文豪の悪態 皮肉・怒り・嘆きのスゴイ語彙力

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023318748

感想・レビュー・書評

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  • 先日読んだ、『文豪たちの悪口本』では様々な『悪口』が掲載されているだけだったが、こちらは著者の解説がしっかりと書かれているのでよりその背景…文豪たちの人間関係、人生や生活などが分かって興味深い。ただ『悪態』というほど『悪態』っぷりはなく、その点では『悪口本』よりはおとなしい。

    『悪口本』で疑問だった、永井荷風と菊池寛の険悪な関係がこの本で分かったのも収穫の一つ。
    なるほど、結局のところ価値観の違い、考え方の違い、性格の不一致と言ったところか。要は徹底的に相性が悪い二人だったのだ。
    しかし荷風先生、いくら嫌いな菊池寛だからといって名前を間違えるのは良くない。誰だって自分の名前を書き間違えられるのは気分が良くないだろう。もちろん校正の甘さのせいもあるので先生だけの責任ではないが。
    開き直って菊池寛を悪し様に書いているが、これが逆に菊池寛が永井荷風の名前を間違えて雑誌に掲載しようものなら、もっと痛烈な批判をしたはずだ。

    恥ずかしながらこの作品で様々な文豪たちの師弟関係も知った。
    泉鏡花が尾崎紅葉の弟子だったのも知らなかったが、その紅葉の遺品を経済的に困窮した遺族が買い取ってくれないかと鏡花に頼んだものの断ったというその理由も意外。
    内田百閒が漱石の弟子であることは知っていたが、そのことを信じてもらえず漱石自筆の軸を買い叩かれてしまうさまは何とも切ない。
    しかし一方で困窮ゆえとはいえ、借金を平気で踏み倒す文豪たちもいるのだから致し方ないのか。

    室生犀星の妻への、結婚前の猛烈なラブレター攻撃はなかなか。そっちは掲載されていないが、ラブレターに戸惑う奥様の手紙からしても相当なことが書かれていたのかなといろいろ想像してしまう。
    だが上手くまとまったあとは寧ろ奥様の方が積極的なのだから面白い。

    明治~大正の作家や詩人俳人は経済的に困窮しているイメージが強いが、そんな中、戦時中でも贅沢な暮らしをしていたという谷崎潤一郎を皮肉った三島由紀夫、石原慎太郎の『太陽の季節』が登場してあまりのジェネレーションギャップに拒否反応を示す宇野浩二など、皮肉部門も興味深い。

    菊池寛もなかなかの人物だが、直木賞の名前になった直木三十五も強烈だ。だが小説家としてはそれほど有名作品がない直木の名前をなぜ冠したのか、菊池寛にとってはそれほどお気に入りの人物だったのか。

  • 明治~昭和期の文豪たちの悪態な文を集め、背景等を解説。
    〔第一章〕「馬鹿」「田舎者」・・・夏目漱石、尾崎紅葉等。
    〔第二章〕文豪の嘆きとぼやき・・・永井荷風、小島政二郎等。
    〔第三章〕喧嘩もほどほどに・・・太宰治、菊池寛、幸田露伴等。
    〔第四章〕その「皮肉」も効いていますね・・・三島由紀夫等。
    表題・文豪の語彙・文豪と相手の経歴での構成。
    文に続き、言葉の意味からの導入は、ユニークです。
    「しょげる」が江戸時代までは、どんちゃん騒ぎという意味とか、
    これだけでも面白い。ですが、更に面白いのが、使う文豪さん。
    文豪さんも人の子ですから、怒ったり嘆いたりすることがあります。
    さすがに手は出ませんが、口をつく言葉、書く文章で表現します。
    見事に相手の本質を、的確に表現しているものもあります。怖い。
    永井荷風VS菊池寛。中原中也VS太宰治、あ、これは手が出てるか。
    菊池寛VS中央公論社は書いた広津和郎のオロオロぶりがなんとも。
    それだけではなく、文豪さんたち、パワハラ・セクハラ・DV等、
    なんでもありで、現代だったらSNS炎上極まる行状が、あちこちに。
    作品よりも評伝を読みたくなってしまったくらい、
    凄まじいものでした。

  • 文豪たちの喧嘩は言葉も手も足もでて、血気盛んだ。

    言葉の由来や意味の変遷を紹介されていて、言語的にも面白い。
    豊かな語彙を駆使してほとばしる悪態。胸をえぐられてもそこから立ち上がるエネルギーを持ってこそ文豪なのだ。
    …子どもの喧嘩か!というのもあったけど。
    「子供」の漢字の意味合いは、著者の意見がしっくりくる。

    夫婦喧嘩は、微笑ましい。
    ←DV は除く。

    樋口一葉、お兄さんが病に倒れなければ、母が結婚に反対しなければ、もっと長く生きられたのではないか。

    石川啄木、小説も書いてはったのか。

    江戸川乱歩、大阪に住んでいたこともあったのか。

    鈴木三重吉、どんだけうらまれとるんだ。

    室生犀星、奥さまとの書簡

    尾崎紅葉の俳句を読んでみようと思った。

  • 表紙やアオリのポップさからは少し印象の違った中身。期待よりは堅めの内容だった。
    文学部教授でもある著者は漢字が専門なのか、悪態フレーズに使われた漢字の字義を字の成り立ちから解説してくれる。悪態の紹介にしてはちょっとピントのズレた導入ではないかと思うけど、これが案外とても面白かった。
    例えば「分」という字は「八」と「刀」からできていて、これが「刀で八つ裂きにする=分ける」になつた、という説明。ホンマかいなと思うけど面白味はある。
    ただ文豪の悪態フレーズ自体は、そこまで文豪ならではの語彙力が閃くと感じられるようなものはあまり無かった。
    とまれ明治〜昭和期の文芸家の書いたものがここまで残っていて人となりもよく分かっているという事実が地味に新鮮な驚き。150年前はそんなに遠い昔ではない。

