- Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
- / ISBN・EAN: 9784005004416
作品紹介・あらすじ
デカルト、カント、ハイデガーらが説く多彩な哲学はすべて二つの土台の上に立つ。それはギリシアの思想とヘブライの信仰である。本書は、二つの源泉の本質は何かを、文学や美術、「聖書」などから探り、さらに近現代の哲学の深部にどう入りこんでいるかを分析。ヨーロッパ思想の核心がクリアーに見えてくる。
感想・レビュー・書評
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昨年『論語』を読み終わったあと、次は西洋の思想の本を読もうと漠然と思ったものの、いざ最初の一冊を決めようとすると、なかなか何を読んでいいのかが、わからなくて。
とりあえず、母に何かおすすめあるかな? と聞いたところ、教えてくれたのがこちらの一冊です。
昨夏、途中まで読みかけて、現実の慌ただしさにすっかり手が止まっていたのですが、今年に入ってようやく読むのを再開。
案の定、一度読んだ内容をすっかり忘れていたため(泣)、改めて、1ページ目から読み直しました。
本書は、古代ギリシア哲学を専門とする学者である著者による、ヨーロッパ思想の入門書です。
ヨーロッパの思想は、「ギリシアの思想」と「ヘブライの信仰」の二つを源とする、発展・反逆・変容であるとして、第1部では神話や悲劇などの引用を交えながらギリシアの思想の骨子が語られ、第2部では旧約聖書と新約聖書の解説がなされ、第3部では中世以降、アウグスティヌスからレヴィナスまでのヨーロッパ哲学のエッセンスが紹介されています。
よくよく考えてみると、「思想」に焦点をあててヨーロッパの歴史を辿ったのは、私はこれがはじめての経験で、それがとても新鮮でした。
「アリストテレス」とか、「カント」とか、名前はなんとなく覚えていていも、むかし高校生の時に読んだ世界史の教科書の認識のまま、てんでバラバラに頭の中にそれらが存在していたんですよね。
でも、ロックの社会思想も、ある日突然ロックの頭に生まれたわけではなくて、全部ソクラテスの時代から繋がっていて、様々な思想が歴史を動かして、その歴史から、また前の時代への反省や深化が生まれて、今にいたっているんだな、と。
その意味で、「思想」って、「思想史」でもあって、歴史と背中合わせだということがよくわかりました。
たとえて言うなら、長く続くアイドルグループが、先輩の曲を覚えつつ、新たに自分たちの曲を歌っている感じでしょうか。
私もまた、「人類」というグループのメンバーの一人で、やがては卒業(死)を迎えるけれど、メンバーだった時に歌った曲は、後世のメンバーが歌い継いでくれるのかしら。。。
引き継いでもらえるような、曲を歌っていたいなと思います。
冒頭の「この本で、筆者が意図したことは、ヨーロッパ思想の本質を語ることである。」という一文に象徴されるように、全体的に文章が非常に毅然としているのもこの本の大きな魅力です。
ヨーロッパ思想を学ぶ上で、羅針盤になってくれる本だと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
はじめにの冒頭に「ヨーロッパ思想は二つの礎石の上に立っている。ギリシアの思想とヘブライの信仰である。」とあります。全体像を初級者にもわかりやすく概観させてくれる貴重なガイドブックになっていると思います。岩波ジュニア新書恐るべし。
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入門なんてとんでもない!西洋哲学をここまで明晰に読み解いた本は初めて。個々の思想書は、それなりに学んできたつもりだが、ギリシャの思想とヘブライの信仰のそれぞれに通底するものがこの本によって、ようやく腑に落ちた。この本で初めて知って驚愕したのはユダヤの現代思想家レヴィナス。是非、いつか原著を読んでみたい。宗教性の復活とは彼のような存在によってなされるのだろう。
以下、気になった記述。
・ギリシア思想の本質は、1.人間の自由と平等の自覚。2.理性主義。
・ヘブライの信仰の本質は、1.神が天地万物の創造主。2.神は愛で、愛は他者を求める。3.キリスト教の核:敵をも愛せ。
・パルメニデス「思惟することと存在することとは同一なるものに属する」
・ソクラテスをさして、キケロは「哲学(理性)は天界(自然)から人間界(自分自身)へと呼び降ろされた」と評した。
・アリストテレス「幸福とは魂がその優秀性に即して活動することである」=自己実現が幸福、それも理性的な。
・神は人間を自分に応答するものとして出現させた。
・愛しうるものは自由な者でなければならない。つまり、裏切ることもある。
・マルクス思想の根本的な誤りは下部構造理論(=歴史的決定論)にある。
