子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314677

作品紹介・あらすじ

二〇一三年、「子どもの貧困対策法」が成立した。教育、医療、保育、生活。政策課題が多々あるなかで、プライオリティは何か?現金給付、現物(サービス)給付、それぞれの利点と欠点は?国内外の貧困研究のこれまでの知見と洞察を総動員して、政策の優先順位と子どもの貧困指標の考え方を整理する。社会政策論入門としても最適な一冊。

感想・レビュー・書評

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  •  5年前に刊行された『子どもの貧困』の続編である。

     この5年間で、日本の「子どもの貧困」をめぐる社会の空気は大きく変わった。5年前にはまだ「日本に子どもの貧困問題なんてあるの?」などと言われ、問題自体が可視化されていなかったのだ。
     
     しかし、リーマンショックの影響もあって困窮者が増えると、子どもの貧困もおのずと深刻化した。また、貧困問題自体が大きな社会問題としてクローズアップされるにつれ、子どもの貧困にも社会の目が向けられるようになってきた。

     昨年6月には「子どもの貧困対策法」が成立したが、これは著者によれば「貧困を研究するわれわれの予想を遙かに超えた急展開」であったという。日本は子どもの貧困対策において先進諸外国に大きく立ち後れている国だったのだが、その後れをいま、急ピッチで取り戻そうとしているのだ。

     本書はそうした5年間の変化を受け、前著の内容を一歩進めたもの。
     前著の終章にも著者なりの貧困対策が書かれてはいたのだが、その対策――すなわち「解決策」の部分をメインにもってきた本なのである。
     
     私も、貧困問題の関連書を読むたび、「問題が深刻なことはわかった。じゃあ具体的にどうすればいいのか?」と著者に問いたい気持ちになることが多かった。解決策に的を絞った本が待望されていたのだ。

     ただし、著者は研究者だから、アジテーターとしての資質が勝った一部の評論家のように、「この人にまかせれば貧困問題は解決できる」と思わせるような単純明快な書き方はしていない。むしろ、著者自身が「あとがき」で言うように、「どのような社会問題にも当てはまる社会政策論の色合いが濃い」本である。また、思いのほか学術的で堅い本でもある。
     したがって、魔法の特効薬のような画期的解決策が書かれた本を期待すると、肩透かしを食うだろう。

     それでも、ヘンに感傷的にならず、冷静な社会政策論として子どもの貧困問題が論じられた一冊として、読み応えがあった。

     とくに印象的だったのは、子どもの貧困対策を「未来への投資」と見なす視点。

    《子どもの貧困に対する政策は、短期的には社会への見返りはないかもしれない。しかし、長期的に見れば、これらの政策は、その恩恵を受けた子どもの所得が上がり、税金や社会保険料を支払い、GDPに貢献するようになるので、ペイするのである。すなわち、子どもの貧困対策は「投資」なのである。子どもが成人するまでに、長くは二◯年かかるので、この「投資」は長期的な観点でみなければならない。しかし、「費用」ではなく「投資」と考えることによって、政策の優先順位も変わってくるであろう。たとえば、貧困の子どもに、ただ単に最低限の「衣食住」だけを提供するプログラムと、その子どもに「衣食住プラス教育」を提供するプログラムがあった場合、たとえ後者のほうが費用が高いとしても、投資のリターンとしては前者よりも後者のほうが優れているのは自明である。》

  • 貧困と聞くと、途上国や紛争地での話しのように聞こえます。一億層中流と言われながら育った自分には、貧困問題と日本とを結びつけるのに、少し違和を覚えます。
    この本を読み、統計を見ると、違和が小さくなりました。特に、子どもや母子家庭での貧困の状況は急いで対処しなくてはならないと感じました。
    「日本では貧困対策が取られているでしょ」という指摘があるかもしれませんが、どうやら、効果はあまり上がっていないようです。

