ははのれんあい

著者 :
  • KADOKAWA
3.86
  • (56)
  • (176)
  • (80)
  • (5)
  • (4)
本棚登録 : 1042
感想 : 123
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041054918

作品紹介・あらすじ

長男の智晴(ちはる)を産んだ由紀子は、優しい夫と義理の両親に囲まれ幸せな家庭を築くはずだった。しかし、双子の次男・三男が産まれた辺りから、次第にひずみが生じていく。死別、喧嘩、離婚。壊れかけた家族を救ったのは、幼い頃から母の奮闘と苦労を見守ってきた智晴だった。智晴は一家の大黒柱として、母と弟たちを支えながら懸命に生きていく。直木賞候補作『じっと手を見る』の著者が描く、心温まる感動の家族小説。

ひとつの家族の一代記みたいなものを書きたいと思ったのが最初のきっかけです。それも「普通の家族」ではなく、シングルマザー、離婚家庭など、そのときどきによって有機的に形を変えていく家族を書きたいと思いました。世間から見たら歪なものであっても、それでも「家族」なんだよ、どんな形をしていても「家族」としてどれも間違ってない、ということを伝えたかったです――窪美澄

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • BLのイメージがある窪美澄らしくない、循環な家族の物語だった。
    前半は母由紀子の視点から、後半は長男智晴の視点から描かれている。
    自分の両親、義両親、配偶者、子供…それぞれの状況が変わって形が変化しても家族は家族。
    大人目線か、子供目線それぞれで、そのことを受け入れていく様子が細やかに描かれていた。
    個人的には夫であり父親の智久がどうしても受け入れられなくて、終始イライラ。
    周りの家族が優しすぎじゃないかと思ったけど、私が厳しいんだろうか?

  • 第一部は家事、育児、仕事に追われる由紀子視点で描かれている。夫(智久)の家業の裁縫業で夫婦と舅姑で仲睦まじくミシン仕事をしていた。裁縫業が上手くいかなくなり、妻の由紀子が駅の売店のパートで勤め、智久はタクシーの運転手に転職。
    長男(智晴)と双子の男の子の育児と家事や 仕事に忙殺される毎日である。
    そんな中の夫(智久)と向き合う余裕すらない。
    家族の変化が少しずつ良くない方向へ向かう。

    第二部は高校生になった長男の智晴視点で家族の在り方葛藤を描かれている。
    少しずつ変化する家族の形に、読み手である私に自分は本当に家族の事を思い過ごしているのか考えさせられてしまった。
    そう、ミシンを踏んでる仲睦まじい家族の時間は戻らない事を。
    家族の良き思い出に胸が締めつけられる。

    生きとし生けるもの。みんな幸せで安穏に暮らして欲しい。蓮の花の開花にを目の当たりにした智晴の未来を応援したくなる。それが大切な自分の家族の様にだ。

  • 妻由紀子(母)を中心に、夫智久(父)、長男智晴それぞれの立場から描いた家族の物語。夫婦間に齟齬が生じた時の実母の言葉「ほんとうの悪人なんていないのよ由紀子。いい人がいちばん悪いことをするの」そうだなと思う、いい人に裏切られるのが一番人を苦しめる。智晴の初恋も由紀子の恋愛も清々しく、母に恋人が出来た時、母の幸せを願う智晴の言葉が泣かせる。置かれた状況に色々と苦しみながらも、前に進み新たな家族の形態が築かれる。読了時に清涼感に包まれる物語でした。

  • 「家族」や「親子」を描く作品は数多あるけれど、窪さんが最新作のなかで描くその在り様に心が静かに揺さぶられた。

    登場人物たちが生身の人間として、皆愛おしい。

    それぞれが弱さや脆さ、身勝手さと寛容さ、頑固さとしなやかさを持っている。
    描き過ぎない窪さんの筆致のなかで、登場人物の人間臭さが細やかに呈される。

    心惹かれる人と一つ屋根の下に暮らし、子を持ち、育むことが誰にとっても最大かつ唯一の幸福という幻想はいまだ健在。

    自分がその家族のなかで、どう慈しまれ、どう感じているかを自分自身に問う前に、世間がぼんやりと抱く「家族幻想」と自分の充足感の比較で、何か自分の中の欠損や不足のようなものに目をつむり、ひたすら「世間」や「他者からの目」に焦点を当てて、やり過ごす。

    大切な人に、大事に想われたい。
    寄り添ってほしい。
    理解されたいという本質的な欲求を横に追いやりながら、自分の努力や我慢が足りないのではと、ある時は自分を責め、またある時はそんなネガティブな感情を大事な人に抱く自分を許せず、ひたすら自分を否定する。

