歴史像を伝える 「歴史叙述」と「歴史実践」 (岩波新書 シリーズ歴史総合を学ぶ 2)
- 岩波書店 (2022年6月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004319184
作品紹介・あらすじ
「歴史総合」の授業では、教室での「私たち」が、教科書をはじめとする、「私たち」を主語にした「歴史叙述」を解釈し、歴史の知識と歴史的思考力をむすびつけ、〈いま〉と過去とを往還する「歴史実践」の対話を行うことが求められる。本巻は、シリーズ第1巻の総論的な『世界史の考え方』に続き、歴史を学ぶ営みに迫る。
感想・レビュー・書評
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高校で「歴史総合」という科目が登場するということだ。その「歴史総合」なるモノを念頭に、「考える材料」というような内容のシリーズが出ているようで、本書はその一冊であるのだということだ。「高校の科目」というようなことになると、自身で直接に関与していたのは「余りにも昔」で最近の様子は余り判らない。それはそれとして、「歴史総合」という科目は本当に「これから」という代物であるようだ。
歴史上の様々な事実が示され「それを如何思う?」ということに関しては、そういう問いを投げかけられた人の数だけ回答案が在るように思うのだが、とりあえずそういうことを「科目」にして行くのが「歴史総合」というモノであるらしい。が、それはそれとして「“日本史”と現在の社会」という中で「論じられて然るべき何か」を考える材料を供するというのが、本書の内容で大きな位置を占めたのかもしれない。そういうことを思った。
現在、史越し漠然と「国」とでも言った場合、「一定の国土に多くの国民が住んで居て、或る程度統一的な統治機構が機能し…」という、所謂「国民国家」というような姿を思い浮かべるように思う。その「国民国家」の成立は、日本史の中では「明治維新」に求めるのが妥当なのであろう。本書では、その「明治維新」を色々な角度で論じて来た経過に触れている。前半の大きな部分がそれで占められている。
そうやって所謂「国民国家」としての「日本」が成立し、歩んでいた中、結局「近代化」、「大衆化」、「グローバル化」というようなことで現在に至る歩みを辿っている。そういうような歩みを論じているのが、本書の以降の各章である。
或いは、積み重ねながら得た知識を基に色々と考えてみるようなことが、何処かに越智座理にされていたのかもしれない。そこで「総合」なるモノが現れたという一面が在るのかもしれない。が、それはそれとして、「国民国家」たるモノが現れた後の「近代化」、「大衆化」、「グローバル化」というような、「大雑把に切り分けた歴史理解」というようなことには大いに共感した。
高校で「歴史総合」という科目が登場ということを前提に語っていて、そういう事柄に縁が薄い立場では、最初に「取っ付き難い…」と思った面は否定出来ない。が、所謂「近現代史」を「近代化」、「大衆化」、「グローバル化」というように大きく分けて語ってみるというような切り口には大いに共感出来る。
少し面白い一冊に出くわしたという感だ…詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
NR1a
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歴史の知識と今を生きる自らの歴史的思考力を結び付けて、「歴史実践」を行うことが求められる「歴史総合」の授業。明治維新、近代化、大衆化、グローバル化の「歴史叙述」を解釈し、教室での「歴史実践」の学びに迫る。【「TRC MARC」の商品解説】
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【請求記号:375 レ 2】
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背ラベル:209.5-レ-2
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「歴史総合」のスタートにともなう企画本3巻のうち第2巻。「歴史総合」が大きなテーマに掲げている「近代化」「大衆化」「グローバル化」を中心に、明治維新を加えてそれぞれの歴史像の描き方を語る。
内容は知らないことばかりで勉強になった。ただ果たしてこれが実際の「歴史総合」における歴史教育に活かせるのか、ちょっとうまく想像できなかった。このハイレベルな内容を、実際の現場でどう教えていくのか。方法論のレベルは、これから開発されていくのだろう・・・か?
また、たまたま読み返していた松沢裕作「歴史学のアクチュアリティに関する一つの暫定的立場」(『歴史学のアクチュアリティ』東京大学出版会、2013年)で、成田さんの史学史整理に対し、単線的できれいに整理しすぎて、とらえきれない、こぼれ落ちた研究がもっとあるのではないかという批判にはっとした。(松沢さんは具体例も挙げていた)
成田の史学史整理については、塚田孝も歴史資料保全活動を無視している、西洋中心主義だ・・・みたいな意味の批判をしていたと思う(今手元にないのだけど、確か『和泉市史紀要』23だったと思う)。
本書では「近代化」「大衆化」「グローバル化」という区分に、成田自身の史学史整理を重ねあわせる。果たしてそれで本当にいいのか。多様な研究史をふまえることで、「近代化」「大衆化」「グローバル化」を描く道筋も実は別途あるのではないか。どうだろうか。 -
歴史について、歴史叙述というものについて考えさせられる、歴史というものの見方が変わる一冊でした。「むすびにかえて」は個人的に必読。
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最初にあげられていた「手」を想像することや、女性史として新聞の投書欄、さらには村上春樹まで、歴史実践としての教材案はおもしろいと思った。
全体としてはここまでの歴史学研究が多く占めていて難しく、個人的に期待していた教材へのヒントがもっと欲しかったのと、日本史がメインで世界史的視点があまりなかったこと。今後も登場するであろう新科目『歴史総合』の研究を継続して読んでいきたい。