夕暮れ密室

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
3.23
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本棚登録 : 133
感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041025239

作品紹介・あらすじ

文化祭当日、バレー部マネージャーの女子生徒が、セミナーハウスのシャワールームで遺体となって発見された−−!? 斬新な密室トリックと多感な高校生男女の切ない想いを描いた傑作学園ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • インターハイ進出を賭けた大事な一戦に負けた栢山(かやのやま)高校バレーボール部。
    マネージャーで男子生徒の憧れの的、三年生の森下栞(もりした・しおり)は、そんな落ち込む部員たちを明るく励ますマスコットガール的存在だった。
    しかし事件が起こる。文化祭当日、校内のシャワールームで、その栞が遺体となって発見されたのだ。現場は完全な二重密室状態。しかも栞のポケットから遺書も見つかったことから自殺として処理されそうに…
    疑念を持った部員やクラスメイトたちは、真相究明に立ち上がるが…!?
    第23回横溝正史ミステリ大賞
    で、惜しくも受賞を逃した青春ミステリの快作。


    いやぁ~、面白かった!
    本屋で、綾辻行人と北村薫が書いた「どうしても本にして欲しかった」という帯の文句を読んでずっと気になってたけど、
    確かに強烈に心に残る哀しき青春ミステリーで、かなり引き込まれました。
    (辻村深月の「島はぼくらと」でもお馴染みの五十嵐大介氏による美しい装画がまた秀逸!)

    なんといっても、第一章で日常の謎を見事に解き明かした小さな名探偵・森下栞が
    まさか第二章でいきなり死んじゃうなんて!(汗)
    本当にビックリです!((((((゜ロ゜;

    自分をひけらかすこともしないし、
    控えめで、穏やかで、なのにいつも話題の中心にいる女の子の無惨な死。
    自殺を信じることができずに
    動揺し混乱するクラスメートたちは
    各々が各々の理論で殺人事件の真相に迫っていく。
    (登場人物たちがそれぞれ亡くなった栞への思い入れを披露し、密室の謎や何故殺されたのかを推理し合うところが面白いのです)

    そして、クールな二枚目キャラやロック大好きキャラ、数学マニアや遅刻王にピッキング名人など
    章ごとに語り部を変えることで
    登場人物の印象が変容していく構成も巧妙で
    リーダビリティの高さにつながってるように思います。

    夜の校舎を歩く怪しい同級生の目撃談。
    出しっぱなしだったシャワーや密室の謎。
    見回りをしたはずの学校の先生は何故異変に気付かなかったのか?

    そして犯人は栞のクラスメートに絞られ、
    やがて第二の殺人が発生する…。
     

    しかし、この作品の優れている点はミステリー部分ではなく、
    むしろ田舎の高校生たちの青春を見事に描写した点です。
    (そしてこの田舎の高校生たちの青春のイメージこそがタイトルである「夕暮れ」が表すものだと思う)

    茜色に染まる夕暮れ空。
    部活の後の冷たい缶コーラ。
    文化祭でのクラス劇、「真夏の夜の夢」。
    夜の校舎での天体観測。
    プレアデス星団を見ながらの
    万有引力と恋についての考察。
    夏の終わりのプール掃除。
    土手の上で食べるカップラーメン。
    見えない未来への不安と東京への憧れ。

    誰もが誰かに恋していて、
    地球カレンダーの話や
    好きな男子の制服をこっそり着た話など、
    これぞ青春といった胸キュンエピソードの数々と
    思春期だからこその痛みもちゃんと描かれていて、妙に郷愁を誘うし、読んでいてどこか切ないのです。
    (臨場感たっぷりの冒頭のバレーボールの試合のシーンも上手い)

    飛行機が頭上に来ると必ず目で追うというオウサマペンギンの習性や、
    ゴビ砂漠とサハラ砂漠に住んでいる蟻がお互いに向かって歩き出したとき、出会う確率や
    隕石や宝くじに当たる確率の考察、
    など伊坂幸太郎を思わす洒脱な会話と気の利いた警句の数々も
    違和感なくスマートに配置されていて、
    最近よくある文章が成熟していない軽い青春ミステリーとは一線を画すセンスを見せてくれます。


