魔女の子供はやってこない (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.62
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本棚登録 : 281
感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041011478

作品紹介・あらすじ

ある日へんてこなステッキを拾った縁で、キュートな魔女と友達になった小学生の夏子。だが2人が良かれと思ってしたことが、次々血みどろ事件に発展していき──。ホラー界の鬼才が放つ、世紀の問題作!

感想・レビュー・書評

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  • すごい。
    エグさキュートさ不条理と切なさが最高のリズム感で絶妙なバランス。
    グロさが取り上げられるけど本質はそこではない。めちゃくちゃな文章ですごく大事なことが書いてある。
    誰にでも勧められる本ではないけど傑作。

  • グロテスクでスプラッタな描写が微に入り細を穿ち続くので好みはきっぱり分かれるが、それと同じ位イノセンスな描写が飛び出してくるのが癖になる、謎の依存性のある小説。

    一話目がある種壮絶なネタバレなのだが、これを最後におくだけで印象ががらりと変わる。
    夏子が肝心な記憶を忘れている(忘れさせられている)ので、読者と作者の間に共犯関係が成立する巧みな構成。

    登場人物の価値観もめいめいぶっとんでおり、まずそこで受け付けるか受け付けられないかふるいにかけられるが、痒いのを掻くのが気持ちいいビルマ君よろしく、その生理的な不愉快さも慣れると快感に裏返る。

    そして折々にとびだす比喩が感動するほど斬新。
    たとえば主人公の夏子・淡い初恋の心情。

    「私も夜小倉くんのことを考えることがよくありました。二人で話す機会は多くありませんでしたが、教室や登下校、近くで呼吸に触れるにつれ、目に入る彼をため込む抽斗を隠し持つようになっていたのでした。
    聞いた声や重ねた会話が夜開けて星に見えるように、喉の奥の内臓辺りに並べて飾ってあるのでした」

    この感覚、わかる……!
    一見支離滅裂意味不明だが、手垢に塗れた比喩では到底表せない微妙な琴線を弾いて共感の嵐。
    「バインダーぽい手触りの曇り空」などの情景描写をはじめ、あくまで女子小学生の知識の範囲から逸脱せずに、「あーわかる」となるオリジナリティあふれる比喩を駆使するのは凄い才能。

    グロ描写は活字では耐性あるので然程気にならなかったが、どちらかというと「雨を降らせば」での葬式会場での暴走など、無関係な弔問者への行き過ぎた仕打ちのほうが苦味が勝った。
    読み手の感性の問題なので、ブラックユーモアとして流せる人もいるのだろうが……

    収録作の中では「魔法少女帰れない家」が白眉。
    いい人だと思ってたひとが実は……な、お約束の展開なのだが、二重三重のどんでん返しに突き落とされる。
    いい話だなあで一件落着しかけたのにけっしていい話で終わらせてくれない、これぞサイコホラーの真骨頂。
    奥さんと夏子たちの交流を象徴する、微笑ましかったお面のエピソードが、ラストの数行で完膚なくぶち壊される。
    同じエピソードで同じセリフを扱いながら、こんなに印象が違うんだと衝撃。
    消された記憶の範囲は謎だが、お面をもらった時点まで遡らないなら、本当にただ興味がなくて貰ったことすら忘れていた可能性があり、暴かれた温度差がうそ寒い。

    最終話はダイジェスト版で夏子の人生もとい余生が描かれるが、ブルースとの関係性の変化に驚き半分納得半分。
    一話ごとに赤ん坊から幼児へ、幼児から反抗期へ、反抗期から思春期へ……と成長していく過程を見ていたので、最期の言葉は切なかった。

    ぬりえの願いの持論、「ただ巻き戻せばただ繰り返すよね」「私の願いじゃないから上手に線を引きかねる」、地球先生の雨のたとえ話など、含蓄みで考えさせられることも多い。
    一話目の惨劇が頭に焼き付いてる読者ほど、「なんでも願いが叶うって素晴らしい!」「困ってる人の願いを叶えてあげるのはいいことだ!」と無邪気に称えられないのではなかろうか。

    小学生の友人同士や家庭内での会話も、単語を投げ合ってる感じが等身大でリアル。

    胸を張って人に薦められるかといえば首を縦に振れまいが、ハマる人はとことんハマるだろうよそに類を見ない作風で、そっと評価されるべき怪作。

    「地獄は歩いてこない。自分から落ちていく」

    この言葉がいつまでも心に残る。

  • 感想が章を追うごとに変化します。
    なんだこれぶっ飛んでんなぁ
    →退屈。もう読むのやめたい。なにこれ。意味わかんない。
    →ふおおおおおこれだよこれ!こわいこわい。
    →えっそうなるの?あっはい
    →それでまとめるの?!嘘だろおい泣けるわけないじゃんふざけんなよ
    ホラーなのにエンターテイメント性は抜群。一章で気持ち悪くなってもその後の冗長な感じにも耐えられたらあとはぞくぞくする話が待っています。ラストはねぇ。仕方ないのかなーもう少し上手いオチなら胸を張って薦められるのに。
    結構好きでした。ナポリタン好きじゃないし。

