天佑なり 下 高橋是清・百年前の日本国債 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041031728

作品紹介・あらすじ

日露戦争の戦費調達を命じられた高橋是清は、ロンドンで日本国債を売り出し、英語力と人脈を駆使して成功を収める。蔵相、首相をも歴任、金融恐慌の鎮静化にも尽力するが、そこへ軍国主義の波が押し寄せる。

感想・レビュー・書評

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  • 髙橋是清のキャリアはとてもユニークだ。
    近代日本を支えた偉人たちは、何れもユニークなキャリア(特に海外留学、渡航経験)を持っているが、高橋是清のそれは、輪をかけた程にユニークだ。
    その事実を知り、この時代だからこそ、政治、金融界の頂点に昇りつめることができたのだろう、と思ってしまう。
    言い換えると、若い頃は失敗の連続なので、現代に生まれてきていたら、日本でキャリアアップをすることは先ず無理。(おそらく、海外で活躍することを選択せざるを得ないと思う)
    彼のキャリアの特徴は、チャレンジすることを厭わないこと(それを良しとするマインド)。それは失敗から学ぶことができる、ということにも繋がる。
    これは若くに渡米したこと、そして苦難なものであったことと関係があると思う。
    彼にとっては、地位、年齢、国籍のハードルは極めて低かった。少なくとも怖さではなかった。

    当時の日本には、そのような人材が必要であった、希少だった。そして、当時の偉人と言われる政治家、事業家は、ある意味変人であった是清を受け容れる度量があった。(受け容れる度量、というよりも、それは時代の要請であり、それを当時の偉人が理解していた)

    そして、彼が楽観家であった、というのも大きな特徴だ。それは生まれながらにしての人格という側面もあると思うのだが、多くの経験をしている(肝が据わっている)、論理的に考えている、ということから生まれてくるものだと感じた。

    日露戦争勝利の裏には、当然の如く、国家としての資金調達があったわけで、その具体的な状況について知ることができたことは収穫。
    歴史の裏には必ずMoneyがあり、本著では、その動きを著者が専門的な観点からも触れている。
    また、金融行政家としての不況、恐慌への対応、軍部との対立、これは、座学だけでは到底対応できず、現場経験、そこから得られる知識、また、英語を通じての内外の人脈が大きく活きていることに注目したい。

    髙橋是清は、2.26事件で暗殺されるのだが、軍部の暴走が日本の歴史を変えてしまった、という事実は高橋是清のキャリア、考え方を知るにつれ、改めて強く心に刻まれた。

    以下抜粋~
    ・訴えたのは、英米が許容できる範囲内においての日中の経済的同盟関係の構築だった。
    中国の国民を尊重し、彼らの国家統一に協力することで、日中両国は経済面で西欧に対応できる第三の存在となるべきだと考えていた。
    二十一カ条の要求など、軍事的な圧力は、中国におけるナショナリズムを刺激し、半日感情を煽るだけでなく、さらにはそうした二国間の緊張関係に対抗する、米英からの警戒行動に繋がるという悪循環を指摘したのである。

    ・是清は全部で十三項目に及ぶ高橋是清内閣改造私案を掲げた。
    枢密院の改革、外交調査会の廃止、陸海軍大臣の文武官併用により参謀本部および軍令部をその下に置くこと、陸軍配備の半減、普通選挙の採用、物価の引き下げ、地租や営業税を地方費として各府県に教育補助費の財源を与える、シベリア撤兵と日露通商の開始…。
    当時にしてはあまりにも過激で拙速、何よりも党の支持基盤を逸脱するようなものというほかなかった。
    是清は、常に直球で速球勝負。

    ・こうした軍事的行動は、だが、国内では熱狂的に支持されたのである。大正時代に芽生えたデモクラシーを背景に、恐慌下における生活苦によって、国民心理が徐々に過激な方向性を持ち始めていた。大恐慌を経て保護主義に走る亜米利加の関税制度や、日系移民への迫害行為などが報道されるにつれ、強い日本を標榜する軍に救いを求めるのも無理ないことだった。

