北風のわすれたハンカチ (偕成社文庫)

著者 :
  • 偕成社
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本棚登録 : 65
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784035512103

作品紹介・あらすじ

「北風のわすれたハンカチ」の他「小さいやさしい右手」「赤いばらの橋」を収録。異界の住人との交流を描く傑作中編。神宮輝夫による安房直子と対談も収録

感想・レビュー・書評

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  • 「北風のわすれたハンカチ」
    お話
    家族を人間に殺されて、独りぼっちのクマは、寂しくて、誰かに音楽を教えてもらおうと、家の扉にはりがみを貼ります。北風と、北風のおかみさんが、トランペットやバイオリンを持って訪ねてきますが、結局、教えてもくれずに、お礼のカンヅメとぶどうだけ貰って、出て行ってしまいます。
    雪の日に、クマが涙をこぼしていると、北風の少女がお客にきます。そして、青いハンカチを取り出すと、魔法を使って、ホットケーキの材料を出し、二人分のホットケーキをこしらえて、楽しくおやつを食べます。クマは、この時間が、いつまでも続いて欲しいと思います。
    北風の少女は言います。「ねえ、知ってる?雪も、おちてくるときは音をたてるのよ。」「雪は、ほと、ほと、ほと、ってうたいながらおちてくるのよ。」「風にだって、雨にだって歌があるわ。木の葉だって、あたしがとおりぬけるとき、すてきな歌をうたうわ。ざざざーって。お花もみんな、一輪ごとに、歌をもっているわ。」
    クマは、この子が遠くへ行ってしまったら、また、何もきこえない、さびしい自分になってしまうのではないかと、悲しくなってしまいます。
    北風の少女がいなくなってしまった後、青いハンカチがふわりと置いてあったのです。忘れ物のハンカチを大事にしまっておいてあげようと考えたクマは、自分の、片方の耳の中に入れました。すると、不思議な音楽が聞こえてきます。
    ほと、ほと、ほと、ほと…それは雪の音でした。
    さっきよりももっとあざやかな雪のコーラスでした。雪はあとからあとからふりつもります。そして、クマの家の中では、耳に、青いハンカチを、花のようにかざったクマが、一ぴき、幸せな冬ごもりに入ったのです。

    クマの、さみしい気持ち、あたたかな気持ちがしみる、お話でした。
    この他、「小さいやさしい右手」「赤いばらの橋」を収録。 まものや小鬼のまごころを描いたお話。

    「小さいやさしい右手」の中で、小さいまものは意地悪な人間に、右手を切り落とされてしまいます。
    20年後、裏切られて、自分の手を切ったのだと思いこんでいた、大好きだった女の子の、のちのおかみさんに、そうではなかったのだと知らされ、
    「もうその人のこと、許してあげられない?」
    許すということは、かたきうちをしないどころか、その人に良くしてあげること、と聞いたまものは、
    おかみさんの言うことが、自分にはわからない。それは、ぼくがまものだからだろうか。と思い、
    「……あなたのいうことがわかりたいと…ぼくは思う……。」と、とぎれとぎれにこう言い、なみだを流すのです。
    なみだを知ったまものはそののち、光の王子の様な若者になって、軽やかな足取りで、森の奥深く消えていきました。

    、、、まものの素直さに感動します。まったく意地悪な気持ちでまものの右手を切った、女の子のまま母を、許してあげることは、このお話を読んでいる私でも、難しい事と思いました。

    • nejidonさん
      猫丸さん、ありがとうございます!
      私もそう言いたかったのですよ!
      りまのさん、そういうことなんです。
      分からないことを素直に書かれてい...
      猫丸さん、ありがとうございます!
      私もそう言いたかったのですよ!
      りまのさん、そういうことなんです。
      分からないことを素直に書かれているから、そこが素敵なのです♪
      2020/12/10
    • りまのさん
      にゃんこまるさん
      nejidonさん
      ありがとうございます!ますますこのお話が、好きになりました。まものくんが好きです…。
      にゃんこまるさん
      nejidonさん
      ありがとうございます!ますますこのお話が、好きになりました。まものくんが好きです…。
      2020/12/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      りまのさん
      最初にお話しした通りでしょう、、、綺麗な風景を見た時のように、心が温かくなります(切ないと言う相反するようなオマケ付きだけど)
      ...
      りまのさん
      最初にお話しした通りでしょう、、、綺麗な風景を見た時のように、心が温かくなります(切ないと言う相反するようなオマケ付きだけど)

      nejidonさん
      猫を褒めてはイケマセン。固まって毛繕い始めちゃうから、、、
      2020/12/10
  • ●「北風のわすれたハンカチ」あらすじ
    親や弟妹の命を人間の銃に奪われて、1人で寂しく暮らしているクマ。寂しさを音楽で紛らわせたくて、ドアにこんな貼り紙を出す。
    「どなたか音楽をおしえてください。
    お礼はたくさんします。」
    最初にやって来たのはトランペットを持った北風の男の人。次にやって来たのはバイオリンを持った北風のおかみさん。あまり感じの良くない二人は、クマをバカにしたような態度で、ろくに楽器も教えずに、お礼だけを手にして去っていく。
    最後に訪ねてきたのは、北風の女の子。女の子は、自分は「まほう」が使えるといい、青いハンカチを広げると、そこにホットケーキの材料を出してみせた。2人は一緒にホットケーキを作って食べ、そして女の子は音楽にまつわるある素敵なことをクマに教えてくれるのだった。