    自分のことは二の次、三の次。
    辛いときに誰かに助けてほしいと手を伸ばす自分が許せず、自分で抱え込み、自己解決の道を進み続ける。

    自分でさえ、自分が困っていることに気づいていない。

    「ひとりぼっち」が辛いと感じている人間にとって、この作品は本当に沁みる。

    辛さや大変さを誰にも言えず、自分でコントロールできないことが多すぎ、大きすぎる人へのエールだ。

    子どもを授かったものの、どう扱っていいのかわからない。
    舅姑とうまくやりたいのに、壁を感じてしまう自分が許せない。

    昼夜問わず、授乳、おむつ替えを繰り返し、家事や病院通いに忙殺されたあの日々。
    うちも夫が夜中、目も覚まさず、子ども担当はずっと私だったな。

    簡単ではない家族の事情を子どもながらにずっと背負って、自分の感覚や子どもらしさを封印し、親代わりになった智晴の視線に私の記憶も重なる。

    同い年の窪さんがご自身の生い立ちの中で難しさを抱え、男の子の子育てもシングルマザーとして一人抱えられていたことにも想いを巡らす。

    奇しくも我が家もすべての子どもが独立し、夫婦二人の老後生活が始まったばかり。
    「家族」はうつろうものなのだな。本当は「定型」などない。

    ああ、素敵な作品を堪能。味わい深かった。

  • 『ははのれんあい』窪美澄著 人はねじれながら生きていく | 47NEWS
    https://this.kiji.is/735255796977106944

    窪美澄さん 初の新聞連載『ははのれんあい』で描いた家族の姿|NEWSポストセブン
    https://www.news-postseven.com/archives/20210202_1631447.html?DETAIL

    ははのれんあい 窪 美澄:文芸書 | KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/321612000240/

  • とても良かった!
    ははのれんあいと言うタイトルから想像してた話とは全然違った。
    れんあいというより家族ドラマ。
    家族の始まりから子ども達が思春期になるまで、移り変わっていく家族の形を描いた作品。

    第1部は、出会いから結婚、出産、育児と仕事など、妻・由紀子の視点で語られる。
    第2部は、働く母の変わりに双子の弟の面倒を見る第二の"はは"長男・智晴の視点で語られる。

    1つの家族の話がじっくり描かれていて凄く感情移入してしまった。
    ある時は由紀子、またあるときは智晴になった気分でうん、うんと共感してばかり。

    夫・智久にかなりイライラ!
    なんでちゃんと話さないのか、、
    なんでそんな近くに住むん?
    茂夫の面倒みようよ!
    色々、言いたい事ありまくりヽ(`Д´)ノ

    強くなっていく由紀子が頼もしかった。
    智晴が優しくてほんとにいい子で泣きそうだ。

    家族は時として形が変わってしまう事もあるけれど、その絆は消える事はない。
    ラストがとても良かったです( ᵕᴗᵕ )



  • 読み始めてしばらくタイトルの「はは」が誰なのか、誰が「れんあい」をするのか、と全く予想がつかず。
    だって「はは」という以上、語り手は子どものわけだし、そうすると主人公の子どもって、まだ幼児だから、姑か?あるいは母親か?と。
    結婚して仕事を辞め、夫の家業を手伝いながらの出産。家業の斜陽、子どもを預けての再就職、そして次子の妊娠出産、そんな中での夫の不穏な動き…

    そんな長い長い導入部からの、「はは」と「僕」の物語にようやく突入。
    ここからが、もう、切なくて愛おしくてたまらない。離婚してから母子四人での暮らし。大黒柱である「はは」の代わりに家事を引き受ける高校一年の僕、こと智晴。あぁ、智晴よ、君はなんていい子なんだ。
    でも、えてして「いい子」は大人にとってのいい子であるためにたくさんの我慢をする。
    智晴の我慢。それを無意識に「我慢だと思わない」ようにすることの、しんどさ。

    自分たち母子を捨てた父と、その新しい家族との関係。これは、つらいよな、とつくづく思う。弟たちのように無邪気になれたらどんなに楽だろうか、でもそれが必死に働く母への裏切りのように感じてしまう繊細さ。

