中国戦線従軍記: 歴史家の体験した戦場 (岩波現代文庫 学術 407)
- 岩波書店 (2019年7月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006004071
作品紹介・あらすじ
弱冠一九歳で陸軍少尉に任官し,敗戦までの四年間,小隊長,中隊長として最前線で指揮をとった経験をベースに戦後の戦争史研究を牽引した著者が,その人生を閉じる直前にまとめた「従軍記」.歴史家の透徹した目を通して日本軍のありさまと兵士・将官たちの日常を描き出した本書は,優れた兵士論・戦場論でもある.解説=吉田裕.
感想・レビュー・書評
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著者が陸士卒業後赴任したのは戦況が泥沼に陥ってた中国。対米戦が始まると将校の損失度が更に高まり、新卒社員と変わらない年齢で、戦争末期には1,000人を統べる大隊長にまでなっていた事自体、あの戦争に無理があり過ぎた証左と言える。中国での軍隊の描写は、戦争目的がすでに曖昧で、さながら食糧を求めて異国を彷徨する流浪の集団という印象。その合間に行う「討伐」の小戦闘の数々は、極論すればまるで戦争ごっこのよう。著者が偶々ひとりで居る時、味方と誤認して近寄ってきた若い中国兵を刀で斬りつける場面は、ただ交戦下にあるというだけで、出会いが殺し合いに転じてしまうという、ある種の滑稽さを感じた。戦略も兵站もなく、軍規が乱れ、現地が収奪され尽くす様がリアルに描写され、戦争の一端を知ることができる良書。
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藤原彰さんといえば、ぼくには『餓死した英霊たち』がとても印象に残っている。戦争というと、戦闘で亡くなると思うかもしれないが、日本軍の場合は戦病死が多かった。病気もそうだが、病気になる原因、栄養失調からの死である。それは、日本軍が軍の補給、兵站を軽視したことによる。要するに現地調達で、それはたいていの場合、挑発と呼ばれる略奪であった。それができないところは、餓死するしかなかったのである。本書はのちに氏に『餓死した英霊たち』を書かせた原体験そのものである。
藤原さんは旧制中学を出たあと、陸軍士官学校へ入った。士官学校を出ると若くして小隊長や中隊長になる。しかし、藤原さんはそのときまだ20歳に達していなかった。本書ではその藤原さんが、戦闘に向かうときの、怖いけれどそれを顔に出してはいけないという正直な心情を吐露している。本来文学青年であった藤原さんは、他の将校のようにガチガチの軍人ではなく、人の心を思いやれる人だ。また、精神主義に陥らず、無理な行進を避け兵を温存したりしている。隊長によって部隊の生存が大きく左右されるのである。藤原さんは、中国で行軍する中で、中国の人々のひさんな生活を目にし、日本のやっていることはなんなのかと疑いを持つようになる。また、兵の疲弊の原因の一つが重い荷物をもっての行軍にあることをひしひしと感じる。藤原さんの隊は、戦闘においても比較的幸運に恵まれ、無駄な戦死を重ねてはいかなかった。それでも、最初150人いた兵は最後は半分になっていた。仲のよかった将校たちもかなりの数が死んでいる。
藤原さんは戦後、大学へ入るが、正式に大学の教員、一橋の教員になったのは戦後20年もたってからである。業績はやまほどあったが、おそらく現代史がまだ学問として認められていなかったことと、歴史学研究会の仕事をしていたことが敬遠されたのではないだろうか。忘れていたが、藤原さんはあの論争を呼んだ『昭和史』の著者の一人でもあった。解説は、藤原さんのよき後継者である吉田裕さんが書いている。吉田さんの書いたものも読みやすくぼくは好きだ。 -
東2法経図・6F開架:B1/8-1/407/K