    子供の頃はいつまでもいつまでもずっと続いていくような気がしていた夏。
    けれどもそんなことはあり得ないって、大人になった僕たちは知っている。
    永遠に続かないからこその儚い煌めき。
    だから夏の夕暮れは切なくて気だるいのです。

    もともと13年前に書かれた作品なので携帯がスマホじゃなかったり、みんな持ってなかったり、
    警察がまったく介入してこなかったり、
    殺人の動機がいまいち弱かったりとアラがないわけではないけど、
    いろんな意味で驚愕の真相と斬新な密室トリック、
    強烈な余韻を残す切ないラストはかなり好きなテイストだし、
    ミステリーとしてよりは
    アラを補って余りある秀逸な青春小説として評価したい良作。

    それにしても賞を受賞云々は選出者の好みにもよるし、
    そのときの層の厚さやタイミングにもよるし、
    作品の良し悪しにはまったく関係ないんだなとあらためて実感。
    (全体にアラがなくまとまった作品より、荒削りで稚拙でも何か一つ心を揺さぶるポイントがあるんであれば僕個人としてはそれは駄作とは言えないんじゃないかなと思います)
    こういうセンスのいい作品が埋もれてしまわないことを切にお願いしたいです。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      いつも円軌道の外さんのレビューにはやられっぱなしです。
      取り戻せない青春の胸キュンストーリー??
      心惹かれないわけが...
      こんにちは。

      いつも円軌道の外さんのレビューにはやられっぱなしです。
      取り戻せない青春の胸キュンストーリー??
      心惹かれないわけがない!
      でも、まだ読んでないから私の単なる想像ですが、この本より断然円軌道の外さんのこのレビューの方がもっとキュンキュンさせられちゃうんだと思うんです。
      このレビューを超える胸キュンがあるのかな(笑)

      そんな詮無いことを考えつつ、レビュー楽しんでます。
      これからもレビュー楽しみです(*^_^*)
      2015/09/29
  • バレー部を明るく支えるマネージャーであり、周りの人気者・森下栞が文化祭当日の朝、学校の女子シャワールームで遺体で発見される。ポケットから遺書が発見されたことから自殺と思われるが、クラスの友人や部員は死の真相を探り出す。


    第1話は被害者となる栞視点で夏休み前のバレー部の最後の試合を描き、第2話以降は栞の親友、クラスメイト、栞と同じバレー部員など色々な視点で栞の死の真相を探っていく様子を描いている。
    それぞれの視点で、栞との思い出や印象も語られており、栞はみんなの支えだったんだなと思うと、どこか高校生らしい世界の狭さも感じてしまう。
    最後の章を読んでから、もう一度栞視点の最初の章を読み返すと少し切なくなる。栞は、ただ3人でいる"今"が好きだったんじゃないか……と。

  • 意外と面白かった。
    それぞれの視点で事件の様子が描かれて、どんどん謎が深まる過程も、事件の真相に迫る過程も、密室の真相も面白かった。
    まあ正直、人間関係も密室も謎を引っ張ったのにサラッとしてる結末だなあと思って、期待外れ感はある。
    犯行の動機も曖昧でなんだかなあと。
    どうせなら最後までちゃんと描いてほしかったなあ。

  • 多視点もの。多視点ものはけっこう好きなんだけども、キャラがたってないと混乱する(笑)

    ただ、この作品でちょっと気になるところは、語りの順番でいろんなことがわかってしまう点だろうか。それを作者が考えなかったわけがないので、何かしら意図があるんだろうとは思うんだけども、わからなかった。

    そして犯人もなんとなく想像通りで少し拍子抜けをする。本当の意味での動機については、ちょっと驚いたけども。

  • 身勝手きわまりない犯人にはかけらも同情できない。推理合戦とばかりに様々な推理が語られるが、切れ味はいまひとつ。そもそも鑑識をちゃんとすれば、警察が真相に気づくだろう。ここまでなら星3つ。登場人物たちのセリフに多用される「風」関係の発言は、わざとらしくて浮いている。コイントスはやるせない。

