ブラックボックス

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.77
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感想 : 127
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  • Amazon.co.jp ・本 (504ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022510457

感想・レビュー・書評

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  • 地方のサラダ工場で真夜中に働く女性の目を通して、食の安全、外国人労働者の問題を訴えた作品。

    綿密な取材から編み出す力作も多い作者だが、今回は特に、ストーリーやら人物やらを楽しむ小説というよりも、食の安全を脅かす現実的な問題に肉付けをして小説に仕立てたという印象だった。
    そのため、主人公の設定には、追い詰められた弱者の叫びのような切実さはなく、小説としては少々物足りない。

    でも、それはさておき、食の安全や外国人労働者については、看過できない問題として考えさせられる。とくに食に関しては毎日自分も家族も口に入れるものであり、何を信頼すればいいのか、心の底から恐ろしくなった。
    冷蔵庫の隅に忘れ去られた腐らない野菜は、主婦ならば一度は目にしたことがあるはず。見映えもよく便利で長持ちするものには、それなりの理由が存在するのだ。

    結局のところ、最先端を行くハイテク農業も、従来型のものも一長一短。小説ではそれなりに終結させているが、現実には今後も解決はかなり難しい問題だと思われる。

  • オートメーション化されたハイテク野菜工場、食の安全安心、内部告発、外国人雇用など、すぐ隣にある社会問題がたくさん散りばめられています。

    天候に頼らない野菜の生産性を追求するがために、根幹の安全安心が揺らいでいく様子はとてもリアルで、きっと現実でも大小あれどありふれているんだろうな…と思うととても怖い。
    便利なものはきっとそれなりの代償があるのだ、と改めて思いました。

  • 最先端の農業がテーマの作品。
    外界と隔離され、全てをコンピューター管理されたハイテク農場で作られた野菜を、外国人研修生を使った工場でサラダに加工する。
    そんなサラダを日常的に食べる子供や、外国人研修生に体調不良者が続出する。
    名ばかりの経営者の立場に悩む農場主と、サラダ工場のパートタイマー、小学校の栄養士が原因を追究していく。
    ハイテク農場で作られる野菜は、作物ではなく製品のイメージ。農家の経験を重視するものではなく、工学系の管理者のみがその工程を知るという、まるでブラックボックスだ。
    一度どこかに綻びが生じると、全てが連鎖反応的にガラガラと崩壊する。
    ここに描かれていることはフィクションなのだが、今の農業の流れからは起こりうること。
    空恐ろしい。

  • *サラダ工場のパートタイマー、野菜生産者、学校給食の栄養士は何を見たのか?食と環境の崩壊連鎖をあぶりだす、渾身の大型長編サスペンス*

    あまりにもリアルで鳥肌が立った。小説と言うよりも、ルポかと見紛うほど。オーガニックで安全な野菜が欲しい、しかも価格は安く、季節も問わず、泥や虫もつかないキレイな野菜を!と言う消費者の願いを叶えたハイテク農業の先には…と言うストーリーなのですが、とにかく怖い!この消費者たちの中に間違いなく入っている自分としては、反省とも罪悪感ともつかない感情が渦巻く読後感。何が正しいのか、しっかり考えなければ…と小説を読んだとは思えない感想…。

  • 3.0 これは現実の話しなのか、読んでいて解らなくなりました。

  • ホントにフィクションであってくれ。。。と思わずにはいられない内容。

    しかし、実際には既に自分たちの生活に入り込んでいるであろう異常に日持ちする食材。。。

    読了してからコンビニ、スーパーが怖くなったけど
    すぐに食べちゃうんだろうな。。。

  • 色んな題材で攻めてきますね。取材とか大変そうです。

  • 食の安全についての問題意識を喚起する作品だが、ストーリー展開がいささか公平性を欠き、登場人物の造形も少し極端に感じてしまったがために、本当に深刻な問題提起には辿りつけなかった印象がある。
    公平性に欠けているために純粋にエンタメとしても楽しめなかった部分もある。いやたぶんそれがすべて。
    篠田さんとしては、人間としての感覚的なものとして「食とはこうあるべき」を描いたつもりなのだろうが、では現実的な方法論として「こうあるべき」を描けなかったのではないか?と感じた。
    感覚的には共感できる。無農薬有機栽培はなるほど安全面では一番なのだろう。だがしかし、現実的には作品内でいわゆる悪玉として描かれる無菌栽培の可能性は捨てがたいものがあると僕は思う。作品内の農家は汗水たらしてがんばるのが好きなタイプだったが、世の中そういう農家自体が減少しているのだ。そちらは販路の確保もできてハッピーエンドを匂わせる結末であったが、次の世代へと受け継がれる農法でないことは明らかだ。
    効率だけを求めるやり方は間違っているだろう。でも大量安定生産の方法論としてはアリだと思う。
    確かにブラックボックス的なところはある。でもそれを言ったら通常農家の生産物だってブラックボックスなのではないかな?と思ったり。

    感覚的には共感できるのだ。念のため。

  • 一気に読めるほど、簡単な題材では無かった…。
    途中で心が折れそうになった。
    もちっと簡潔だと良かったなぁと思う。
    食の安全性…考えさせられる。

  • 最初で最後の篠田節子作品。

    「〜というのは、〜」というかたちで作品内の細かい設定を説明していくことが多くて、スマートじゃないなとおもった。こういう小説では当たり前なのかな。
    どんどん新しい人物が出てきたり消えたりするのも野暮ったくて、これが大衆小説かーというかんじだった。

    テーマは興味深かった。こういう、専門知識も絡んでむずかしそうな設定の小説は、どこまでが現実世界の問題で、どこまでを信じていいのかが分からないから扱いに困る。
    ただ、身近でも生野菜があのようなかたちで販売されている以上、鮮度の問題や外国人労働者の存在は必ずあるんだということを認識できた。

著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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