    ・(川田の是清の評価)現状を正しく把握し、その問題点を冷静な視点で分析する。そのうえで、自由かつ柔軟な発想と、周到な策を以って、果敢に、しかも現実的に解決していく。

  • 昭和初期太平洋戦争に向かう時代に大蔵大臣として自分の身体を犠牲にしてまで日本の財政を健全化しようとした「高橋是清」の物語です。226事件で殺害された高橋是清については以前から興味がありましたが、この小説を書いたのが、あの「幸田真音」だったこともあり興味を惹きました。文庫本で読みましたが、ここには2013年(10年以上前)に単行本で発行されたとあります。

    この小説の中に出てくる為替相場(ドル円)については、彼女の綿密な調査に基づくものだと思います。円とドルがどのような関係にあったか、それらが経時的にどのように変化していったかを知る上でも貴重な情報源となりました。

    ・銀は昔の半価(当初1:15.5から、明治30年には1:32)となったので、これまで1円=金4分としていたのを、新金貨の1円=金2分、つまり平価を半分に切り下げる。すると、円対銀の市場にも、一般の物価にもどちらにも急激な変動を与えず、円滑に金本位制に移行ができる、明治4年には1円=純金1500mgと定められていたが、それを750mgにすべきだという提案であった(p47)

    ・日清戦争の賠償金(当初3億両→交渉により2億両に減額、8回に分割)に加え、日本が要求した3000万両の遼東半島還付金は支払う清国にとっては、膨大な財政負担となった(p50)三国干渉ののち、ロシアは旅順、大連、ドイツは青島、フランスは広州湾、イギリスは九竜半島と威海衛を租借して海軍基地にしていく(p51)

    ・明治30年頃の2億円は、現在ならば3200億円に相当する、物価水準の変遷などを比較計算すると、係数を1600倍すると現在価値に相当する、この頃の日本の経済規模は20兆円程度(p53)2億円は、約1600万ポンド(p60)

    ・三国干渉を受けた頃のロシアは、国家予算は日本の約10倍、国内総生産は約3倍、人口は日本の3倍の1億2500万人、外貨準備高は8倍を超える大国であった(p115)

    ・日露戦争の前には政府支出の15%だった日本の元利返済費は明治41年には25%となった(p233)大正3年には政府債務は26億円(国民総生産の3分の2以上)であった、15億円は対外債務でありこれに対する正貨準備高は3.4億円、破産寸前であったが、それを一変させたのが第一次世界大戦による戦争特需である(p258)

    ・大正11年6月の対米為替レートは、100円=47.7ドルが、年末には48.5ドルまで強くなった。(p314)

    ・円の切り下げにより、昭和6年末の100円=49ドルから、1年後には28ドル、昭和8年には25ドルまで下落し、日本製品は海外市場で価格競争力を得た(p480)

    ・国債発行と、日銀による直接引き受けは、日本経済の危機を救うために編み出し、やむに止まれぬ思いで実行した財源捻出の奇策であった。それによって可能になった財政出動と、金融緩和政策によるポリシーミックスは世界でも例を見ない、時代を先取りする方法であり、その結果日本はいち早く恐慌を切り抜けることに成功した、しかし軍事費調達への道を開くことにつながったのも事実である(p400)

    ・226事件当時、1ドル=3.3円だった円は、第二次世界大戦を経て360円までに下落、国民生活を破壊するインフレ率は100倍以上となった。226事件は財政規律だけでなく、法治国家としての規律をも破壊し、是清が守りたかった国民生活にも犠牲を強いた(p410)

    2024年1月12日読了
    2024年1月14日作成

  • 難しい箇所もあったが、経済の話で分からない事を知りながら読めて楽しかった。
    あとはどれだけ出世しても変わらない高橋是清の人間性が良いと思いました。

  • 【概略】
     日本銀行西部支店に赴任した高橋是清が、2・26事件にて命を落とすまでの彼の人生の最もダイナミックで純粋な部分が描かれた後編。日清戦争から日露戦争に至るまでの期間、戦費を集めるための種まきから交渉、実現までの過程、また開放的な経済政策を行ったと思いきや緊縮財政にて支出を削減するといった柔軟な発想、その根底にあるのは外側から自国を眺める客観的な視点と国を憂う純粋な精神。東洋のケインズとされる高橋是清の経済感覚を楽しみながら学べる一冊。

