世界の森林破壊を追う: 緑と人の歴史と未来 (朝日選書 725)

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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022598257

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  • 各国の森林に関する歴史や現状がまとめられていて、森林問題の概観をつかむことができる。

    中国では、唐代になると山東半島と四川省以外の森林はおおかた消えた。四川省も森林でおおわれているのは、現在では13%のみ。長江流域全体で過去30年間に森林の85%が失われた。洞庭湖には、いくつもの堤防がつくられ、その内側が埋め立てられて新田が造成されたため、湖の面積は100年前の3分の1になってしまった。古代には始皇帝の宮殿や兵馬俑のために、明代には万里の長城を山の稜線に沿って築いたために、現代では毛沢東の大躍進政策で鉄鋼の大増産のために、大量の木材が消費された。

    インドのタール砂漠一帯では、5000年前頃から湿潤化が進んで森林が広がった。麦作などの農業も盛んになり、4600年前から3800年前にかけて、ハラッパー、モヘンジョ・ダロの古代都市が最盛期を迎えた。4000年前頃から環境変動による大洪水や川の流路の変化、塩害によって文明は崩壊した。インドの森林は19世紀に大きく変貌した。1853年に鉄道敷設が始まり、橋の建設、枕木、燃料としての薪のために膨大な木材が消費された。茶は17世紀半ばにイギリスに伝わったが、1840年頃から中産階級の間でアフタヌーン・ティーの習慣が広がって消費量が急増した。茶の栽培はアッサム地方、セイロン島、インド南部に広がり、丘陵地の森林が伐採された。1864年に森林局が設置されて保安林が指定され、後に森林法も公布されたが、イギリス植民地時代の初期には国土の66%が覆われていた森林は独立直後には40%に減少し、2001年には21%になっている。1990〜98年の洪水、干ばつなどの自然災害による死者は年平均5536人で世界1位。

    ケニアでは、干ばつに強い土着の雑穀から水不足に弱いトウモロコシが主食になったため、干ばつの度に食糧危機は深刻になっていった。

    アメリカでは、19世紀の初期の工業化の時代はエネルギーを大量に利用できた木材に頼っていたが、1880年代半ばから木材が不足し始めてから石炭が増え始め、1910年には全エネルギーの4分の3を占めるまでになった。ルーズベルト大統領は、自然資源の合理的管理するための保護政策を進めて、ピンショーを自然保護担当長官に任命し、53か所の野生生物保護区、16か所の国定記念物、5か所の国立公園を創設した。シエラ・クラブを創設したジョン・ミューアは、ヨセミテ渓谷の国立公園指定を獲得し、1891年の森林保存法によって国有保護林が設定されることになった。1964年には、木材生産と野生生物保護の対立を調整するために原生自然法が制定され、原生自然保全地域が指定されることになった。

    ブラジルでは、1530年代にアゾレス諸島からサトウキビが伝えられて砂糖の生産が始まった。プランテーションの造成と、搾った原液を煮詰めるために大量の木材が燃料にされたため、16世紀半ばまでに海岸部の森林はあらかた消えた。1840年頃からはゴム生産が始まり、1876年に栽培化に成功してプランテーションが広がってベレンやマナウスが繁栄したが、セイロンやマラヤでプランテーションが始まると凋落していった。第二次大戦後はアマゾンで肉牛の牧場造成が広がり、現在も飼育頭数、牛肉生産でともに世界2位。

    オーストラリアのクイーンズランド州北東部では、1870年代からサトウキビの栽培が始まり、その他の開発も伴って、本来の熱帯林の75%が失われた。国全体では、1860年以降の農地開発によって森林面積の3分の2が失われた。国外から持ち込まれた家畜が野生化して問題を起こしている例が多い。ヒトコブラクダは牧草を食い荒らし、アナウサギも作物や牧草を荒らしたり地下の巣穴に家畜が落ちる事故も起こしている。

    シベリアの森林では、林床のミズゴケや地衣類の層が断熱材として働き、春にツンドラが融けるのを妨げて樹木の生育を遅らせる。山火事が起きてこの層が燃えてしまうと、地温が上がって発芽や生長に好適な環境に変わり森林は回復する。タイガの寒帯林地域の地下の根や有機物が蓄える炭素の量は、地球全体の森林や土壌中に蓄えられている炭素の半分以上を占める。

    ドイツでは、1980年代から酸性雨による森林枯死が始まった。原因は土壌中の窒素分などの栄養条件の変化によるものという結論になっている。

    イギリスでは、ローマ人による支配の時代に農地開発、建築用木材、製塩、採鉱、製鉄、レンガ生産のための燃料のために広大な森林が伐り開かれ、国土の77%を覆っていた森林は15%に減少した。

    UNEPが定義した、一人あたりの森林面積が0.1ha以下の希少森林国は40カ国あり、そこに17億人以上が住んでいる。森林破壊の最大の原因は農業や畜産のための開墾で、第2の原因は木材生産のための伐採。紙の原料は19世紀に入るまで麻や綿のボロ布だったが、19席半ばに木からパルプをつくる技術が開発されて大量生産されるようになった。

  • (「BOOK」データベースより)
    世界の森林はこの10年、日本の国土面積の4倍が失われた。もはや全地表の3割ほどに減った森林に、燃料伐採、木材輸出、プランテーション造成、牧地開発など、とどめるすべのない破壊の手が伸びる。開発、保全、貧困、南北問題など、さまざまな力がせめぎあうなか、一方には惨状から立ち直り、見事な森林再生に成功した国もある。問題のかたちは国ごとに異なり、解決の方向もさまざまだ。朝日新聞記者として、国連環境計画顧問として、研究者として世界中の森を自分の目で見てまわった著者が、世界11ヵ国の森林破壊の歴史を追い、再生への道筋をさぐる。

  • 分類=森林。03年4月。

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著者プロフィール

1940年東京都生まれ。東京大学卒業後、朝日新聞入社。ニューヨーク特派員、編集委員などを経て退社。国連環境計画上級顧問。96年より東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院教授、東京農業大学教授を歴任。この間、国際協力事業団参与、東中欧環境センター理事などを兼務。国連ボーマ賞、国連グローバル500賞、毎日出版文化賞をそれぞれ受賞。主な著書に『感染症の世界史』『鉄条網の世界史』(角川ソフィア文庫)、『環境再興史』(角川新書)、『地球環境報告』(岩波新書)など多数。

「2022年 『噴火と寒冷化の災害史 「火山の冬」がやってくる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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