機長、事件です! 空飛ぶ探偵の謎解きフライト

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 334
感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041050835

作品紹介・あらすじ

ニッポン・エアラインのパイロット間宮治郎は、成田発シャルル・ド・ゴール着のフライトで国際線の副操縦士としてデビューしたばかり。フライトを共にするのは、ニッポン・エアラインに20名ほどしかいない女性パイロットの中でも“切れ者”として知られる氷室翼。そのクールな容姿と冷静沈着さから「アイス・クイーン」の異名を持つ。そんな彼女のとの初フライトは事件が頻発。往路では高級宝飾品消失、フライト先のパリの市場では怪しげな連中に追われ、モン・サン・ミシェルでは殺人事件に遭遇、さらに帰路では搭乗客が苦しみ出す……。疑惑の事件を前に、氷室は持ち前の洞察力で、証拠から矛盾を見いだし、事件の真相に迫る。事件と推理の中、航空業界のお仕事と成長、そして淡い恋を描く、本格トラベル・ミステリ!

感想・レビュー・書評

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  •  氷室翼。
     日本を代表する航空会社ニッポン・エアラインが誇る敏腕パイロットだ。
     頭脳明晰で冷静沈着。トラブル対応能力が高く情に流されることなど決してない。おまけに近寄り難いほどの超絶美人ときている。

     人呼んで「アイス・クイーン」の異名を持つ氷室が、フライトで遭遇する事件の謎を解くトラべルミステリー連作短編集。

     なお、物語は新米副操縦士の間宮治郎の視点で描かれる。
             ◇
     「コールド・フロントが近づいてるな」
     秋の早朝。フライト日和とは言えない曇空を見上げ、間宮治郎はつぶやいた。
     今日は治郎の副操縦士として初となる国際線フライトの日だ。治郎は気を引き締めて、心配性の母親に見送られ成田空港行きのハイヤーに乗り込んだ。
     
     予定通りフライトの3時間前に成田に到着した治郎は、ロッカールームで新品の制服に袖を通した。そして清々しい気持ちで治郎が颯爽と運行管理部に向かおうとしたとき声を掛けてきた男がいた。同期の和田だ。

     初フライトに臨む友に和田は、激励の言葉をかけるとともに同乗する機長の名を尋ねた。治郎が何気なく「氷室翼キャプテンだ」と答えたところ……。
        (第1話「氷の女王」) 全4話。

         * * * * *

     謎解き中心の王道ミステリーです。主人公の間宮治郎が道化役も担っているためコメディ要素もある軽い作りですが、イヤミスが苦手な自分にはこちらが好みに合っていました。

     何と言っても設定がわかりやすいのが本作の魅力でしょう。

     まず登場人物。

     主人公の間宮治郎。
    少女漫画に登場する少年のような面影を残す 26 歳。童顔で線の細い治郎の頼りないイメージは、氷室翼の引き立て役にうってつけです。
     真面目にズレた言動をとってしまう治郎が、氷室に「たわけ!」と叱り飛ばされるお約束のシーンには心和みます。

     氷室翼。
     頭脳からビジュアルまですべて兼ね備えた真の主人公。美人パイロットとして広告塔にされかけたとき、会社に対し柳眉を逆立て猛烈に抗議したことは伝説となっています。
     断定調のクールな話し方がなぜか魅力的な名探偵です。( 硬派な薬師寺涼子というイメージですね。)

     脇役で登場するのが、第2機長の幸村操雄とチーフパーサーの多岐川麗美。ともに明るく機転が利く2人。
     幸村は他家に婿入りして姓が変わっているけれど氷室翼の双子の兄で、多岐川は今をときめく大財閥多岐川コンツェルンの社長令嬢と、それぞれを主人公にして1話を作れるほど魅力的なキャラ設定です。

     そしてストーリー。成田を飛び立ち、パリで滞在し、再び成田へ。その間に起こる4件の事件。うち3件は「密室」設定という、ミステリーファンにはうれしい設定でした。


     次に各話について簡単に紹介します。

    第1話「氷の女王」
     高度3万9千フィートを飛ぶ機内で高価なエンゲージリングがなくなった。盗犯を捕まえろと乗務員に食ってかかる求婚者の男性。泣き崩れる女性。
     密室とは言え満席状態の機内での犯人探しは困難を極めると思われたが……。

    ☆搭乗前から乗客の観察を始めることの大切さがポイントになっていました。
     氷室はその観察力から事件の真相を推察し、解決へとコントロールしていきます。名刺代わりの鮮やかな氷室の手腕。楽しめます。


    第2話「クリニャンクール事件」
     復路フライトに備え、氷室たちのパリ滞在1日目。
     蚤の市で不思議なブレスレットとテディベアを買った治郎は、なぜか急に現地の女性たちにモテだした。
     この幸運に戸惑いつつも鼻の下を伸ばす治郎だったが……。

