炭酸ボーイ (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
2.88
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本棚登録 : 95
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041079645

作品紹介・あらすじ

宮古島で突如湧き出した天然炭酸水。商品化にあたり宣伝広報を担うことになった真田事務所の涼太たちは、プレミアム戦略を採り、「ミヤコ炭酸水」をヒット商品に成長させた。ところが販売元のグループ会社がこの希少な水に目をつけ、採水地近くにリゾート施設の建設を計画。自然豊かで神高い土地に降って湧いた話は、村を巻きこんだ大騒動に。「大切なもの」を守るため立ち上がった〈チーム真田〉は、この計画を阻止できるか!?

感想・レビュー・書評

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  • 宮古島が舞台の小説ということで、南の風に吹かれたいと思って、読んだ。
    しかし、想像以上に深い内容で、現代の諸問題を考えさせられた。
    とにかく風景描写が美しい。文体が軽やかで、読みやすい。
    しかし、内容は深いのである。
    この作家は藤沢周平や太宰治の影響を受けているのではないか。
    最初からグイグイ惹かれていった。                      
    いまの日本をおおっている閉塞感を打破していく物語だと思う。

    どこかで聞いたことのあるような首相とその夫人の名前が出てきたときは、大笑いした。筒井康隆の「裏小倉百人一首」や「農協、月へ行く」「ヒノマル酒場」などのパロディ小説に通じる趣きもある。しかも、リリカルな趣きもある。
    この作家の並々ならぬ力量を感じた。
    自然とリゾート開発の関係は、沖縄では以前から大きな問題になってきた。
    そこに、「水」の問題をからめている。まさに、「いま」を問うている。

    米軍基地が集中する沖縄では、有害な有機フッ素化合物による河川や地下水の汚染が深刻な問題となっている。宮古島も、自衛隊のミサイル基地やリゾートホテル建設で、地下水汚染や枯渇のことが問題になった。
    沖縄のなかでも最も神高い島といわれる宮古島のひとにとって、神さまとは何か、ということもこの小説のテーマになっている。
    コロナ禍で、科学的な対策をとれない日本政府は、まさに竹槍でB29と戦っていた戦前の軍国日本と変わらない。
    そこにあるのは、科学的思考の欠如である。
    どんどんアホになっていくこの国の人びとは、論理的な考え方から逃げて、似非「スピリチュアル」な空気に逃げ出している。
    そのあたりのことも、この小説は問うていると思う。
    素晴らしい作品だ。

    池澤夏樹のエンタメ版といってもいい。

  • 『炭酸ボーイ』
    吉村喜彦
    2021年 KADOKAWA

    2週間くらい前かな。近所の本屋さんを散策してたときに見つけた本。
    書店員さんの手書きPOPに「沖縄宮古島が舞台の痛快お仕事エンタテインメント」って書いてあったので即買い。
    宮古島で湧いたという天然炭酸水をめぐってのお話。主人公は小さな広告会社勤務という設定。
    なんだか自分の境遇にも近いものがあるので嬉しくなりました。
    筆者は元々サントリーの宣伝担当者だったそうです。
    フィクションなんだけど、そうそう!って思いながら、そして実際の宮古島の風景を思い出しながら、一気に読了。
    おもしろかったです!
    ただラストは沖縄独自の風土、文化に頼っている度合いが高いかなと。
    とてもおもしろかったし、沖縄好きとしてはよくわかるんだけど、素直に仕事としての痛快な結末だったらどうだったかなぁとも思いました。
    でも書店員さんのPOPの通り。
    書店員さん、ありがとうございました!

