フィンランド語は猫の言葉 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041075388

作品紹介・あらすじ

1970年代、まだネットも携帯も普及しておらず、「かもめ食堂」もまだない頃、森と湖の国フィンランドに魅せられ単身渡芬。「日本を出るときは脳ミソが空っぽだった」からこそ吸収できた、15もの格がある難易語の国の、摩訶不思議な魅力とは――。抱腹絶倒間違いなし、笑って泣ける名留学エッセイ!

感想・レビュー・書評

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  • フィンランドはトランジットで一度降り立ったきりだが、外が真っ暗だったにも拘らず何故かほっこりしたのを覚えている。「乗り換えと言わず、いつかこの国でガッツリ過ごしてみたい」と思ったのも。
    その後もSNSでフィンランドの幻影を追い続けていた中で、akikobbさんに本書をご紹介いただいた。(有難うございます^ ^♪)

    留学のため1970年代後半に渡芬(漢字表記にすると「芬蘭土(フィンランド)」)した著者の、フィンランド語奮闘記。…だけでなく、現地での生活模様や文化の違いが赤裸々に明かされている。
    それなりに厳しい面もあっただろうなーと感じることもあったが、ますます彼の国への憧れを募らせる運びとなった。

    「三年近く住んでいたが、いやなことは何もなかった。ただ、脳ミソの中に少しバターが混ざったかな、という感じだけだ」

    こんな感じの程々にユルくて、(自分が冒頭で感じたような)ほっこりする留学生活を目の当たりにすれば、誰だって憧れを募らせるだろう。ついでに自分は著者のどっしり構える精神にも惚れました。
    本書の解説を担当された言語学者の黒田龍之介氏は、やはりフィンランドの言語システムに興味津々だった。氏は氏でフィンランド語への憧れが増大しているようだ。
    母音音素が8つあって日本人には発音しやすいが、Rの発音は巻き舌が必須。(著者同様、巻き舌が苦手な自分は終始涙目になると思う…) 三人称単数系がたった一つしかないため「彼」か「彼女」か性別が分からないことがある。
    あの文体からかそこまでがむしゃらな感じはしなかったけど、翻訳アプリもなかった時代にこうしたハンデを乗り切るには、絶対本には書ききれないほどの勉強量があったはず…。

    フィンランドの方言や古代語の学習に取り組むなど、チャレンジの幅も凄い。更には趣味とはいえ、フィンランド語でモダンバレエやピアノを習おうとしてみたりと、外国に住むとここまでアクティブになれるものなのか…と感嘆する。
    何もかも熱心に吸収するこの姿勢こそが、真の留学と呼べるのかしらん。

    姿勢といえば、厳寒をマスターしていくところも面白かったし勉強になったな。
    例えばサウナ。学生寮やアパートにある共同サウナでのエピソードは読んでいるこっちも温まってきた。お隣のおばさんと退室後に食事を共にしたりと、充実したサウナーライフも満喫していたようだ。(アクシデントで退室できなくなった話には冷や汗をかいたが…)
    他にも寒暖計を確認せずに零下何度かを当てる「マイナスごっこ」をしてみたりと、寒さをマスターするどころか手懐けているように見えた。

    「もし今誰かに、フィンランド語は難しいかときかれたら、『いいえ、ゲームのように楽しいわ。だって文法が十分に複雑なんですもの』と答えるだろう」
    ふと思う。フィンランドには刺激が少ないと仰っていたけど、生きていく上で必要な分の刺激は語学学習で摂取されていたんじゃないかと。それも無意識のうちに。