    この本を読み、一番驚いたのは「再分配の逆転現象」(前著『子どもの貧困』の中に詳しいらしいのですが、僕はまだ読んでいません)。
    政府は、税や社会保険料などでお金を集め、生活保護などの形で国民に再分配します。裕福な層から貧困層への所得分配が貧困削減策として行われているわけです。が、日本では再分配後の貧困率が再分配前よりも高くなるのです(この「貧困率の逆転現象」はOECD諸国の中ではにほんだけ)。

    経済成長による分配は自然に貧困層に行き渡るとする「トリクルダウン」に対して否定的な検証結果がでているようです。
    政府の所得再分配もトリクルダウンも効果薄となると、どのような策を講じればよいのか。
    その提示がこの本のキモです。

  • 著者は中途半端だと書いているが、本書が提起した問題のありかと解決への道筋は十分にインパクトがあった。日本の財政も見据えながら、まずは何に取りかかれるのかが分かったからだ。

    ・ひとり親世帯の貧困率は日本は最低
    ・貧困層への自然なトリクルダウンはない。経済成長で。
    ・現代は習い事を通さないと豊かな経験が積めない。
    ・社会的地位ホルモンがセロトニン
    ・個別学習指導は学力向上だけでなく、大人社会への信頼感の回復、対話能力の向上、忍耐力の養生がある。
    ・選別主義のパラドックスから、再分配のパイの大きさへの注目
    ・現金給付に有意な効果はある
    ・放課後の子供の孤立は深刻
    ・子どもの学習費調査

  • 書名:『子どもの貧困II ――解決策を考える』
    著者:阿部彩

    【版元】
    通し番号:新赤版 1467
    刊行日:2014/01/21
    ISBN:9784004314677
    版型:新書 並製 カバー 266ページ

     2013年,「子どもの貧困対策法」が成立した.教育,医療,保育,生活.政策課題が多々ある中で,プライオリティは何か? 現金給付,現物給付,それぞれの利点と欠点は? 国内外の貧困研究のこれまでの知見と洞察を総動員して,政策の優先順位と子どもの貧困指標の考え方を整理する.社会政策論入門としても最適な一冊.
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b226254.html

    [※横書きに際し漢数字はアラビア数字にした]
    【目次】
    はじめに [i-vi]
      子どもの貧困の発見から五年
      政策オプションは何か
    目次 [vii-x]

    第1章 子どもの貧困の現状 001
    1 どれほどの子どもが貧困なのか 003
      就学援助費の受給率15.6%
      子どもの貧困率の国際比較
      どのような世帯の貧困率が高いか
    2 貧困が子どもに及ぼす影響 014
      恐ろしい貧困の影響
      学力だけではない
      大人になってからの影響
      貧困の連鎖
      「機会の平等」
    3 貧困の社会的コスト 025
      貧困の社会的コストは1億円?
      貧困の社会的コストに含まれるもの
    4 景気回復は貧困対策となり得るか 030
      先進諸国の30年間
      日本への示唆

    第2章 要因は何か 037
    1 連鎖の経路 040
      (1)金銭的経路
        【教育投資】【家計の逼迫】【資産】
      (2)家庭環境を介した経路
        【親のストレス】【親の病気(精神疾患を含む)】【親との時間】【文化資本説】【育児スキル・しつけスタイル】【親の孤立】
      (3)遺伝子を介した経路 
        【認知能力は遺伝するのか】【そのほかの遺伝的要素(身体的特徴・性格・発達障害)】
      (4)職業を介した経路 
        【職業の伝承】
      (5)健康を介した経路
        【健康という経路】【発達障害・知的障害】
      (6)意識を介した経路
        【意欲・自尊心・自己肯定感】【福祉文化説】
      (7)その他の経路 
        【地域・近隣・学校環境】【ロールモデルの欠如】【早い離家・帰る家の欠如】
    2 どの経路が重要なのか 066
    3 経路研究を政策につなげるために 070

