いちにち,古典 〈とき〉をめぐる日本文学誌 (岩波新書 新赤版 1958)
- 岩波書店 (2023年1月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004319580
作品紹介・あらすじ
誰にも等しく訪れる一日という時間を、見ぬ世の人々はいかに過ごしていたのだろう。暁の別れを描いた『源氏物語』。白昼堂々と跋扈する不気味な強盗。夕暮れに感じる人の命のはかなさ。月や夜景を愛でるこころ。──古典文学のなかの「とき」に眼を凝らし、そこに息づく人々の生きざまや感性を活写する。時を駆ける古典入門!
感想・レビュー・書評
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古典に現れる人も、時の移ろう合い間合い間に、情趣を覚え、生の喜びと不安に慄いていた。現代の我々と変わるところはない。
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一日の区入り目ごとにそれに関連した話題を古典文学から取り出した。あさ、ひる、ゆう、よる、まよなか。面白かった。
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古典に苦手意識があり、意識的、無意識にも遠ざけている。
しかしこの本を読み、思いの外時間がかかったが、昔の日本に暮らす人々を考えると、古典を読んでみたくなった。現代語訳は必須だけれど、以前よりは心が近く感じられると思う。 -
年齢も国籍も性別も年収も超えるのが時間ではあるけれども、時間は時間を決して超えない。だからこそ、千年以上前の時間と今の時間は必ずどこかでつながっていて、生活の中で今もなお、あの頃の時間が途切れず続いているように思う。
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日本古典文学の〈とき〉とそれをめぐる人々、習俗を読み解く。短い古文の後に現代文の訳が付けられ、わかりやすく、興味がわくように書かれている。一日の時間帯を「あさ」「ひる」「ゆう」「よる」「まよなか」の5つに区切り、それぞれにまつわるトピックを綴っている。
それぞれに印象に残ったトピックを拾い上げておく。
「あさ」
・平安時代の「あかつきの別れ」とは、午前3時頃、女性と逢瀬の時を過ごした貴族が公務に付くための別れの時間帯。出仕するのは早朝で、寝る時間がほとんどなかった模様。
・平安時代の食事は基本的に朝夕の2食。朝食は午前の仕事の後だった。
「ひる」
・「源氏物語」には、無防備に昼寝をする姫君の姿に清楚なエロティシズムを漂わせるように描いた場面がある。
・中世には白昼堂々と跋扈する「昼強盗」のことを描いた作品がある。
「ゆう」
・中世に入り、夕日を浄土信仰と結びつけ、西に沈む夕日を心中に思い描くことで、極楽浄土を観想する「日想観」という修行が浸透していた。夕日は「観る」ものというより「拝む」ものへと変化していった。
・「今昔物語」では、人間の根源的な不安を掻き立てる時間として、意識的に「夕暮れ」や「彼は誰そ時」を文中に組み込んだ。
「よる」
・中世前期まで、葬送は夜に行われ、中世後期から近世になると、夜に限定されず、むしろ昼間に行われるようになった。
・月を見ることが禁忌とされていたのは「竹取物語」以来だそうだが、女性がひとりで月を見ることが憂慮すべき行為だったと解釈できる。
・18世紀初め頃は、現代の夜景と似た人工の灯りに照らし出された夜景を文芸の主題として発見した時代。それを実感できる絵画が、与謝蕪村による「夜色楼台図」や浮世絵師・葛飾応為が描いた「吉原格子先之図」。人口が集中し、提灯など灯火の燃料として比較的安価な菜種油が普及してきたことが背景にある。
「まよなか」
・異類(妖怪)は深夜に跋扈するものとされてきた。「狐の嫁入り」、「百鬼夜行絵巻」、「離魂病」、「鬼」などが紹介されている。
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【請求記号:910.2 タ】
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まえがき
1─あさ
鶏が鳴く
暁の別れ
暁は救済のとき
あのひとの・あさ─藤原師輔、出勤す
2─ひる
昼食の風景
昼寝の姫君
白昼堂々
あのひとの・ひる─通り過ぎるする男
3─ゆう
夕日を観る
彼は誰そ時
夕べは白骨となる
あのひとの・ゆう─高倉院の憂鬱
4─よる
葬送の夜
月の顔を見るなかれ
雪と夜景の発見
あのひとの・よる─ある夜の事件
5─まよなか
火影が映し出すもの
離魂病と飛ぶもの
こわい嫁入り
あのひとの・まよなか─「鬼」のいる時間
読書案内
図版出典一覧
あとがき -
古典文学を通して、当時の時間感覚をうかがう。
当たり前だけど、古代の照明装備は現代とは大きく違う。
夕方から夜にかけて、人間の感じ方も大きく違っていたでしょうね。夜を怖れ、自然に畏怖を感じていただろう。感性も鋭くなるよね。 -
東2法経図・6F開架:B1/4-3/1958/K