- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784040721545
作品紹介・あらすじ
ヤクザが魔王と化し、彼らを殺す商売が勇者として合法化した現代。チンピラ勇者・ヤシロは、目先の金に目がくらみ勇者志願の女子高生たちの家庭教師を引き受けたことから、ロクでもない事件に巻き込まれていく!
感想・レビュー・書評
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WEB版の再読のつもりで読み返したけどやっぱり面白いなあー! いい意味でケレン味のある文体に草河さんの絵がよく合っています。ヤシロの露悪趣味の裏に隠れている熱さというか、捨てきれない正義感とそれに対する含羞というかがたまらなく好き。巻末には2巻の予告がちゃんと出てるんだけど、いつ発売されるんだろう?
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ネット小説と言えば「小説家になろう」が一大勢力を築いて久しいですね。
そんな中、この作品はコンテンツビジネスの雄カドカワが仕掛けた小説投稿サイト「カクヨム」における第一回Web小説コンテストで見事、現代アクション部門で大賞に輝いた作品になります。
時に、画を担当された草河氏は『魔術師オーフェン』の方らしいですね。私、富士見系の文化には疎いのですがビッグネームということはわかります。すごい。
※以後十三行に渡って身内話が続きますのでその辺に興味が無い方は飛ばしてください。
作者のロケット商会さんは作家「架神恭介」が提唱したWebコミュニティ「ダンゲロス」の住人でもあり、架神氏を皮切りに『憧れの魔法少女の正体が男でした。』の山田絢先生や『舌の上の君』のヰ坂暁先生など、この界隈の出身の方が続々小説家デビューしていることから別名「汚いトキワ荘」とも呼ばれています。[要出典]
通称が正しいかはさておき、作者のロケット商会さんはペンネームからわかるように「一にして全、全にして一」な謎の男として知られており、直接お会いした際は一応群体でなく単体として目撃したものの、ぶっちゃけ謎です。
言語化しがたいんですが、知っても知らなくても謎が増えていく謎の男です。
作家を渦巻く謎自体が物語を創出するっていう意味で、稀有壮大な人、液体で言うなら「テキーラ酒」みたいな人だと勝手に思っています。
※ここまで
勇者が魔王専門の暗殺者だって発想がどこから出てきたのか、研究するだけで一冊本が書けてしまいそうですね。
時に本作の舞台は「上級ヤクザ=魔王」が跋扈する現代日本、それに対するカウンター職が「勇者」と呼ばれ社会的風聞はすこぶる悪いという世界観です。
脇道は辿っているんですが、あくまで常道の物語といったところでしょうか。現実をベースに「エーテル知覚」などのワードをいくつか加えて再構成している感じなので把握も見やすく、とっつきやすいです。
ドラクエだって、ナンバリングを数えるにつれて勇者の存在感が薄れてきて仕方がない今日この頃。
だけど、ラスボスには相も変わらず魔王がでんとふんぞり返っています。魔王ありきの勇者ですもの、今日び存在価値が疑われても仕方ないね。
と、いうわけで主人公は擦れた現実を前に理想を失い、中年にステップをかけたチンピラ勇者ヤシロ。
不良で収まる程度に悪徳は積み重ねておらず、大悪を為すほど堕ちてはおらずそこそこの矜持と経験値も持ち、私のゲーム脳で勝手に判断するとレベル47(最高99)くらいの男です。
そんなこんなで彼は限りなくブラックに近いグレーな悪友たちと罵声を飛ばし合いつつ、仲良くカードゲームで遊ぶ日々(トッピングはピザとビールだ)を送っていたのですが。そこに持ち込まれるは厄介事。
ジャンルをラノベの方に引き寄せようとする三人娘なヒロインの登場です。連中、勝手に主人公に師事します。
男同士のバカな腐れ縁ってのもそれはそれで需要があると思うんです。よって、約一名除いてすごく真っ当なヒロインたちの登場に逆に面食らうなど。
繰り返しますが、私富士見系の文化とかには詳しくないんですが、色気も可愛げもないけど需要はあるヒロインって逆に新しいかなーと、古みも感じるんですけど逆に新しくもあるそんな雰囲気ただようこの作品が大好きです。
結論を言います、「城ヶ峰亜希(城ヶ崎ではないです)」、この女に作品の流れを大体持っていかれます。
作品の内外でネタにされまくるのも当然というか、ストーリーの誘引力は彼奴が大体担っているんです。
ですが……、物語の案内役になるヤシロの一人称視点が若干偏っているのを差し引いても、いろんな意味で全く嬉しくないんです。
恋愛で言うなら赤い糸、城ヶ峰で言うなら導火線。
城ヶ峰のチームメイトな他の二人娘は表と裏の世界で因縁とコネクションを役割分担していて、落としどころは見えてるんですが……。城ヶ峰は爆弾です。
イイ男なら物語の中で必ずいい女を連れてくるっていいますが、他の女性関係を取ってもアレな因縁が向こうからやってくる辺り、主人公はワルイ男なのでしょうか。
個人的にっていうか、大体の読者は主人公ヤシロに好感を持つとは思うんですが。
ともかく女性比率を局所的に上げつつも、ストイックな雰囲気を崩さないでくれているのは好印象。
話も順を踏んで凸凹な師弟関係、噛み合わない仲間のコンビネーションががっちりと組み合うことを描写してくれているのでなんともいえないよさがあります。
それでいて展開を転回させるカードの切り方も思い切っていて、次巻以降に繋がる伏線を差し引いたとしてもハッとさせる言葉が多いです。
男の子は仰々しい称号とか、組織の尖兵とか、その他諸々が大好きですから。
是非とも書籍で続きを読んでみたいです。
ココからはちょっとした余談。
ちなみに巻末には勇者のクズが書籍化する以前から作品を応援してこられていた、ぎふ県出身のイラストレーター「ナカシマ723」さんが2ページの予告漫画を寄せておられます。
ご自身の絵柄と草河さんの画を折衷して、独自性と味を出しているのを見ると感無量だったりってのは私事です。
付け加えると、Webゲーム投稿サイト「RPGアツマール」などでかの御仁が作成された同名のAVGゲームが遊べたりするので、興味がある方は探してみてくださいませ。
第一章のハイライトに当たるところまでをちょこまか動くドットキャラが演じてくれますので、とっても楽しいですよ。
次巻の舞台は北海道。
某所で数多の読者と対戦相手を恐怖と期待のズンドコに叩き落とした某神父に思いを馳せつつ、感想を締めましょう。