    第3章 政策を選択する 073
    1 政策の選択肢 075
      さまざまな政策オプション
    2 政策の効果を測る 078
      政策効果の検証
      ペリー・スクール実験(アメリカ)
      日本への適用
      比較のベース
      貧困の深刻度と効果の関係
    3 政策の収益性をみる 088
      何をもって「効果」とするか
      将来の収益性
      アメリカにおける収益性の比較
    4 日本への示唆 096

    第4章 対象者を選定する 099
    1 普遍主義と選別主義 101
      ターゲティングが絶望的に下手
      川上対策と川下対策
      選別主義への批判
      普遍主義の欠点
      負担の累進性と逆進性
      どちらが貧困削減に効果があるか
      ターゲティングが上手な国
      日本では
    2 的を絞る 116
      ターゲットの全体像
      ターゲティングの方法
    3 年齢を絞る 122
      乳幼児期の貧困は後々まで響く
      クルーガー・ヘックマン論争
      介入政策の効果は持続するか
    4 ターゲティングの罠 129

    第5章 現金給付を考える 131
    1 「現金給付 対 現物給付」論争 133
      データが示すもの
    2 現金給付の利点/現物給付の利点 136
      100%の効果は望むな
      かゆいところに手が届く
      おカネしか解決できないもの
      おカネでは解決できないもの
    3 現金給付の現状 144
      児童手当
      児童扶養手当
      遺族年金
      生活保護制度
      再分配の逆転現象
    4 現金給付の設計オプション 156
      逆転現象の解消
      乳幼児期の重視

    第6章 現物(サービス)給付を考える 161
    1 子どもへの支援 163
      貧困対策としての保育
      医療のセーフティネットの強化
      栄養プログラム
      発達障害・知的障害への対策強化
      放課後(子どもの「居場所」)プログラム
      放課後格差の解消
      メンター・プログラム
      学習支援
      子どもが相談しやすい環境整備
      貧困の最前線への投資
      「帰れる家」の提供
    2 親への支援 184
      妊婦への支援
      親の疾患(精神疾患・自殺、依存症)・(発達障害・知的障害)

    第7章 教育と就労 187
    1 教育費の問題 189
      どこまでが「必要最低限の教育費」か
      義務教育の完全無償化
      高校
      大学
    2 学力格差の縮小 196
      「落ちこぼれ」の予防
      教育予算の増加
      少人数学級
      教育カリキュラムの改善
    3 学校生活への包摂 202
      不登校と中退への対策
      中退防止
    4 教育のセーフティネットの強化 206
      定時制高校・通信制教育・夜間中学
    5 教育から就労への移行支援 209
      安定した雇用へのスタートライン
      雇用する側への働きかけ
      労働法・社会保障制度の知識
    6 子どもと接する大人たちへの教育・支援 214

    終章 政策目標としての子どもの貧困削減 215
    1 子どもの貧困対策法 216
      うれしいニュース
      子どもの貧困を測る指標
      これからのこと
    2 子どもの貧困を測る 220
      イギリスの子どもの貧困指標
      EUの子どもの貧困指標
      相対的貧困率
      剥奪指標
      複合指標
      モニタリング指標と目標指標
    3 優先順位 229
      現金給付
      現物給付
    4 さいごに 234

    あとがき(二〇一三年一一月 阿部彩) [237-240]
    参考資料 子どもの貧困対策の推進に関する法律 [5-14]
    主要引用・参考文献 [1-4]


    【抜き書き】
    □ v 頁
    “社会問題の多くがそうであるように、一目瞭然の解決法が存在するわけではない。子どもの貧困に対して、具体的にどのような政策を打っていけばよいかという問いに対して、私を含め、「霞ヶ関」も、社会学者、教育学者、経済学者といった「有識者」も、決定打となる答えを示せていないのである。
     しかし、海外においては、子どもの貧困に対する膨大な試行錯誤の蓄積があるし、日本においても、さまざまな取組みが始まっている。”


