また、厚みと言うか、パンチの威力が増したな、この作品
視覚障碍者は迷惑だから、外に出るな、と思っている人からすると、吐き気を催すような内容かもしれないけど、私は好きだ
こうやって、全力で殴りかかって来る作品は、こっちも応戦のし甲斐がある
何つーのか、読み手の意識を変えてくれると言うか、人間的な成長の兆しを掴むキッカケのヒントをくれる、みたいな内容だ
視覚障碍者がヒロインって言うと、未読の方は身構えちゃうかもしれないが、ぶっちゃけ、そこまで重苦しくない
ハッキリ言っちゃえば、ごくごく“普通”のラブコメだ、この『ヤンキー君と白杖ガール』のストーリーは
好き合っている二人が、お互いの個性に触れ合いながら、お互いの一面を受け入れていき、周りの世界と折り合いを付けながら、二人で幸せな未来に手を繋いで、ペースを調節しながら、一歩ずつ歩いていく、ただ、それだけの話
まぁ、正直なとこ、この(3)のストーリーは、今まで以上に重いし、リアルをそのままに書いているな、と感じた
主人公・黒川は、これまで、恋人のユキコや仲間らのおかげで、人間的に強くなっていき、良い意味で丸くなっていた
だからと言って、彼の中から、どす黒い狂気が消え去っていた訳じゃなかった
むしろ、優しさと愛を知ったからこそ、彼の鬼っぷりは磨きがかかっていたのかも知れない
そんな黒川を昔の彼に戻さず、一線を越えさせなかったユキコ。彼女が、本気で黒川を好いていなければ、止められなかったはずである
うおやま先生の覚悟と言うか、伝えるべき事、自分が描きたい事を、自分のやり方で漫画にするってスタンスは確かに感じられる内容だったので、ますます、好感は抱けた
ちょっとショッキングな展開ではあるし、ハッピーエンドと言える顛末になっているか、そこも微妙ではあるにしろ、これだから、この作品は良い、と自信を持って勧められる、一ファンとして
ある意味、今回、ストーリーで最も重要な立ち位置にいた藤宮大地
ムカつく奴ではある、ただ、怒り以上に、同情の念を彼に抱くのも事実だ
可哀想とは安易に言えない、だからこそ、ただ一言、これからは戦え、とだけ言っておきたい
あっては欲しくないが、現実では起きているであろう、差別のトラブルを乗り越え、また、黒川とユキコの絆は強まったように思える
もちろん、彼らの進展も楽しみだが、個人的に好きなキャラが、青野くんなので、黒川とは違ったベクトルで天然女たらしっぷりを発揮して、空の可愛さをもっと引き出してほしいトコ
この台詞を引用に選んだのは、ユキコが黒川に惚れるのも解かるなぁ、と感じられるものなので
先にも書いたが、やはり、黒川は血が通い、心のある人間として、成長しているように思う
誰だって、人には傷があるんじゃないだろうか。生きていて、全く、傷を負っていない人間はいないように思う
この傷があるから、自分は自分なんだ、と受け入れて、前を見れなきゃ、強くない、と言うつもりはない
ただ、自分の傷や弱さから目を逸らしたくて、他の人の負っている傷を広げたり、根拠もなく攻撃して、必要のない傷を負わせるような奴は、間違いなく、弱い、心が
もちろん、その弱さは、環境によって押しつけられた可能性もある
ただ、自分が認められない苦しみを、頑張っている人に向け、傷付けてしまうのは、正しい行いじゃない
この人は、自分と違う傷があるんだ、自分と同じように向き合う努力をしてて、相手に解かって貰いたいって葛藤があるんだと知り、自分と相手の違いを、良い意味で、気にしないようにして、適した付き合い方を心がけていれば、人を死に追い込むような、悲しい差別は起こらないんじゃないか、と考えてしまう私は、まだまだ、甘ちゃんだろうか
人は、いつだって、どうしたらいいだろう、と悩んでしまう。けど、その悩みに対し、真剣に考える事が出来るのは人だけだ
自分と他人の心に向き合わず、揺れ動けなくなったら、人は何になってしまうのか、考えるだけでゾッとする
「俺は、顔にキズがあるんすけど、キズがねぇ奴なら置かれなかったハードルって、めっちゃあったと思うし。だから、キズのねぇ奴にゃわかんねーよって思った事もあるし。自分のキズって、おかしな『宝物』みたいだって思うんす。このキズで得た苦しみも、悲しみも、戦ってきた自分だけのモンなんだって。けど、一方で、誰かにわかってほしい、とか、わかりてぇって気持ちもあったりして。そうやって、毎日、あっちこっち、揺れ動かずにいるの、無理じゃないすか?俺たちは」(by黒川森生)
もう一つ、グッと来た台詞を
理由は、シンプルに言えば、獅子雄さんの器、そのデカさにグッと来たので
彼が、己が加害者である事を決して忘れず、前を向いて歩いていく強さを、苦しみの末に手に入れたからこそ言える、言ってもいい言葉だ、これは
人は弱い、だから、罪に手を染めてしまう事はある
弱さから犯してしまったとしても罪は罪なので、それは償うべきである
その償いは、誰でもない、自分を自分で救うためにすべきであり、自分を許せ、許してやってもいいのは、また、自分だけだ
罪を犯してしまった者にも、幸せになる権利はあるし、それを諾とする国であってほしい、日本には
まぁ、子供や障がい者を身勝手な理屈で殺したり、自分の才能を磨く努力を怠って逆恨みで大勢の人の命を奪う選択をしたり、神になりたかったって理由で人を轢き殺すような糞野郎どもは全員、ズタボロになるまで傷付けてから死刑にしてしまえ、と思っている狭量な私が、この台詞の良さを語っても、説得力が皆無過ぎるな、と自分では思ってます、えぇ
「私は、貴様の幸せを心から願う。ほかの誰が、なんと言おうとも、貴様が救われることを、心から願う。誰も、沼の底になどいていいわけがない・・・・・・」(by金沢獅子王)