震災と鉄道 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022734211

感想・レビュー・書評

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  • あんまり合わない、この人とは。
    いまいちだった。

  • 本書の元になつたのは、ウェブマガジン上のインタビュー記事ださうです。しがたつて語り口調なので読みやすいのですが、内容はこの上なく重いのであります。
    原武史さんは鉄道関係の著作がいくつかありますが、本職は政治思想史。専門外の気楽さからか、過去の鉄道関連著作には良い意味で「軽み」があります。
    ところが本書『震災と鉄道』は違ひます。

    一読しますと、原武史さんの怒りや焦り、どうしやうもない悲しみが伝はつてくるのであります。何だかやるせない感じと申しますか。
    主にJR東日本に対する苦言が目立ちます。地元民鉄(例へば三陸鉄道)が復興へ向けて明確な目標と、それに必要な支援を要請してゐるのに対し、JR東は東北新幹線を早々と復旧した事で満足して、依然運休中のローカル線をどう復興させるのか、全く明らかにしません。まさか足手まとひのローカル線がこれで廃線に出来る、などと考へてはゐないでせうが。

    また、こんな非常時にもリニア新幹線の建設計画を変更することなく邁進するJR東海にも言及します。
    リニアの駅ひとつ作るのに地上駅なら350億円、地下駅なら2200億円かかるとされてゐます。一方JR東は、被災したローカル線をすべて元通りにするのに1000億強と表明してゐます。すると地下駅1駅の分で被災ローカル線は助かるといふ計算になりますが、お金をこちらへ回さうといふ話にはならないのであります。突き進め!リニアだ!といふ感じですかな。

    私見では、東北新幹線を最優先に復旧させたりリニアの建設をすすめたりするのは、「復興」「躍進」が実に分かりやすい形で人民に伝はる、象徴的な意味合ひがあるのではないかと思ひます。
    唐突な話ですが、これはウルトラセブンに登場した「ガッツ星人」を想起させます。
    地球征服を狙ふガッツ星人は、セブンが普段モロボシダンといふ地球人に化けてゐることを突き止め、「ならばダンを殺せばいいではないか」といふ意見が出ます。しかし結論は「いや、セブンでなければ駄目だ」。
    その理由を佐原健二のタケナカ参謀が述べます。「我々の心のより所であるセブンをその眼前で抹殺することによつて、地球人は容易に屈服を認めてしまふだらう」
    JRの方針とガッツ星人の戦略は似てゐるやうに思ふのですが、違ひますかな。

    原武史さんは言ふだけではなく、自分で出来る支援として、三陸鉄道の切符を60万円分購入したさうです。そして人に会ふたびにこれを渡し、支援の必要性を訴へたといふことです。
    お金は、有る所には有るのです。それが効果的に使はれず、支援を待つ場所へは届かないのがもどかしい。そんな状況なのです。

    http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-260.html

  • 最近お気に入りの原武史先生の新書本。
    鉄道から色々なことに話がおよぶものなのですね。勉強になりました。

  • やはぶさもリニアも東京に近くなることだけがメリットで通り過ぎるだけの街が多過ぎる。街に鉄道が走ることは日常の安心を生み出し、車窓は観光資産という速さだけでない鉄道の一面を支持したいです。

  •  2011.3.11の東日本大震災による鉄道被害とその後の復興についての苛立ちを綴った、言わばJR東日本・JR東海への批判の本である。
     特に、震災前からJRは国鉄時代の地方の赤字を抱えたローカル線を次々と廃線し、または第三セクターに売却して国鉄時代の鉄道ネットワーク網から寸断させてきた。そして、地方在来線の運行本数を減らして地域の足を奪ったあげくに、新幹線を通して言わば「地点から地点へ移動するための手段」を通して、日本が特有に抱えてきた、鉄道が有する公共性・コミュニティ機能を次々と壊滅に至らしめたと、痛烈に批判する。その批判の手は現在計画が進められているリニア新幹線にも及ぶ。リニアだろうが新幹線だろうが、要は東京(名古屋)へ行くための利便性を高めるために過ぎず、新幹線が開通しても通過する駅には何ら恩恵を与えず、ストロー効果により余計に地方が疲弊していくと、その忸怩たる思いを赤裸々に綴る。
     そう、鉄道を使って地域を独占的にコントロールしてきた構図は、まさに東京電力と変わらないではないか、とその鉄道事業の社会的責務を東日本大震災が起こっても全然果たしていないと、氏は批判を重ねる。そして、鉄道が日本で果たしてきた公共性や余暇の機能を取り戻すことが、震災の復興だけでなく、今後の高齢化・少子化・人口減少社会の日本で欠かせないことであると、本書では強調されている。
     日頃、電車通勤で苦しんでいる身としては、JRの姿勢に疑問を呈することも少なくない(特に夜のラッシュ時での私鉄との運行本数の差)。やはり巨大な企業だから様々なニーズに対応しきれないのだろうか。