    □ pp. 107-109
    “  普遍主義の欠点
     それでは、普遍主義の欠点、逆にいえば、選別主義の利点はなんであろう。
     選別的制度の最大の利点、そして、普遍的制度の最大の欠点は、財政負担が大きいことである。たしかに、ニーズをベースとした制度においては、高所得層へ給付を行う合理的な理由づけは困難である。むしろ、同じ財源規模であるならば、所得制限を課して、より多くの資源ニーズの高い子どもに給付すべきであるという主張がなされるであろう。同じ財源規模であるのであれば、「広く薄く」給付をするのでなく、貧困層に絞って、より「狭く厚く」給付をしたほうが貧困対策として効率的であるという議論は、貧困対策を推進する側からも、貧困対策を最小限の財源支出に抑えようという消極派からもあがる。この説は非常に説得性がある。とくに日本の現状のように、国の財政状況が厳しい場合は、「お金がかかる」というのはいちばん手強いハードルである。二〇一二年に一時的に導入された普遍的な「子ども手当」もまさにこの議論に則って廃止されたといえよう。
     また、選別的制度は、ニーズに基づく給付であるのに対し、普遍的制度は、政治的な票集めにしかすぎないという批判もある。簡単にいえば、「バラマキ」である。とくに、現金給付は「バラマキ」の印象が強い。ニーズとは関係なく給付されるので、給付がなくても十分豊かな暮らしをしている富裕層にまでも国のお金が流れる。税金の無駄遣いではないか。このことに対する批判は非常に根強い。
     しかし、不思議なことに、普遍的制度に対するこの批判は「現金給付」のみに強く主張されるものの、多くの他のタイプの普遍的制度については主張されない。誰も、富裕層の子弟にも国のお金で義務教育を施していることを「税金の無駄遣い」とはいわない。医療サービスも、同じ三割負担(現役層の場合)でサービスを誰でも受けられるが、それを不思議に思わない。
     義務教育や医療サービスなどの現物給付は普遍的制度にし、現金給付は選別的制度にするべきだという意見もある。しかし、近年においては、民間や公的に提供されているサービスを購買する費用の一部を政府が補填する制度などもあり、現物給付と現金給付の線引きは難しくなってきている。たとえば、保育所の保育料は所得によって段階的に決められている。保育サービスは現物給付であるが、お財布への影響という意味では、保育料減免はその差額がだけ現金給付をしたことと変わらない。”

    □pp. 168-169
      発達障害・知的障害への対策強化
     前述したとおり、本章で掲げる政策の多くは、筆者がかかわった内閣官房社会的包摂推進室の調査からヒントを得たものである。本調査は、一八歳から三九歳の比較的若い年齢で、薬物依存、ホームレス、若年妊娠、自殺など極度の社会的排除の状況に追い込まれてしまった人々の子ども期からの生活史を丁寧に調べたものである。彼/彼女らの圧倒的多数が子ども期を貧困の中で過ごしており、金銭的困窮以外にも複数のリスクを抱えていた。
     なかでも多く見られたのが、発達障害・知的障害をもつ人たちである。発達障害や知的障害は、重度であれば、保健所や学校の健診で発見され、何らかの支援が提供される。しかし、先の調査であげられたケースの人たちは、みんな、比較的軽度の障害であり、発見されずに成人となっていた。彼/彼女らは就学前や小学生といった小さい時から疎外されており、学校や職場などの周囲からの無理解によって適応問題が生じ、結果として貧困、そして社会的排除の状況に追い込まれている。もし、障害が幼少期に発見されていれば、本人にあった教育や接し方を周囲が行うことができ、彼/彼女らは異なる人生を歩んでいたかもしれない。
     貧困世帯においては、子どもに発達障害・知的障害があっても放置されてしまう可能性が高い。だからこそ、子どもの貧困対策において、発達障害・知的障害に対する政策は欠かせないものなのである。
     具体的には、早期発見、親への働きかけ、適切なプログラムと実施機関の普及が必要であろう。早期発見については、近年、知識の浸透、乳幼児健診などの実施によって、改善されているものの、軽度もしくは疑いがある場合は、未発見・未支援のまま進学してしまうこともある。子どもが大きくなるにつれて、発見の「場」「目」が少なくなるため、小学校までに発見することを徹底する必要がある。
     なお、障害が「発見」されても、親が支援を受容するかどうかは課題として残る。「福祉制度」は親にとって敷居が高いので、「教育制度」からアプローチする必要があろう。教育問題としてアプローチしたほうが、親は支援を受けやすいかもしれない。そして、これはいうまでもないが、発達障害の理解が深まり、診断される子どもも多くなってきた今、障害を抱える子どもへの教え方の開発とその普及、これらに従事する人員の増加が不可欠であろう。”