    • akikobbさん
      ahddamsさん
      こんばんは。読まれたのですね!嬉しいです♪
      稲垣美晴さん、さらっとゆるっと書いておられるけれど相当の勉強家ですよね。圧倒...
      ahddamsさん
      こんばんは。読まれたのですね!嬉しいです♪
      稲垣美晴さん、さらっとゆるっと書いておられるけれど相当の勉強家ですよね。圧倒されたのを覚えています。
      「厳寒をマスター」面白いですね。慣れない暮らしへの対し方も、「戦う」わけでもなく、「楽しむ」というよりはもっと地に足がついた感じで、独特の落ち着きがあったような気がします。とはいえ具体的なエピソードは色々忘れてしまっていたので、ahddamsさんのレビューで再び楽しめました♪
      2023/10/26
    • ahddamsさん
      akikobbさん、こんばんは。
      笑いもありの素晴らしい語学奮闘記でした(*^^*)
      映画『かもめ食堂』の中でも小林聡美さんが(さりげなく)...
      akikobbさん、こんばんは。
      笑いもありの素晴らしい語学奮闘記でした(*^^*)
      映画『かもめ食堂』の中でも小林聡美さんが(さりげなく)フィンランド語を会得されていたので、日本人にも易しい言語なのかなと思っていましたが、本書で文法の複雑さを知って瞬時に考えを改めました(^◇^;)
      まさに絶妙に地に足のついた感じで、小林聡美さんとはまた違った頼もしさをたたえていましたね…!フィンランドへの憧れも再燃して、とても良い刺激になりました。
      改めてご紹介いただきありがとうございました♪
      2023/10/26
  • 英語の勉強をするようになってから、語学を学ぶ人の目的や勉強方法、モチベーションの維持の仕方などが気になるようになりました。
    そこで以前から気になっていた本書を読んでみることに。

    著者の稲垣美晴さんは東京芸大の学生だったころに、フィンランド語を学ぶために単身フィンランドへ。
    ヘルシンキ大学の学生として過ごした日々をユーモアたっぷりに紹介してくれるのが本書です。

    著者がフィンランドで過ごしたのは1970年代後半。
    まだ日本でフィン語の辞書もない時代に、えいやっと現地に飛び込んでしまう彼女の熱意と度胸が、小心者の私には眩しかったです。
    フィンランド語で面白い作文を書いては先生を笑わせていたエピソードに共感。
    誰かを楽しませたい、という気持ちは語学の上達につながるのだということを実感させてくれました。
    難しいことでも好奇心旺盛にトライして習得した著者の姿から、たくさんのパワーを分けていただきました。

    また、大学の授業や友人たち、フィンランド文化などのエピソードだけでなく、フィンランド語の文法や方言などについても紹介されていて興味深かったです。

  • 本書の存在はもう何年も前から知っていて、いつか読みたいとは思っていた。
    図書館には蔵書が無く、他の市との相互貸借だと数ヶ月待つ。
    自分の貴重な予約枠を本書の為に使うほどには欲していたわけでもなかったので、いつの間にか数年が過ぎていた。

    ところが今年になってから何冊か読んだ黒田龍之助氏の著書のどれかで薦められていたので、本書と『ミラノ霧の風景』(須賀敦子著)の2冊を今年の5月末に購入した。
    以来、本書をちびちびと本日までかけてやっと読了した。

    本書は著者がヘルシンキ 大学に3年間留学した1980年頃のエッセイ。
    著者はたぶん、良家のお嬢様。
    当時は彼女がフィンランド語の先駆者となった。
    しかし申し訳ないが、本書は面白くなかったので、読了まで時間がかかった。

    著者は、自分はいつもテストが全然できなくて、あの掲示板の不合格者1名はきっと私だわ!と言っておきながら、最終試験でとても珍しい「優秀」をもらったという。
    う〜ん、そういうタイプの人だから、ちょっと鼻についてしまった。ごめんなさい。

    そして本書の解説は黒田龍之助氏だった。
    『ミラノ霧の風景』はまだ手をつけていない。
    面白いといいのだけれど…。

  • 初出は1981年だというから、随分長い間楽しまれてきた本のようだ。

    何気なく新刊コーナーで表紙を見ていたときに、なんでフィンランド?と疑問に思って手に取った。
    このご時勢だから、ということかもしれない。
    ちなみに猫の言葉社ってもしや、と思いきや、やはりミハルさんが代表を務めているらしい。