    「雪は、ほと、ほと、ほと、って、うたいながらおちてくるのよ」
    読み聞かせしながら、私は、安房直子の紡ぐことば自体がまるで雪みたいだなと思った。
    読み聞かせするには長いお話だったけど、ことばの軽やかさ、儚さ、鋭い冷たさや柔らかな明るさまで、身に染み込ませるように味わえたのが嬉しく、声に出して読むのに向いている作品だと思った。
    ことばの持ち味と描かれている孤独の深さとの間にハッとするような落差があり、そこがとても魅力的。

    そう、安房さんの作品を読むとき、心地よいことばに油断していると予想外に深い世界に引きずり込まれそうになることがよくある。
    物語が静かに心の奥深くに入り込み、内側からスーッと切り開いて「ほら、あなたの心の中身だよ。よく見てごらん」と優しく微笑みながら私に迫ってくる……安房作品に対しては、勝手にそんなちょっと怖いイメージすら持っている。

    ちょっと前に、本屋さんで、安房さんの絵本に「心がホッとあたたまる絵本」「癒しの絵本」といった紹介コメントが付けられているのを見かけ、自分のイメージとのズレを感じていたところ、以前読んだ河合隼雄×よしもとばななの対談本をふと思い出した。
    その本には、河合さんの言葉だったか、ばななさんの言葉だったか、「本当の癒しは命がけ」「心地よいだけで、気持ち良いだけで、癒されるということはない。嫌なことも全部引き受けて、両刃の剣みたいに切られながら治っていくんだ」みたいなことが書かれていた(かなりうろ覚え)。
    そういうことなら、安房直子の物語はまさに「癒しの物語」と言えるのかもしれない。
    普段、暇潰しのお気楽読書や現実逃避のための映画鑑賞ばかりしている私には、なかなかしんどい読み聞かせだ。


    ところで、北風の女の子はいつかハンカチを取りに来るのだろうか。
    読み終わった後、
    娘「女の子はもう来ないんだよ」とキッパリ
    長男「いや来るでしょ。俺だったらクマが心配だから毎年行く」
    次男「来るかもしれないけど、意地悪な大人の北風になってるかもしれないから来ない方がいいかもしれない!」
    それぞれの思うその先があるみたいだ。
    「来るか来ないかわからない人を待つって結構辛いものだから、いつか会えるという気持ちがクマさんの純粋な希望や支えにどうかなりますように」これは私の思うその先というより、ただの願い。



    ●目次
    ・北風のわすれたハンカチ
    ・小さいやさしい右手
    ・赤いばらの橋
    ・作家対談 安房直子×神宮輝夫
    「語るという形式にたいへん惹かれます」
    この対談、組み合わせもお題もとても興味あるのにまだ読んでいない……読まなきゃ!

    ●物語にぴったりの素敵な挿絵。できることならカラーで見たかった!

  • 児童書です。
    子どもの頃、図書館からアホみたいに何度も借りて読んでいました。懐かしくなって再読。
    あの頃、何度読んでも心がザワザワする感じがしていました。めでたし、めでたしでは終わらない深いストーリー。それが心を捉えて離さなかったのかな。
    大人になって読んでみて、これが児童書?と感じました。あんなに読んだのに、まるで新しい本を読んだよう。
    やっぱ深い。メヌエットの表現も素敵。
    児童書おそるべし。

  • 本当に優しいお話たち。
    音楽を習いたいくまさんと北風の少女の微笑ましい様子。ホットケーキは、そういうシーンにとっても似つかわしい。
    2作目のまものの男の子と妹娘の姿が可愛らしかったのに、立ちはだかった継母が、その後どうなったのか。大人になった妹むすめが幸せそうなのが救い。まものくんも、よかったんだよね、あれで。
    帽子からあこがれの少女を思い描いて崖をわたる子鬼くんが可愛くて楽しい。帽子の持ち主の少女もとってもいい子。
    安房直子さん、大好きだわ。

  • 数十年ぶりに読見ました。まったく古く感じない文体と、悲しいけれどあたたかなきもちにさせてくれるおはなし。

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著者プロフィール

安房直子(あわ・なおこ)
1943年、東京都生まれ。日本女子大学国文科卒業。在学中より山室静氏に師事、「目白児童文学」「海賊」を中心に、かずかずの美しい物語を発表。『さんしょっ子』第3回日本児童文学者協会新人賞、『北風のわすれたハンカチ』第19回サンケイ児童出版文化賞推薦、『風と木の歌』第22回小学館文学賞、『遠い野ばらの村』第20回野間児童文芸賞、『山の童話 風のローラースケート』第3回新見南吉児童文学賞、『花豆の煮えるまで―小夜の物語』赤い鳥文学賞特別賞、受賞作多数。1993年永眠。

「2022年 『春の窓 安房直子ファンタジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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