文鳥・夢十夜・永日小品 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041001172

作品紹介・あらすじ

夢に現れた不思議な出来事を綴る「夢十夜」、鈴木三重吉に飼うことを勧められる「文鳥」など表題作他、留学中のロンドンから正岡子規に宛てた「倫敦消息」や、「京につける夕」「自転車日記」の計6編収録。

感想・レビュー・書評

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  • 装丁に惹かれこちらの角川文庫を選択
    (このシリーズの装丁好きだなぁ…)



    注!)ネタバレ有り

    【京に着ける夕】
    正岡子規と本当に仲が良かったのだなぁ
    漱石は本当に子規のことが好きだったのだろう
    至る場所で子規のことに触れて、子規と行った時の京を偲んでいる
    子規のいない京で尋常ではない寒さを表現しており、悲しみの痛みがじんじん伝わる
    切ないのだが、ちょっと羨ましいくらいの友情だ…


    【文鳥】

    漱石の教え子である三重吉に
    文鳥をお飼いなさい
    と勧められ、その気にさせられ、相当待たされてとうとう買わされる(飼わされる)

    文鳥のはかなげで小さく壊れもののような描写が良い
    …まぶたの周りに細いと淡紅色の絹糸を縫い付けたような筋が入っている…
    細長い薄紅の端に真珠を削ったような爪がついて…
    文鳥の軽い様子を…淡雪の精のよう…

    想い叶わなかった他へ嫁に行った女性を文鳥にダブらせている
    「いったん行けばむやみに出られるものじゃない
    世の中には満足しながら不幸に陥ってゆく者がたくさんある」
    籠の中で満足そうにくらす文鳥をみて想いを馳せているのだろう

    途中から嫌な予感をさせる描写が続く
    朝起きるのを怠け出す
    家のものが文鳥の世話をしてくれたから…と、責任が軽くなったような心持ちがする
    餌壺が粟の殻だけになる
    籠が糞でいっぱいになる
    あ~あ
    そりゃあこうなったらどうなるか子供でもわかる
    当然の結果であるのに、最後は家の小女にやつあたり!

    鳥好き、動物好きからすると
    怒りが勝ってしまってどうも宜しくない
    最後まで懐かなかった文鳥
    硬く冷たくなったから初めて掌に乗せることができた
    皮肉なものである
    (鳥好きとしては可愛がっていたインコが死んでしまった時の感覚がフラッシュバックして嫌な場面である)

    立派な籠は台が漆で塗ってあった
    日向へ曝しておくと黒みが取れて朱の色が出てくると三重吉が言っていた通り、
    漆はいつの間にか黒みが脱けて、朱の色が出てきた
    この対比もなんだか腹立たしい
    描写はさすがなんだが、なんせと怒り奮闘で終わってしまった…


    【夢十夜】
    第一夜から第十夜で成る
    これ好きな人多いだろうなぁ
    夢と現実があいまい
    時間の流れは不思議
    ぞわっと怖いものや女子受けしそうなロマンティックなものまで…

    「第三夜」を読んで…
    子供の頃見た夢を思い出した
    幼稚園か小学生だ
    同級生を男の子をおんぶして歩いている
    男の子は自分からは見えないのに何か不穏なものを感じる
    おろして逃げたいのにおろせない
    もう耐えられない!と思って男の子を見ると…
    ひ、一つ目になっている
    怖いのにどうしてもどうしても下ろせないのだ
    あれから何十年経っても忘れられない
    きっと誰しも忘れられない不思議な夢や怖い夢や不可解なことがあるのだろうな
    そんな共感


    【永日小品】
    エッセイと短編かな?
    ノンフィクションとフィクションのはざまな感じ
    悪くない
    脳味噌使いまくった日でも、精神状態が高ぶっていても、疲れて寝っ転がった状態でも、
    半分寝落ち状態でも…
    ゆる〜く楽しめる
    くすりと口元が緩む
    ほぉ~と思いをめぐらる
    悪くない


    【倫敦消息】
    留学中のロンドンから正岡子規に宛てた書簡

    ロンドンでの留学生活は相当居心地悪そうである
    人種差別も確かに今よりひどそうだ
    それでも病気の子規に対して、若干不幸を盛ってブラックユーモアにしたサービス精神、思いやり精神すら感じる
    悪くない(笑)


    【自転車日記】
    これまたロンドン留学中、引きこもりがちになった(神経衰弱に陥っていた)漱石が下宿の婆さんから気晴らししろと勧められ異国の地で乗れない自転車に乗る練習をする
    いい大人が異国の地で…
    中古自転車を引っ張り出して、帰国の際面倒をみることになる大塚氏にレクチャーを受ける
    もちろんちっとも上達せず悪戦苦闘
    英国人にじろじろ見られたり、笑われたり、巡査に注意されたり、もちろん自転車から落っこちたりとまぁ滑稽である
    テンポの良いどたばたコメディみたいな自転車日記だ
    (クィーンの「Bicycle Race」がぐるぐるまわり出して止まらない♪)
    特に本人も楽しいわけではないだろうが、この無様さをボヤきながら自虐的にブラックユーモアで軽快に展開していく
    トホホながら笑ってしまった



