ミカンの味

  • 朝日新聞出版
3.43
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感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022517579

作品紹介・あらすじ

『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者の新作。中学校の映画サークルで出会ったソラン、ダユン、ヘイン、ウンジは「いつも一緒にいる4人」だった。中学3年に上がる直前、旅先の済州島で彼女たちは衝動的にある約束をするのだが──。
 内容紹介(長文)
『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者、チョ・ナムジュの新作長編小説!!

空と海も区別できない、恐ろしく黒い夜。
その夜のように茫漠としていた心。
互いの本心だけなく
自分の本心もはっきりわからなかった。
(本文より)

まるで自分のことが描かれているかのようだと、女性たちからの高い共感と支持を集めてきた著者が新作小説『ミカンの味』で主人公に選んだのは、4人の女子中学生。

中学校の映画サークルで出会ったソラン、ダユン、ヘイン、ウンジは「いつも一緒にいる4人」として学内で知られている。中学3年生になる直前、済州島に行った彼女たちは衝動的に一つの約束を交わし、タイムカプセルに入れて埋める。未来が変わるかもしれないこの約束の裏には、さまざまな感情と計算による四者四様の理由が隠されていた。

本作は、この約束をめぐる4人の少女たちの話を交互に生い立ちや現在を語る形で展開。幼なじみとの関係が突然終わってしまった傷を抱えるソラン、教師からの期待が大きく学校一モテるのにいつも寂しいダユン、古くさい父親と突然の困窮にイラ立ちを募らせるへイン、理由がわからないまま仲間外れにされた経験を引きずるウンジ。

言葉にできない感情の狭間で揺れながらも何かを?もうともがく少女たちの物語は、いつかの自分の姿に重なり、うずく心を優しく包み込んでくれる。まったく新しい「私たちの物語」の始まりだ。

感想・レビュー・書評

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  • ソウル郊外に住む「いつも一緒にいる4人」の思春期の少女たちの日常の物語。
    韓国の教育現場、高校進学制度や受験、男女差別、家庭環境など、少女たちの物語に乗せてリアリティがあり、生きづらさを感じて苦しくもなった。
    登場人物たちに今ひとつ感情移入できなかったのは、環境の違いや私が歳を重ねたためか。
    また中高生女子の不安定な関係性には身に覚えがあり共感できたが、この4人の関係は濃厚かな、怖い。
    連帯感を持つとしても、先の分からない思い付きのような"約束"をしてはだめだ。約束は果たされるのか…?もし裏切ったら…?
    この"約束"を巡り、少しだけミステリー仕立てになっている。

    (訳者あとがきより)
    作者チョ・ナムジュは、「82年生まれ、キム・ジヨン」では韓国社会にフェミニズムの大きなうねりを作り出し、日本でも反響を呼んだ。最近ではフェミニズムに留まらない新しい作品にも取り組んでいる。「性差別の次に悪いのは年齢差別」と言う娘に影響されたのか、娘が属する社会に関心を持つようになり、子どもたちの姿を記録として残したくなった、とのこと。
    今は、高齢の女性たちの物語も書いているらしい。

  • k-popが世界を席巻し、日本でも人気を博しているが、実際の韓国の同世代ってどんななんだろう?と思っている生徒に勧めたい。

    昔から文化的な影響を受け、似ている部分もあるお隣の国。
    読んでいても、4人の女の子の関係性などに頷けるところが多々ある。

    でも、高校入試はなく基本的に地域の高校へ進学する制度(その為人気のあるエリアの地価や住宅価格が物凄く高い)や、小学校の授業時間が短い為皆毎日のように習い事や塾に行くところ、などちょっとした違いもある。
    また、日本に比べて人との距離感が近い感じがする。結構相手に踏み込んで行く感じや、投げる言葉の強さなど、日本人の感覚(特に若い世代)ではきっと引いてしまうようなところも、読んでいて興味深く感じた。

    もっとアジアの文学が和訳されると、読書の世界が広がると思う。
    2024.1

  • 私たちはいつから「諦めて」しまったのか?『82年生まれ、キム・ジヨン』作者が描く女子中学生のリアル 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)
    https://dot.asahi.com/dot/2021042800014.html

    『ミカンの味』公式期間限定!(朝日新聞出版パンダ編集班) (@jDGYVILtLEAYDZt) | nitter
    https://nitter.tedomum.net/jDGYVILtLEAYDZt

