戦国の村を行く (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022951267

作品紹介・あらすじ

信長、秀吉の時代、あいつぐ戦乱に加え、飢饉・天災にみまわれるなどの過酷な環境を村人たちはどう生き抜いたのか。落城後の城下で横行したのは苛烈きわまる「人の略奪」と「売買」だった。戦国の戦場には一般の雑兵たちのほか、「濫妨衆・濫妨人・狼藉人」といったゲリラ戦や略奪・売買のプロたちが大名軍に雇われ、戦場を闊歩していた。戦争の惨禍の焦点は身に迫る奴隷狩りにあったのだ。村の人々や領主はそれにどう対処したのか。戦国時代、悪党と戦い百姓が城をもった村や小田原攻めの豊臣軍からカネで平和を買った村などの存在が史料から浮かび上がる。したたかな生命維持装置(サヴァイヴァル・システム)としての村とは何か。戦国時代研究の第一人者による名著復活。

感想・レビュー・書評

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  • 1997年刊行の朝日選書に部分的な修正を施し解説を加えた新書版。
    はしがきにある「村人たちの目で、戦国時代を生き生きと魅力的にとらえてみよう、という意図」に引かれた。

    中世の村人といえば、「強大な権力をもつ領主」に虐げられる「貧しくされるがままの民衆」といった受け身の存在をイメージしがちだが、本書が提示する村人たちの実像はそれとは大きく異なる。独自の軍事力の準備に怠りなく、年貢をめぐっては領主との交渉をしたたかに進め、戦時にはビジネスチャンスとばかりに武士相手に利益をあげ、徹底した日和見主義により敵味方の情勢によっては自らの決断で領主を見限る。ひ弱な民衆像とは縁遠い、生きるためには手段を選ばない、したたかで主体的、自治的な共同体の在り方が浮き彫りになる。

    領主側としても常に村人たちの顔色をうかがいながらの統治だった様がうかがえる。先のように年貢もあくまで交渉にもとづき、戦争や作業等への協力を求めるにしても、報酬を支払ったうえでの丁重な「お願い」の形をとり、領主が強権をふるう一方的だと思われがちな両者の関係性へのイメージは覆される。秀吉の刀狩りに関する考察も興味深く、民衆に対する下手に回るお願いが基本であり、一般人の完全な非武装化が達成されるのは第二次大戦後だったとしている。

    もともとが新書として出版されたものではなく、資料を丹念に当たる学術的な内容のため、記述そのものについては新書らしい取っつきやすさは少ない。「戦国時代の実態とは全くかけ離れたものだった」とされる、映画『七人の侍』に本書を絡めた解説も面白く読むことができた。物語などで定型的に語られる一方的な領主と民衆の関係を離れた、本書で語られるような民衆への見方に立脚した物語作品があれば面白いだろうと想像した。

  • 織豊期、領主:支配層と村人:百姓は、ほぼ対等に渡り合っていたということに、新鮮な驚きを覚えた。支配層の為政に不満があれば裁判もし、それでも聞き入れられなければ逃散も辞さない。しかも、戦乱の際に村人は、領主の館、寺社、果ては山の中の簡易な「城」に避難して、生命と財産を守るしたたかさがあったのだ。まさに自助・共助の実践で、いつから依存心は高いくせに、為政者に対する正当な反発ができない民族になってしまったのか?

  • 1997年刊行のものを校訂・解説を付加した再刊。戦国時代の村の実像を多種多様な史料を元に描き出す内容。自立性を持った組織としての在り方、年中行事からうかがえる生活の様子など興味深い内容が多い。

  • 来年の大河ドラマのための情報収集の一環として読む。作者が鬼籍に入られていたことを本書で知り、驚いた。
    本書で実際の村の記録として度々名前が挙がる入山田村については、勝俣鎮夫氏のハードボイルドな絵本でその存在を知っていたが、村人たちの死と隣り合わせの巧みな生存戦略と乾いた死生観に打ちのめされる。

  • 1 村の戦争(戦場の荘園の日々-和泉国日根荘/村人たちの戦場/戦場の商人たち)/2 村の平和(荘園の四季/村からみた領主/村の入札)/3 中世都市鎌倉(鎌倉の祇園会と町衆)

  • 乱世を生きる人々にとって、安全保障は一方的に与えられるのではなく、勝ち取っていくものでもあった。山に砦を擁する村、強い領主を選ぶ村など、能動的な百姓の姿が興味深い。何でもありの状況下では、放火虐殺や飢餓で死ぬのは勿論、生き残っても奴隷売買や人質ビジネスの憂き目に遭うなど、一歩選択を誤れば地獄が待っていた。その中で人々がどうサバイバルしたか、大名同士の争いだけではなく、それが戦国時代そのものという気がした。古い著作を再編集した本なので、中世から近世の村の風習などを扱った章も挟まれ、それ自体は興味深いものの、全体的に統一感が無いのは惜しい。

  • 従来の貧しい農民と搾取する武士、階級闘争観をくつがえす。たくましく生き抜いた戦国の農民の真の姿を探る名著の復刊。

    日本の歴史、搾取する階級と虐げられる農民という史観が定番。本書は実に多くの文献から実は対等だった領主と村人の関係を実証していく作品。

    歴史において一方的な思い込みが危険であることを本書は教えてくれる。

    支配者が変わる度の徳政令であったり独自に武装し戦ったり、また入れ札により村の平和を守る工夫など。

    本書は1997年に朝日選書で出版された作品を筆者の逝去後に新書で復刊したもの。歴史のダイナミズムを知るに最高の一冊でした。

  • 東2法経図・6F開架:210.47A/F59s//K

  • <目次>
    第1部  村の戦争
     第1章  戦場の荘園の日々~和泉国日根荘
     第2章  村人たちの戦場
     第3章  戦場の商人たち
    第2部  村の平和
     第4章  荘園の四季
     第5章  村からみた領主
     第6章  村の入札
    第3部  中世都市鎌倉
     第7章  鎌倉の祇園会と町衆

    <内容>
    昨年惜しくも亡くなられた藤木さんの復刊。中世後期、特に戦国期から安土桃山期にかけて、さまざまな説を出された。特に秀吉の「惣無事令」は有名(認めるかどうかでもめているが)。この本は前に出たものの復刊で、弟子の清水克行さんの簡単な解説が載る。講演などからの起こしなので、大変読みやすいし、戦国時代の庶民(特に農民)の生活がわかるものである。

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著者プロフィール

藤木 久志(ふじき ひさし)
1933年 新潟県に生まれる。新潟大学人文学部卒業。東北大学大学院文学研究科修了。群馬工業高等専門学校専任講師,聖心女子大学助教授,立教大学教授,帝京大学教授を歴任。現在,立教大学名誉教授。文学博士。日本中世史専攻。[主な著書]『豊臣平和令と戦国社会』(東京大学出版会,1985年)、『戦国の作法』(平凡社,1987年。1998年に平凡社ライブラリー,2008年に講談社学術文庫より増補版刊行)、『雑兵たちの戦場』(朝日新聞社,1995年。2005年に朝日選書より新版刊行)など多数

「2019年 『戦国民衆像の虚実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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