  • この国のかたちが復興を通して見えてきます。
    鉄道に関して、イギリスの歴史学者のトニー・ジャットの『荒廃する世界のなかで』(みすず書房、2010年)でヨーロッパ大陸の大部分の国とイギリスやアメリカ型の政策の違いとして社会共有性と効率性の重視の違いがあることをあげていました。鉄道という公共性が失われ、自動車という個人主義へと向かうのでしょうか。

  • 震災と鉄道は今年もっともホットな話題である。
    インフラ、環境、経済、交通、電力、安全、インフラ、技術、文化、幸福に関する国家観が問われるテーマである。今、世界は信用を失う出来事で満ち溢れ、今までの安心・安定した世界が、壊れていっている。日本は未曾有の大災害で破壊尽くされた感があるが、その他の国家は自滅に近い形で、崩れつつある。国家さえも崩れ落ちれば、この世にはもう信用できるものがないのかもしれない。間近にいる人間さえ信用できない世の中で国家は自らを定義できるのだろうか。
    鉄道が象徴的なのは、インターネットができるずっと前から、鉄道はネットワークを築くことが目的であったということだ。道路はもちろんそうなのだが、道は点と点をつなぎ線にする役割を果たす。それが網の目状に張り巡らされネットワークを築く。ここには、交流があり、信用がある。東日本大震災によって寸断された東北海岸の鉄道線をフォローするのは、新潟・山形・秋田の鉄道路線であり、道路である。ネットワークを築く意味はそういうところにある。経営だけの意味で路線を考えていては、保障された生活は守れない。震災という強力な分断の力に対抗できるのは、もう一度ネットワークを構築しなおすような信用の力しかない。今、日本に求められているのはその力であり、今世界が失いつつあるのはその力である。
    また、著者の「リニア鉄道」に対する意見も今まで考えたことがなかったが一理はある。速度ばかりを追い求めるのではなく、ゆっくりと観光ができるような特別急行を作れというものだ。だが、それは、両立できると思う。世界最高最速の世界一安全な乗り物を作る気概がなく、豊かな生活は得られない。ゆっくり旅をする楽しみもまた豊かな生活であるかもしれないが、世界一という自負心を持てることはそれもまた豊かな生活である。
    震災に負けない世界一すばらしい社会を作ろう。
    鉄道建設にはその可能性があるといえる。

  • びぶりお工房:録音版製作担当者きまりました。(2011年11月9日)

  • JR東海のリニアモータープロジェクトの今後が興味深い。
    これに逆行して、旅の雰囲気重視の在来線特急の需要はあるんじゃないかと思った。

    鉄道の公共性、地域性について改めて考えられた。

  •  原さんは政治学者でてっちゃん。

     小生も、鉄道は好きで、世田谷線沿線にマンションを購入し、毎日ご機嫌で世田谷線に乗っている。

     原さんは、てっちゃんとして、今のJRの体質を厳しく批判している。

    ①東日本大震災の際のJR東日本の対応について、「帰宅難民」をできるだけ減らすためにも、JR東日本は私鉄各社と連絡をとりつつ、私鉄への影響が大きい山手線を優先して動かすべきでした。(p29)

     原さんによれば、東京大空襲や広島原発のときにも、国鉄は翌日から動き出したとのこと。それに比べて、JR東日本の対応はひどかった。

    ②ディーゼルの機能が向上してきたことを踏まえ、電車の電力消費によるCO2排出量とディーゼルのCO2排出量を比較し、エネルギー効率やコスト面、災害時のリスクなどを総合的に考慮して、両者をベストミックスで使い分ける。(p37)

     こういう発想は、コジェネなどをつかった面的エネルギー利用の発想と近いと思う。

    ③リニアについて地震時の代替手段となるという主張に対して、既存の路線に必要な対策を施せば、9兆円もかけて長大なトンネルを掘らなくても済みます。(p161)

     リニアについては、JR東海が自費で整備するのであまり目が行き届かないが、そんな国家プロジェクトを一つの会社ができるということは、東海道新幹線の料金が不当に高すぎるのではないか。

     そういう意味では、リニアの整備費用は新幹線利用者である国民の負担だとも考えられる。

     いずれにしても、てっちゃんにして政治学者の原さんの意見がとてもユニーク。

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著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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