まちがえる脳 (岩波新書 新赤版 1972)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004319726

作品紹介・あらすじ

人はまちがえる。それは、どんなにがんばっても、脳がまちがいを生み出すような情報処理を行っているから。しかし脳がまちがえるからこそ、わたしたちは新たなアイデアを創造し、高次機能を実現し、損傷から回復する。そのような脳の実態と特性を、最新の研究成果をふまえて解説。心とは何か、人間とは何かに迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 脳の中でニューロン間の信号伝達が30回に1回程度しか成功していない由.従って脳はほとんど間違えていることになる.実感としては、時々間違えている感じだが.制御方法に工夫を凝らしていると想定される.記憶の形成にはニューロン集団の同期発火が必要との解説があったが、最終的にはニューロンの感受性を増大させることが必要なようだ.とは言っても、自分自身で脳をコントロールできるわけではないので、脳内部を常に変容し続けることに大きなメリットがある由.学ぶことが多い本だった.

  • 脳の最新の知見を平易に解説する本書。専門用語もあり読むのは少し我慢が要りますが!脳の神秘に触れられます。脳の情報伝達が確率的であり、間違いながら働くことでさまざまな可能性が担保されていること、AIとは根本的に違うことを解説。今でもなお脳はわからないことだらけであり、脳に関する迷信をことごとく喝破する様は小気味良さを覚えました。脳の持つ可能性に期待しつつ、読書を続けますかね。

  • やや専門的すぎ、一般人には理解しにくい箇所があったが、脳がいかにまだ分からないところが多いか、また次のように巷で言われていることが真実でないか、と言うことが知り得た。

    具体的で本質的な疑問
    ・自ら発火できないニューロンがつながりつくられている脳が、どうして自発的に活動できるのか?
    ・ニューロンは集団が同期発火することで信号を伝えているが、同期させているものは何か?
    ・脳内の情報はどのような活動や状態で存在しているのか?
    ・脳の信号伝達に基づく情報処理とは、具体的にどのような活動で行われているか?
    など。

    認識を新たにしたこと
    ・'16年の米国の死因第3位は年間25万人の医療ミス(人間は間違える。システムに原因と対策を求めることが必要)
    ・カフェインは夜間の覚醒度が上がり、作業しているときの注意力と集中力が向上し、作業ミスが減少し、記憶課題の成績が上がり、スポーツなどの有酸素運動の能力も向上する。これらの作用に必要なカフェインの量は50〜150mg(コーヒー1杯か2杯分)程度であり、それ以上増やしてもさらなる効果は期待できない。
    また、脳が使えるエネルギー源はブドウ糖であるため、糖類とカフェインの同時摂取が一番効率が良い。
    口から摂取され血中に入ったカフェインは脳内に運ばれ、ニューロン間の信号伝達を抑制する物質の作用を遮断し、促進する物質の量を増やすことで、脳の広い範囲を興奮させる。しかしこの興奮作用は、覚醒剤や麻薬ほど強力ではないが、耐性や依存性を生じさせることもある。また大量のカフェイン摂取は、不安、過敏、イライラなどの精神的な緊張を高めることもわかっており、摂取を止めた後の離脱症状として、眠気、意欲減退、注意・集中力の低下、頭痛などが現れることもある。
    さらに、一気に大量を摂取すると、急激な血圧上昇や不整脈などが生じ、最悪の場合、死亡することもあるという。欧州食品安全機関(EFSA)によると、無難なカフェイン摂取量は1日当たり400mg未満(コーヒー5杯分ほど)、1回当たり200ミリグラム未満。(個人差あり)
    ・人間の脳はコンピューターに比べると、その処理能力の観点ではかなり劣る。しかも間違える。ただ間違えることで創造か生まれる。また、一つ一つの能力はコンピューターに劣るとしても、総合力に長ける。
    ・宇宙に長期滞在した飛行士の脳は、数ヶ月間寝たきりになった時と同じ程度の、脳に萎縮が見られる。ただリハビリにより回復する。
    ・脳の活動が心を生んでいる。
    ・偽薬の効果は、パーキンソン病の薬や外科的手術、更に高山病にかかった時の酸素に見せたただの空気でも確認出来ている例がある。
    ・AIに誤認もあるが、膨大なデータを膨大な計算で処理されている結果の産物であるため、人が追えるものではない。
    ・特に成長期の子どもは眼球運動がまだ不安定な時期でもあるため、現実の物理法則に反する動きをVRで何度も体験すると、眼球を制御する神経回路に支障をきたす可能性がある。さらに、VRを長時間にわたり経験すると、衝動性を抑える抑制機能が低下し、!Rで見た光景や経験を現実であったかのように混同することも起こるという。
    ・左脳は言語や論理に関わり、右脳は感性や視空間認識に関わると言われ、各脳を鍛えるビジネスまであるが、そんな単純なものではない。
    ・前頭葉―高次機能、頭頂葉―空間認知、扁桃体―情動制御というように、特定の脳部位と特定の機能を一対一で対応させることは、単純すぎて信頼性に欠ける。
    またどの脳部位に性差があるかについては、研究によって異なっている。
    ・脳は10%(ものによっては5%とか20%)しか使われていないと言うのも迷信。
    ・聴覚野や視覚野などの感覚野は、互換性を持つ等、どの部位も様々な機能を持つ多能性を備えている。
    ・脳のどの部分が活発に働いているか、脳を取り出して明るくハイライトさせるイメージ写真や図があるが、これは加工したもので、実際血流が増えたことが明確に分かるような差違はない。

