月夜の森の梟

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.86
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本棚登録 : 999
感想 : 91
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022518002

作品紹介・あらすじ

「年をとったおまえを見たかった。見られないとわかると残念だな」(「哀しみがたまる場所」)作家夫婦は病と死に向きあい、どのように過ごしたのか。残された著者は過去の記憶の不意うちに苦しみ、その後を生き抜く。心の底から生きることを励ます喪失エッセイの傑作、52編。◯本文よりあと何日生きられるんだろう、と夫がふいに沈黙を破って言った。/「……もう手だてがなくなっちゃったな」/私は黙っていた。黙ったまま、目をふせて、湯気のたつカップラーメンをすすり続けた。/この人はもうじき死ぬんだ、もう助からないんだ、と思うと、気が狂いそうだった。(「あの日のカップラーメン」)*余命を意識し始めた夫は、毎日、惜しむように外の風景を眺め、愛でていた。野鳥の鳴き声に耳をすませ、庭に咲く季節の山野草をスマートフォンのカメラで撮影し続けた。/彼は言った。こういうものとの別れが、一番つらい、と。(「バーチャルな死、現実の死」)* たかがパンツのゴム一本、どうしてすぐにつけ替えてやれなかったのだろう、と思う。どれほど煩わしくても、どんな忙しい時でも、三十分もあればできたはずだった。/家族や伴侶を失った世界中の誰もが、様々な小さなことで、例外なく悔やんでいる。同様に私も悔やむ。(「悔やむ」)*昨年の年明け、衰弱が始まった夫を前にした主治医から「残念ですが」と言われた。「桜の花の咲くころまで、でしょう」と。/以来、私は桜の花が嫌いになった。見るのが怖かった。(「桜の咲くころまで」)*元気だったころ、派手な喧嘩を繰り返した。別れよう、と本気で口にしたことは数知れない。でも別れなかった。たぶん、互いに別れられなかったのだ。/夫婦愛、相性の善し悪し、といったこととは無関係である。私たちは互いが互いの「かたわれ」だった。(「かたわれ」)

感想・レビュー・書評

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  • 配偶者に先立たれたら
    それ以前と以後で時間
    が分断されてしまう。

    好き合って一緒になり
    苦楽を共に生きた伴侶。

    もっとやさしい言葉を
    かけておけばよかった
    ・・・

    もっと感謝の気持ちを
    伝えておけばよかった
    ・・・

    きっとそのとき後悔は
    尽きないのでしょう。

    なんだかんだと不満は
    ありますが、

    文句を言いたくなるの
    をグッとこらえて、

    出来るだけ和顔愛語を
    心がけていこう!うん。

  • 軽井沢に暮らすオシドリ作家夫婦、小池真理子氏と藤田宜永氏。喧嘩が絶えなかったようだが、それでもふたりは深い絆で結ばれていた。2020年1月に藤田氏が癌で亡くなり、1人残された小池氏が、夫を悼んで綴ったエッセーの数々。亡き夫への深い哀しみと嘆きに溢れている。

    70歳近くなっても人生を達観するようにはならないのかな。だとしたらしんどいな。著者は「老年期とても思春期の、いったいどこに違いがあろうか」、「老年期の落ち着きは、たぶん、ほとんどの場合、見せかけのものに過ぎず、たいていの人は心の中で、思春期だった時と変わらぬ、どうにもしがたい感受性と日々、闘って生きている」と綴っているが…。コロナ禍で巣籠もり生活を強いられたことも影響しているんだろうな。

    野生の動植物と身近に接し、自然の中で日々新たな発見のある暮らし。軽井沢、住んでみたいな。

    残念ながら、おふたりの作品はこれまで読んだことがない。これからも?

  • 夫・藤田宜永氏への想いが、エッセイで綴られている。
    どの章も移ろいゆく季節の流れを感じさせて、とても美しく表現されている。

    そして、いつも近くに鳥の声が聞こえ、猫がいて寂しさを紛らわせてくれるようである。

    夫婦二人で、晩年になるとどちらが先に認知症になるかということ…
    寂しいかな…確かにうちでも話題になる。

    思春期は続くの章で、
    <若いころは、人は老いるにしたがって、いろいろなことが楽になっていくに違いない、と思っていた。
    だが、それはとんでもない誤解であった。

    老年期と思春期の、いったいどこに違いがあろうか。
    生命の輝きも哀しみも不安も、希望も絶望も、研ぎ澄まされてやまない感覚をもてあましながら生きる人々にとっては、同じである。