    #炭酸ボーイ
    #吉村喜彦

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50257663

  • 北海道には行ったことがあるけど、
    沖縄は行ったことがない。
    青い海に囲まれた暖かな美しい島々、いいなあ。
    肌寒さが身に染みる季節にはなおさら。
    緊急事態宣言が解除され、
    旅心がうずうずする時期でもある。
    でもまだ油断はできぬ、自重自重。
    ということで一足先に小説で沖縄を味わう。

    主人公は広告事務所に勤める水神涼太。
    涼太くんと言いたいくらいさっぱりしてるが、
    既に30代半ば、食品メーカーの宣伝部から、
    編集ライターに転じた腕に覚えありの広告マンだ。
    宮古島で突如湧き出した
    天然炭酸水の宣伝広報を担当するうち、
    リゾート開発騒動に巻き込まれる。
    いや豊かな自然を守るため、
    自ら渦中に飛び込んだという感じか。

    自然は大きい。
    科学がどれほど発達しようとも、
    人間の力をはるかに超える。
    自然がその力を見せれば人はもろともない。
    そこに恐れがある。
    神聖で冒すことのできない領域だ。
    けれどビジネスは人間の欲望を肥大化させる。
    利益と権力が暴走し始め、
    過大の自信が身の程を見誤らせる。

    本当に大切なものは何なのか。
    すべてを手に入れることはできない。

  • 炭酸ボーイというタイトルと、
    華やかな表紙で沖縄行きたい欲が刺激される〜と
    沖縄気分で読んでみたら予想外に政治的なお話しが描かれてた。
    自然を守りたい者、自然を壊して金を儲ける者。

  • 軽く読めてほぼ一日で読了。よそ者だから声をあげちゃいけないなんて違うっていうのはそうだよなっって思った。
    名前をかえているけど、こういう会社なんだろうな、この人だろうなって思われる人がいっぱい出てきて笑ってしまった。宮古島の内情はあまりしらないけどこないだ起訴された元市長はこんな感じだったのかなとか。面白く読めた。

  • 安倍首相夫妻をパロったり、オバァ使ったり、なんだか安直。

  • 20210609読了
    #島
    #沖縄県

  • 小さな事務所でライターとして働く涼太は、取材旅行のため、宮古島を訪れる。ある酒造を訪ねたところ、最近井戸水から炭酸水が沸き上がっているのを耳にする。味は格別で、商品化しないかと持ちかける。売り上げは上々したが、そんな時、販売元のグループ会社が、リゾート施設を建設する計画が持ち上がった。果たして、阻止することができるのか?


    作者の吉村さんは、サントリーの宣伝部にいたということで、営業としてのノウハウが、色々なところに散りばめられていました。勢いだけで戦略を立てるのではなく、冷静に分析しているので、リアリティがとてもありました。

    また、吉村さんの作品を見ると、お酒をテーマにした作品が多くあります。この作品はお酒がメインではありませんが、お酒も登場し、炭酸水に「寄り添う」存在で良い調和を出している印象がありました。

    商品をどう活かしていくのかだけではなく、どう自然と共存していくのかも描かれています。観光業として考えると、人が来て、盛んになることで島は潤っていきますが、現地として考えると、自然が壊れるなど色んなことが「失って」しまうといった問題が発生します。

    そういった問題を取り扱いながらも、コミカルでわかりやすく書いていて楽しめました。

    後半からは「自然」からの反撃が始まります。てっきり涼太一同が戦略を練り、勝ち取ったんだという展開を想像していたのですが、多くの悪い偶然?で問題を沈ませることにゾワっとしたりスカッとしたものの、「微炭酸」な感じがしました。

    また、あの有名政治家?が登場するのですが、少々エッジが効いている印象でした。〇〇夫人が登場することで、現場を掻き乱していますが、そこは作者の遊び心なのか、軽くディスっている印象があって、クスッとしてしまいました。

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著者プロフィール

京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。著書に小説『ビア・ボーイ』『こぼん』『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫)、『バー・リバーサイド』『二子玉川物語~バー・リバーサイド2』『酒の神さま バー・リバーサイド3』(ハルキ文庫)。ノンフィクションでは、『マスター。ウイスキーください』(コモンズ)、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館)、『食べる、飲む、聞く~沖縄・美味の島』(光文社新書)、『オキナワ海人日和』(三省堂)など多数。

「2021年 『炭酸ボーイ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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