現地取材400日で見えた 検証 ウクライナ侵攻10の焦点

  • 朝日新聞出版
3.64
  • (2)
  • (4)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 40
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022518934

作品紹介・あらすじ

ロシアによるウクライナ侵攻から1年。現場でしか知り得ない豊富な取材ルポを、10の論点のもとに構成。実際に現地で何が起きたのか。虐殺の全容、原発の恐怖、世界の未来――。様々な角度から戦争を浮き彫りにする1冊。【構成】◆第1章:開戦 ――侵攻は止められなかったのか◆第2章:占領 ――本当の被害規模をはかる◆第3章:虐殺 ――ブチャで、各地で、何が起こったか◆第4章:攻防 ――「アゾフスターリ」以前と以後◆第5章:爪痕 ――「戦争のある日常」は終わらない◆第6章:原発 ――世界を破滅させかねない新たな「標的」◆第7章:ロシア ――西側から見えない「もう一つの」戦争◆第8章:難民 ――未曽有の規模でも混乱を招かなかった要因◆第9章:西側 ――米国・NATO 対ロシア政策に誤りはなかったか◆第10章:この戦争は何を意味するのか

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 購読している新聞が朝日新聞なので半分くらいは既読記事だったが、まとめられていることによって戦況の流れを理解できた。そして、新聞で日々目にしていても自身にとっては遠い国の戦争だと受け止めていたことを認識し愕然とするのでもあった。ただ活字を追っていただけだったのだ。
    一年も続くとは思わなかった戦争は、今もまだ終わりは見えない。

  • 現地取材を中心にウクライナ戦争の400日を総括する本。

    というわけで、ことさらに新しい話しはないわけだが、さまざまな人々のインタビューなどを通じて、やはりこの戦争は(この戦争だけに限定されるものではないが)許されないという思いが強まる。

    そして、ここまで来てしまったものが、どう終結しうるのか、未来への希望はあまりみえない。

    やはり、人間は、それぞれのストーリーを生きているのだなと思いつつ、それはプーチンも同じ。どう人のストーリーを変えることができるのか、と考えると、より難しさを感じてしまった。

  • 戦争前からウクライナに滞在していた記者による、戦争初日から三日目にキーウを脱出するルポを読むと、外からネット経由で見るしかなかった当時の状況を内側から見ることができる。
    戦争開始当初はニュースを見たり読んだりしては泣いていた。いまは慣れてしまって、毎回泣いたりはしなくなった。でも侵攻当初の記事を読みながら涙が次々と溢れてくる。

    チェルノブイリ原発が侵攻当日に占領されていたことを、この本を読んで今更知った。

    「ジェノサイド条約は、国や人種、民族、宗教に基づく集団を破壊する意図による行為を「ジェノサイド」と定義しており、犠牲者の人数は関係ない。ウクライナ系を特定して殺害する行為があった場合、ジェノサイドとみなされる可能性もあるだろう。」p.89

    「2019年に「リベラルな価値観は時代遅れになった」と断言して世界を驚かせたプーチン氏が、武力に訴えて隣国に独善的な価値観と歴史観を押し付けようとしているのが、今回の戦争の本質的な構造だ。」p.285

    「ウクライナを舞台とする「バイデンの戦争」は、米国が中国と覇権を争いながら、民主主義国家を中心とする国際秩序の維持にどの程度までかかわるのかを示したともいえる。

    そこで見えてきたのは、同盟・友好国が米国に期待できる役割は、ますます限られてきている、という現実だ。日本は、中国やロシアという専制的な核保有国と隣り合い、台湾有事や北朝鮮の核開発という脅威にも直面している。安全保障環境の激変を理解しながら、ウクライナ情勢への米国の向きあい方を注視していくべきだ。」p.289

    「ウクライナ危機が世界に教えたことの一つは、中国が米国に抱く不信の抜き差しならない根深さだ。ウクライナの領土や主権、罪のない市民の命が犠牲になっているにもかかわらず、中国が米国との対立を見据えた自国の戦略利益にこだわる姿を私たちは目の当たりにした。戦争の帰結がどうあれ、この先に待つのが一層分断を深めた世界であることを私たちは覚悟しなければならない。」p.290

    「米中対立の下、中国でも勇ましい言葉が幅をきかせているが、「中米間のコミュニケーションの質が落ちている。(双方の)『政治的正しさ』におもねる政治ショーがあふれ、多くの疑心やパニックを生んでいる」⁽崔天凱 前駐米大使⁾といった懸念の声もある。ウクライナの悲劇をアジアで繰り返さぬために米中と地域諸国に今こそ求められるのは、互いの意図を見定め、緊張をコントロールするための冷静で重層的な努力だ。」p.294

    「ロシアが今後、攻勢を強めてウクライナの国土を広範囲に占領したり、ゼレンスキー政権を転覆させたり、といった展開は、2023年1月現在、考えにくい。

    それにつれて、冷戦後に世界が培ってきた国際法の順守や主権の尊重、人権擁護などを基軸に置く国際秩序への影響を懸念する声も、次第に静まってきた。

    当初は、ロシアが軍事的な成果を上げることによって「力任せの秩序が到来するのではないか」「新冷戦が復活しかねない」などの懸念が取りざたされた。その後、こうした言説は下火になり、「ロシアには結局、歴史の流れを変える力などなかった」との認識が広がりつつある。

