- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022517869
作品紹介・あらすじ
●古典新訳に定評のある詩人による、暮らしに結びついたお経現代語訳、自然を見つめる明るいまなざし、「生きる」ことへのやわらかな希望のある極上エッセイ。耳でも味わいたい著者によるお経朗読9編をふくむCDつき。*寝たきりの母、独居する父。死に方がわからないかのように生きている親を見ていて考えた。「生きること死ぬこと」について、老い果てぬ前に準備をしたらいいのではないか。老いて死ぬ不安を、苦しみを、少しでも軽くする道はないか。遠いカリフォルニアから通いつつ看取りをつづけるうちに、娘はお経に出会った。 そして今、両親と夫の死を見届けて、誰もいなくなった荒れ地や海辺を、犬と歩く。日没を見て、月の出を見て、小さな生き物の生きざまを見る。雨を見て、風を見て、地震を見る。自然のめぐりと生きることと死ぬことが重なっていく。●「目次」から 父と母とお経とわたし 開経偈「今、出遭いました」 三帰依文「仏教に出遭えたミラクル」 三宝礼「みをかがめます」 秋篠寺伎芸天/空 般若心経「完成に向かって」 二河白道「河を渡る」 源信の白骨観「ホラホラ、これがおれの骨だ」 九相詩「死体のあと」 「白骨」と「九相詩」源氏物語表白「紫式部の往生」 風信帖「一通の手紙、空海から最澄へ」 雲/雨 法華経薬草喩品偈「大きな木や小さな木」 骨/鏡/手紙、父へ 阿弥陀経「浄土とはこんなところです」 犬になる 四誓偈「四つの誓い」 本誓偈「ただおこなえ」 犬を待つ/写真 聞名得益偈 「みんないける」 ウサギ/スカンク/藪の中/巣立ち/キノコ 法華経従地涌出品偈(部分) 「涌き出したボサツたち」 法華経方便品(部分) 「なぜ仏は世にあらわれたか」 法華経如来寿量品偈(自我偈) 「私が目ざめてからこのかた」 名前 一切精霊偈「一切のたましいは」 7度21分40秒/日没/朝の月と満月 発願文「ねがっています」 お盆を思う 摂益文「み名をよぶ」 瓦礫のお城とただの草/サフラン 犬と怨憎会苦/料理しなくなって 春の小川 死んでいく人 仏遺教経「最後のおはなし」 総回向偈「あまねくひとしく」 総願偈「あるいてゆきます」 あとがき 主な参考文献
感想・レビュー・書評
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お経の伊藤比呂美訳、すなわち伊藤比呂美の詩である。
老いて死ぬ。誰でも通る道。だけど、未知の領域だから、ちょっとこわくもある。だけど、伊藤比呂美訳を読むと、死ぬことがあんまりこわくなくなる気がする。なんでだろ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
伊藤比呂美のエッセイと、お経の詩人的翻訳が交互に書かれている。
情感がコントロールしにくいくらい溢れかえっている上に、感性がビンビンに研ぎ澄まされている詩人が、父や母、夫を次々に看取る経験をすることで、「死」がどんどん身近になっていく。
お経はこの人にとって、なくてはならないものになっているのだなと。
お母さんの鏡台の話や待ち続けたお父さんの話。作者の身辺雑記は最終章に向かうにつれて、「仏遺教経」の最後の部分に向かってリンクしていく。
「きみたち乞食をしてむざむざと生きようとする者は。
悩むな。悲しむな。
私がどれだけ生きようとも。
いつか死ぬ、それまで生きる。
別れは来る。それまで出会う。
私はきみたちに教えた。
自分を救う方法、人を救う方法はぜんぶ教えた。
きみたちは受け取った。
私ごまだ生きようとも、
もう教えることはない。
渡すべき者は、みんな渡した。渡しおえた。
まだ渡っていない者は、いずれ渡れるようにした。
これより後はきみたちが伝え広めよ。
真理はここにある。ありつづける。けっして死なない。
よいか。
世は常ならぬもの。出会いに別れの来ぬことはない。
悩むな。悲しむな。
死ぬまで生きる。そういうものだ。
励め。抜け出せ。見きわめる力を持て。
その力をかがやかし、何も見えない闇を照らせ。」
