幸福の増税論――財政はだれのために (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004317470

感想・レビュー・書評

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  • オランダのCPBについては、恥ずかしながら知らなかった。65歳以上の高齢者を15~64歳が支えるということでなく、非就業者を就業者が支えるというのは、単純になるほど! と膝を打つ。
    頼りあえる社会をつくろう! 全国のソーシャルワーカーを勇気づけてくれる一冊。

  • 数多くの社会学や経済学の本を読む中でも、説得力抜群の書である。
    実もふたもなくバッサリと切るような本書の言説は快い。現在の日本の姿を否応なくクッキリと見せつけてくれる書と高く評価したい。
    「自分は中の下と信じたい人」というカテゴリー認定は実にリアルである。なるほどそう分析すると格差拡大の中でも安倍政権の支持率が下がらない理由が理解できる。
    初めて説得力のある日本の処方箋を見たようにも思えたが、果たして実現性はどうだろうか。
    終盤のシナリオは詰めが甘い気がするが、大きな方向性には賛同できる。「戦後の勤労国家は行き詰まった」との認識は誰も否定できないものと思われるからだ。

  • 『幸福の増税論』というタイトルの割には、幸福感を受ける内容ではなく、むしろ重い印象を受けました。
    また、あまり親切な内容ではなく、わかる人にしかわからない印象を受けましたし、現実に即した内容、というよりは、机上の空論、という印象を受けました。

    とはいえ、税金や社会保障のあり方を考える上では、参考になる本だと思います。
    また、基本的には中立的な考えに徹する姿勢を感じ、その点については好感を持てました。

    税金や社会保障のあり方については、少なくとも日本においてはビジョンがないように思います。
    ひとまず、仮で構わないので、日本としてのビジョンを政府が明確にすることが必要だと、個人的には思っています。
    もし間違っていても、修正していけばいいのですから。
    ただ、そのためには、まずは、税や社会保障についての教育が大切だと思います。
    時間がかかったとしても、最も確実な方法だと思いますので、小中高で、税や社会保障についての知識が身に付くようにすべきだと思います。

  • 増税=悪、消費税=悪とする先入観を排し、消費税増税を核とする大幅増税によって、日本を「貯蓄ゼロでも不安ゼロの社会」「弱者を生まない社会」へと大転換せよと訴える、リベラルな財政学者による大胆な提言の書。

    著者の構想する社会を実現するためには、消費税を18%まで上げることが必要だと試算されている。

    そして、増税によって得られた巨額の税収によって、ベーシックインカムならぬ「ベーシックサービス」を整備することを、著者は提案する。
    ベーシックインカムは富裕層にも貧困層にも一律の額を毎月支給するものだが、ベーシックサービスは医療や教育などの基本的サービスをすべて無料化するというものである。

    サービスを必要とする人のみが対象となるので、ベーシックサービスは万人に支給するベーシックインカムよりはるかに少ない金額で実現可能だと、著者は言う。

    前半は大変興味深く読んだ。
    日本人がなぜ増税アレルギーの強い国民になってしまったのかという分析や、高い経済成長の持続を前提に設計された日本の「勤労国家」モデルはもはや時代遅れだという指摘などは、得心がいった。

    しかし、本書全体に対しては、青臭い理想論という印象が否めなかった。
    とくに、終章「選択不能社会を終わらせる」は、客観的分析というよりもアジビラまがいの情緒的な記述が目立つ。

    《「人間を消費する経済」から「人間のための経済」へ》(228ページ)
     とか、
    《僕たちはあらたな文明社会を切りひらくのだ。高らかに自由と共存の旗を掲げながら。》(231ページ)
     などという、内容空疎なかけ声のような記述が並び、読んでいて鼻白んでしまった。

  • 日本人の多くが生活不安を抱えており格差が拡大しているが,日本人の痛税感による租税抵抗(増税の忌避)により対応策を講じれないどころか,勤労と倹約の美徳により日本は自助努力が前提の社会になっている。そうした現状認識のもとで著者なりの改革を提案した本。