    老年期の落ち着きは、たぶん、ほとんどの場合、見せかけのものに過ぎず、たいていの人は心の中で、思春期だった時と変わらぬ、どうにもしがたい感受性と日々、闘っている。>

    いくつになっても抗いたい気持ちや投げだしたい感情やなんともしがたい哀しみは、ある。
    落ち着いてはいないということ…とてもわかる気がした。

  • 私たちは互いが互いの「かたわれ」だった。
    時に強烈に憎み合いながらも許し合い、最後は、苔むした森の奥深く、ひっそりと生きる野生動物の番い(つがい)のように、互いがなくてはならないものになった。
    .
    .
    小池真理子さんが夫で作家の藤田宜永さんを失い、かたわれの半身として、残されてしまったた心情を綴ったエッセイ。
    .
    全編通して、喪失感と寂寥感で溢れていてたまらなかった。
    うまく言葉で表せないけど、ひしひしとその気持ちが伝わってきて胸が詰まってしまう。

    あたり前の様に依存し合いながら一緒に生きてきた相手がいなくなってしまう。
    もう一緒に笑ったり、よりかかったりする事も出来ない。 
    先に死ぬのも辛いけど、残されて生きていかなければならないのもほんとに辛い。。

    時は流れていく。
    生まれたものは消える。
    始まったものは終わる。
    ひとつの例外もない。

    分かってはいるけれど、ぽつんと残されたこの世界で生きていかなければならない虚しさが押し寄せてきて、不安で押し潰されそうだった。

    寂しさと同時に、愛も感じた。
    お互いがほんとに大切な存在だったんだろうな。
    それだけ幸せな人生だったんだと思う。

    藤田さんが小池さんに言った、
    「年をとったおまえを見たかった。見られないとわかると残念だな」
    という言葉が印象的だった。

    静かで美しい心を打つ作品でした✨

  • 『月夜の森の梟』を読む|好書好日
    https://book.asahi.com/series/11033533

    朝日新聞出版 最新刊行物:書籍:月夜の森の梟
    https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=23165

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【書評】『月夜の森の梟』配偶者との死別、やさしく美しい言葉で語られる悲しみ|NEWSポストセブン
      https://www.news-post...
      【書評】『月夜の森の梟』配偶者との死別、やさしく美しい言葉で語られる悲しみ|NEWSポストセブン
      https://www.news-postseven.com/archives/20220114_1717498.html?DETAIL
      2022/01/14
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      <東北の本棚>癒えぬ悲しみ 共感呼ぶ | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS
      https://kahoku.news/a...
      <東北の本棚>癒えぬ悲しみ 共感呼ぶ | 河北新報オンラインニュース / ONLINE NEWS
      https://kahoku.news/articles/20220227khn000007.html
      2022/02/28
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      画家・横山智子が語る「月夜の森の梟」 作為が抜け、テキストの哀しみに向き合えた|好書好日
      https://book.asahi.com/ar...
      画家・横山智子が語る「月夜の森の梟」 作為が抜け、テキストの哀しみに向き合えた|好書好日
      https://book.asahi.com/article/14489329
      2022/05/14
  • 喪失。言葉だけではなくそのリアルな生活が書かれている。季節が巡る事に癒やされると同時に思い出がよみがえり失った事に向き合う事になる。いつか当然自分も経験する事になる。少しずつしか読み進められなかった。

  • ひんやりと澄んだ様子の美しい表紙に触れ、大切に読み終えたけど、その感想を表現できる大事な言葉を上手く整理できそうにない。

    また遠方の母に連絡しなくては。
    父が意識不明となり医師から回復は困難と告げられてから、もうすぐ季節も一巡する。

  • 死に向き合うって、どういう事なんだろう?
    人が死ぬという事象はありふれている、という事は頭では理解しているが、ほんとうに分かってはいないし、向き合うことから逃げがち。なので1頁読んだ時にこれは読まなきゃと手に取りました。

    小池真理子の心情の描写がとても素直で、一緒に悲しくなったり寂しくなるような気持ちになりました。まだどこか、自分ごとのように共感できないところもあるけれど、数年後にまた読んだら共鳴するのかも。

  • こんなに深く亡き人を文書で表現できる人を羨ましく思うとともに、同じ境遇の人たちを救っている。

    死というテーマでなくても、文章にして読むことで、納得できたり、気づきがあったり・・・言葉の力とはまた違った大きな力があるとあらためて実感されられた。

  • 知識系や自己啓発本も凄く好きだけど
    カラカラの心に栄養補給したくてこの本

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小池真理子の作品

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