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【書評】受験や進学に対する韓国社会の過剰なほどの心理的圧力と若い世代のリアル〜『ミカンの味』|教養|婦人公論.jp
      https://fuji...
      【書評】受験や進学に対する韓国社会の過剰なほどの心理的圧力と若い世代のリアル〜『ミカンの味』|教養|婦人公論.jp
      https://fujinkoron.jp/articles/-/4224
      2021/08/12
  • 「82年生まれ、キム・ジヨン」著者の新作という帯の惹句以上の予備知識もなく、オレンジの色味が美しい表紙につられて、私のようなおっさんが買ってしまった。

    読み始めてすぐに、こっぱずかしさがこみ上げてきた。
    登場人物はほとんどが女性。しかも自分から年齢がはるかに離れた女子中学生4人の心の声が交互に立ち現われてくる。私には、彼女らの声がリアルなのか、それともフィクション性が強いのかがまるで判読できない。
    まるで映画「櫻の園」を見た時のような感じ、と言えばわかってもらえるだろうか?
    https://booklog.jp/item/1/B006OSUYY4

    だけど、女子高校生の心の奥底の光と影を織り上げるような展開の「櫻の園」と比べ、「ミカンの味」もまた違った繊細さであふれている。
    実際のところ、現実の女子中学生からはキモいとまで言われかねない私のようなおっさんが、女子中学生の心理の綾(あや)に触れられるという点では、この本は読書のだいご味を味わわせてくれる(笑い)。

    一方で、この作品には「櫻の園」とは異なる要素も多く含まれていることに気づかされる。
    例えば先に女子中学生4人の心の声と書いたが、そこに挟み込まれるように彼女たちの家族、つまり大人たちの心の声が、自身の声または中学生の声を借りて奏でられている。つまりこの本は単純に女子中学生の物語としてだけでなく、角度を変えれば中学生を家族に持つ大人たちの物語としても読める。

    また、韓国社会、特に現在の中学生を取り巻く韓国の学校生活に対する批判的視線や問題提起が随所に見られるのも特徴に挙げたい。だから、それらに逆らうかのような彼女たちの言動に対して、幼さゆえの無謀さと一笑に付してしまうより、彼女たちは学校や社会や制度にあえて染まろうとせず、ただ自分たちの心に素直であろうとしただけと考えるほうが自然ではないだろうか。
    幼いというか、未熟なのは私たち大人のほうなのだとすら思ってしまうが、もし私が彼女たちの年代に戻りたいか?と聞かれれば、考えてしまう。だって、あんなに複雑で大変な人間関係と学校生活に巻き込まれるのだから(笑い)。

    ところで著者は将来、彼女たち4人のその後を書いた続編を出すつもりだろうか?
    私も単純に4人がいつまでも変わらない友情を保ち続ける展開を期待するほど楽観的ではないが、なんにせよ、4人がそれぞれ自分らしく生き続けることで幸せと読み替えられるようなその後の人生を期待したい。

  • 中学の映画部で仲良くなったソラン、ダユン、ヘイン、ウンジは、「いつも一緒にいる四人」。中学3年生のときに、旅先の済州島で衝動的にある約束をする。
    さまざまな感情と計算が隠されたこの約束をめぐって、次々と事件は起こる。
    (カバー袖より)

    ソランは、ふつうの子。ふつうであることが悩み。
    ダユンは、優等生。病気の重い妹がいるため、親にかまってもらえず寂しい。彼氏をとっかえひっかえしている。
    ヘインは、ひねくれ者。ウンジに依存している。父親の事業が失敗して没落。
    ウンジは、優しい子。いじめ?がきっかけで引っ越してきた。バリキャリのお母さんと祖母と暮らす。

    自分の学生時代を回顧しながら読んだ。
    そうなのよ、「いつも一緒にいる四人」は仲良し4人組ではないのよ。でもこの枠が壊れたりするのも嫌なのよ。この歳ごろの子ってほんとうにへんなところに頭が回るし、怖いのよ…。この特別な時間を、大切にしてね。

    それにしても、韓国の目まぐるしい教育事情には驚いた。お隣の国なのになんにも知らないものだね。「父親どおしでビールでも飲みながら」の下りは心底腹がたったね。全員じゃないと思うけど出てくる男性がわりとクズ。思春期のころは、おじさんなんて嫌でしかなかったもんね。

