最澄と徳一 仏教史上最大の対決 (岩波新書 新赤版 1899)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004318996

作品紹介・あらすじ

これは問答か、謗法(ルビ:ほうぼう)か。平安時代初期、天台宗の最澄と法相宗の徳一が交わした批判の応酬は、仏教史上まれにみる規模におよぶ。相容れない立場の二人が、五年間にわたる濃密な対話を続けたのはなぜだったのか。彼らは何をどのように語り合ったのか。「真実」を求める論争を解きほぐして描く、仏教史の新たな見取り図。

感想・レビュー・書評

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  • 徳一の名前を知ったのは、学生時代に読んだ司馬遼太郎の『街道をゆく』だった。確か、徳一との苛烈なやり取りが最澄の命を削ったというようなことが書かれていたように思う(うろ覚えなので、ちがったら失礼)。以来、徳一は異様な僧侶として私の脳裏に記憶された。

    本書はその徳一と最澄の論争を扱った書籍である。タイトルをみて、「おおっ」と思い、即購入した。一読、新書ながら、かなり骨太な書である。出てくる仏教用語はもちろん、書物の漢字がまた読書を困難なものとする。しかし、学問として熱い!

    これを読むと、原始仏教や唐代の仏教、そして浄土宗ら鎌倉新仏教が出来るまでの南都六宗や天台宗などの日本仏教のおおまかな思想の流れがつかめる。そして、最澄の考えもトレースできる。

    一切衆生悉有仏性。全ての人がブッタになれるというのは、現在の日本の主だった仏教の共通理解である。しかし、最澄と徳一が生きた時代はそうではなかった。彼らはこの命題の正誤を巡り、激しく論争を繰り返す。因明という仏教論理学は初めて知った。こんな現代のディベートのようなことをして思想を高めていたとは。教相判釈という仏教特有のあり方もまた興味深い。

    本書の終わりに、筆者は「実用的な過去」と「歴史学的な過去」という歴史の語りのあり方を述べる。歴史学を学んだ者としてとても共感する。

    おそらく、私は本書の内容の半分も理解はできていない。しかし、地獄に落ちる覚悟をして論争に臨んだ徳一。仏教の大きな流れの中で大局的中視点に立って論争に臨んだ最澄。どちらもカッコいいと、それだけは思う。

  •  著者は花園大学文学部教授.専門は.電子テキスト研究・文字=キャラクターの一般理論・仏教思想研究(特に唯識思想・仏教論理学等).


     コンピューターに入力・表示できる文字は,現在では格段に増えている.ごく初期のコンピューターでは,英語のアルファベットと数字,空白,句読点など(アスキーコードと呼ばれる128種類)が使えた.次の時代は,日本において,半角カナが使用できるようになって,日本語人にとっては,コンピューターからのプリントアウトの可読性が増えたが,後々,英語版のOSと衝突することが多かった.

     その後,2バイト(=16ビット)で文字を識別する文字セットが使用可能になり,65536個の漢字などが使用できるようになった.しかし主要部分以外の漢字は,コンピューターのメーカーごとに違っており,IBM漢字セット,富士通漢字セット,NEC漢字セットなどなど(たぶん漢字セットの正式名称ではない)が存在し,漢字を含むデータをメーカー間で移行するには,漢字のコンバーターが必要であった.また「半角アルファベット:A」と「全角アルファベット:A」,「半角カタカナ:ア」と「全角カタカナ:ア」,「半角記号:@」と「全角記号:@」が混在するなど,日本語に今までは無かった混乱を引き起こすこととなった.

     最近では,ユニコードが採用され,日本語をはじめとして,ほとんどの世界の文字が,コンピューターで使用できるようになっている.

     著者の師茂樹さんは,このあたりの,文字コードや電子テキストの研究をされているのだと思っていたのですが,この仏教についての本を読んで,仏教の研究もされていることを知ったのでした.

     著者は「はじめに」で,仏教思想の概略をまとめている.
    1.インドでの仏教主流派(部派).仏陀は一人であり,修行者は阿羅漢をめざす.
    2.インドでの大乗派.仏陀は複数存在し,信者は仏陀となることをめざす.
    3.中国の唯識派.五姓各別.個々人の性質により修行方法はさまざま.日本では法相宗.
    4.中国の一乗派.誰でも仏陀になれる.日本では天台宗
    これには,同じ花園大学所属の佐々木閑さんの
    0.インドでの釈迦の仏教.
    も加えたいところだ.

