産性の低下/帝国議会での議論
第4章 広がる社会的動揺と動員忌避 169
1 戦況の悪化と動員の拡大 170
膨れ上がった動員計画/動員体制の強化/根こそぎ動員論批判/困難になる要員確保/内務省の実情把握
2 朝鮮における徴用発動 183
地方末端行政の負担/改善されなかった待遇/徴用忌避と抵抗
3 機能不全の援護施策 191
朝鮮での援護会設立/援護の遅れとその原因/厚生省の実情把握
第5章 政策の破綻とその帰結 199
1 本土決戦準備と動員継続 200
崩壊過程の生産体制/給源の裏づけなき計画案/要員確保の追求と混乱/敗戦直前の民族関係
2 日本敗戦後の帰還と残留 209
敗戦時点の労務動員数/徴用解除と帰還/外務省文書の問題点/残留者数の推定
3 被害者と加害者のその後 216
被動員者の「解放後」/政策に関わった者の認識
終章 暴力と混乱の背景と要因 223
目標と現実の齟齬/労働者軽視の経営/曖昧な決定と迷走/強力な統治の陥穽/後手に回った施策/動員のインフラの不在/収奪の規制の欠如/日本人中心主義/マジョリティの不幸/記憶すべき史実
あとがき(二〇一二年二月 外村 大) [241-242]
主要参考文献 [243-250]
略年表(1934年~1945年) [5-8]
索引 [1-4] -
朝鮮人強制連行について、これまでは基本的な事実が把握されないままに書かれた文献も多いという。そこでこの本では史料に直接あたって朝鮮の労務動員の史実を再検討する作業にあたったという。
強制連行というとどうしても「強制」の言葉がもつ意味が先走りして、暴力的に連行されて暴力に晒されながらひどい労務条件で働かされたという印象を持たれてしまうのだろうが、本書では史料に依拠しつつ冷静に「朝鮮人強制連行」の実像に迫ろうとしている。
日本政府としても、朝鮮人労働者の内地導入は戦後に予想される労働需要の低下と、同時代的な朝鮮人差別、労働者の成熟という問題、労働者のやる気の問題などがあって、なんでもかんでも強引に引っ立てて働かせるという簡単なものではなかったという指摘は、しごく当然だが鋭いものがあると感じた。 -
第二次世界大戦中に行われた
朝鮮人に対する強制連行について記した一冊。
数字を多く引き出し説明しているがインタビューや証言の引用も多く、
筆者も後書きで触れているとおり、
その時代を個々人がどんな思いで、
いかに行動したかが垣間見られる。
様々な施作にせよ雑多な矛盾にせよ、
その背景には朝鮮人に対する民族的な意識があり、
この点の解決なしに総力戦を勝ち抜こうとした見通しの甘さが伝わる。
五族共和が聞いて呆れるがこれが事実であり、
今も根底に疼く問題なのだろうと思う。 -
歴史のあるいは資料の、どこに力点を置くかで見解が異なることがわかった。
著者は冷静に資料を分析し紹介する。
いわゆる・・・アメリカの黒人刈りと同じようなイメージを持つのは間違いだと思った。
日本もまた、強制的な労務動員が軋轢を生むことは当然認識していたし、愚策であることもわかっていた。
にもかかわらず「戦況」が拍車をかけた形になった。
ホンの数年たらずで、日本は敗戦に向けて、個々人が冷静ではいられなくなったのだろう。 -
識字率が低かったこと、メディアが発達していなかったこと。
ラジオ普及率も1%未満だった。
当時の日本では農村でも新聞、ラジオが一般的だったから、相当に低かった。