    読み終わって改めて思う。家族って何だろう。他人同士が知り合って結婚して子どもが生まれ、親が老い、命が消えていく。増えて、減って。そんな一本の道とは別の形の家族も、ある。
    それをどう受け入れていくか。
    頭で理解していてもそれを心が受け入れるのは難しい。柔らかい心が、たくさんのでこぼこに躓きながら少しずつ鎧をまとっていく。頭と心を自分の中でまとめていく作業。それを支えてくれる祖母や祖父の存在。
    あぁ、家族って何なんだろうな、血のつながりって何なんだろうな、と。
    わからない。わからないけど、今は、この家族の物語が誰かの心の支えになればいいのに、とそう思う。

  • 〜~〜~〜~〜~〜~~~~~~~~~~~~~~~~
    寡黙な智久と結婚した由紀子は、それを機に夫の実家である婦人服の縫製を手伝うようになっていた。
    義父母は優しく、子どもも授かり、幸せを絵に描いたように見えた由紀子の暮らしだったが、子育ての日々のなかで少しずつ、由紀子と智久の間にズレが生じていく…
    (第1章)
    〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜~

    由紀子目線で進んでいく第1章と、由紀子の長男・智晴(ちはる)目線で進んでいく第2章からなる物語です。
    妊娠〜出産、子育てに奮闘する由紀子から見える景色には、わたしも少なからず見覚えがあり、由紀子の心境を読むと胸が痛くなりました。

    一方、第2章に入り、大きくなった智晴からみたまわりの景色はだいぶ違っていました。
    第1章ではややうとましく感じた由紀子の母でしたが、第2章では色んな物事を経ての包容力のようなものを感じ、印象がかなり違いました。
    第2章の時点で智晴は高校生なのですが、これまた祖母(由紀子の母)とはまた違った包容力をもつ男子でした。
    智晴の考える“かぞく”の定義が深すぎて、「君、本当に高校生…?」と、思わず言いそうになりました。

    第1章では主人公だった由紀子も、第2章では智晴が主人公のため、脇役ポジションへと変化します。
    そのため、由紀子の内面は知ることができません。
    また、智晴の目を通してみる由紀子の姿は、第1章の由紀子とズレがあり、その差異に戸惑いました。
    由紀子の行動の理由が第1章では手にとるようにわかったのに、第2章ではまるでわからない…
    そのことが寂しくもあり、また歳を重ねいろんな経験をした由紀子の、第2章時点での本心も読んでみたかったなあと思いました。

    読み終えて疑問が1つ。
    由紀子の義父母たちは名前がちゃんと出てきたのに、由紀子の実母だけは最後まで名前が出てきませんでした。
    最後まで「由紀子の母」とか「おばあちゃん」という枠のままだった由紀子の実母…
    でもこれって、「○○ちゃんのママ」としか呼ばれないという、かなしい子育てあるあるなのかもしれませんね。
    きっと窪さんはあえてそうされたのだと思いますが、その理由を知りたいな…と思ってしまうのでした。
    (考えろ!自分でも!苦笑)

  • 母親と父親が好き同士だから自分が産まれた。そういう風に素直に思えたまま大人になれるというのは本当に幸せな事だと思います。
    子供が居ても恋愛感情勝てず別れてしまう父と母(あえて男と女とは書かない)。父親不倫からの離婚。まさに私の生家と同じです。そして必死で働き子供を育てる母。
    幸せだった一家が次第に形を変えていく様を描いています。
    一方、別れた父親と大きくなってもそこまで関わるかと違和感も有りますが、そういう家庭もあるのかもしれないのでそこには突っ込まない。
    恋愛というものはどこまで重要なのか、人をどういう風に変えるのかと色々な事を考えながら読みました。第一章が母奮闘、子育て子育てまた子育てから離婚迄の道のり。第二章が長男「智晴」が少年期を脱すると共に初めての恋を得て、親たちも人間であり男女だったんだという事に思い至る話となります。
    今はそういう激しい感情に身を委ねる事が忘れてしまっていますが、人を恋する心は止め難いんでしょうね。なんと不自由な感情なんでしょうか。

  • 疲れてるのかな…最後ずっと涙流しながら読んだ。溢れる涙を止めることができず、理想だって思った。紆余曲折ある人生の中で、結婚、出産、育児、出産、離婚、別れ、たくさんのことを、しなくてもいい経験をし、こうして新しい形になることは理想だ、と。久保さんのこういう話がやはり好き。そして過去の作品を含めてこの作品がいちばん好きです。
    誰も悪い人が出てこないのがまた泣ける。取った取られたではなく、好きになった。それを認めるってすごく勇気のあること。好きになった、恋を知った。私はまたきっとこの本を読むだろうな。

全123件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

窪美澄の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×