血蝙蝠 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041092989

作品紹介・あらすじ

肝試しに荒れ果てた屋敷に向かった女性は、かつて人殺しがあった部屋で生乾きの血で描いた蝙蝠の絵を発見する。その後も女性の周囲に現れる蝙蝠のサイン――。名探偵・由利麟太郎が謎を追う、傑作短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 表題作の『血蝙蝠』はおもしろかったけど、それ以外は何だかなぁ…て感じだった。
    『由利先生シリーズ』となってるけど、それは2話だけで、他はまったくのシリーズ外。
    ノンシリーズの短編集て言ったほうがいいと思う。

  • 短編集だった。短編だったけど、1話1話面白く楽しく読めた。ミステリーはミステリーだけど、1話目はロマンチックなお話で、いつもは殺人が絡んで何とも言えない終わり方だけど、そうじゃない爽やかさを感じるポジティブなお話で良かった。最後の話はミステリーではなく、SFのようなお話で不思議だった。先生がこういった空想をしてるのかなともほっこりした笑

  • 『血蝙蝠』『X夫人の肖像』なんかは長編にもできそうな短編。もっと掘り下げてほしいと思うぐらいがちょうどいいのかもしれない。

  • 昭和十三年から十六年にかけて発表された全九篇を収録した作品集。名探偵・由利麟太郎シリーズあり、猿が重要な鍵を握る作品や、希少なSF短篇まで読むことができる。

    個人的に好きなのは、ホラーテイストながら読後感がいい『マスコット綺譚』、亡くした女房を一途に思い続ける猿が活躍する『恋慕猿』、男と失踪した女そっくりの肖像画を見つけることから真実が紐解かれる『X夫人の肖像』あたり。いろんな味わいが楽しめる。

    『花火から出た話』
    昨年に亡くなった新城(しんじょう)博士は、遺言によって邸宅の敷地一帯を区に寄付──そこは公園へと整備された。貢献を称える博士の銅像の除幕式にて、花火が上がる。すると、丘の上にいた船員服の男・風間伍六のところに花束が飛んできた。なにげなく拾った花束によって、風間は新城家の婿争いに巻き込まれていく。

    父が出したとんでもない婿の条件に、そりゃ花火で打ち上げたくなるわなと(笑) 風間は花束を持ったことで命を狙われるものの、それに対応するタフさを持っている。そんな風間の正体とは何者なのか?という部分が鍵に。新城の娘・珠実が嘘を一閃するシーンがカッコよかった。

    『物言わぬ鸚鵡(オウム)の話』
    病気によってしゃべれなくなった少女・マヤのために、友人のSが鸚鵡を持ってきたことから始まる掌編。物言わぬ鸚鵡に隠された秘密と過去とは──。
    マヤの兄が主人公。鸚鵡の謎を解き明かそうとするも、その闇の深さに物が言えない。しゃべれなくても生きているだけで美しい。それでよかったのにね。

    『マスコット綺譚』
    新進スター・青野早苗が持つ幸運のマスコット。それは卵型の縞瑪瑙(しまめのう)に魔神の顔が彫りつけてあるものだった。自分の面倒を見てくれた歌川鮎子が何者かに殺され、その流れで手にしたマスコットは早苗に幸運をもたらしたかに見えたが──。

    怪しいマスコットというホラーテイストもありながら、読後はすっきり爽やかさを感じる一作だった。貧乏から一転して、スター街道を突き進む早苗。幸運とは何なのか。それを見極める目と思考こそ大切なんだと。誰かを突き落とすためじゃなく、助けるために手は伸ばすものだ。

    『銀色の舞踏靴』
    東都映画劇場の2階席から落ちてきた銀色の舞踏靴。記者の三津木俊助はそれを拾って返そうとするも、女性は車に乗って逃げ出してしまう。それを追った三津木だったが、彼が居ない間に劇場では同じ銀色の舞踏靴を履いた女性が殺されていて──。

    由利麟太郎シリーズの短編。三津木は靴を届けに女を追いかけるも、自分の物ではないときっぱり拒絶。シンデレラに一杯食わされたかと思いきや、劇場の2階席に舞踏靴を履いた女の死体が!しかもその女はちゃんと両足とも靴を履いているッ!何を言ってるのかわからねーと思うが状態。付きまとう怪しげな老人の影!なぜ美女たちは狙われたのか?犯人の動機とか、手際が良すぎるってことは置いといて、シンプルで面白い短編。