  • タイトルほど悪態ではないな、と思いながら読んだ。ただ学生の頃、文学史にで出来た文豪たちが喧嘩は口だけでなく殴り合ったり、糊口を凌ぐ生活をしながらも文学に魅せられていた生活ぶりなど意外な一面を知ることができた。

  • 100冊ビブリオバトル@オンライン第11ゲームで紹介された本です。オンライン開催。チャンプ本。
    2020.08.22〜23

  • 悪態でもないような……という物も多い気がした。個人的には、文中の単語の豆知識よりも文豪についての話をもっと書いてもらいたかったなと思った。

  • 前書きにある”変な人がいつの間にか、この世からいなくなっている”私も感じていた。常識的で単に正しい人ばかりの世の仲は良いのか、悪いのか…。人間ってそんなに変わるだろうか。これはただ表面に出なくなっただけかも。それならかえって恐ろしいことだ。
    樋口一葉
    24歳で結核のため亡くなる。父は警視庁を退職し事業を始めるも騙され、失意のうちに死亡。彼女は莫大な借金を背負い、原稿料で借金地獄から抜け出そうとする。晩年のわずか14か月で「たけくらべ」「にごりえ」「大つごもり」「十三夜」「わかれ道」を書いたと知る。
    菊池寛
    私の国語教師が”馬鹿寛”といつも言っていたので、そのイメージのまま現在に至る。しかし、小説の他、フランダースの犬などの有名童話を翻訳し日本に広める。文藝春秋を立ち上げ、直木賞と芥川賞を創設。今に至るまで文芸界に絶大な貢献が有るではないか。馬鹿には無理な相談だろう。
    佐藤春夫
    「秋刀魚の歌」を知っているくらいだが、谷崎潤一郎の妻、千代を想って作ったとのこと。九年後谷崎と離婚した千代を譲り受けることに。「細君譲渡事件」と呼ばれるらしい。
    芥川龍之介
    生い立ちは良く知らなかったが、なんでも生後9か月に実母発狂。母はその後10年に及ぶ発狂で廃人となった。これが芥川の子供時代にどれほどの影響をもたらしたことか。しかしその後一高から東京帝国大学を抜群の成績で卒業。「鼻」を漱石に激賞され、数々の秀作を世に出している絶頂期に自ら命を絶つ。天才の行動は凡人には判らない。
    中原中也と太宰治
    この二人の喧嘩がすごい。中原の作品からは想像もできない。
    おでん屋”おかめ”にて、中原が太宰に「なんだおめえは、青鯖が空に浮かんだような顔しやがって」まぁ喧嘩の口調も詩的とは言えよう。その後色々言い合い、遂には乱闘に。おかめのガラス戸は粉微塵となり果てる。
    太宰は中原の事を「蛞蝓(なめくじ)みたいにてらてらした奴で、とても付き合えた代物ではない」と此方もなかなかの表現力であった。
    直木三十五
    早稲田の英文に入学するも、卒業年に学費未納で除籍。しかしその後も平然と登校。卒業式にも出席し記念写真にも納まる。菊池寛から毎年ペンネームを変えるのを止めろと言われ、三十五で決めた。文藝春秋に毎号辛辣なゴシップを書き文壇から嫌がられる。債権者が大勢家に押しかけても、奥の部屋に襖も障子も開け放ち、屏風だけ立てて悠然と寝ており、皆が夜になり帰ると起きだす。たまに帰らない頑固者がいても、起きだし一緒に火鉢にあたり、どんなに催促しても「出来たら払う、今は無い」とだけ言い、債権者は撃退される。
    作品として目立ったものは無いが、大衆文学の質的向上に貢献。菊池寛のおかげで名を残すことに。
    石原慎太郎
    先日亡くなったので一応記す。
    太陽の季節は文学の世代交代を明確にしたと言われる。宇野浩二はこの小説は面白おかしく読ませるところは有るが、唯それだけの事。著者は案外に常識家のようだが、読者を意識に入れ、わざと新奇な猟奇的な淫靡なことを書きたてているだけ、という。これは私の石原への感じ方と完全に一致している。
    が、同じ芥川賞の選考者でも井上靖や石川達三などは評価して(好きではないが達者で神饌、新人らしいとか)おり受賞となった。
    現在でも作家の中には”変な人”は数多くいると思うけど。

  • こうしてみると意外と悪態はついてないんだな、文豪

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著者プロフィール

1963年、長崎県佐世保市生まれ。大東文化大学文学部中国文学科教授。中国山東大学客員教授。博士(中国学)。大東文化大学文学部卒業後、同大学院、フランス国立高等研究院人文科学研究所大学院に学ぶ。ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。専門は、文献学、書誌学、日本語史など。著書に『心とカラダを整える おとなのための1分音読』(自由国民社)『文豪の凄い語彙力』(さくら舎)ほか多数。

「2020年 『語感力事典 日常会話からネーミングまで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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