人権読本 (岩波ジュニア新書 386)

制作 : 鎌田 慧 
  • 岩波書店
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784005003860

感想・レビュー・書評

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  • 2001年刊です。当時の人権意識状況を取り上げて「これがよくないんですよ」というように訴えているのに、この2024年の現代になにひとつはっきりと解決されていない、と知ることになりました。日本の人権意識の低さは深いです。

    子どもの人権、高齢者福祉、DV、障がい者、女性労働、過労死、コミュニティ・ユニオン、沖縄米軍基地……など15項目にわたって、人権という権利を見つめていけるように編まれています。

    __________

    人権というのは感覚がにぶると守られなくなり、人権侵害していても、されていても気がつかなくなることがこわいのだ。(p6)
    __________

    →先ほども書きましたが、日本人は人権意識が低く、ここに書いてあるような心理状況にあるのかもしれません。なので本書のような、人権について様々な方面から気づきを得ることのできる機会は大切だと思うのでした。


    次は、高齢者福祉の章から引用を。
    __________

    もしも、まわりの人の支えがなければ生きられないようになったり、医療にお金を使うようになった人がまるで悪いことでもしているように世の中から扱われるとしたら、その人や家族はどんなにつらい思いにさらされることだろう。まして、そういう人は生きる価値がないと社会が取り決めてしまったとしたら。その社会は弱い人や障害を持った人や老いた人を排除して健康なものだけの論理がまかり通る、鬼気迫る弱肉強食の社会である。(p23)
    __________

    →タバコや生活習慣病が健康保険の財務を赤字にしているのだから、医療費削減のためにも禁煙したり運動などの予防に努めたりしていきましょう、という風潮で、昨今の健康意識がつくられているところがあります。それはそれで心理的に節度があれば、つまりそうできない人へ不寛容でなければ、問題はないのかもしれないです。この引用で言われているのは不寛容に陥ったときの人権侵害についてです。そして、SNSでの諸発言のなかには、残念ながらこういった人権侵害の性格の強いものが見受けられることがあります。そればかりか、リアルな生活の場でも、ネット言論に左右されてなのか、人権無視の発言をおおっぴらにする人がいて、僕なんかはちょっと驚くことがあります。人とという存在をどう捉えているか、なんですよね。お金つまり経済のほうに気を取られていると、引用のような論理になっていくでしょう。人というのは経済の枠組みに嵌めていくものだ、と考えてしまうと、どうしてもそうなります。人のほうへ経済をあてはめていくべくデザインするのがいいのに、と僕は考えますが、そこに立ちはだかるのが「市場原理」信奉のように思えます。


    また、障がい者や外国人、被差別部落出身者への差別という行為も人権を侵害するものです。
    __________

    このように、自分たちよりも下にいるものがいなくなると、不安になるひとたちがいる。自分たちが差別されているからこそ、ことさらひとを差別していたいひとたちがいる。ひとを差別する行為は居心地のいい、うしろむきの悪習なのだ。(p143)
    __________

    →「格差」と「比較」で考えると腑に落ちてくるものがあります。昨今の格差拡大って、民衆レベルでの人権の希薄化にもつながっていそうです。弱肉強食の論理も、下だと見なす者をその位置取りに固定させてしまって、自分は強者なんだ、と安心するためのものとして機能している側面がありそうです。格差はもちろん、他者と比較する行為のほうも流行らなくなればいいのに、という気になりますが、なかなかそれも一筋縄ではいかないような心理のように思えるのが残念なところ。


    最後の引用ですが、これ、とても大事なところです! ゆっくり読んでみてください。
    __________

    逮捕された人は、裁判で証拠に基づいて有罪が立証されるまでは無罪を推定される。それが世界の近代刑事訴訟法の大原則「無罪推定の法理」である。
    しかし、日本のメディアは無罪推定の法理を無視し、逮捕=犯人という「有罪断定の報理」に基づいて事件報道を行ってきた。(p175)

    __________

    →マスコミはずっと、事件の被疑者が有罪になる前からプライバシーを洗いざらい暴き立てて世間に知らしめることをやってきました。僕らは物心がついたときからそんな世界で生きてきましたから、一般人がWEBで私刑をやったり人物特定をしてプライバシーを晒したりすることに抵抗がないのかもしれません。


    というところです。

    やっぱり人権問題って、民衆レベルでしっかり共有して、身近なものとして正面から「こういうのは駄目だよね」という意識を持たないと変わらないのかもしれませんね。誰かの社会デザインは必要でも、国からのトップダウンでは無理でボトムアップ的な風潮が必要、といいますか。ただまあ、このあたりについて国はあんまり真剣に考えないと感じられます。

    面倒くさい問題は、意識の片隅、社会の片隅にポイされちゃいがちです。あるいは人権問題って、正面から見据えることに不安が付きまとうのかもしれない。こういう問題にかかずらっていると、稼げなくなる、お金に縁遠くなる、軋轢を生んで生きにくくなる、などと。避けたいものを逆に見据えてやることで、見えてこなかったものを知れたり学びがあったりするというのは、このあいだNHKの番組で見たジャパニーズ・ホラーゲーム『零』の方法論にもあって、社会問題も似たようなスタンスでいくとよいのでは、との考えに至るのでした。