    青山学院大学の菊池努名誉教授は、こう語る。
    「現在はむしろ、新たな世界のはじまりではなく、ソ連という『帝国』が崩壊する最終段階にあたると考えられる。歴史の流れからみると、今回の侵略は、帝国崩壊の際にしばしば生じる血なまぐさい事件の一つだ」

    菊池氏は、「ロシアにうかがえるのは、強かった時代へのノスタルジーと、自分たちの現実の力との間に生じたギャップに、耐えられなくなった姿だ。失われた栄光を折り戻すため、非合理的な行動や現実を無視した暴力に訴えたといえる」とみる。

    そして、ロシアをウクライナ侵攻に突き動かしたのは、「『二流国家として軽んじられてきた』という屈辱感だろう。世界から一目置かれる国家としての地位を取り戻したかったのではないか。それは、『冷戦』が名実ともに終わりを告げようとしていることも意味する」と指摘する。」p.295‐296

    まだソ連も冷戦も終わってなかったのか。とっくに終わったものと思い込んでいた。
    プーチンの中では終わっていなかったのかも。でも、プーチンの夢はソ連を飛び越してエカテリーナ二世の時代っぽいけど。

    「ロシアとの安易な妥協は侵略戦争の容認であり、国際秩序の崩壊を招く恐れが否定できない。軍事大国の攻撃に常におびえて暮らす世界を、次世代に残すべきではない。

    問題解決の第一歩は、ロシアに占領を許したままでの停戦などではなく、ウクライナからのロシア軍の全面撤退に他ならない。」p.296

    「「ルールに基づく国際秩序」の擁護を責務と位置付けてきた日本には、その理念を具体的に実現する努力が求められている。」p.297

  •  市民図書館の新刊。
     本書は,ロシアのウクライナ侵攻から約1年を振り返り,ウクライナやロシアの現場で取材をしてきた朝日新聞社の記者たちが書いたドキュメンタリーをまとめたものである。ウクライナの問題は現在(2023年5月)も現在進行形であり,このあと,どういうふうな展開になり,どんな結末が待っているのかは,全く分からない。
     本書は,ロシア軍が撤退したあとの町に記者が入ったときの様子や,ロシアが侵攻開始にいたった原因の考察,あるいはプーチンの考え方まで,いろんな視点で書かれていて大変勉強になった。プーチンがウクライナことをネオナチと呼ぶ原因もなんとなく理解できた。
     よく,「歴史から学ばないから戦争が起きる」なんていうけれども,プーチンは歴史から学んだからこそ戦争を起こしたとも言える。だから,こういう問題はとても微妙なんだよな。プーチンの頭が正常じゃない…と言っていても仕方ない。
     今後,この闘いがどのように終止符を打つのかはダレも分からないけれども,この後,ロシアが弱体化していくのは確かだろうな。
     ウクライナ戦争を通して,世界各国が軍備増強に力を入れだしたのが怖い。新しい戦前(戦後)がどんな時代になるのか。これだけ少子化といわわれている中で,本当に敵基地攻撃をするような事態を起こすんですか?と思う。その前に,ちゃんと話し合わないとね。なぜ,こうも力を見せつけ合うことしかできないのかね。幼稚な指導者が多すぎますなあ。もう,人類同士殺し合うのはやめようよ。軍隊のない世界を作っていこうよ。

  • 東2法経図・6F開架:319.3A/A82k//K

  •  ブチャ虐殺、原発占拠、露国内、周辺国への難民など10のテーマ別の取材内容。大半は現地の当事者インタビューを元にした、2022年夏時点までのミクロな視点で、それだけに読みやすい。消息不明の家族を案じる人たちも出てくるが、その後現在までに会えたのだろうか。
     一方、欧米の対露姿勢やこの戦争の全貌というマクロな視点も一部ある。欧米の楽観主義やクリミア併合以降ですら甘かった制裁は、今振り返るとどうか。その時々で最良と考えた政策判断だったのだろうが。

  • 【書誌情報】
    『現地取材400日で見えた――検証 ウクライナ侵攻10の焦点』
    著者:朝日新聞取材班
    ISBN:9784022518934
    定価:1870円(税込)
    発売日:2023年2月7日
    四六判並製 312ページ

    ロシアによるウクライナ侵攻から1年。現場でしか知り得ない豊富な取材ルポを、10のテーマのもとに構成。実際に現地で何が起きたのか。虐殺の全容、原発の恐怖、世界の未来――。様々な角度から戦争を浮き彫りにする1冊。
    https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=24015

    【簡易目次】
    第1章:開戦――侵攻当初、何が起きていたのか
    第2章:占領――閉ざされた空間で起きた被害
    第3章:虐殺――ブチャの真相を探る
    第4章:攻防――製鉄所立てこもりの真実
    第5章:爪痕――復興とそれを妨げるもの
    第6章:原発――世界を震撼させた「占拠の内幕」
    第7章:ロシア――欧米から見えない「もう一つの世界」
    第8章:難民――混乱を招かなかった要因
    第9章:欧米――プーチンとどう向き合ってきたか
    第10章:全貌――この戦争は何を意味するのか

全8件中 1 - 8件を表示

朝日新聞取材班の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×