大正天皇 (朝日選書 663)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 194
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022597632

作品紹介・あらすじ

「遠眼鏡事件」は真実か?明治と昭和のはざまに埋もれた悲劇の天皇像がいま明かされる。

感想・レビュー・書評

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  • 久方ぶりに手に取りましたが、面白かったぁ。
    なかなかに評価の難しい歴史上の人物なんだろうなという気がする。要するに異端なんだと思います。時代・見方・立場によって評価が大きく変わる人物であり、それぞれがある意味正解の評価なんだろうと思われ。
    本著者の見解は歴史を重層的に捉えるためには重要なものだと思うし、そう理解することが歴史に対する今を生きる万民の責務かと。

  • ふむ

  • ふと、漠然と「大正天皇」のことが知りたくなって読んだ本。
    その前に、『漢詩人 大正天皇』で、いかに文才、漢詩の教養が深い人であったのかはわかった。

    では、その優れた教養を持っておられた「大正天皇」とはどのような人であったのかを知りたくなり、手に取った本が本書。

    子どもの頃、「大正って、たった15年しかないのか」「へぇ、病気で〜」というくらいの知識だった。
    (「遠眼鏡事件」というものは、なんとなく聞いていただけだったので、詳しいいきさつなど知らず)

    本書は、大正天皇が即位していたときの首相原敬の日記をもとに、その人物像を探ろうとしている。
    「大正天皇」という書名だが、主に、皇太子時代の言動が中心となっている。
    巡啓、行啓で地方の人々と気さくに話しかける人柄は、意図せず、皇室を国民との距離を近づける、親近感を持たせるものとなった。(それを苦々しく思っていた山県有朋との確執も初めて知った)
    また、この巡啓・行啓が地方のインフラ整備にも一役買っていたというのも、見逃せない事実。

  • 歴史のブラックホールのような大正天皇を扱った書物は少なく、主に原敬日記から正確に事実を抽出していたこと、また明治、大正、昭和の天皇の位置づけについて的確な考察をおこなっていたことは人にオススメしたい本である

  • 「遠眼鏡事件」などほぼタブー時されていた大正天皇について書かれた数少ない評伝。どうしても興味は先述の一件の真相についてだが、本著ではそれほど多く紙面を割かれておらず、現代にも通ずる日本国民が天皇に対する関係性の歴史的役割について多く語られている。時の政治権力者による天皇の政治利用など時代に翻弄されるなど、大正天皇の淳朴な面を著者は強調する点には違和感を感じたりもするが、更に元気されそれらの真相が明らかになることを期待したい。あと、行幸の細かい行程などの記述が多いのが残念であった。69

  • 大正時代は15年と短かったし、大正天皇については紙を丸めて望遠鏡のように覗いたなんていう逸話が流布したように精神が乱れていたともされる。それだけに実像がかえりみられることもないままよく知られていない存在だろう。
    実はとても奔放で心やさしい人だったという別の逸話に触れ、実際はどうだったんだろうと、明治天皇や昭和天皇に比べれば少ない関連の本の一冊を読んでみた。結果として抱いた大正天皇像は……。
    確かに大正天皇は厳格なイメージづけがされた明治天皇に比べれば、気さくな人でもあった。行啓先で思うままに振る舞ったり言葉をかけたり。周囲が見せまいとしたところに目が届いてしまったがために、それが鋭い視点となったりしたようなこともあったみたい。
    確かに、意図的な言動ではないかと思わされるようなこともあるけど、やはり意図的に気さくな天皇像を演出しようとしたり、下々の実態に近づきたいとしての言動というよりは、ただただ無邪気に物事を見て口にしただけのことだったのではないだろうか。そしてそれが周囲に疎まれ、体よくその座を追われていったような気がする。
    天皇の長子として生まれたばかりに天皇という重圧が課され、その器に合わない中身を入れられてしまった人生を歩まされた人という印象。

  • 小難しい文体だが、興味持って読める。知りえなかった人となりを丁寧に書かれている。おすすめ。

  • 明治天皇と昭和天皇の狭間で、エアポケットの様に何も知らないのが大正天皇。(本著を読んだら、明治天皇の事も全然知らない事に今更気づいた)
    その大正天皇の出生から崩御までをつぶさに追った評論。
    ”人間天皇”と言えば戦後の昭和天皇を指すのが相場だが、皇太子時代を含めて即位してから苦しんで崩御するまでこれほど人間的な天皇も居ないのではないかと思った。

  • 「大正帝は精神疾患を背負った天皇であったか?」という疑問を発端に、その人生を幼少時から詳しく綴っていく。特に、皇太子時代の全国巡業エピソードからは、意外にも奔放で闊達な大正帝の姿を伺うことができる。行く先々の人々に気ままに声をかけ随臣に冷や汗をかかせる逸話の数々、戦後の昭和天皇の「あ、そう」と比べると微笑ましくさえある。
    さて、先の問に対して本書は明確に「No」と述べる。だが、大正帝が実際に政務不能に陥り、昭和帝に摂政を委ねるに至った経緯については作者の想像の部分が大きく、病名や症状についても深くは検証されない。また、治世下の第一次大正デモクラシーへの関与も、さわりの説明に留まっている。政治学的な関心は脇に置き、「人間」大正天皇の姿を知りたいと思うには良い評伝だろう。

  • 明治、昭和の"偉大"とされる二人にはさまれ、「遠眼鏡事件」等の悪い噂しかなかった、悲劇の天皇。影が薄いが、実は昭和時代の天皇のイメージを支える重要な役割を演じた人間味のある人だった。初めて貞明皇后との一夫一妻を守り、4人の皇子に囲まれ、家庭的な慈父であった天皇。昭和天皇は祖父に倣うように幼少から育てられ、また尊敬していたというが、父のことはほとんど語らなかった。明治後期の皇太子時代の全国、行啓・巡啓を通し、ベールにつつまれていた天皇を身近な存在にした功績。そして脳の病気で苦しみ、記憶さえも失っていた?天皇時代。生後まもなく実母・柳原愛子から隔離され、側室の子として、肩身狭く、家族の愛を知らずに育った天皇が、哀れでさえありました。救いは有栖川宮への親愛感、皇后との心の交流でしょうか。

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著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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