    杉田玄白の訳すことへの難儀さに共感したり、漱石や鷗外の洋行への感嘆を述べて始まる。
    確かにその時間差を考えるなら、ミハルさんの冒険が2019年の私たちに響くものがあっておかしくない。

    エッセイからはフィンランド留学でのあれこれを、身近に感じさせてくれて楽しめるし、また非常に勤勉だとも思う。見習いたい。
    しかし、まあ、ニッチな世界である。
    私自身はフィンランドと無縁ではないものの、訪れたことはないし、帽子を被らなければ頭痛するほどの寒さ、と言われて、行ってみたい!とは正直ならなかった。

    「フィンランドにはヴェイヨ・メリという作家がいる。仮に彼がフランス語で小説を書いたとしたら、世界的な文豪になっていただろうといわれる。」

    言わんとすることが、すごく分かる。
    反面、フランス語で書いていたなら同じ小説だと言えただろうか、とも思うけれど。

    マイノリティな言語は、いずれ淘汰されるだろうか。
    けれど、島国に住む日本人が英語を学ぶ、ある種の中途半端さが私は嫌いではない。
    「日本人って英語が話せるのかなんなのか分からない」とネイティブの人に言われても、きっとニマニマしていられる気がする。
    というか、それくらいの気持ちでいられたなら、日本語は安泰だろうなと思う。

    あ、フィンランドから随分離れてしまった。
    先程、フィンランドに自ら訪れることはないと書いたけれど、「猫の言葉」はこっそり拝聴してみたい。そして、相槌くらいなら覚えてもいいかな。

  • 1970年代に単身でフィンランドに留学(渡芬)したエッセー。
    フィンランドに行くことを、渡芬って言うらしい。

    フィンランド語の学習を通して出会った、現地の文化・風習が詳しく描かれている。冬になると海の上を歩く話や、コーヒーの受け皿の使い方の話、お城のようなホールで一人暮らしをした話など、刺激的だった。なかなかバイタリティーに溢れる人だと思う。

    また、筆者が自分だけ授業についていけず泣いた話や、英和辞典と英芬辞典の2冊を駆使しながら日々勉強していた話、フィンランド各地の方言やエストニア語まで同時に学んでいた話を読んで、英語だけで何年も苦労している自分が恥ずかしくなった。

    母語以外の言語を、現地滞在の経験無しで継続して学習するためは、モチベーションが必要。私の場合、隙間時間を見つけて英語を学習しているが、趣味のレベルにすぎない。残念ながら、海外赴任の希望は叶わなかったし、英語を使う機会も無い。怠けようと思えば怠けられるので、つかず離れずの中途半端な学習を続けてしまい、何年たっても上達しない。時々「どうせ自分は仕事で海外には行けない。語学学習は意味が無い。」と投げ出したくなる。

    この本の最後に、筆者は「語学を勉強するために苦しかった経験が、すべて優しさに還元されればそれでいい。生きるってそういうことだと思う。」と述べている。本気で学べば苦しさが伴うもの。私は筆者のような環境に居るわけでもなく、趣味での語学学習にすぎないが、この本を励みに、コツコツ続けていきたいと思う。語学学習を通して、他者を受け容れる、広い心を持てるようになりたい。

  • 海外体験、言語学に興味がある人なら、より楽しく読めると思います。
    何十年も前に書かれてるのに、古くささを感じないことに感動しました。海外体験エッセイなのに、なんでだろう。。。
    たまには、ブラジル以外の国も読んでみるといいもんだなぁと思ったので、コロナで海外いけないのでので、読書で海外旅行したいと思います。