伊藤比呂美のセンス。情。正直さ。強さ。
全て好きです。 -
面白かったです。伊藤さんの心の揺れやパワーも感じました。日常に口ずさむことのできる詩のようなお経があれば良いな、と思いながら読みました。「源氏物語表白」が良かったです。
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CDがいい。よくぞつけてくださったと思う。スマホに入れずっと聞いていたい、どうしたらいいんだろう、今なら音声付き電子書籍とかってあるのかと思ったが、なかった。残念。
ブッダの教えを伊藤さんが訳し、それをブッダの代わりに伊藤さんが語る。そうか、お経は語り物だったのだ。ホントに恥ずかしいことに10年近く前まで、お経に意味がある、ストーリーがあると全く考えてなかった。なんだと思ってたのか。漢文でさえなく、漢字の連なり⁉︎どんなにバカだったのか。
仏教の教えを今の私は必要とし、いろいろなアプローチをしている。その一つとして、大好きな伊藤比呂美さんを通してこういう形のアプローチができるなんて、本当にうれしい。詩人の朗読であり、説教師のようでもある。 -
「ぎゃーてぃ、ぎゃーてぃ。はーらーぎゃーてぃ。はらそーぎゃーてぃ。ぼーじーそわか。」(般若心経)音読を聞く。さぶいぼ(鳥肌)が出る。文字を読む、声を聞く、声を聞きながら文字を読みながら声に出す。段階を追って、感じ方が深くなるようだ。NHKの再放送を録画して見た。ツイッターで番組の存在を知った。見て良かった。久しぶりに伊藤比呂美を読もうと思ってネットで調べてこの新刊のことを知った。著者の本は、たぶんポーランドに住んでいたころまでのものしか読んでいない。その後、離婚再婚といろいろ人生を歩んでこられたのだろう。母・父を看取り、カリフォルニアで夫を見送り、そんな中で仏教の世界にひたり出されている。日課である犬との散歩。日の入り、日の出、満月。7度21分40秒の時間。夜明けと日暮れ。かはたれとたそがれ。もう少しすれば、僕もそんな時間を過ごせるようになるだろうか。そこから、どれくらい生きるだろうか。「欲の少ない人はほしがらないから悩みもない。少欲で生きる人には、一切の苦しみを離れた、静かな境地が待っている。知足を心がける人は、貧しくても豊かである。のんびりした、おだやかな気持ちで生きられる。智慧をもって耳をすませ。智慧をもって眼をみはれ。智慧をもって考え、智慧をもって行動し、智慧をもって自分を充たせ。悩むな。悲しむな。生きるとは死ぬること。死ぬるとは生きること。励め。抜け出せ。智慧を持て。」(仏遺教経)「ぼんのうはかぎりなくあります かならず離れます おしえはかぎりなくあります つねに学びます このうえないめざめに きっと行きつきます」(総願偈)
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もっとお経の解説的な内容かと想像してたら、思った以上に伊藤さんの詩集であり、エッセイ集だった。そこが良かった。
===追記===
電子書籍版で読んだんだけど、紙の書籍には朗読CDが付いていると知って、大ショック。何で電子書籍に音声ダウンロード付けなかったの… -
想像を絶するすごさを感じた。
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すべての事は意味がある。再確認しました。お経はまったく、理解できませんでした。
しかし、
抱きしめてやった〜
これには
胸が締め付けられ、感動とも言えないような、衝撃がきました。 -
p.2022/7/4
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伊藤比呂美さんは、"はじめまして"だけど、なんだか懐かしいという想いを味い、なごんだわたし。
エッセイ『鏡』、『犬を待つ』、『名前』、『日没』、等等、心地好い文章。 肩の力が抜け、ゆったりと伊藤比呂美さんの世界に浸れる。
お経に向き合うのは、初めてのこと。
難しく分からないことだらけだけど・・・それもまた、不思議と心地好いと感じた。
『読み解き「般若心経」』もぜひ読んでみたい。