そして、海の泡になる

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022517326

作品紹介・あらすじ

バブル期に、個人として史上最高額4300億円の負債を抱え、自己破産した朝比奈ハル。「北浜の魔女」と呼ばれた彼女は、平成が終わる年にひっそりと獄死した。和歌山の寒村で生まれ育ったハルは、いかにしてのし上がっていったのか、彼女は果たしてどんな人物だったのか。その生涯を小説に書こうと決めた“私”は、生前の彼女を知る関係者に聞き取りを始める。
終戦、バブル崩壊、コロナ禍……。それまでの日常が、決定的に変わってしまうとき、この日本社会に生きる人々はどう振舞ってきたのか。
「小説トリッパー」二〇一九年夏号から二〇二〇年春号の連載を、大幅に加筆修正。注目の著者による勝負作。

感想・レビュー・書評

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  •  この作品はバブル期に「北浜の魔女」と呼ばれ、4300億円の負債を抱え自己破産した朝比奈ハルという女性の生涯を描くもの…。ハルは「うみなし様」を神として崇めており、人生をワガママに生きるために不必要な人物が不審死を遂げることになったり、株の売買で大きな利益を得たのもそのご利益によるものというのだが…。ハルはある殺人事件の被告人として無期懲役の実刑を受け投獄されたが、持病の悪化により平成が終わる年に他界していた…。“私”は彼女のことを小説にしようと、彼女のことを知る人たちに取材を行う…。

     葉真中顕さんの作品って、本当に人の生涯を描くのが上手だなぁ…と感じました。終盤になって、ガラガラと今まで読んできた内容が崩れていくような不思議な感覚を覚えました。結構面白かったです。ハルさんのモットーは「人生をワガママに過ごす」こと…ハルさんはやり遂げたんじゃないかと思えたけれど、本当の思いはハルさん自身にしか語れないんだろうなと…。ハルさんは生きていないから仕方ないけれど、でも関係者からのまた聞きではなく日記とかでもいいので、ハルさん自身の言葉を少しでも遺してほしかったなって…ちょっと思いました。この作品のハルさん、実在するモデルがいるのですねぇ…尾上縫さん、ちょっと興味あります。

  • 面白かった一冊。

    マネーゲームに身を投じ、自己破産し獄死した一人の女性朝比奈ハルの生涯をインタビュー形式で描いていく物語。

    バブル期、崩壊、コロナ禍、時代を振り返り、今の時代をしっかり追う、この重なり合う描き方はもちろん、終盤にミステリなんだとしっかりと気づかされる仕掛けが巧い。

    この、時代の流れに沿った人の欲望を見事に分析し、生き方に繋げていく…好きに生きることって案外難しい中、ハルの生き方は輝かしく見えたな。

    伏線も確認して納得。

    面白かった?と聞かれたら、うん、面白かった!と応える、そんな社会派ミステリ。

  • 大阪の高級料亭の女将で、株式投資により巨万の富を築いた朝比奈はるが殺人事件を起こしたのは、『バブル』が崩壊した1991年のこと。その人となりを小説にしたい、という人物が関係者に聞いた話で物語が展開して行く。取材された人達の"語り"で進む内容は、時代背景や人物像が掴み難くあまり面白味が感じられなかった。

  • 前作「blue」では平成が始まった日に生まれ、平成が終わった日に命を終えた一人の青年の物語を描いたが、今作では太平洋戦争前に生まれ、焼け野原の戦後を力強く生き、バブル期にはマネーゲームに興じ、個人としては最高額と言われる4,300億円もの負債を抱えた一人の女性・朝比奈ハルの半生をインタビュー形式で描く。
    戦後、バブル、そしてコロナ…
    この3つの時代の大きな分岐点を、よく比較して描かれていると思う。
    そして、その大きな波を自分らしく生きた朝比奈ハルと言う女性は、読んでいる途中は自分勝手だと思っていたが、最後まで読んでみると、「こんな考え方もあるかも」と思えるような仕上がりはさすが。
    すっかり半生記を読まされていると思っていたら、まさかの残り100ページを切った当たりでどんでん返しを入れて来るのは、久々にゾクゾクした。
    でも、インタビュー形式だと思っていなかったので、評価は少し低めで…
    大幅な加筆でコロナ禍に合わせて来た作者の力量は確かだろう。

  • 実際にあった事件がモデルとのことでそちらも調べたくなった。
    インタビュー形式で読みやすく、バブル期の時代背景も想像しやすかったのでなんだかノンフィクションを読んでいるようだった。

  • 前作「ブルー」と同様の時代振り返りミステリー。平成に絞った前作と異なり、終戦直後から令和2年の今までを俯瞰。敗戦、バブル崩壊とコロナ禍を重ね合わせ、1人の女の生き様が証言形式で語られる。時代背景の説明が若干わざとらしく、二番煎じの感もあるが、葉真中さんらしい仕掛けは健在。終盤の展開に「エッ!?」となる。皮肉にも想定外のパンデミックが訪れたことで、より現実味が増す話になったのではないかと。加筆修正は大変だったでしょうが…。

  • 「北浜の魔女」と呼ばれた投資家朝比奈ハルとはどんな人物だったのか。関係者へのインタビュー形式で進んでいく物語。
    コロナが蔓延しつつある現代で、戦後からバブル期の昭和を生きた人々の話を聞くというストーリーがすごくおとぎ話のように感じられるというか。
    ミステリというよりもヒューマンドキュメンタリーのようで面白かった。

  • 葉真中さんが続く。「W県警の悲劇」はらしくなかったが、こちらはいつもの社会派ミステリ。構成は真梨幸子さん風に感じたが。

    本書は「北浜の天才相場師」「バブルの女帝」等と呼ばれた女将、尾上縫がモデルとなっていることは想像に易い。破産した時の負債総額は4300億円。当時借入金が1兆円超え。そしてその当人は株式の知識ゼロ。ガマガエルの石像を御神体として祀っていた。

    と、そんな人物を時代と共に紐解きながらミステリとして完成したこの本。この人がアレンジして描かれているのは楽しく面白かった。コロナとバブルのコラボ。だが、足りないとすればコクと深みか。尾上縫本人のエピソードが強すぎるので、ミステリ要素が不要に感じる。

  • 終戦からコロナの時代まで。大阪万博はいけそうだけど、オリンピックは無理かも、という正に今のこの時までを駆け抜けた女性の物語。インタビュー形式だけど、突然視点が変わってちょっと驚く。自由とお金。気持ちよい程徹底した生き方に見えたけど、幸せだったのか?と聞かれて戸惑うその気持ちが少し分かる気がしました。刑務所まるごと買収できる程の資産を持ちながら、そこに幸せはなかったらしい。ただ、コロナ禍の今「お金」だよね、とも思う。現実問題。葉真中さんは、こういう痛みを伴う疾走感を書かれるのが上手だな、と思います。

  • 朝比奈ハルに纏わる人々をインタビュー形式で物語が進み、ある事件の真相に迫る。
    特徴はコロナ禍でインタビュアーは一様にコロナに対するそれぞれの考えを冒頭に話す。
    犯人などは途中でわかるが、さすがにそれは警察が気が付かないとか思うけど、作者が言いたいところとは幸せとは?お金とは?と今のコロナ禍株式バブルについてなんだろうけど少し消化不良かな

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著者プロフィール

葉真中顕

1976年東京都生まれ。2013年『ロスト・ケア』で第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。2019年『凍てつく太陽』で第21回大藪春彦賞、第72回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。

「2022年 『ロング・アフタヌーン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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