     個人的には,法相宗の五姓各別が好ましい.実際にそのような範疇(五姓)に該当する人がいるかどうかは別として,論理的に,仏陀になる素質を3種に分けるだけでなく,素質を複数持つ可能性,素質を全く持たない可能性,をも検討していこうとする態度が非常に好ましい.「救われるかどうかの非常時だ」という切羽詰まった状況にあっても「こんな可能性も検討すべきだよ」という余裕は持っていたいと思う.

     そして,著者は最澄・徳一論争を「一乗派対三乗派」という単純化した二項対立的な構図でとらえるべきではないと,説く.複雑なものを単純化して捉えようとすることは,「知的な(そしておそらくは倫理的な)怠慢である」と.

     とはいうものの,著者はこの後の,第1章と第2章で徳一と最澄の人物像を詳細に紹介し,第3章と第4章で仏教内部における考え方のバラエティーを紹介してくれる.さらに第5章では,そのバラエティーが「仏教史」のなかでどのように表現されているかを検討する.

     著者は終章で,丸山真男の言った「雑居性」という概念を用いて,最澄・徳一論争をはじめとする日本における論争に,新しい視点を与えようとしている.弁証法を用いることにより論争の結果として新しい単一の真理に到達するのでなく,論争によって「雑居性」が増し,いよいよ現実が複雑化していくことを楽しんでいるようだ.

     アカデミックな仏教学,信仰告白ではない仏教学の典型を教えていただいた気がする.


    2022.02

  • 日本天台宗の開祖である最澄と、東国での布教にたずさわっていた法相宗の徳一とのあいだで展開された「三一権実論争」について、ていねいな解説をおこなっている本です。

    三一権実論争は、平安初期に天台法華教学にもとづく一仏乗の立場を打ち出した最澄と、三乗を墨守する奈良仏教最大勢力である法相宗との対決という見取り図で理解されてきました。しかし著者は、こうした見取り図は唯一のものではなく、さまざまなコンテクストからこの論争が生じた理由や論争そのものの展開を見ることが可能であると主張します。とりわけ本書では、論争がはじまる以前から、その下敷きになるような対立が、法相宗と三論宗とのあいだに存在していたことを指摘します。さらに論争の展開についても、因明論と呼ばれる論争のルールにかんする解説をおこない、そのルールを最澄と徳一の両者がどのようにつかって相手を批判していたのかということが解き明かされています。

    著者のアプローチは、基本的には歴史学的なものであり、仏の慈悲のおよぶ範囲について、最澄と徳一それぞれの主張がどのような思想的な意義をもっていたのかという興味にこたえてくれる本ではないように思います。しかし、教説の正統性に依拠したり因明論にもとづいておたがいの主張の正否を明らかにするという論争のありかたが、当時においてどのような思想的意味をもっていたのかということや、あるいはそれが現代においても課題となっている宗教観の対話にどのような示唆をもたらすのかということについても触れられており、そうした意味でもこの論争を解釈する見取り図がひとつではないことを教えられたように感じています。

  • 書かれている内容は難しい。使われている漢字すら難しい。仏教関連の固有名詞だからしょうがないけど。でも最澄と徳一の論争の背景はもとより、資料の量からして最澄側の分量が多くなってしまうとはいえ、お互いの論の組み立て方や思想を形作った事柄が整理されてわかりやすく記述されている。(と言っても中身がどこまで理解できたかは怪しい)

    最澄と徳一の論争もさることながら第五章の最後から終章に書かれた筆者の「論争」そのものに対する捉え方や歴史の使用方法に対しての考え方、さらには本書で説明されている因明(読んでいて新鮮な考え方だと感じた)などの研究エリアに対する考え方など、本書そのものをめぐるメタな視点についての記述に知的好奇心を刺激された。

  • 2021年10月24日購入。

  • 東2法経図・6F開架:B1/4-3/1899/K

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000054439

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著者プロフィール

花園大学文学部教授 専攻=仏教学、人文情報学
『論理と歴史──東アジア仏教論理学の形成と展開』(ナカニシヤ出版、2015年)、『『大乗五蘊論』を読む』(春秋社、2015年)

「2020年 『療法としての歴史〈知〉 いまを診る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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