    2023年06月10日 読了
    【書評】
     決して経済について詳しい訳じゃなく、せいぜいAFPの試験や行政書士の一般教養、そして普段の新聞等で得ている知識しかないのだけれど、公開市場操作の概念や金本位制度の感覚など、凄く楽しく理解できた。ストーリーテリングの真骨頂なのじゃないかな。
     (本書は高橋是清を主人公に置いているため、もちろん高橋是清にスポットライトが当たることになるのは仕方ないが)歴史は繰り返されるなぁ、人が集まって何かを取り仕切る場合には時代や技術革新による細かな差異はあれど、似たような事柄で衝突や融和が起きるのだなぁ、だから人は歴史から学ぶ必要があるのだなぁ・・・なんて思ってしまったよ。貴族院と衆議院の格差であったり政党間の&政党内の意見調整であったり、自分が生まれて(こういったジャンルに興味を持ち始めて)からの世界と似たようなことが当時も起きてるもの。
     さて自分のことに置き換えてみる。今年49歳になろうとする自分が高橋是清さんのような高邁な思想・・・とまではいかないまでも、嫌だというものをしっかりと嫌だと言えるようになるためには、拘泥を捨てることかなと思ったね。そして失ってしまうことに対する恐怖も捨てること。目に見えないココロの中にある芯、それだけをしっかりと守ること。そんな印象を受けた。ちょうど今月(6月)は自分の会社の決算月、7月から始まる新しい期のためにも良いタイミングでこの本に出会えたかな。
     さぁ問題のオリジナル噺・・・まだ全く・・・何も降りてこない。困った。次の高橋是清本を手に取ってみることにする。

  • 激動です。信念に基づいて考えて行動し、結果を残す。簡単で当たり前だけれども誰でも出来る事ではありません。

    カッコ良いなぁ。

    専門的な事は分からない部分が多かったが
    大局を捉えて常に先を考える姿勢は、非常に参考になりました。

  • 高橋是清、波瀾万丈を絵に描いたような人だと思う。今の時代に通じることがたくさんある。
    昭和に入った軍の愚かさもしみじみわかった気がする。

  • まさに、信念と柔軟な発想の塊
    支えたのは多くの友と、タイムマシン経営的な動き

    赤字国債、MMT、軍事費へ、インフレ…

  • 2021.1.23

  • 日清戦争〜第一次世界大戦と日本の戦史は日本史やその他で学習してきたが、経済的な視点での戦史は初めてだった。今置かれている日本の現状と日露戦争の時は国債を乱発している点で似通っている。しかし、その時は第一次世界大戦があり戦争景気があって立て直したが、軍事費と金解禁のタイミングの悪さ、関東大震災の不運も重なってまた沈んでいった。その際のピンチがくれば高橋是清と大蔵大臣8回を任命された。小説なので脚色が多々あるとは思うが、政治力はあまりなく決断力と人望と行動力で成功した人物。

  • 高橋是清の伝記として面白かった。小説としての是非には触れないが読む価値は有る。それにしても二・二六事件前夜の日本が、今の日本にどうしても被って見えてしまい暗くなる。暴走するのが軍ではなく一政党と言うことだけが違うのだが。

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著者プロフィール

1951年生まれ。米国系投資銀行等で債券ディーラー、外国債券セールスを経て、1995年『小説ヘッジファンド』で作家に。2000年に発表した『日本国債』は日本の財政問題に警鐘を鳴らす作品としてベストセラーになり、多くの海外メディアからも注目される。2014年『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』で第33回新田次郎文学賞を受賞。主な著書は『日銀券』『あきんど 絹屋半兵衛』『バイアウト 企業買収』『ランウェイ』『スケープゴート』『この日のために 池田勇人・東京五輪への軌跡』『大暴落 ガラ』『ナナフシ』『天稟(てんぴん)』のほか、『マネー・ハッキング』『Hello, CEO.』『あなたの余命教えます ビッグデータの罠』など、時代に先駆けてITの世界をテーマにした作品も多い。

「2022年 『人工知能』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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