    読後、心のなかで、自分に言い聞かせるように頑張れと言った。

  • 中学から高校になる過程の少女たちの複雑な内面は、どこの国でも一緒だな~

    親との関係、友達との関係。
    仲良し4人グループの中でもちょっとしたすれ違い。

    確かに甘酸っぱいミカンの味なのかな。


    名前が似てるから、誰だっけ?誰だっけ?と登場人物を確認しながら読みました。

  • 中学生、という繊細で激しい時代の苦悩や葛藤、嫉妬や煮え切らない感情の渦。それでも進むしかない光の時期を、とても見事に描いている。時代も国も環境もちがうけれど、かつての自分を思い出してしまう。こんなにも危うくて孤独な時を誰しも乗り越えてきたんだと。
    ミカンの味、という核になりうる出来事をタイトルにしているのも良い。
    韓国の教育事情や現代日本にも未だ残る性差別もよく描かれていて、誰しも感じる生きづらさが見事に表現されている。
    切ない気持ちのまま一気読み。
    彼女たちの未来が明るければ良いのに。

  • 「仲良し4人組」と外側から定義するのは簡単。
    けど実際はその時々でパワーバランスがあったり、3人と1人、仲良し2人組とその他、と感じてしまったりとか、色々ある。
    記憶の扉が開きっぱなしで、心をざわつかせながら読んだ。

    主人公たちの旺盛な食欲にあてられて、今夜の夕食はトッポギ。
    季節外れだけどミカンも食べたい。

  • はじめてのK文学です。
    作者は、『82年生まれ、キム・ジヨン』でおなじみのチョ・ナムジュさん。

    家庭環境も性格もばらばらな4人の女子学生の繋がりを描いた作品。
    もう子どもではいられないのに、
    大人にもなりきれない、
    自分の気持ちですらよくわからなかった曖昧なあの頃を思い出します。

    ただ子ども達にもおとな達にもそれぞれの正義があるだけなのに、感情が絡み合って望まない方向へ行ってしまう。
    自分の選択を貫き通そうと奮闘する主人公たちの勇敢さに心打たれますが、
    主人公の親達が、エリート主義的な競争社会の中、生活と子どもの将来を守ろうと必死な姿にも無意識に目が向く。
    これは、主人公たちの世代を越え大人になった今読んだからこそのものだと思います。

    大好きなのに大嫌い、でもやっぱり離れたくない。
    結局はそれぞれの道を選び歩んでいく、というラストは沢山ありますが、
    『ミカンの味』が向かったラストにわたしは、心強さを感じました。
    “友達”という関係の不安定さが、等身大に飾りっ気無く丁寧に描かれています。

    主人公たちと同い年程度の中高生にも勿論お勧めしたいけれど、大人になって読むとまた蘇る記憶にヒリヒリ。
    懐かしさを感じるとともに、大人になった自分に少しホッとした気がしました。

    韓国社会の現状をわたしは何も知らない状態でよみましたが、巻末の丁寧な解説も面白い。
    コロナ禍で発刊された本作の、
    チョ・ナムジュさんの温かいあとがきにもグッときます。

  • 29.

    ミカンの味はここで出てきて
    こういう意味だったのかと納得する

    映像化してほしいくらいリアルで
    ヒリヒリする思春期の子達のお話
    それぞれ悩みや環境が違うのは当たり前で
    それによって感じ方や考え方が違うのも当たり前で
    それぞれにちゃんと理由があって
    不安定で強くて脆い友達関係
    読みながら何度も泣いてしまった

    お話自体はサクサク読みやすくて
    訳者の言葉も解説も丁寧で
    呼んで良かったなと思える作品でした

    サハマンションまだ呼んでないのだけど
    読みたい

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著者プロフィール

チョ・ナムジュ:1978年ソウル生まれ、梨花女子大学社会学科を卒業。放送作家を経て、長編小説「耳をすませば」で文学トンネ小説賞に入賞して文壇デビュー。2016年『コマネチのために』でファンサンボル青年文学賞受賞。『82年生まれ、キム・ジヨン』で第41回今日の作家賞を受賞(2017年8月)。大ベストセラーとなる。2018年『彼女の名前は』、2019年『サハマンション』、2020年『ミカンの味』、2021年『私たちが記したもの』、2022年『ソヨンドン物語』刊行。邦訳は、『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳、ちくま文庫)、『彼女の名前は』『私たちが記したもの』(小山内園子、すんみ訳)、『サハマンション』(斎藤真理子訳)いずれも筑摩書房刊。『ミカンの味』(矢島暁子訳、朝日新聞出版)。『ソヨンドン物語』(古川綾子訳、筑摩書房)が近刊予定。



「2024年 『耳をすませば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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