・「人間は自由で平等であるべきだ」という正義の理論的根拠付けをロールズは放棄した。
・ロールズ「能力は私のものではなく社会の共有財産」
・ヘーゲル哲学は弁証法の概念の網のうちに全実在をとらえようとしたが、そこには実存が抜け落ちていた。
・キルケゴールの最後の跳躍:罪=神から自分が離れているという自覚があるから。
・ニーチェ:子どもに見る、聖なる「然り」
・過去の一切の「そうであった」を「私がそう欲したのだ」に造り替えるのが、創造する意志:ニーチェ
・ハイデガー:人間は無の深淵の上に宙づりになっているから不安なのだ。この不安は欠損から来ているのではない。
・レヴィナス:神の痕跡としての他者。理性は同化の力、全体化の力。しかし、他者はその理性を超える。他者に出会うとは関わりたくない人と出会うことである。 -
ギリシア人。エジプト・メソポタミアから多くを学び、受け継いだ後進の民族。▼ギリシア人の発想法。無駄なものをそぎ落として、普遍・法則・理念を追求。偶然の多様性に埋没していた人類が、本質の恒常性に目覚めた瞬間。明澄な単純さと端正さをもつギリシア神殿。一方、無数の彫刻でおおわれたゴシック様式の聖堂。▼イオニア、ミレトスの自然哲学。現象を神々の介入なしに説明しようとした。哲学の誕生。
ロールズ。無知のヴェール。人種・性・能力・社会的地位は自己本来のものではない。能力や階級にこだわる人は、自分の存在が理由なき偶然であることを忘れている。 -
再読。
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これは良書です。こんなに分かり易い思想入門書があったんだ。ジュニア版の面目躍如ですね。
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デカルト,カント,ニーチェ,ロールズらが説く哲学は多彩である.ところが彼らの思想はすべて2つの土台に上に立つ.それはギリシアの思想とヘブライの信仰である.本書は,2つの源泉の本質は何かを,文学や美術,「聖書」から探り,さらに近現代の哲学の深部にどう入りこんでいるかを分析.ヨーロッパ思想がクリアーに見えてくる. -
ヨーロッパ思想は、ギリシアの思想とヘブライの信仰。
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この本を教えられたのは50代の若さで去った書評家〈狐〉が後に残しっていった「〈狐〉が選んだ入門書」(ちくま新書)だった。もう15年ほども昔の話だ。
それにしても、〈狐〉に導かれて読んだ岩田靖夫のこの「入門書」は、驚くべき本だった。
ヨーロッパ思想史を「ギリシア哲学」と「キリスト教」という二つの大河の交錯する流れでとらえながら、至る所に目を瞠るべき「深み」を用意して読者を引きづり込む牽引力は、生半可な本では味わえない。
とりわけ、最後にたどり着いたレヴィナスをめぐる章段は、目から鱗の、ことばどおりの納得でだった。
ゴチャゴチャとはブログに書いたので、できればそちらをお読みいただきたい。
https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202002220000/ -
第二部までは面白かった。第三部は、すでに哲学をかじった人にとっては入門レベルなのだろうが、何もかじっていない自分にとっては???だった。理解力が最近のジュニアより劣っていることがわかった。
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・中世ヨーロッパのスコラ学がキリスト教神学とアリストテレス哲学の結合だということはよく言われているが、著者はここでもう一歩踏み込んで、今日に至るまでのヨーロッパ思想の源泉がギリシアの思想とヘブライの信仰にあることを明らかにしたうえで、両者の結合ないしは反発を通じてヨーロッパの哲学が発展していく道のりを描く。それは魔術からの解放の歩みとも言えるだろう。
・とりわけギリシアの思想を論じた第一部と、ヘブライの信仰を論じた第二部の出来が素晴らしい。これらと比べたとき、アウグスティヌスからレヴィナスまでのヨーロッパ哲学を100ページ弱の中に詰め込んだ第三部は欲が張りすぎたせいか散漫な印象で、前二部とうまく接続されているとも言いがたい。
・ロールズがヨーロッパ哲学として紹介されていることに疑問を感じたが、「彼は、基本的にアリストテレスの能力主義を前提としながら、しかし、能力は各人に理由もなく偶然(contingent)に与えられたものだから、『私』のものでなく『社会の共有財産』であると考えて、有能な者の稼ぎ出した富を社会的弱者のために費消するような社会を構想するのである」(p.132)という一文を読んで疑問が氷解。もしかするとロールズの政治哲学こそがヨーロッパ思想の(すなわちギリシアの思想とヘブライの信仰との結合の)最も正統な継承者なのかもしれない。