内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実 改正公益通報者保護法で何が変わるのか

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022518248

作品紹介・あらすじ

事業者⇔従業員の歓迎がどう変わるのか?あらゆる事業者が負う義務の内容、その違反に対する行政措置、刑事罰など必須ポイントを徹底解説。法改正の実質的な影響をわかりやすく具体的に知る一冊!

感想・レビュー・書評

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  • 資料集、事例集としても教材としても秀逸。これ一冊で内部告発の歴史や実例、公益通報者保護法の成立や改正までが詳しく理解できる。今の世の中の「当たり前」に至るまでには、厳しい戦いがあった。告発される側の方が常に強い立場だ。だからこそ、揉み消したり、報復したりと、やりたい放題、弱者を虐げた。「世の正義」対「組織の論理」。

    ベトナム戦争での機密文書をダニエル・エルズバーグ博士がニューヨーク・タイムズに提示した事例。ニクソン大統領は極秘文書の漏洩事件として差し止めを求めたが最高裁判所は応じず。有名なペンタゴン文書だ。その後、博士は機密文書の窃盗罪で起訴されるが、ホワイトハウスの工作員による盗聴などを理由に、裁判所は起訴を棄却、無罪放免へ。逆にニクソン大統領の側近が罪に問われ、ニクソン自身も、もみ消しの容疑で弾劾されるまで追い詰められ、大統領を辞任。ディープスロートと呼ばれる政府内部情報に基づく新聞記者たちの調査報道が大きな役割を果たす。泥沼のウォーターゲート事件。

    海外のスキャンダラスな内部告発から、日本へ。グッと生々しくなる。オリンパスの事例。顧客からの人材引き抜きを問題視して内部通告した濱田さん。この内部通告が社内で実名で情報開示されてしまい、不当な人事異動を受けることになる。本人の経歴や希望、能力に合わない品質保証への異動。評価査定についても不当に低い状態。オマエ呼ばわり。
    社外との接触を禁止。これらがパワーハラスメントや不当行為として勝訴へ。他にもイオンや海上自衛隊護衛艦たちかぜの事例など。

    ようやく、22年6月から改正され厳格化された公益通報者保護法を改正公益通報者保護法。誤った判断は訴訟問題に繋がりかねない。組織人は必読だろう。

  • 【第1章】密告ではなく公益通報に
    内部告発者保護の制度とその進化
    (1) 米国の内部告発者保護法制はパッチワーク
    ■米労働省職業安全衛生局(OSHA)の役割 ■内部告発者がヒーローに ■チャレンジャー事故の衝撃 ■「ザ・ホイッスルブロワーズ」――2002年の表紙に3女性 ■日本企業を標的とする告発も

    (2) 英国の公益開示法にならった日本の立法
    ■内部告発を3分類した英国の公益開示法 ■小泉政権下で立法検討が本格化 ■独占禁止法にリニエンシー ■韓国の公益申告者保護法 ■内部告発の有用性の認識の広がり

    (3) 告発者保護の背景にある企業不祥事の潮流
    ■だれのために働くのか――忠誠の概念が多様化 ■コンプライアンスとは――社会規範意識の高まり ■水準の高まる「説明責任」 ■不正そのものより不正への対応が大事 ■リスクをめぐる開示と議論の必要 ■社会の役割分担の専門分化、複雑化という背景 ■ガバナンスという視点の登場 ■「内部」への告発と「外部」への告発の境目

    (4) 欧州大陸では2013年以降に法制化、EUが指令
    ■ナチス・ドイツの密告社会 ■自浄の努力との連関 ■大量の電子ファイルが証拠資料に ■欧州カ国が2013年に法制 ■EU公益通報者保護指令の内容