    全般的に
    力を抜いてゆるーく隙間時間に楽しめる内容
    うん「悪くない」 
    この一言に尽きる
    正岡子規の影を作品のあちこちで感じる
    二人のキャラの違いもとても感じさせられた


    【備忘録】色
    淡紅色トキイロ
    蒼い
    唐紅カラクレナイ
    蘇枋スオウの色…黒みを帯びた赤色

  • 「夢十夜」「文鳥」が良かった

  • 夢十夜大好き。不可思議、不条理かつ神秘的な雰囲気をわずか数ページで作りあげるのは文豪だ。
    夏目漱石が自転車に苦戦する日記も面白い。

  • 夢十夜よりも、永日小品のほうがより夢っぽい。
    心地よさと不気味さと、誰かの日常風景が混在する様はどこかで見た夢のよう。

  • 『夢十夜:ファンタジーホラーの原点!?』

    文豪 夏目漱石の短編集。エッセイ風の「京に着ける夕」「文鳥」「永日小品」「倫敦消息」「自転車日記」、幻想小説的な「夢十夜」。特に「夢十夜」は、恒川光太郎のファンタジーホラーを読んでいるよう。意外でした。

  • 全体的に、なんとなく物寂しい雰囲気。
    秋とか、雨の日とか、黄昏たい場面のお供におすすめです。

    古い文体ですが、短いお話ばかりなので無理せずに読み進められます。

  • 私の持っている平成6年の改版38版は表紙デザインがわたせせいぞうさんです。からっと明るい書斎の窓の感じがなかなか素敵。

    「夢十夜」はマイ・ベスト・ショートストーリーです。一度読んでノックアウトされました。淡々と端正な語り口ながら、第1夜の美しさには心奪われます。これは恋物語なのか、嘆きの物語なのか…静謐な、気の遠くなるような時間の中の物語です。ほかの9夜も、歴史的な素材だったり、現代的な心象風景をからめたものだったりとバラエティに富んでおり、飽きさせません。第1夜は別格として、個人的には第5夜と第7夜が好みです。NHKの「みんなのうた」のアニメ映像みたいに、1話5分程度の作品にしてくれないかなぁ…といつも思います。

    収録されている「永日小品」も漱石の身の回りのよしなしごとがつづられて面白く、「倫敦消息」も文句たらたらなところが読んでいてくすくす笑えてしまいます。とても好きな小品集なのでこの☆とします。

  • 夢十夜が読みたくて一読。背表紙の紹介文観て文鳥も気になって読んでみた!

    文学知識は皆無に等しいけど、夢十夜の各夜、文鳥それぞれ違う印象…

    ---ネタバレありめも---
    「夢十夜」
    個人的に第一夜、第七夜、第九夜、第十夜が好き。

    第一夜
    →十夜の中でも1番好き。神秘的でめっちゃ綺麗…雑な説明だけど、これから死ぬ女性を土に埋めるのに、なんでこんなに描写キレイなんだろう…

    第七夜
    →大きな客船の話。どこに向かってるかわからない、船内の賑やかな乗客とも雰囲気合わない、なんで乗ってるんだろう。いっそのこと死んでしまいたいって船から海に飛び込んだけど、足元離れた瞬間に命が惜しくなる。でも時すでに遅しで海に沈むしかない…この死にたくなる感じ、すごい分かるし、惜しんだときには死ぬしかない運命なんが切ないというかなんというか…

    第九夜
    →消息不明父親の無事を祈って、熱心に毎晩御百度参りする母親と、その間欄干に括り付けられてる子供の話。でも実は父親は既に殺されていて、そう知ったのは「夢の中で母親から聞いた」らしい。
    死んだのを知らずに、子供を縛り付けてまで毎晩祈り続けてるのか、もしくは死んだのを認められなかったのか、、、切ない悲しい


    第十夜
    →ミーハーな薄い人間を皮肉ってる感じがして面白かった。なんか好き…でもこの感想持ってしまった私の性格の悪さにもビビった。


    「文鳥」
    漱石の弟子三重吉から「文鳥飼いましょ」て勧められてかってみる話。なんか可愛らしかった。
    朝起きるの苦手で、何かを面倒も見るのも苦手な、ズボラな性格。作家ってすごいのに、だらしない面見れて可愛らしかった。これ勝手に漱石の実話やと思ったけど、根拠はないらしい…

    ---
    倫敦消息も気になる…

  • Kindleで試し読みした夢十夜に興味があって、かまわぬカバーで購入。第一夜の夢がゾッとするような美しさ。第十夜までのこの作品がすでに短編集のよう。小説ぽい作品はこれのみで、あとはほぼエッセイのような作品が占める。初の夏目漱石、もはや偉人すぎてこれまでは人間味を感じられなかったけど、ロンドンでの生活や文鳥を飼う話は真面目かつユーモアも混じってて、一人の人間としてちゃんと暮らしてたんだなあと妙な気持ちになった。こういっちゃなんだけどちょっと可愛らしいとこがある。文豪もロンドンでは苦労なさったのね。

  • 読み終えられて良かった。

    夏目漱石は短編はあまりわからない。
    随筆、日記のようなものはシニカルな言い回しとか、好き。
    文章にリズムがあって、声に出して読みたくなる。

    森見登美彦が『恋文の技術』を書くきっかけにもなった漱石の書簡集っていつか読んでみたい。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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