  • 読んでいるうちにすごく古い本なのかな、と思ったらなんと1981年に最初の版が出たものみたい。
    1970年代にフィンランドの大学に留学して孤軍奮闘する著者のエッセイ。
    今日本では北欧ブームで、フィンランドなども何となく馴染みのある国となっているけれど、当時はインターネットもなければフィンランド語学習書が日本で一冊しかなかった時代のよう。そのような時代の留学は大変苦労されただろうなと想像できる。
    このエッセイでは軽い内容だけでなく、フィンランド語の言語学的なものにも少し触れているので、結構重厚感ある内容。ただ著者のユーモアで楽しく読むことができた。
    フィンランド語、少し興味があったけどこの本を読むと物凄く難しそう…

  • 先日読んだ津村記久子の『枕元の本棚』でも紹介されていたので、積読棚から順番を繰り上げて読んでみました。
    最近の話なのかと思ったら、もう40年も前に出版された本が、何度目かの出版社のお引越しで出版されたものなんですね。
    つまり従来から相当読まれている本なんですね。ふむふむ。

    のっけから「解体新書」をなぞらえているように、手がかりの少ないフィンランド語の学習はとても大変だったと思います。
    が、それを感じさせないユーモアが、とにかく愉快。
    「大変だ~」「全然わからん~」と言いながら、着実にフィンランド語をものにしていく姿は、読者に勇気を与えるのではないでしょうか。

    実は私、高校生の時に半年ばかりフィンランド語を習っていましたので、ちょっとは音読ができます。
    が、意味は全然分かりません。
    何とか格とか何とか格とか、とにかく文章構成が日本語と全然違うので、もうちんぷんかんぷんだったのです。

    それでも、楽しくかつ意欲的に学習できる人が、何かを為す人なんだなあ。
    見習おう。

    文章も視点も面白いのですが、一点だけ。
    ひとつのパラグラフに複数のトピックが書かれているので、いったいこれは何について書いているんだ?と混乱する部分が何か所かありました。
    頭のいい人特有の、話が走りすぎるってやつですね。
    これは最初の出版の時に、編集の人が何とかしてほしかったな。

  • 1981年に出版されてから、3社で発刊された、1970年代にフィンランドに語学留学した女子大生のエッセイ。

    フィンランドの人がどういう生活をして、どんな事を考えているのかに興味があって読んでみたのですが、語学にあまり興味がないからか、私には合わなかったのかもしれません。
    (10〜20代くらいに素直な気持ちで読んだら面白かったかもしれません。)

    著者の、新しい文化に触れた時のワクワクや驚きが中心のお話でした。
    今回は時間がなかったので、読むのを中断しました。

    東京おばけの話はちょっと印象に残りました。
    昭和の頃ならよくある話だったのかなと思いました。

  • 猫の言葉社
    http://nekono-kotoba.com/

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    ちんぷんかんぷん。でもこの国、最高!抱腹絶倒のロングセラー留学エッセイ
    森と湖の美しき国フィンランド。
    芸大生ミハルが「渡芬(トフン)」したのはフィン語の本も辞書もない70年代末。相槌の「ニーン、ニーン」は猫の言葉に聞こえるし、夏至祭は「ココ、コッコ」と鶏言葉が蔓延、古文は恐竜言葉さながら謎だらけ。
    ハードでシュールな語学漬けの日々に天性のユーモアと想像力をフル活用。個性溢れる仲間と極寒の冬も混浴サウナもどうにか乗り切った、抱腹絶倒のロングセラー留学体験エッセイ!
    解説・黒田龍之助
    https://www.kadokawa.co.jp/product/321807000225/

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著者プロフィール

東京芸術大学美術学部芸術学科卒業。ヘルシンキ大学留学後、「フィンランド語は猫の言葉」を著し、フィンランド文化紹介の先駆けとなる。東海大学で12年間教鞭をとった後、フィンランド文化に特化した出版社、猫の言葉社を設立。マウリ・クンナスの「サンタクロースと小人たち」(偕成社)や「フィンランドの小人たちトントゥ」(猫の言葉社刊)をはじめ、フィンランドの絵本の翻訳多数。著書に「サンタさん、分析します。」「注文の多い翻訳家」等がある。

「2017年 『天使に守られて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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