私の読書遍歴――猿飛佐助からハイデガーへ (岩波現代文庫) (岩波現代文庫 社会 203)
- 岩波書店 (2010年6月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784006032036
作品紹介・あらすじ
忍術小説に熱中した少年が、なぜハイデガーの研究者となるにいたったか。敗戦後の混乱期、著者はあてどなく本を読みあさるうちにドストエフスキー、キルケゴールの著書に出会う。そしてハイデガーの『存在と時間』を読まずにいられなくなり、大学の哲学科に入り哲学研究の道へ…。難解な哲学書のわかりやすい翻訳で知られる著者の、約七〇年に及ぶ読書体験記。
感想・レビュー・書評
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とても面白い。
「本を読まなかった日なんて数えることができるくらいだ」という著者の実に膨大で有益な読書遍歴。そこから見える本や言葉への深いまなざし。本は単体で存在しているのではなく、その時に、その人の前に、「現れる」ものなんだな。そう実感する。
例えば次のような著者の文章。
『本には旬があって、ドストエフスキーや太宰治などは、二〇歳前後が旬だと思う。漱石などは、若いときにはむしろその味が分からず、四〇代にでもなってはじめて分かってくるということがありそうだ。鷗外の史伝物などにいたっては、六〇代にでもなってはじめて味読できるといったものではないかと思う』
著者は、詩も、ものすごく読んでいる。
『詩なんか読んで、いったいなにになるんだとおっしゃる方も多いと思う。たしかに、なんにもなりはしない。しかし、こういうことは言えるのではなかろうか。私たちは、日ごろひどく振幅のせまい感情生活を送っているものである。喜びであれ悲しみであれ、よくよく浅いところでしか感じていないのだ。ところが、われわれは詩歌を読み、味わい、感動することによって、喜びや悲しみをもっと感じることができるようになる。ものごとを深く感じるためには、それなりの訓練が必要なのである』
世界や自分自身を認識するには、ことばが必要だ。ことばを豊かにすることは、世界を、感情を、豊かにすることだ。
ベルクソン、ボードレールの「笑い」論やキルケゴール、ドストエフスキーなどに話題が及ぶ。実に楽しい読書遍歴!必読。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
海軍兵学校から身一つで焼け野原の東京へ。テキ屋、闇屋と渡り歩いて農林学校から哲学者へ。人生行路のみちづれはいつだって本たちだった。坂口安吾「勉強記」、谷譲次「テキサス無宿」、ドストエフスキー「悪霊」、南洋一郎の冒険小説、大切なことはすべて小林英雄から教わった。洒脱な語り口。引用の絶妙。この著者の手にかかるとどの本もたまらなく読みたくなる不思議。
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これ読んだら、今月の『私の履歴書』読まなくていいじゃんか!