- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022649027
作品紹介・あらすじ
【文学/日本文学小説】江戸前期に財を成した商人・七兵衛(後の河村瑞賢)は海運航路整備・治水・鉱山採掘などの幕府公共事業を手掛け、知恵と胆力で次々と難題を解決してゆく。新井白石をして「天下に並ぶものがいない富商」と唸らせた男の波瀾万丈の生涯を描く長篇時代小説。
感想・レビュー・書評
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江戸時代、当たり前と思っていた西廻り航路、東廻り航路も、その創成にはこれだけのドラマがあったのかと気付かされる。
河村屋七兵衛(河村瑞賢)の生涯を辿り、航路開発のみならず、様々な治水や銀山開発へ取り組むドラマが描かれる。
プロジェクト管理、ミクロ経済学、人生訓、様々な視点からも気づきと刺激のある小説。江戸時代の行政、公共事業がどの様になされたか、プロジェクトXの様に読めた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
河村屋七兵衛(河村瑞賢)の生涯を描いた作品。
七兵衛の人や仕事に対するスタンスにひたすら感銘をうける。なんといってもその柔軟さがはんぱない。こうありたいものだ。
漬物屋から漆喰屋、人材派遣、材木問屋という商人として大成をするまでが序章という恐ろしさ。その後明歴の大火をきっかけにとし、江戸のインフラ整備に携わっていく…
「今、自分が何をすべきかを常に考えていろ」という五郎八の教えが好き。 -
「何か新しいことをやろうとすれば、問題が次々と出てくるのは当然のことだ。それを地道に片付けていく根気があるかどうかが、成功者と失敗者を分けるのだ。」七兵衛のこの言葉が心に響く。気持ちが萎えたとき、何度も思い出したい言葉。著者らしいマッチョな世界観で構成されているが、挫けそうなときに気持ちを奮い立たせてくれる一冊。
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『商いとは人のしないことをし、人の望む物を望む形で供すること。』
まずここから始まる。
河村屋七兵衛自身は、学問や芸術で大成したわけでもなく、抜きんでた技術を身につけていたわけでもない。ひたすら実直に困難に立ち向かうだけ。
『大計を論ずる者は小費を惜しまず。速きを欲さずしておのずから速き者なり。』
物事を推し進める奥義ではないだろうか。
『いつか死ぬその時に、もっとがんばればよかったと思わないために、今出来ることに全力を尽くさねばならない。』
『人の成功を喜べる者に、商いの神は微笑む。』
『人なんてものは皆、取るに足らないもんさ。だがな、取るに足らない男ほど何事にも真摯に取り組む。そして成果を出す。その見本があんたさ。』
『人とは怒鳴りつけて動かすものではない。その人の気持ちを理解し、人それぞれの値打ちを尊重し、気分良く仕事ができる環境を整えてやれば、人はいくらでも力を発揮する。』
なんの道にも通ずるような、深いセリフの数々。
再読希望 -
河村屋七兵衛(河村瑞賢)の携わった数多くのプロジェクトをまとめた内容だが、それぞれの事業で優秀な助太刀を的確に見つけ出して、彼らと心を通じてお互いに仕事を完遂させる手腕は素晴らしい.冒頭の木材調達での山村三郎九郎、東北の米の輸送での武者惣右衛門、西廻り航路の開発での船大工清九郎、大阪平野の河川改修での甚兵衛、銀山の開発での粂八や宗甫などなど.苦労を跳ね除けて事業を完成させる馬力には感心する.凄い人物だ.
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江戸時代前期、社会インフラの整備に活躍した大商人、河村屋七兵衛(河村瑞賢)の生涯を描いた歴史小説。
明暦の大火(1657年)で店を焼失させ、三男兵之助を失った材木仲買人の七兵衛は、失意の中一念発起して木曾の木材を買い付けに走り、巨額を得、その金で米を買って江戸に戻り、罹災者向けに粥施行を行う。その後、保科正之に直訴して幕府から資金を得、腐敗した遺体を回収・火葬、その地に回向院を建てる。その後幕府の手足となって江戸再建に奔走し、豪商となっていく。幕府から信頼された七兵衛は、その後も航路開発から治水工事、鉱山開発まで大型プロジェクトを任され、粉骨砕身して次々と難事業を成功させていき、「当代随一の普請巧者(事業推進者)」の名声を得る。
その商いの真髄は、「人のしないことをし、人の望む物を望む形で供する」ことであり、「自分の損得だけを考える商人は、いつの日か必ず淘汰されるという「理」を知」り、「目先の利にこだわらず、大局観を持ち、互いの利を考え」、「己のためでなく、他人のために役立つ仕事をし」、嫉妬することなく他人の成功を素直に喜ぶ心根を持ち、「仕事こそが生きがいであり、体が動く限り、世のために働き続けることを当然と考え」、どんな窮地に陥っても諦めず考えに考えて解決策を捻り出し、何かで自分より秀でている者に対して(年齢や身分を問わず)敬意を払うこと、にある。しかも、商人としての損得勘定は忘れず、ただし、決して他人を出し抜いて儲けようとしない。
確かに、このような生き方を徹底することがきれば、高い信頼と尊敬を集め、商人(というより人間)として大成するわなあ(普通、なかなかここまで身を粉にして働けないし、私欲を無くすことも難しいんだよなあ)。
82年の生涯を全力で走りきった七兵衛。その業績は圧巻の一言に尽きる。
なお、七兵衛が新井白石に言った「今日明日、飢え死にする者を救うのは政治の仕事。来年、飢え死にする者を救うのが商人の仕事です」という言葉が印象的だった。 -
河村瑞賢の名は、教科書や小説で知っていたが、東廻り航路や西廻り航路を作ったというのがどういうことなのか具体的に分からなかった。この本を読んで、長年の疑問が解けた。
一商人であるのに、数々の功績をあげたのは、驚きだった。 -
解説には「河村屋七兵衛の名を知る人は多い」と書かれていたが、私は、この作品で初めて知った。物流、防災、食料増産、資源開発。経済の大本となる大きな事業を、これほど多く手掛け成功させた人がいたとは。しかもそれが、江戸時代の一商人が成し遂げたことだとは。まるで、天下取りの一代記のような壮大な一生は、実に面白かった。
もちろん、七兵衛こそが、面白い一生だったと心から満足していることだろう。 -
冒頭の方で、木曽を訪ねた七兵衛が出くわした地元の子ども達に「一寸した玩具」として、子ども達が珍しがった銭をあげる場面が在る…七兵衛が大物になって行く前の、「明暦の大火」というようなことで江戸が大変な騒ぎだったような時代…「全国津々浦々で銭が幅を利かせていたのでもない」という状況が反映されている…七兵衛が手掛ける航路のような、全国各地を結ぶ輸送ルートが拓かれ、定着して発展する中、全国津々浦々で“貨幣経済”ということになって行く…或いはそれが「江戸時代の社会変化」な訳で…正しく七兵衛は「“江戸時代”と呼ばれるモノの礎を造った」ということにもなる訳だ…
或いは…「“ビジネス書”的な“時代小説”」という感じがしないでもないが…“ビジネス”ということではなく、「驕り高ぶらずに、正直に仕事を続けようとした男」の物語、息子達に先立たれるというような不幸も在りながら、それを乗り越えて精力的に仕事に邁進する生き様…そういうようなモノが活写され、夢中になってしまった…