  • ポップでグロテスクで、どうしようもなくシュールなホラー。こんな魔法少女ものは前代未聞です。一気に読むと頭がぐるぐるしてくる心地。独特の文体も、読みやすくはないのだけれどどこかしら中毒を引き起こしそうな印象。
    一見楽しそうな日常が、どうしようもなく混沌。何から何までぶっ飛びすぎ。だけどキーワードともなる「地獄は来ない」という言葉の意味が、ラストになると切なさを感じます。
    「魔法少女帰れない家」が秀逸。オチの邪悪さが何とも言えない!

  • あんまり気持ち悪くも痛そうでもない余分なグロって感じ。これいるか?みたいなタイミングの。でも最終章にはじんわりして切なくなった。あと『魔法少女帰れない家』はめちゃくちゃ好き。子供の魔法をものともしない、本物の邪悪の凄味を見た。

  • 暗黒系ガールミーツガールの怪作。

    第1話:ああなるほどねー
    第2話:幻想的な作風
    第3話:趣味悪いな

    第4話:目が醒める。ここからが本番。
    第5話:単話としての完成度はこれがピカイチ

    第6話:何この名作!

    人間の少女である主人公が、魔女の少女に出会って、運命が変わっていくお話。

    魔女は人の願いをかなえてくれる。でもその願いは思ったとおりに成就するとは限らない。

    小学生的な視野の狭さと、「猿の手」的なコテコテの悪意とが混然一体となって、事態を悪化させて流れがとにかく悪趣味で好き。

    グロ描写もキモ描写も盛りだくさんで、倫理的にもいろいろ踏み越えてしまっているので、読み手はものすごく選ぶ作品。

    ただこれらの属性が許容できる方であれば、間違いなく至福の物語。グロキモの中から醸し出される仄かな抒情が堪らん

    矢部嵩作品、探して読んでみようかと思います。素晴らしかった

    将来的には角川つばさ文庫入りを目指して欲しい!

  • 矢部嵩は狂っている。あまりにも鬼才。グロテスクで、趣味が悪い、ここまで読者を不快にさせる描写の旨さは感服する。それでいて謎の読後の清涼感! 絶対読むべきです。

  • ※殆ど自分語りになります。

    知人に渡された本の中で、約8670日生きてきて、これ程までに自分の価値観形成に至るに語る本に近しい書物はありませんでした。私の今迄の人生が何かの設問だとして、間違いなくこの一冊は参考書となり得るものです。また、今後の私の人生の参考書にもなりそうです。

    作中で書かれている「よくなる明日を探しておれはもう二度と地獄への道をさ迷わない」「余生だから私」「どこにも帰れない」という言葉は、まさに全て自分が今までの人生で心から口にした言葉の要約乃至は一語一句変わらないものでした。
    そこら辺の安い「価値観の変わる作品」だとか、上っ面の感動や、掃いて捨てる程に転がった出会い別れ運命などの現実や物語とは、明らかに一線を画する作品です。

    最後に、これを勧めてくれた方には伝えにくいですが、まともな人なら、人に勧める作品に選ばないでしょう。

  • 全部読み終わってから、もう一度読み返したくなる構成だった。
    色々よく読んでいくと、フラグとか伏線があったのね。
    あと、メタ発言多すぎてワロタwww
    矢部崇さんのこの雰囲気狂おしいほど好き。

  • ある女の子が主人公(一人称)として書かれている。
    あらすじにあるように、魔女の家を訪ねることになり、主人公の友達はあっさりと殺害。そこから子供ならではの、しかし人間ならではの揉め事により怒涛の展開を遂げ…
    その後、主人公は魔女と共に色々な依頼者の願いを叶えるようになる。
    初めから最後まで、殆どが気持ちの悪い描写をちりばめられているが、やけにあっさりでコミカルな展開に思える時もあります。(苦手な人は苦手でしょう)
    虫が身体を這うような気味の悪さのある話、一つの家族の、何処にでもありそうで、しかし心の置き場に困る話、と短編が続く。
    子供の会話の描写として、口語をそのまま文章にしたのだろうというところが多々見られるので、読みづらい人は読みづらいかと。
    また、たまに各キャラの台詞がぶっ飛んでいたり、背景がぶっ飛んでいたりで、あれいまどういう状況なんだっけ?と置いてけぼりにされるときがたまにあるが、それも一興。
    魔女や魔法というとファンタジーなものをイメージするが、要所要所に、死とは、願いとは、嘘とは、と哲学が散りばめられている。
    ファンタジーやホラーと言うより、人間模様を描く、サスペンスといった枠組みが近いかと思う。

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著者プロフィール

武蔵野大学在学中の2006年、本作で第13回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞してデビュー。

「2008年 『紗央里ちゃんの家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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