    【第2章】オリンパスで相次ぐ内部告発
    失敗の教訓に学ぶ
    (1) 内部通報者への不法な仕打ち
    ■コンプライアンス室への電話 ■客先と上司の間で板挟み ■会社側の主張した事実関係 ■コンプライアンス室は何を間違ったか ■チームリーダーから部長付への異動 ■浜田さん全面勝訴の高裁判

    (2) 巨額不正経理を英国人社長が追及
    ■ジャーナリストに資料を提供 ■英国人社長による社内の追及 ■前社長による英国経済紙への内部告 ■「機密情報開示に憤り」と新社長 ■「重大な非行」理由に報酬減額 ■「だれも本当のことを言わなくなった」

    (3) もの言えない風土に長年の不正
    ■バブル期に始まった損失隠し ■経営陣が自白に追い込まれた舞台裏 ■箝口令「事件の話はタ ブー」 ■法廷で語られた山田元副社長の悔悟 ■最高裁で会社敗訴が確定した後も不当処遇継続 ■経営陣交代後も変われないオリンパス

    (4) 医師への賄賂と感染報告遅れ
    ■医師や病院にキックバック、賄賂 ■最高コンプライアンス責任者の内部告発 ■内視鏡の院内感染の報 告を怠った罪 ■少なくとも190人余が院内感染 ■顧客や当局に「積極的には」知らせず

    (5) 中国・深圳での不明朗な支払い
    ■「バックが強大」なコンサルに4億6千万円 ■法務本部長の異論「誰に怨まれてもやりきる他ない」オリンパス社員から渡された秘密報告書 ■「ガバナンス上の問題があった」 ■異論唱えた法務本部長を左遷 ■「『悪い意味でのサラリーマン根性』は真っ平ごめんなので」 ■社内調査「著しく不合理とまでは認め

    られない」 (6) オリンパス不祥事で法改正論議
    ■浜田さんと会社の和解 ■法改正への貢献で人権賞 ■史上最高位の内部告発者「想定外」 内部告発への報奨金の制度化は? ■元法務本部長の魂の叫び ■内部通報者への報復がもたらす「内部告発し放題」

    【第3章】内部通報、事業者と従業員の現実
    なぜ形骸化するのか
    (1) 財務省、文書改ざん無反省のガバナンス劣等生
    ■近畿財務局に「改正」届かず ■ずさん調査で問題素通り ■教訓に学ばないまま公文書管理専門の通報窓口 ■改正法に残った不備

    (2) 「イオン行動規範110番」への内部通報が人事部長に筒抜け
    ■サービス残業を内部通報 ■懲戒委員会で「内部通報した人物」 ■残業手当支払いで特損12億円 ■公開法廷に内部通報の実名記録 ■内部通報への対応でイオンを提訴 ■イオンの対応の問題点とその教訓

    (3) 内部通報制度への期待と失望
    ■内部通報制度の普及 ■東芝社内から日経ビジネスに内部告発続々 ■化血研、血液製剤を不正製造 ■東洋ゴムでは「内部通報のリスク」を検討 ■再三の内部通報への対応に失敗した日本公庫 ■住江織物、米国子会社の元従業員から会計事務所に通報 ■長野計器子会社、役員の交代後に内部通報相次ぐ ■内部通報制度ガイドラインの改正

    【第4章】組織の外への内部告発
    忠実義務との葛藤で判例も変化
    (1) テレビ東京への内部告発で発覚、レオパレス21の施工不備
    ■社長インタビューをきっかけに ■「会社を変えたい、でも…」 ■記者会見を突如開いたレオパレス ■外部調査委「社長に進言しにくい雰囲気」を指摘 ■国交省の検討会「工事監理者通報窓口」を提案 ■阿部ディレクター「信頼を得ないと託されない」 ■施工不備は3万棟以上に

    (2) 郵政一家「第4の事業」と不適正営業
    ■アポなしで新聞社に一人 ■組織のために「集票力」「政治力」 ■尾行を心配し、手紙は偽名 ■別の局長経験者から新たな内部告発 ■さまざまな情報源 ■近畿郵政局長に有罪判決 ■消費者庁ヒアリングで ■かんぽ生命の違法営業 ■内部通報者と疑われた人への「報復」を罪に問う初の事例