    あと、本書によって戦後賠償が台湾とは解決していないのを知りました(不勉強でした)。だから微妙な関係なんでしょうか。2001年の本書に、北朝鮮と台湾とは解決していないとあって、その後小泉さんが北朝鮮に飛んで正常化宣言したときに北朝鮮とは賠償問題は解決してるのだけれど、台湾はまだでした。サンフランシスコ講和条約で、連合国側は敗戦国・日本から賠償金を取らないと決まったのも忘れてました。そしてアジア諸国への賠償の仕方が、現金ではなくモノや技術で返すというやりかただったのも本書で知りました。それはアメリカが強引に決めたことなのだけれど、日本の儲けになるカラクリになっていたようで驚きです。すべてはソ連対策。反共産主義の太平洋拠点を日本にしたため、そうなったのです。冷戦構造が日本の復活の後押しをしていたんです。

  • 非常とは錠を超えると言う意味で無常ではない。非常さは規格化、効率、能率に言い換えることが出来る(P.50)

  • 友達と話してて、ふと差別問題が気になりだした。
    見てみないふり、と言うか曖昧な知識しか持ち合わせてないし。

    色んな問題について取り上げられてるけど、特に過労死問題やDV、虐待の話は身近に起こるかもしれない。
    全てに同意は出来ないけど、考えさせられる本でした。

  • “人権”というものをまず知るのに有効な良著、とっつきにくい感じの人権とは何かがすんなり入ってきます。

  • [ 内容 ]
    ひとが、人間らしく生きていくうえでもっとも大事にされなければならない人権。
    自分のためにも他者の人権がどうなっているかを知ることが大切だ。
    この本では、子どものいじめや虐待をはじめ、高齢者、過労死、ハンセン病、外国人差別、沖縄の基地など、現場からのレポートをとおして、現代社会の人権問題を考える。

    [ 目次 ]
    一人の人間として―子ども
    弱いおとしよりをどう支えるのか―高齢者福祉
    子どもの虐待とドメスティック・バイオレンス―家庭内の暴力
    そばに居ることから―障害者
    仕事と所得の公正な分かちあいを―女性労働
    仕事で死ぬ企業中心社会―過労死・過労自殺
    新しい労働組合―コミュニティ・ユニオン
    のどもとに突き刺さったトゲ―沖縄の米軍基地
    対立ではなく共生を―外国人差別
    アジアへの加害の事実を見つめよう―戦後補償〔ほか〕

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • (2007.07.13読了)(2002.10.17購入)
    人権について、現状と課題を15項目に渡り紹介した本です。
    「子供」「高齢者福祉」「家庭内の暴力(子供の虐待とDV)」「障害者」「女性労働」「過労死・過労自殺」「コミュニティ・ユニオン(労働組合)」「沖縄の米軍基地」「外国人差別」「戦後保障」「部落差別」「ハンセン病」「事件報道」「死刑制度」「陪審制」
    人権を辞書で引くと「人間が人間らしく生きるために生来持っている権利。」と出ています。
    「いじめられたり、差別されたり、暴力を受けたり、迫害されたり、殺されたりしない権利、と考えることもできる。誰も暴力や経済力によって人を支配することはできない。」(ⅲ頁)
    権力、経済力、暴力、宗教、偏見、常識、等々人の自由を押さえつける力は限りなくあります。どこまでが人権侵害になるのかは、時代とともに、何を侵害と訴えるかによって変わってゆきます。

    ●医療・福祉(26頁)
    医療費は健康を回復できる人だけに配分されるべきなのではないのか。いや、本来、重い病気の人、手のかかる人から分配すべきではないのか―。
    ●日本の人権レベル(161頁)
    国連の人権委員会による日本への改善要望項目に以下のようなものがあります。
    「日本の裁判官、検察官、行政官は人権の研修をしなくても、その任に就ける。人権研修の法的根拠を作れ」
    ●死刑制度の状況(190頁)
    現在、世界中で死刑を廃止している国は109カ国、そしていまだに死刑制度を維持している国は86カ国。(この本の出版は、2001年11月です。死刑を廃止している国は意外と多いんですね。)

    それぞれテーマごとに参考図書があげてありますので、より深く知りたい場合は、そちらにあたればいいようになっています。
    (2007年7月29日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    ひとが、人間らしく生きていくうえでもっとも大事にされなければならない人権。自分のためにも他者の人権がどうなっているかを知ることが大切だ。この本では、子どものいじめや虐待をはじめ、高齢者、過労死、ハンセン病、外国人差別、沖縄の基地など、現場からのレポートをとおして、現代社会の人権問題を考える。

  • 人が人らしく生きているとは一体どういうことだろうか。
    本書では子ども、高齢者、ハンセン病など15章から成っており、自分だけでなく、他者においても人権が大切だということあらゆる事例を通して述べております。

    オムニバスなので章ごとに全くつながりがない部分もありますが、それが逆にどこの章からでも読みやすくなっています。

    個人的には外国人問題をもっと取り上げてほしいと思いました。

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