    ☆間宮治郎に訪れた幸運を冷静な目で観察していた氷室は、ある1点に注目して謎解きを始めていきます。
     わかりやすい伏線があり、読者にも見当がつけやすいというサービス問題的な話です。氷室の酒豪ぶりも楽しめ、癒やされます。


    第3話「修道院の怪人」
     パリ滞在2日目の氷室一行は、モン・サン・ミッシェルを訪れた。パリでの留学経験のある多岐川の案内で楽しい観光になるはずだったが、不運にも殺人事件に遭遇してしまう。
     殺された女性は観光ツアーで来ていた日本人客の1人。あいにくの荒天で施設は氷室たちを最後にその日は CLOSED。施設内にいるのは観光ツアー客一行と個人の女性客1人のみで、6人すべて日本人。
     パリ警察到着を待つ現場。6人全員の話の聴き取りをする氷室の頭脳がフル回転を始めた。

    ☆本格的な謎解き殺人事件ミステリー。本作の中心となるお話です。
     関係者一同を前にして名推理を披露する氷室という、古典的な推理小説でお馴染みのクライマックスもなかなか味があっていいものです。


    第4話「機上の疑惑」
     成田へ向かう機内で若い女性客が突然苦しみだした。呼吸困難寸前のような状態で腕には湿疹も出はじめている。あいにく機内に医師は乗り合わせておらず、氷室たちは対応に苦慮していた。

     患者の鈴懸麻紀は実力派の若手ピアニストで、コンクールのため留学先のパリから帰国するところだった。留学仲間のピアニスト2人も同乗しているのだが、なぜか麻紀だけ2人とは離れた座席に着いていた。
     どうやらそのあたりに理由がありそうだと睨んだ氷室は……。

    ☆まだ 18 歳の少女の圧倒的な才能に嫉妬する2人の先輩という図式。努力だけでなんとかなる世界でないだけに、その鬱屈した気持ちは察して余りあります。それでもなあ……。
     治郎の素朴な疑問をヒントに事件の真相を突き止める氷室がカッコよかった。

     軽いミステリーで、映像化しやすそうな作品です。ただコミカルな展開と対を成すパイロットや CA の業務から旅客機そのものについての詳細な描写が、作品にリアリティーと奥行きを与えていました。


     最後に作者の秋吉理香子さんと作品制作秘話について。

     聞けば4人家族の秋吉さんですが、両親と姉がパイロットなのだそうです。この作品は何度もお父様の添削を受け、アドバイスをもらいながら執筆なさったとのこと。機内の臨場感あふれる描写にも納得です。

     お仕事小説としてもクオリティの高さがある作品でしたが、人気次第でシリーズ化も考えていらっしゃるそうで、氷室キャプテンに恋心を抱いてしまった治郎の今後も気になる私としては、続編を期待せずにはいられません。

  • 飛行機が好きです。
    飛行機が舞台のドラマや映画も大好きです。
    例えばドラマ「スチュワーデス物語」、映画「ハッピーフライト」「フライトプラン」など。
    本書はタイトルを見て興味がわき、図書館で借りてみました。

    ーーー*⋆✈︎
    航空会社:ニッポン・エアライン(NA)
    往路:成田 → シャルル・ド・ゴール 205便
      (クルーたちは2日間、パリに滞在)
    復路:シャルル・ド・ゴール → 成田 206便
                     ーーー*⋆✈︎

    謎解き+恋愛✕航空業界お仕事小説。
    上記の数日の間に、機内や滞在先で遭遇するトラブルにフライトクルーたちが対処する。
    国際線の副操縦士としてデビューする間宮治郎を主人公に、冷静沈着なエリート機長、チャラい第二機長、知的で清楚なチーフパンサー…この登場人物たちが仕事に真摯、かつ良い人で好き。
    クスッと笑えて元気が出る。登場人物が少ないので、難しいことなくサクッと読めるのも良い。
    秋吉理香子さんはこのような楽しい話も書かれるのですね。クルーたちのその後も書いてほしいです。

    • なおなおさん
      なんの感慨もないと!?
      じゃあ、受賞者プレゼントの巾着をこちらにくださいよ〜〜めっちゃ欲しいです⁽⁽꜀(>д<꜀ )՞՞
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      2024/01/29
    • ひまわりめろんさん
      あげられるもんならあげたい
      去年もメールの返信忘れててもらわんかったw
      今年はちゃんと返信しよう!という目標
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      2024/01/29
    • なおなおさん
      やるっきゃないっ!(๑و•̀ω•́)و
      やるっきゃないっ!(๑و•̀ω•́)و
      2024/01/29
  • 私が読む秋吉理香子氏作品の3冊目。
    内容は普通。

    クリニャンクール買い物時やホテルロビーでの行動が、国際線パイロットとは思えないほど、あまりにもお粗末。警戒心無さすぎ。
    本文に、パイロットは現地のタクシー料金システムも会社でレクチャーを受けているとか書いてあったのに、それよりもっと気をつけた方がいいような危機管理能力が欠けている。