  • みんなのマドンナだったバレー部のマネージャー森下栞が、文化祭の当日ロッカー室のシャワールームで殺されていた。ドアにも窓にも鍵がかかっていて、完全な密室だった。遺書は残っていたが、自殺とはとても思えないクラスメイトや部員たちはその密室を解くために乗り出すが……。

    いやいや、いやいや。トリック自体はともかく、話の流れが雑すぎない?動機とかどうでもいいタイプのミステリーだったらいいよ、でもこの構成だったら違うでしょ。一章は部活に一生懸命だったり仲良しの三人組だったり、ちょっとした謎解きだったりで大変良かったよ。みんな好きだった良い子だったっていうわりに被害者とのエピソードがさらっとしすぎてたり、激怒したり号泣したりの激しい感情の動きがなかったり、基本的にキャラの行動やセリフに説得力がなさすぎだったと思う。実際同級生の事件なんかあったってみんな口では悲しいとか悔しいとかいうけどこの程度でしょって皮肉のつもりならまだしも……。それならそれでもっと桐島っぽく振り切っちゃうとよかったのに。あと蟻とかペンギンとか土星とか例え話はどれかに絞った方が話がまとまったと思う。百歩譲って他の人はともかく、犯人と被害者のエピソードはもうちょっとちゃんと書くべきでは。分かってたよそんなトリックは!でもここまで絶賛されてきた被害者と犯人がそんなことになるなんてどんなドラマがあったのって楽しみにしてたのに、がっくりだったよ……。一番絶句したのは親友ポジの子が死んだ人に遠慮してもしょうがないでしょって死んだ翌日くらいに好きな人に返事を迫ってたところ。青春だねなんて全く思わない。

  • 2016/01/11読了

  • 2015.12.6 読了。

    レビューがまちまちだけど、一気に読めたってことは自分の中でおもしろい方だったんだと思う。
    ただ、謎解きする探偵たち(特に最後の)の描写がもっとほしかったなー
    人間的な意味でも。
    いろいろな人の視点から物語を進めてくのは面白かった。だからこそ、探偵役がもっと目立ってほしかったかも。だって、最後の最後だもんね。

    あと、動機とか、曖昧だなー、軽いなぁーって思った。頭いいのに、計画性あるのに、うーーん。。

    でもでも、読みやすかったので、この人の学園ミステリ、他のももうちょっと読んでみたいなー

  • 高校の文化祭当日,バレー部のマネージャーで男子に人気のあった森下栞の死体がシャワー室で発見される.警察があまり絡まないのはやや不自然だが,生徒たちなりに推理をする.事実関係をお互いに確認しあう場面がやや長いが,最終的に國武が素晴らしい結論を得る.高校生の会話が楽しめたが,構成はあまり良くない感じだ.

  • 田舎の高校で起こった殺人事件!1章の語り手が日常の謎を解いていくのかと思いきや呆気なく殺されたことにまず驚いた。シャワー室の構造が出身校と大きく異なっていたので情景を想像しづらかったが、描写が丁寧でキャラが立っていたので読みやすくてよかったと思う。
    同じ場面を繰り返すのは多少だるさを感じたが、新しい発見があり、同じものを見ていても思うことがこんなにも違うということを読者に意識させる伏線だったのかもしれない。

    嫉妬と独占欲と恋でおかしくなっている犯人が好き。
    実際は警察がひょいっと見つけそうな手がかりだけれど学生たちがせっせと見つけて推理を展開しては否定して……と繰り返していてよかった。青春ミステリというのとは多少違うのかもしれないけれど、今年の新刊では上位だと思う。

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著者プロフィール

1973年京都府生まれ。成城大学文学部卒業。2004年に『風の歌、星の口笛』で、第24回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー。他、著作に『修学旅行は終わらない』、『校庭には誰もいない』、『フェイバリット・シングス』などがある。

「2022年 『風琴密室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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