    受益があることを明示したうえでの増税の提案となっている。消費税を軸とした増税による財源の確保で医療や子育てや教育等の自己負担をなくすというベーシック・サービスが提起されていた。批判や起こりうる反論に対しては説得を試みている。「政府が信じられないから増税に反対するのはよい。だが,その拒絶によって,この社会がいったいどのようによくなるのだろうか」(166ページ)が印象的だった。

    著者の主張は日本人に対してどこまで説得力を持つのかが気になるところ。昨今の防衛費や少子化対策の財源に関する議論や世論をみると,まだまだ日本人の租税抵抗は強いように思う。

    日本人の租税抵抗が今後どうなるのか気にしていきたい。

  • 北欧の社会制度にずっと興味を持ち、憧れてきました。役に立つ事が実感出来るのであれば、高負担の税も納得できる気がします。助け合える社会に私も生きていたいです。
    ベーシックインカムにも興味があったけれど、なるほど、ベーシックサービスの方が適切だなと思いました。
    けれど、北欧社会よりも日本人の方が自立心に乏しい様に感じていて、無料サービスと言われたら病気じゃない人たちまで病院に押しかけて無駄な検査を受けたがったり、同じ話をあちこちで繰り返したりしてるんじゃなかろうか、という懸念は払拭出来そうにありません。

  • 今の日本社会は勤労と貯蓄という従来の価値観ではやっていけなくなっている。
    税金は生活保障サービス、子育て、教育、病気、介護などにもっと使われるべき。

  • 三重大小論文

  • 新書にコンパクトに論点がまとまっていると思うけど
    民進党の政策スタッフでらしたのかー
    だったら政策に反映してくれよー
    で1点減点

  • 読む前の私「へー消費税増税論者かー。なんで増税が幸福につながるの?????」
    読了後の私「消費税増税は非常に有効な手段である」

    読む前はなんで消費税増税なのか全くわかっていなかったですが、読んで説得されてしまいました。。。非常に勉強になりました。「成長」頼み、自己責任をうたう社会がいまどんな状況になっているかを著者は客観的に示し、成長に頼らなくても幸せに暮らしていける社会を目指そう、とよびかけ、グランドデザインを描いています。なぜ消費増税かといえば、「もつべきものからもたざるものへの移転」という形態に対して生じる階層間の分断を防ぎ、「痛み分け」という形で堂々と応分の負担を求めていくべき、という議論です。

    日本は「増税してよかった」「増税で税金の負担が増えたけど、こちらの部分の支出は減ったので良かった」といった、増税の成功体験がない、という指摘は、自分の気持ちに照らしても納得。消費増税の一番の壁はおそらく世論の抵抗なので、成功体験となるように、増税と目に見えて結び付く社会サービスの拡充ができると良いが、多様な生活を送っている国民のあまねく層に納得してもらえるような成功体験を用意するのは、相当難題と思われる。(3~5歳保育料無償化の恩恵も限られた層にとどまってしまう。大規模な措置には大規模な増税が必要。)

    そしてこれはよく言われていることだけど、日本は、世界の他国と比べて「自分の税金は高すぎる」と思っている人がとても多い、つまり税金の恩恵を受けていると感じられていない。

    増税に対して今まで自分たちが繰り広げていた言説(その前に無駄を削れ、防衛費や公共事業費はなんなんだ、信頼できない政府に税を払えない等々)に対して、第5章でされていた反論にも納得致しました。

    ベーシックサービスを目指し、あとは、どうやってこの大転換を現実に行えるか、が最大の難題ですね。

    民進党の政策作りに加わっていたとのことですが、ぜひまた政策作りに参画していただきたい。

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著者プロフィール

慶應義塾大学教授

「2022年 『財政社会学とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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