    『恋慕猿』
    カフェ「ユーカリ」に来る奇妙な客・川口。彼は肩に猿の直実(なおざね)をいつも乗せていた。女給の瞳は直実の世話をしている内に懐かれてしまう。そんなある時、直実が羽子板を持ってやってきた。迎えてみると、なんと直実は血まみれで──。

    猿の直実が主要キャラという意欲作。元は猿芝居にいて、熊谷直実(くまがいなおざね)が十八番。相手役の平敦盛を演じる牝猿に先立たれた後、敦盛の絵を見るたびに愛情を向けるという一途さが尊い。人間のこじれた関係性が、猿のひた向きな恋慕によって突き崩されるという皮肉な構成が上手い。

    『血蝙蝠(こうもり)』
    鎌倉に集まった男女が肝試しに選んだ「蝙蝠屋敷」と名づけた廃屋。通代(みちよ)はそこで女性の死体を発見してしまう!しかも壁には血で描いた蝙蝠の絵が残されていて──。

    こちらも由利麟太郎シリーズの短編。三津木俊助が怪しい男から通代を助けたことから事件へと関わっていく。黒ずくめで奇妙な男と蝙蝠屋敷で殺された女性の正体とは?!殺人予告から事件は加速していく!横溝先生らしい不気味な要素を入れ込みつつ、オーソドックスなミステリとして仕上げている。犯人とトリック当ても易しめなのでぜひ挑戦を。

    『X夫人の肖像』
    上野の美術展覧会で評判の絵「X夫人の肖像」が新聞に掲載された。それを見た児玉隆吉(りゅうきち)と妙子夫妻は驚き、その作品を見ようと向かうことに。そのモデルは伯父・晋作と結婚した後、若い男と姿をくらましたというお澄とそっくりで──。

    一枚の肖像画がもたらす過去の真実。画家・八木英三はなぜその絵を描いたのか。絵の奥にあった物語が映し出したのは、どこまでも深い愛情がもたらした愛憎劇だった。多くは語られないものの、肖像画を思い浮かべることで作品に奥行きが出てくる作りが絶妙。

    『八百八十番目の護謨(ゴム)の木』
    三穂子は映画「南十字星」を観た時に、あるものを思いがけず目にした。彼女の恋人・大谷は、ボルネオでゴム園を経営している緒方に見込まれて働いていた。彼らが日本へ戻って来た時、共同経営者・日疋の家で過ごしていると、緒方が殺されてしまう。緒方が残した「O谷」というダイイングメッセージから、大谷は犯人と疑われるがすでに行方をくらましていて──。

    三穂子が映画の中に発見したあるものは、恋人の冤罪を証明するものかもしれない!彼女は証拠をその目で確かめるため、日疋とともにボルネオへと向かう!日本を飛び出して殺人の謎を追う異色作。冒険譚に謎解きを絡ませ、その発端が映画というのがポイント。それにしても、ダイイングメッセージって碌なことにならないよなあ…。

    『二千六百万年後』
    四十歳になった私は理想の社会を見るため、深い睡眠を極めることで未来へ行こうと思い立った。昏々と眠りについた私がたどり着いたのは理想の社会なのか──?!

    横溝先生のSF短編!星新一のアイロニーな雰囲気もありながら、昭和十六年という太平洋戦争へと突き進む時代背景も映し出された内容になっている。いちいち見下してくる未来人に苦笑い。
    「もしもし、あなたはほんとうに紀元二千六百年時代の原始人ですか」
    原始人──? やれやれ、するとここもやっぱり未来国のひとつなのか。
    「はい、そうですよ。すみません」
    この何とも言えない脱力感のある切り返しが好き。今の時代に古代人が現れても、こんな失礼な振る舞いをするのかなとか考えると興味深い。

  • 短編集
    由利先生シリーズとなっているが、由利先生や三津木か出てくる話もあり、出ない短編もあり、恋愛小説風からSFまで幅広い趣向にとんでいるが、どれも基本はミステリだ
    やはり、そこがいいところだと思う
    解説にあるように、時代が戦争へ向かっていく時勢を感じさせる作品かある