  • 前著に続き子どもの貧困について論じた。本書は、子どもの貧困に関する政策について論じている。現金給付と現物給付のどちらが良いのかなどの議論を行った上で、各種政策の個別論を浅く広く述べている。

  • 前著「子どもの貧困」を経て、子どもの貧困への対策を考えた本。
    対策とは言いながらも、現金給付と現物給付という括りからの提言になっているが、これは唯一の素晴らしい対策というものがないため。

    社会実験が、道義的・倫理的な部分から行えない、というのはとても納得。プログラムに参加しても、対照実験の「何もしない側」になってしまう人が出るからである。
    また収益性の計測も難しい。いつ効果が出るのかがわからないこともある。

  • 子どもの貧困をデータで示した一冊目から一歩踏み出して、具体的な対応策を模索している。難しい問題だけど読みやすい。

  • 前著から5年、的確に問題点は提示されたし、子どもの貧困に対し、社会の視線は着実に向けられた。
    それなのに適切な対応策が十分に取られていないことに、問題の広範さを読み取れます。

  • 前作は子どもの貧困の現状がデータで語られることが中心だったが、今作は子どもの貧困の原因とその解決策を探ることが中心。
    結論として、原因が複合的なので、解決策も多岐に渡り、それら全てを対策するのは時間と人手と、何より予算上難しい。だからこそ、優先度を見極めてやっていかなければならない。
    対策として、政策なのか、対象者の選定方法なのか、現金給与・現物給付なのか、教育なのか就労支援なのか。それぞれにメリットもあれば、不透明な要素もある。またたとえば就労支援といっても色々な方法がある。

    子どもの貧困は、就労の困難さにつながるので、国の税収としてロストが大きく、貧困対策は税収増加に対してコストパフォーマンスが大きいというのが、データとしても実証されており、対策していくことの有効性を語る上でとても分かりやすい。

  • 前作「子どもの貧困―日本の不平等を考える―」に続いて読了。

    社会問題を扱う新書で続き物、というのはあまり多くないですよね。
    問題の所在や構造を明らかにするだけでも新書としては十分な効果だと思いますが、
    著者の阿部さんは解決策についても道筋を示したいという強い思いで、
    ほとんど全編を解決策の考察に費やすこの続編をまとめたそうです。

    1、子どもの貧困の現状
    前作で示した日本における「子どもの貧困」の現状を簡単におさらいしつつ、「貧困を放置することがどれほどの社会的な損失うになるか」という視点で議論を進める。

    その中で特に印象の強い知見。
     ・子ども期における貧困は様々な悪影響を及ぼす
     ・学力面や健康面で、貧困層とそうでない子には統計的に有意な差がある
     ・特に深刻なのは、貧困による家庭内のストレスが身体的・心理的に影響を与えること
     ・そうした影響は大人になっても継続してしまい、貧困の連鎖につながっていく

    こうして発生した貧困に対して、社会は多くの負担をしている。
    つまり、貧困層にいる人たちからの課税収入が少なく、税金も社会保険料も支払えず、場合によっては生活保護を受給する場合もある。また、健康面でのリスクも高く、国や自治体の医療費負担も大きくなる。

