「新しい人」の方へ

著者 :
  • 朝日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022578662

感想・レビュー・書評

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  • ベストセラー『「自分の木」の下で』の第2弾。ノーベル賞作家が、子供から大人に向けて、人生の習慣についての持論を平易な言葉で紹介しています。表題の「新しい人」とは、若い人たちになってもらいたい姿のことです。世界に和解を作り上げる「新しい人」を目指して生き続けて行く人を、筆者は思い描いています。特に心に残ったものを紹介します。

    子供のうちに何度も過ちを犯していても、年を取るにつれて経験から予測して少なくすることができます。こうした、経験の積み重ねによって今より少し先の情景が目に見えるようになることを、筆者は「未来にはみ出す」と表現しています。その心の動きも想像力のひとつであり、心を動かす大切なものであり、ムダなことでは決してないということです。

    文章を書くことは、話すことと多くの点で共通します。話す時に、しっかり読点と句点、つまりテンとマルをつける感じで区切りながら話す人は、話している相手に、正直に、勇気をもって、自分を示すことのできる人なのです。

    今の教育現場では、早々と文系理系に別れてしまっていますが、その違いをこえてできた友達と仲良く話し合う関係を、ずっと持ち続けることが大切です。大学に進んでも人間としての共通の基盤を確かめ合うことが大きな力を生み、お互いに理解を深める手助けができることでしょう。

    生活の基本に本を読むことを置く態度が、知識人になるための練習となります。筆者は50年以上決して休まず、知識人の仲間になる努力を続けてきました。

    私たちの本当の知恵は、自分の目で見ることー本を読むこともそこに入りますー、自分の耳で聞くことをよく受けとめて、自分のものとして活用することができるようになって、生まれるのです。また、何より大切なのは、自分より他の人間がなにを、どのように話すかを、しっかり聞き取る注意深さです。他の人のいうことによく耳をすまし、注意深く受けとめることができるようになれば、自分が本当に言わなければならないことを確実にまとめることもできます。

    24歳で恩師のとある文章を読んだ筆者は強い衝撃を受けました。何よりも筆者がドキドキする気持ちで考えたことは、自分が本当になにも「知っていない」ということだったそうです。筆者が何にもまして心に止めている教えは次の2つです。お母さまからの助言で、本を読むたびにノートかカードに何を読んだか書くという習慣を作ったことと、恩師の渡辺一夫先生からの教えで、ある一人の本や研究書を3年間読み続けて4年目には新しいテーマに向かって進むこと、とのことです。

    難解と聞いていて、大江健三郎の作品になかなか手が伸びなかったのですが、柔らかいタッチの絵(奥様の手によるものだそうです)にひかれて図書館で借りてみました。平易な言葉で、理解しやすい内容が述べられていて、意外でした。実は若者向けの第2弾とのことなので、今度本家の第一弾を読んでみます。伊丹十三さんが高校時代の親友で、奥様のお兄様、というのも、私は知らなくて驚きました。

  • 「新しい人」という言葉で、大江健三郎さんは、生き方について語っている。一人の人間の生き方だけではなく、皆の生き方だけでもない、それは現在から未来へ続くすべての人に向けた生き方であり、そのための「始まり」を作る本であると思う。

  • (2015.04.28読了)(2006.03.10購入)
    週刊朝日に、2003年1月3・10日号~2003年4月18日号まで掲載されたものを単行本としてまとめたものです。
    この本の前に出した下記の本では、「自分が子供のときにしたことや、感じたり考えたりしたこと、読んだ本を、愉快な思い出はもちろん恐ろしさや悲しみや、さらにもっと複雑な思いもあわせて、でるだけ自然に書きました。」(171頁)ということです。
    「「自分の木」の下で」大江健三郎著・大江ゆかり画、朝日新聞社、2001.07.01
    今回の「「新しい人」の方へ」を書くにあたって決めた方針は、「子供たち、また若い人たちに、「新しい人」になってもらいたい」というメッセージに固まりました。(174頁)

    【目次】
    黒柳さんのチンドン屋
    頭をぶつける
    子供のためのカラマーゾフ
    数十尾のウグイ
    電池ぐれで!
    賞をもらわない九十九人
    意地悪のエネルギー
    ウソをつかない力
    「知識人」になる夢
    人の言葉をつたえる
    もし若者が知っていたら!
    忍耐と希望
    生きる練習
    本をゆっくり読む法
    「新しい人」になるほかない