    (3) 内部告発をめぐって裁判例は進化してきた
    ■富里病院事件――行政機関への訴えは正当だが… ■千代田生命事件――元常務に2億5千万円賠償を命じる異様な判決 …… ■吉田病院事件――「背信」とされた住民へのビラ配布 ■三和銀行戒告処分事件――「労働条件改善目的」に正当性 ■群英学園事件――「経営への影響考え、内部手順を」 ■宮崎信金事件――保護された国会議員秘書への告発 ■いずみ市民生協事件――特定多数への内部告発を正当化 ■生駒市衛生社事件――報道機関への告発を正面から認める判決 ■トナミ運輸事件――提訴をきっかけに「内部告発」が流行語大賞に ■司法書士事務所事件――証拠書類持ち出しを公益通報「付随」行為として保護 ■徳島県職員事件――公益通報後の係長昇進見送りに慰謝料命令 ■神社本庁事件――「公益通報」該当を認めて救済 ■法制定を境に告発者有利に

    (4) イトマン事件「匿名の投書」、住友銀行幹部と日経記者
    ■記者と銀行中枢幹部 ■大蔵省銀行局長あての投書を書いたのはだれか ■「そしたらこの記事は潰されるよ」 ■告発や報道で質の高い文書は必須

    (5) いじめ自殺の証拠書類隠蔽を遺族に知らせた3等海佐
    ■海自護衛艦乗組員の自殺

    (6) 内部資料持ち出しの免責を消費者庁の検討会で議論
    ■判例ではすでに保護する法解釈

    【第5章】改正公益通報者保護法、詳細解説
    事業者に何を義務づけているか
    (1) 改正の検討に10年の歳月
    ■諸外国に後れをとってしまった日本 ■施行5年時の議論では結論先送り ■内部告発経験者を交えて議論 ■自民から共産まで全会一致で改正法可決 ■施行に向けて指針を策定、その解説も公表

    (2) 民事ルールとしての公益通報者保護法
    ■国家ではなく国民の利益の保護が目的 ■不正の目的でなく ■だれが公益通報するのか ■法の保護の効果 ■なにを公益通報するのか ■だれに公益通報するのか ■事業者内部への公益通報(1号通報)■規制権限を持つ行政機関への公益通報(2号通報) ■報道機関など広い外部に対する通報(3号通報) ■「風評被害」論 ■コンプライアンスの後押しとして ■役員も保護対象に ■「反対解釈」を許さず ■あらゆる不利益扱いの禁止 ■守秘義務との関係 ■他の特別法との関係

    (3) 事業者が課される義務と行政の権限
    ■1項義務と2項義務 ■内部通報対応体制の整備義務 ■公益通報者保護体制の整備義務 ■体制整備義務違反への行政措置 ■改正指針で事業者の現場は実際どうなるか? ■「従事者」の守秘義務を罰則つきで導入 ■内部告発を受け取る側としての行政の対応 ■不利益取り扱いへの行政措置の制度化は見送り ■今後の検討

    【付録】■改正公益通報者保護法 ■公益通報者保護法に基づく事業者向け指針

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著者プロフィール

奥山 俊宏(オクヤマ トシヒロ)
朝日新聞編集委員
朝日新聞編集委員。東京大学工学部卒。1989 年朝日新聞社入社。社会部などを経て、特別報道部。2009年にアメリカン大学客員研究員。『秘密解除 ロッキード事件』(岩波書店)で司馬遼太郎賞(2017 年度)を受賞。同書や福島第一原発事故やパナマ文書の報道を含めた業績で日本記者クラブ賞(2018 年度)を受賞。近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書)。

「2019年 『現代アメリカ政治とメディア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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