    貧困という社会問題に子ども期のうちに手を打つというのは、こうした将来的な社会負担を軽減し、むしろ対象が経済的に自立し税金や社会保険料を支払うことができるようにする、ということである。
    すなわち、「貧困対策は社会的にペイする」のであり、貧困に手を打たないことは「社会的なコストを放置する」ということである。

    これは社会政策論としては、基本的な視点ですが、
    この「社会的コスト」という考え方が理解を得られない場面は非常に多い。

    たぶんそれは「社会的にペイする」ことを明らかに示すのが、難しいから、というか批判しやすい点を含むということが関係しているのでしょう。本書で扱う「子どもの貧困」もそうですが、多くの社会問題は、その問題の構造を完全に解き明かすことがまず難しい。難しいというか社会的な様々な事情が複雑に絡んでおり、厳密には不可能に近い。また、それに加えてペイするまでに時間がかかり、解決策の効果検証が非常に難しいという問題もある。

    問題に関心を持つ人からしてみれば、厳密には分からないにしろ効果が出る可能性があるのであればやってみるべし、ということになるが、
    実際には非常に財政的にも厳しい状態での利益対立に追いやられるとなかなか立場を強く保つことは難しい。

    まぁだからこそ、本書のように海外の事例も含め、使えるデータを集め、
    施策を丁寧に検討する研究者の取り組みには非常に貴重です。


    2、要因は何か
    おそらく本書の中で最も衝撃的な章。

    ここで取り組むのは「なぜ、貧困であることが子どもに悪影響を与えるのか、なぜ「貧困の連鎖」が起こるのか」を考えること。

    これを考えるにあたって、様々な「連鎖の経路」が提示されるのですが、そのあまりの数に茫然とします。
    内容までは紹介できないですが、その数の多さだけでも紹介できればと思うので、経路の切り口だけ取り上げてみよう。
     (1)金銭的経路
      ・教育投資
      ・家計の逼迫
      ・資産
     (2)家庭環境を介した経路
      ・親のストレス
      ・親の病気(精神疾患を含む)
      ・親との時間
      ・文化資本説
      ・育児スキル/しつけスタイル
      ・親の孤立
     (3)遺伝子を介した経路
      ・認知能力は遺伝するのか
      ・その他の遺伝的経路(身体的特徴・性格・発達障害)
     (4)職業を介した経路
      ・職業の伝承
     (5)健康を介した経路
      ・健康
      ・発達障害/知的障害
     (6)意識を介した経路
      ・意欲/自尊心/自己肯定感
      ・福祉文化説
     (7)その他の経路
      ・地域/近隣/学校環境
      ・ロールモデルの欠如
      ・早い離家/帰る家の欠如

    なかには大した効果はなかったり、むしろ偏見の温床になっているようなものあって、この中からどの経路が重要なのかを描き出していくところが本筋なんですが、いやもうこの経路の多さとそこから想像されるストーリーを考えているだけで気が滅入ってくる。なんて世知辛い世の中なんでしょう。

    自分の子どもに対してここをこうしてあげよう、それが子どものためになる、と自分が考えるものもいくつもあるんじゃないかと思う。そうしたものが貧困の解消という意味で子どものためになるものなのか、考えてみるのも良いかもしれないですね。

    また、僕がプロボノとして関わっているのも児童支援のNPOであり、学習支援活動なんかに携わったりもしているんですが、大きな社会問題の改善に向けた力の一つになっているんだなと感じる一方で、氷山の一角すぎるというか問題の複雑さや大きさに無力感を感じたりもして、複雑な気分になります。


    3、政策を選択する&4、対象者を選定する
    3章と4章はセットです。本書のむしろ2章までは前提で、ここからが「解決策を考える」本書の中心的な部分なんですが、思い切ってレビューからははずします笑
    あまり細かく紹介ししすぎてもただの要約になっちゃいますしね。
    ところで、レビューってなんですけね。何をどう書いたらレビュー何だかよく分からずにレビューブログしてます。今度調べてみましょうか。