    ●怨望(85頁)
    福沢諭吉は、人間とはどういうものか、ということをよく知っている人でした。そして、人間の素質のなかで、ただ悪いだけで、よいところは何もないのが、「怨望」だ、といっています。たとえば、乱暴な素質の人には、勇敢な、という素質がある。軽薄な人には、利口なところがあるといってもいいというのです。
    しかし、怨望という素質だけは―人をうらやむ、人に嫉妬する、ということですが―よい性質とつながっていない。なにか良いものを生み出すところがまったくない、といいます。
    ●誇り(95頁)
    私は、子供のころにはありながら、大人になると失われる人間の性質のなかで、「誇り」こそ、いちばん大切なものじゃないか、と考えるのです。「誇り」をなくした大人がウソをつき始めると、とめどがありません。
    ●憂い顔の童子(109頁)
    小説『憂い顔の童子』は、ずっと若いころから愛読してきた『ドン・キホーテ』を、あらためて読もうと考えたことからはじまりました。
    ●母(132頁)
    母は、公民館の本を全部読んだ、もうこの村には読む本はない、と私がいった時、私をそこに連れ戻して、本棚の一冊一冊を取り出しては、この本にはどういうことが書いてあったか、とたずねたのです。
    しして、私がろくに答えられないのを見てとると、
    ―あなたは、忘れるために本を読むのか? といったのでした。
    それ以来、私は、一冊読むと、ノートかカードに何を読んだか書く、という習慣を作りました。

    ☆関連図書(既読)
    「個人的な体験」大江健三郎著、新潮文庫、1981.02.25
    「新しい人よ眼ざめよ」大江健三郎著、講談社文庫、1986.06.15
    「静かな生活」大江健三郎著、講談社、1990.10.25
    「あいまいな日本の私」大江健三郎著、岩波新書、1995.01.31
    「恢復する家族」大江健三郎著・大江ゆかり画、講談社、1995.02.18
    「ゆるやかな絆」大江健三郎著・大江ゆかり画、講談社、1996.04.10
    「「自分の木」の下で」大江健三郎著・大江ゆかり画、朝日新聞社、2001.07.01
    (2015年4月29日・記)
    (「MARC」データベースより)amazon
    「ウソをつかない力」をきたえて「意地悪のエネルギー」と戦う-。子供にも大人にも作れる人生の習慣。ノーベル賞作家の役に立つ贈り物。『週刊朝日』連載をまとめて単行本化。「「自分の木」の下で」第2弾。

  • 大江健三郎さんの優しい文体のなかから、静かにいろいろと考えさせていただく機会をいただきました。

    嘘をつかない意地悪の力は、自分の中で鍛えていくことができる。

    子供には子供の社会があって、そのなかで人を傷つけず、自分も傷つけられないで生きてゆく。そのためには、大人が社会で働かせる知恵にあたるものを子供の社会でも発揮しなければいけない。

    あとは、本をゆっくり読む方法ということを言われて、最近多読を目指している私にとって考えさせられました。

    「新しい人」って自分にとってなんだろう、
    そういうことを考えながらこの本を読み終わりました。

  • このエッセイの最初のほうの「文章を書くことは、話すことと多くの点で共通します。」という部分で妙に納得してしまった。
    (様々な人の「ブログ」を訪問して、ちょっと文章を読ませてもらっただけでも、何となく人柄がわかるような気がするから・・・)<br>

    「意地悪のエネルギー」という章で、福沢諭吉の言葉として引用されていた、「怨望」(えんぼう)という語が印象に残っている。
    人間の素質の中で、ただ悪いだけで、良いところはなにもないのがこの「怨望」(人をうらやむ、人に嫉妬する)だと・・・<br>

    私も「ウソをつかない力」を身に付け、いろいろなかたちで「生きる練習」をして、新しい場面に備えながら加齢して行きたいと思った。
    「新しい人」には、なれないまでも・・・<br>

    奥様の大江ゆかりさんの挿絵もやさしくてステキだった。

  • 大江健三郎さんのエッセイ。2003年に発行された書籍だが、20年経った今でも世界は変わっていない、イスラエルパレスチナ問題は最悪の状態に突入している、タリバンは戻ってきてまた女性の権利が脅かされている。それでも理解し合える日がいつか来ることを切望し声を上げ続ける、平和な世界になることをあきらめず声を上げ続けるよう言われている気がした。

  • 262.2009.8.02

  • 「踊り子」「ギー兄さん」など、ここ一連の作品に繰り返し出てくるモチーフが。(別に続き物じゃないけれど)
    誰がなんと言おうと、ついて行くぜ、翁。

  • 今日、ブックオフで買った。

  • 子どもだけでなく、大人も読むと救われる。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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