  • 短篇集。由利・三津木シリーズは二作のみ。
    大体血腥い事件ばかりだけど、とてもロマンチックで真の愛は勝つ、というすっきりとした読後感。
    花火から出た話と恋慕猿が好きです。
    表題作の血蝙蝠と銀色の舞踏靴は三津木くんの人柄の良さがよく伺える話でした。
    最後の二千六百万年後も面白かった。横溝先生のSF作品なんてとてもレアなのでは?
    どれも楽しく読めました。

  • 短編集。

    特に印象に残った一編。
    一番最後の「二千六百万年後」。
    まるで星新一の作品を読んでいるようで、今まで触れたことのある横溝作品とは全く毛色の違う作品でした。そして案外星新一の無感情な雰囲気の文章と似ていると感じました。
    ただ、やっぱり横溝作品は長編であってこそ、と個人的には思います。

  • 全9篇で、由利麟太郎が登場する作品は『銀色の舞踏靴』『血蝙蝠』の2作だけです。

    個人的には『X夫人の肖像』が好きでした。

    歴史の勉強になるのは、『八百八十番目の護謨の木』。日中戦争を「日華事変」と記したり、ボルネオがオランダ領だったり、この頃の日本人のインドネシアへのゴム栽培事業進出とかも興味深く読みました。

  • 由利先生シリーズのドラマ化に合わせて再登場した
    関連本を購入、まず、この『血蝙蝠』から読み始め。
    1938~1941年に発表された短編9編。

    収録されているのは、
    日中戦争勃発によって江戸川乱歩らの探偵小説が検閲を受け、
    自由に執筆できなくなり、当局に睨まれないよう
    スパイものにシフトせざるを得なかった時期の作か。
    理由・動機はどうあれ
    日本人が同胞を殺すというストーリー展開が、けしからんと
    お咎めを受けたとか〔参照:論創社『守友恒探偵小説選』〕。
    とはいえ、ここでは殺人事件も起きているのだが、
    なるほど、さほど猟奇的な展開ではないのだった。

    以下、ネタバレなしで全編についてサラッと。
    ★には名探偵・由利麟太郎&新聞記者・三津木俊助が登場。

    ■花火から出た話
     昭和13年3月『週刊朝日特別号』掲載。
     船員・風間伍六が街に戻って巻き込まれた、
     猫目石の指環を巡る珍事、そして、可憐な令嬢との恋。

    ■物言わぬ鸚鵡の話
     昭和13年10月『新青年』掲載。
     マヤが交際相手から贈られたオウムは舌を切られていて、
     少しも口真似をしなかった。
     落胆する妹のため、兄が経緯を調べると……。

    ■マスコット綺譚
     昭和13年11月『オール読物』掲載。
     縞瑪瑙のペンダントをお守りにした途端、
     スターダムにのし上がった女優・青野早苗は、
     青年実業家から愛人になれと迫られたが……。

    ★銀色の舞踏靴
     昭和14年3月『日の出』掲載。
     銀色の靴を履いた美女を襲う犯人の正体を
     名探偵・由利麟太郎が暴く。

    ■恋慕猿
     昭和14年5月『現代』掲載。
     愛らしい猿を伴ってカフェを訪れる寂しげな男の過去。

    ★血蝙蝠
     昭和14年10月『現代』掲載。
     鎌倉に避暑に来ていた若者たちが肝試しを行って
     死体を発見し……。
     三津木俊助と由利麟太郎が真犯人を追い詰める。

    ■X夫人の肖像
     昭和15年1月『サンデー毎日特別号』掲載。
     展覧会に出品される『X夫人の肖像』が
     失踪した知人女性に似ていることに気づいた夫婦。
     その絵が公開早々、何者かに盗まれた――。

    ■八百八十番目の護謨の木
     昭和16年3月『キング』掲載。
     婚約者に掛けられた殺人容疑の謎を解いた女性は、
     彼が逃げたはずのインドネシアへ――。

    ■二千六百万年後
     昭和16年5月『新青年』掲載。
     作者・横溝の夢想が綴られたSFの一種だが、
     時世故か物騒な結びに。

  • 2020/05/30読了

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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