    最初に見たのだが、巻末の「パイロットである両親と姉から多くの助言や指導を受けました」の一文に一番驚いた。

  • 飛行機もミステリーも大好きなので、ワクワクしながら読み始めましたが、予想以上に面白かったです。ミステリー度は高くはないですが、それなりの謎解きがあり、何よりパイロットやCAさん、飛行機事情など、とても詳しく書いてあって楽しめました。秋吉さんのご両親がパイロットだそうですが、秋吉さん自身がそうだと言われても納得してしまうぐらいでした。
    出てくる人達も魅力的なので、続編があればいいのになぁ。

  • ★3.5

    冷静沈着、超絶美人。敏腕機長にして名探偵ー。
    〝キャプテン・デイテクティブ〟氷室翼登場。四編の連作短編集。

    ・事件1   往路   氷の女王
    ・事件2   ステイ  クリニャンクール事件
    ・事件3  ステイ  修道院の怪人
    ・事件4  復路   機上の疑惑

    今回は国際線デビューとなる新米副機長・間宮治郎
    冷静沈着、おまけに超絶美人の女機長・氷室翼
    往路では高級エンゲージリングの紛失、ステイ先のパリの蚤の市では怪しげな連中に追われ、
    モン・サン・ミッシェルでは殺人事件に遭遇。
    さらに帰路では搭乗客が苦しみだす…。
    疑惑の事件を前に、氷室は持ち前の洞察力で、証拠から矛盾を見出し事件の真相に迫る。
    様々な事件に巻き込まれ、解決・成長していく二人の関係も面白かった。
    二人の会話が、氷室が毒舌で辛辣なんだけど愛情溢れてる様に感じて良かった♪
    とても真面目で、素直で純情な治郎の姿や成長が微笑ましい。

    他のクルー…一見チャラいか゛人懐っこくて優しくって優秀な幸村機長。
    大企業のご令嬢・知的で清楚な多岐川CA
    二人のキャラもとっても良くって気持ちが良かった。
    治郎の恋も良かったなぁ。これからどうなるのか気になる…。

    お仕事…航空業界の事色々知る事が出来たし、旅行・恋愛・ミステリー
    が楽しめた。ミステリーの部分は弱くって何となく読めてしまうのですが、
    読んでて楽しかった。流石秋吉さんの筆力ですね。
    今迄と全く違った秋吉さんですが、続編が出ると良いなぁって思っています。

  • やっぱり秋吉理香子さん、面白かった〜(*´`)
    私の読書の原点は彼女で、辛い時期に何度も救われたからこれからも新作を読むのが楽しみ

  • 好き好き。
    パイロットが主人公で旅した気分になれた。
    氷室さん、かっこいい女性で憧れる。間宮くん応援したくなる。

    出てくるキャラクターが生き生きしていてみんな好き。

    飛行中の知識や事件を解決する経緯が興味深くて感心する。

    ぜひぜひシリーズ化してほしいです。

  • タイトルを見て、いろいろなフライトでおきる事件をCAと機長が解決していくのだろうと、何の気なしに読んでみた作品。実際に読んでみると、主な主人公はCAではなく、副機長に成り立ての間宮で、間宮の国際線デビューフライトで起きる4件の事件を描いた連絡短編集。いろんな路線の旅の模様も楽しめると思ったので、パリしか出てこなくて、しかも1回の往復のフライトでそんなに事件が起きる訳ない!と突っ込みどころも満載で…何より機長は曲者の女パイロット・氷室。この氷室がどんどん推理をしていくのだけど、前作の「絶対正義」がどこまでも嫌な感じの作品だったので、必ず裏に何かがある、と思ったけど、最後まで軽いノリだった。
    軽く何かを読みたい時には、いいかも。

  • 勝手に機長=男だと思って読んでしまってた。ミステリー要素もあり、滞在先の描写もあり、飛行機のことも詳しく分かって読みやすくて面白かった。

  • 文体が軽やかで、ストーリー展開も早いので、さくさく読めた。
    なんだか憎めない主人公に、クールビューティーな機長。
    凸凹コンビの珍道中でおもしろかった。
    これ、続編とか出てないかしら?

    かなり専門的な用語が出てくるので、著者は航空系の仕事をされたことがあるのか?と思ったら、ご家族の方がパイロットだと。
    でも、だとしても、ここまでうまく航空用語を使えるのはすごい。
    まるで、コックピットにいるかのような描写で面白かった。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。ロヨラ・メリーマウント大学院で映画・TV製作の修士号を取得。2008年、短編「雪の花」で第3回「Yahoo!JAPAN文学賞」を受賞、翌年、同作を含む短編集『雪の花』で作家デビューを果たした。ダークミステリー『暗黒女子』は話題となり、映画化もされた。他の作品に『絶対正義』『サイレンス』『ジゼル』『眠れる美女』『婚活中毒』『灼熱』などがある。

「2021年 『息子のボーイフレンド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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