    さて、一口に政策を選ぶと言ってもその選び方はいろいろです。
    ただ一つこれでばっちり、みたいな政策も、その選び方も存在しないからこそ、私たちが目にする政治はわかりにくく取っ付きにくいのです。

    著者の阿部さんが用いる視点は「政策の効率性」です。
    つまり、どれぐらいの資源の投入に対して、どれくらいの効果が期待できるかという観点。
    この観点は、現実的にも非常に有効で賛同できる部分です。

    対象者の選定については、まず基本的な選別主義と普遍主義の対立の議論から入り、ターゲティングの考え方などを丁寧に紹介します。

    この3、4章の議論の流れは、政治学を学ぶ学生は参考にしたら良いと思うよ。
    非常に丁寧ですっきり頭に入るけど、これを自分で整理してまとめるのは非常に大変です。
    この丁寧な論述に論文執筆の苦しさを思い出す。

    5、現金給付を考える/6、現物(サービス)給付を考える
    5章と6章もセットです。3、4章で紹介した政策オプション選定の考え方をもとに、実際に日本で採るべき具体的な施策について検討していく章となります。

    まず語られるのは「現金給付の大切さと確かな効果」
    日本において現金給付というのは非常に嫌われやすい。生活保護バッシングもまだ根強く残っていたり、いわゆるバラマキであったりととかく現金を給付するということに対しての嫌悪感が強い。
    だが、現金給付は様々な調査で確かに効果が出ているのであり、不必要なバッシングや偏見を取り除いていきたい、という筆者の真摯な姿勢が伺える丁寧な記述でその特徴が説明されます。

    また現物給付については、その選定や効果検証が現金給付よりさらに難しいことに触れつつ、筆者が有望だとするいくつかの政策を紹介しています。

    以下は自分のNPOでの取り組みとも関連して個人的に注目したもの

     ・放課後プログラム…現状の学童保育などはあくまで保育サービスとして設計されており、放課後格差による弊害のうち、「事故や犯罪に巻き込まれる危険」にしか対応できていない。特に学力の低下、体力の低下、音楽等の学校で育まれないスキルの未発達などの問題には対応出来ていない点の考慮が必要。

    ・メンタープログラム…アメリカのビッグブラザー・ビッグシスタープログラムを始め多くのモデル事業で効果があるとされている。注意点としては、長期間の関わりが必要であること。

    ・学習支援…さまざまな取組が存在し効果も報告されているが、効果測定はほとんどなされていない。

    7、教育と就労
    本書で議論の薄かった部分への補足という位置付けですかね。
    本書では子どもの貧困対策として、特に子どもが小さいうちに重点的に支援することを(財政的な問題も踏まえ)打ち出しますが、貧困の連鎖を断ち切るためには当然、教育のルートにしっかりと乗り、就労まで引き継いでいくことが重要ですので、その点で本書の議論を補完するような内容です。

    教育という問題については、ほとんど全員が自分の経験に照らして考えることができ、関心を集めやすく、議論を呼びやすい分野です。
    学校や教育に関わる問題をいくつか挙げてくれと言われれば、たいていの人は苦労せずに何個かは挙げることができるんじゃないかと思います。
    そんな教育という問題について、貧困対策という一つの視点から切り取ってみるとどのように見えるのか。
    こういう風に社会課題を切り取って考えてみるはいろいろ応用が聞くので良い視点になると思います。


    以上。

    日本における貧困問題の現実やその問題点を描き出した前作も非常に貴重な作品でしたが、この続編もすばらしかった。
    ある社会問題に対する施策を検討し、決定、実施するということは実際に考えてみるとものすごく難しい問題であることがよく分かります。前作の問題の捉え方と合わせて、政策論あたりに興味のある政治学を学ぶ学生は手にしてみると良いのではないかと思います。

    子どもの貧困に少しでも興味を持たれた方は、手にとってください。
    その際はぜひ一作目と合わせて読むことをオススメします。

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著者プロフィール

首都大学東京市教養学部教授・子ども・若者貧困研究センター長

「2018年 『子どもの貧困と食格差』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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