    なるほど。

  • 最近、人工知能についての本を読んでいる。
    ニューラル・ネットワークなど、人間の脳がモデルになっているとの説明も見かける。
    そこで、人間の脳はどうなのか、気になって併せて読んでみた。

    著者はニューロンの働きを調査してきた人とのこと。
    40年にわたる研究の成果を、他の研究者の成果も交えながら解説していく。

    驚いたのは、人間の脳についての研究は進んだとはいえ、わかっていないことがまだ多いということだ。
    同じ刺激を与えても、同じニューロンが反応し、同じ経路をたどって伝わっていくとは限らない。
    ニューロン間の伝達は「確率的」なものなのだそうだ。
    ニューロンは集団で発火し、リズミカルなゆらぎとして現れる。
    そのようにして複雑につながりながら、機能を果たしているということのようだ。
    だから、脳の一部分に障害がある人も、回復することがあるし、一方では局所化できないからアルツハイマーや精神病の薬を治療する薬の開発が難しい。
    アルツハイマーの治療薬がアメリカで認可されたとかニュースで聞いた気がするが、まだまだそう簡単にはいかないらしい。

    面白く思ったのは、脳を研究するほどに、「心」の存在がクローズアップされること。
    プラセボ効果は、人間の意志などの「心」が介在することで、脳の働きもそのように制御されて実現する。
    本書を読んでいると、人工知能は体を持たず、感覚がないわけだが、心もないということなので、発達するにしても人間の脳とは異なる形になっていくことが思われた。

    脳の研究の難しさは、実際の活動に即してデータが取れないことにある。
    たしかに生きているヒトの頭蓋骨を開いて測定するわけにはいかない。
    研究者は様々な工夫を重ねて現在に至るのだが、一方でさまざまな単純化や迷信も生まれやすい。

    本書の最後の方は、世間の脳への「迷信」が取り上げられ、反論されていく。
    取り上げられるものに、こんなものがあった。
    ・右脳と左脳で働きが異なる
    ・脳に性差がある(男性脳、女性脳)
    ・脳は10%くらいしか働いていない
    ・ゲーム脳
    ・特定の栄養素(カルシウムなど)が不足すると暴力的になる

    ああ、どれも聞いたなあ、という内容。
    筆者は専門家が知見を単純化して世に広げることの責任を厳しく指摘する。

    私たち一般の読者も、リテラシーを高めなくては。

  • 思った以上に専門的な内容でしたが、様々な事例や研究例と共に説明されるのでわかりやすくまた面白かったです。
    本書で脳の機能について今わかっている事・わからない事を丁寧に解説してるからこそ最後の筆者の「脳の機能はアンサンブルで決まる」という言葉にとても納得できました。

  • 難しい内容もあるが とっても分かりやすい内容

  • 思っていたより専門的な内容の本だった。説明は易しく、脳科学素人でも理解しやすい。脳の正確なしくみはまだまだ解明されていない、というのが筆者の伝えたいことだと感じた。

    脳のメカニズムは、現在の科学を持ってしてもほとんど解明されていない。正確無比なコンピュータと異なり、神経回路は確率的なゆらぎをもつ。ゆえに間違い、その間違いが時にひらめきを生む。
    特定の部位が特定の機能をもつ、あるいはある脳機能には特定の原因物質が作用しているといった、分類という方法論では脳を正しく理解することは難しい。実際には極めて多様な働きが、多くの部位の相互作用のなかで生まれているのであり、その複雑さを無視して単純に理解しようとすれば、誤った風説を助長しかねない。

  • ・脳の順応性、可変性、柔軟性
    ・右脳左脳論、男性脳女性脳なんてない

  •  脳の機能やしくみがまだわかっていないことが、よく理解できた。「AIが、心を持つ日が来るのか」と考えることがあるが、そもそも心って何なのかがまだはっきりしていないのだと思う。
     脳について、これまでの研究でわかっていることの中にも、実は実験条件のおかしいものがあることもわかった。
     いい本でした。難しいところもあった。線を引きながら読んだので、後で読み返そう。

  • ニューロン集団の同時発火による信号伝達によりほぼ無難に毎日を過ごすことができるが、ニューロン集団の同時発火は常にゆらぎ変動しているため、たくさんのエラーの中にある確率で意外性のある答えを出すようになっている。脳は出力にエラー、ゆらぎのある点において、AIに置き換えできるものとしての説明を難しく感じました。

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著者プロフィール

京都大学大学院文学研究科心理学研究室教授.科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業研究代表者.医学博士.1953年生まれ.京都大学大学院文学研究科博士課程中途退学.広島大学助手,富山医科薬科大学助教授,Johns Hopkins大学客員助教授,科学技術振興機構研究員(兼任),京都大学霊長類研究所助教授,生理学研究所客員助教授(併任)を経て現職.
【主な著書】『ブレイン-マシン・インタフェース最前線』(共著,工業調査会,2007年),『知のたのしみ学のよろこび』(共著,岩波書店,2003年),『考える細胞ニューロン』(講談社,2002年),『記憶と脳』(共著,サイエンス社,2000年),『脳の情報表現』(共著,朝倉書店,2002年),『脳とワーキングメモリー』(共著,京都大学学術出版会,2000年),『大脳辺縁系』(共著,ブレーン出版,2000年),『ニューロンから心をさぐる』(岩波書店,1998年).

「2008年 『脳の情報表現を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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